サイバージャーナリズム論

サイバージャーナリズム論
歌川令三、湯川鶴章、佐々木俊尚、森健、スポンタ中村(2007)
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(歌川令三)
もともと大新聞社が提供する「編集された社会の縮図」の報道に飽き足らなかった人々が、自分の好みの習慣だけ、ネットでつまみ食いを始めた。情報がパックになっている「紙」新聞を購読しないで、必要なものだけネットの「電子新聞」をタダで拾い読みする習慣が定着した
「ニューヨーク・タイムズ」などは、95%が広告で、毎日「紙」を配達して得られる販売収入はわずか5%だ。だからもし「紙」が駄目になって販売収入が激減しても、「電子」で従来どおりの広告が稼げるならOKという皮算用が成り立つ
コンテナーではなく、コンテンツに注目せよ…問題はコンテナー(container)にあるのではなく、コンテンツ(contents)をいかに活用するかだ(トム・カーリー)…コンテンツとは情報の中味、コンテナーとは情報の容れ物
新聞社の電子版の広告は爆発的に伸びる…電子新聞に掲出する情報は出し惜しみするな。サイトに壁を作るな。そんなことをすると検索エンジン経由でせっかくアクセスして来た読者に悪い印象を与え、広告集めにマイナスの材料を自ら作ることになる。タダで閲読しているからといって「電子版」の読者を馬鹿にしてはいけない。「紙」「電子」にかかわらず読者は本来利口で熱心で協力的なのだ。コミュニティーのニュースや写真を提供してもらい、電子新聞の内容をもっとコミュニティー密着型にして新規の閲読者を獲得せよ(PRESSTIME)
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(佐々木俊尚)
「パジャマのままでパソコンの前に座っているだけの人間に、ジャーナリズムが実現できるわけがない」米テレビネットワーク大手のCBS放送の幹部がある会合で、ブロガーをこう揶揄したといわれる何のためにジャーナリズムがあるのだろうか?…それはやはり「社会をよくするため」だと思う。「社会をよくしたい」という気持ちがベースにある言論活動は、すべてジャーナリズムと呼んでもいいのではなかろうか
総務省によれば、ブロードバンドの接続数は2006年9月末現在で約2500万世帯。うち超高速の光ファイバー(FTTH)は715万
ほんとうの通信と放送の融合というのは、メディアを「コンテナー本位制」から「コンテンツ本位制」へと移行させること
コンテンツさえ維持できれば、広告モデルも維持できてしまう。コンテナーが別の乗り物(媒体)になったってかまわない
サーバー型放送
Type1(ストリーム型) ストリーミング+メタデータ配信
Type2(ファイル型) VOD
双方とも番組にはそれぞれCRID(Content Reference ID)と呼ばれるユニークなIDが振られている…著作権保護にはDRMの一種といえるRMPI(Rights Management & Potection Information)という仕組みが使われ、暗号化されて創出された番組コンテンツはそのままハードディスク受信機に保存され、再生時に復号される
HDRが電子番組表(EPG)によって番組ごとの管理しか行えないのに対し、サーバー型放送では場面ごとに細かなデータを付与できる
ネットには「知性は中央ではなく、末端にある」という考え方がベースにある
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(森健)
初めてウェブ2.0という言葉で会議を開催した、米国の技術系出版社オライリー社のティム・オライリー氏は、その定義を次の7つとしている。
1. パッケージソフトではなく、費用効果と拡張性の高いサービスを提供する
2. 独自性があり、同じものを作ることが難しいデータソースをコントロールする
  このデータソースは利用者が増えるほど、充実するものでなければならない
3. ユーザを信頼し、共同開発者として扱う
4. 集合知を利用する
5. カスタマーセルフサービスを通じて、ロングテールを取り組む
6. 単一デバイスの枠を超えたソフトウェアを提供する
7. 軽量なユーザインターフェイス、軽量な開発モデル、そして軽量なビジネスモデルを採用する
…ユーザがコンテンツの提供者になるよう、ユーザを積極的に取り組む参加型のウェブサイトこそがウェブ2.0的なサイトだとしている
グーグルのような全文検索型の検索サイトでは、主に4つのステップからシステムが構築されている。クローラ、インデクサ、検索エンジン、ドキュメントサーバだ検索連動広告というビジネスは‐あらゆる言葉(文字列)を総合的に索引化している‐けs買うエンジンだからこそ可能だった
