「210対33,000,000,000,000,000,000,000,000の危険」 http://ow.ly/4lVa0

前回、放射性ヨウ素について書きましたが、その後事態はなかなか改善の方向に向かわず、ついに関東各地の上水道からも基準を超えるヨウ素131が検出されました
東京でも水の買い占めが起こり、筆者も今朝学内の生協にいってみたら、大学とは関係なさそうな人たちが大量のミネラルウォーターをかごに詰め込み、レジに並んでいるのを見かけました

筆者は以前、拙著「化学物質はなぜ嫌われるのか」にて、化学物質の恐怖を煽ってしまった要因の一つは分析機器の進歩だ、ということを書きました
ダイオキシンにしろ水銀にしろ、近年の恐ろしく鋭敏な分析機器にかかれば、空気からも水からもなにがしかの量が検出されます
昔はゼロだと思って安心していたものが、実は微量でも存在していると知ると怖くなってしまうのが人間心理です

まして放射能は、あらゆるものの中で最も検出しやすいものといっても過言ではありません
ウィルソンの霧箱など、比較的原始的な装置でも1原子の放つ放射線が見えてしまうほどです

今回東京で問題となった水道水は、210ベクレル/リットルのヨウ素131を含んでいたとのことです
これは、1リットルあたり1秒間に210個のヨウ素131が放射線を放ったことを意味します
そして1リットルの水は、3.3×1025個の水分子を含みます
210対33,000,000,000,000,000,000,000,000という対比を見れば、これがいかに低濃度かわかっていただけると思います

「汚染」された水道水や野菜がどの程度危険か、松永和紀氏のブログで計算がされています
放射能の単位はいろいろな種類があってわかりにくいのですが、それらの換算などについても載っていますのでぜひご覧下さい

放射能に限らず、こうした影響は「ごく微量でも取り込んだらその瞬間にアウト」という、1か0かの問題ではありません
摂取量があるところまでは問題なし、その後増えてゆけば少しずつ何らかの病気になる確率が高まる――というものですので、完璧に安全というラインは引けません
「ただちに健康に影響はない」という、何だか歯切れの悪い言い方にならざるを得ないのはこのためです
ただし現在の基準値というものは、「少々基準値を超えた水や野菜を何回か食べたところで、事実上全く健康に影響しない」という、非常に安全側に振ったところに設定されています
このあたりは日経ビジネスオンラインの記事の、山下俊一・長崎大学教授の解説をご覧下さい
氏の言葉を借りれば「イメージとしては100万分の1の危険を防ぐような発想」ということです

どうしても気になる人、乳児のいる家庭などでは、何らか対策を講じればよいでしょう
ヨウ素131の半減期は8日ですので、水道水を密閉容器に取り置いて一月も待てばまず危険のないレベルまで下がります
ちなみに煮沸してもヨウ素は飛んでいきませんので、これは有効な手段ではないとのことです

実のところ、こうした「水道水や野菜は安心」という話を書くのは、少々気が引ける面もあります
状況が一向に好転せぬ中、放射能への警戒心を緩めるような物言いは問題だ、という意見もあるからです
もちろん現在の事態は、とうてい楽観視できるようなものではありません

ただし、放射能という目に見えない敵がこれだけ騒がれると、どうしても浮き足立つのが人情です
3000万首都圏民が一斉に水や食料の買い占めに走れば、極めて厳しい事態にさらされている東北の被災者へ渡るべき物資は、一瞬でなくなります

筆者は、茨城北部の実家――東北に比べれば遥かに軽微ですが、10日以上ライフラインが復旧せず、数リットルの水を確保するために何時間も行列する生活を送っている被災地――と、ほぼ危険も不便もない日常生活を送っている都民が、水の買い占めに走っている姿の両方を目の当たりにしています
これはいくら何でもまずい、都民はもう少し冷静に振る舞うべきではないか――という思いで、筆者はこの記事を書いたことを付記しておきます

有機化学美術館・分館:水道水からヨウ素131検出 – livedoor Blog(ブログ)