グーグルが展開する…サービスは…直接的にそのサービス自体が利益を生み出すものではない…ユーザが…グーグルのサービスを利用することは、付随的にユーザが提供するデータとしてグーグルに残る。そしてそれをグーグルは広告事業に生かすことができる。その意味で、グーグルが行っている事業は、ユーザ参加型というよりも、半強制的な参加型と表現することができそうだ
Googleの使命は、Google独自の検索エンジンにより、世界中の情報を体系化し、アクセス可能で有益なものにすること
「ヘッド」と「ロングテール」(クリス・アンダーソン)
複雑系ネットワーク…あるネットワークが規模を拡大しながら自律的に成長する過程では、無数の小さい結節点が連なっていき、いくつかの大きなハブが形成されていく
├ スケールフリー・ネットワーク…アルバート=ラズロ・バラバシ(物理学) 「ランダムネットワークにおける大規模な結節点の発生」ネットワークにおいて巨大なハブが発生する様子
└ スモール・ワールド…ダンカン・ワッツ(社会学)&スティーブン・ストロガッツ(応用数学) ネットワークにお
いていくつかの大きなハブがあるときネットワーク内の結節点は少なくなり小さな世界(集合体)を形成する
「80:20」 パレートの法則(ヴィルフレード・パレート)
「収穫逓増(increasing returns)」 べき法則
「マタイ効果」 およそ持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていない人は、持っているものまで取り上げられるであろう
出現の条件
1.ネットワークに成長がある
2.優先的選択が起きる
3.適応度が影響を与える
「先行者利益」 新しい結節点は古い結節点と接続する必要がある。そこで時間の経過そのものが、古い結節点に数を増幅させる要因となる
「集団分極化」 自分の考えと対立したり、異なるものを排除する…現象
「社会的証明」行動 空を見上げている人が多いのであれば、何か空に変わったもの、あるいは危険なものなどがあるかもしれないという想定が成り立つ
「意思決定の外部性」 集団の圧力による意思決定の変化…誰も指示しないものを個人が主張するのは難しい。周囲の人たちの明白な主張によって形成された集団の圧力は、人が見ているものさえ歪めたり、改変させることがある(ソロモン・アッシュ)
「沈黙の螺旋」 あるふたつの対立概念があるとき、自分を主流と認識する発言者は少数派よりも強く主張する。すると、少数派と認識する者は意見を述べにくい状況へと追い込まれる。そこで、強く主張するものはより多くの同調者を獲得し、少数派と認識する者はますます少数派となる(エリザベス・ノエル=ノイマン)
「集団心理における意思決定の外部性」 ここの意思決定を行った個人は自分の選択が強大なパターンに収まっていることに気づいていない。それでもパターンは存在している(ダンカン・ワッツ)
集団が正しい解を出す際に…必要な条件(スロウィッキー)
意見の多様性(各人が持つ独自の私的情報)
独立性(他者の考えに左右されない)
分散性(身近な情報に特化し、それを利用できる)
集約性(個々人の判断を集計して集団としてひとつの判断に集約するメカニズムの存在)
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(湯川鶴章)
ソーシャルメディア 意見、洞察、経験、見解を互いに交換するためのツールやプラットホームのこと(wikipedia)
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(スポンタ中村)
市民記者とは「あなたも記者になれる」とおだてられ、ネットで身辺情報を送稿している作文好きの大衆のことだ。彼らは「客観、中立、公正、正義」などという陳腐で無内容なお題目を既存のマスコミ人に教えられ、記者ごっこをやっているに過ぎない。マスコミ出身のお偉いさんが運営している限り、市民参加型ジャーナリズムの成功はありえない
ジャーナリストの要件は、アナログであろうとデジタルであろうと、よき世論の形成者であることだ
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(森健)
「ブログはジャーナリズムなのか?」
「journal」とは「日々起きていることや経験、観察の記録」(米ランダムハウス)
報じることの「コスト」と「責任」…報道というものは、ある取材意図のもとに事実や証言、意見を探し、精査し、それを編集したうえで報じる作業である…大枠として「公共の利益」が目的で…私利ではなく、記者やライターは活動する…経費を自らの財布から投じても取材活動をする者=ブロガーがいるか…さらに… 既存のマスメディアはその報道に関する綱領や取材方針などに従って責任を明確にすることで取材をし、報道をする。だから間違いがあれば叩かれる…それと同じ責任をブロガーが負うことは、あまりに負担が大きい
何かを報じるときには、そこに一定の責任が発生する…しばしば名誉毀損の裁判で言及される「公共性」「公益性」「真実性」「相当性」といった責任だ
「journalism」としたときの意味は…「ビジネスとして、取材、執筆、編集、撮影をしたり、ニュースを放送するなど、あらゆるニュースを指揮する職業」(米ランダムハウス)
私の定義するジャーナリストの条件とは、まず取材すること、そして多くの人が理解できるだろうと思われる内容と表現で情報を形成し…マス・ディストリビューターと…するマス・メディアで発信すること…個人にはそれぞれの価値観があるでしょう? それを充分に承知したうえで、多くの人から信頼を得るための根拠やデータを探したり、統計を取ったりしてひとつの見解を構築する
マスメディアと…は、メディアが特権的に強大という意味ではなく、マスの人を想定し、情報の最大公約数を伝達するメディアのこと…そこに職業人として登場するのがジャーナリスト
デジタルであろうとアナログであろうと…情報を整理し、重要度に濃淡をつける役割をになう言論人をジャーナリストというのでは(歌川令三)
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(歌川令三)
世界は産業化の時代から、情報化時代に移行した。情報社会においては「ネットは、commons(共有地)で仲間達が協働して生産した冨を分け合う非市場主義経済システムの出現を促した。社会はEnhanced Autonomy(高度に洗練された自治組織)に移ってゆくだろう」(ヨーチャイ・ベンクラー)
ネット社会の先行きに対する米国の情報社会学本流の学者達の持つイメージ…
1.ネットという共有地で仲間が協働する
2.その生産物をみんなで分け合う
3.より自律的な自治組織を形成する
4.自らを律する共同体の新しい倫理の確立
監視社会
「パノプチコン」 徹底した社会の監視装置(ジェレミー・ベンサム)
著作権
「著作権者および発明者に、一定期間それぞれの著作、および発明に対し独占的権利を保障することによって、学術および技芸の進歩を促進すること」(米国憲法第一条、第八節)
「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」はネット社会を共有地に見立て、出版物の創造、流通、検索の便宜を図るための社会運動グループの人々のアイデアだ。著作権法の障害をできるだけ回避し、All Rights Reserved(著作権をすべて留保する)でなくSome Rights Reserved(著作権のある部分は留保する)の領域に持っていくのが狙いだ
たくさん情報を持っているノード(node=ネットワークを構成する一ネット上のつひとつの要素)にはさらにたくさんの情報が集まり、情報の貧弱なノードは新たな情報が付加されにくいという「べき法則」が常に作用している…「富める者ますます富み、貧しき者ますます貧す」と聖書の「マタイ伝」にある…まさにそれだ
ウェブの特性が、人間の持つ付和雷同性を助長し、多数意見をもって自分の意見とする「長いものには巻かれろ」の風潮が高まるという好ましくない事態に発展しやすい。そうなると…ウェブはきわめて少数の情報リッチのノードに握られてしまう
信頼の派生の連鎖
知人が知識を持っていないときは、知人は自分の信頼する知人の名を上げる。AがBを信頼し、BがCを信頼しているとき、AはCを直接的に信頼していなくても、Cに信頼が派生することになる
ウェブ以前のメディア世界では、情報の仲介はマスコミの仕事で、もっぱら専業のジャーナリストが当たっていた。ネット社会においては、検索エンジンもインターネットの接続サービスを行うプロバイダもネットの中のハブも、すべてが情報の仲介者である…逆は真ならず。すべての仲介者がジャーナリストというわけではない
ネット時代のジャーナリストの条件は、1.自らの考えを発信し、そのことによって他者の共感を得ること、2.共感の積み重ねによって自分の記事以外のさまざまな情報の鑑定人として信頼を得ること、この二つを満たす人物であること
「知」そのものからはたいしたお金は発生しないということ(公文俊平)
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サイバージャーナリズム論」に1件のコメントがあります

  • お読みいただいたようで、著者の一人として感謝いたします。
    また、要約まで載せていただき、いたみいります。
    あの本は、2007年春の状況をまとめたものですので、2007年も秋に入ろうとする今は、もうひとつ違った方向に、インターネットもジャーナリズムも進んでいるのかもしれませんね。
    毎日新聞社がヤフーに近づいたり、MSNが毎日新聞から産経新聞へと鞍替え。
    とはいえ、インターネットの対話型メディアと既存メディアが繋がる事案はまだ出ていない。
    そんな秋ですよね。
    ありがとうございました。

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