「着うたフルは大幅減が続く」 ガラケーからスマホへ:どうなるCD、どうなる音楽配信 @heatwave_p2p

前回のエントリでは、着うたフルとCDシングルの年間チャートの違いから、今起こっている変化を考察してみたが、それがこれから先どういった変化をもたらしうるのか、というお話をしてみたい
とりあえず、CDシングルと着うたフルのお話からはじめて、ガラケーからスマホへの移行、CD、配信全般についてざっくりと見ていくことにする

どうなるCDシングル、どうなる着うたフル

CDシングルは長いこと右肩下がりで推移してきたが、2010年から上昇、2011年もさらに上向きで、数字だけを見れば回復しているとも取れるのだけれど、その成長は秋元康プロデュース作品やK-POPに依存するところが大きい

良く言えばプレミアム、悪く言えば抱き合わせの特典商法が功を奏した部分もあるのかもしれないが、全体として底上げされている感はなく、AKBやK-POPブームが終われば、また大きく傾くことになりそう

一方の着うたフルも先行きはあまり明るくない
着うたフルは2009年にピークをむかえ、2010年には微減、2011年も第3四半期までに前年比81%の大幅減
この現象の背景の1つに、フィーチャーフォンからスマートフォンへの移行がある
スマートフォン(PC)向け配信は前年比121%と大幅増となったが、もともとPC向け配信は着うたフルほど利用されておらず*1、着うたフルの減少分を補うまでには至っていない

ガラケーからスマホへ

レコード産業は、着うたフルからスマホ向け音楽配信への移行を促すため、ガラケーからスマホへの移行した際の再ダウンロードを2012年中に限って可能にする施策を打ち出した(著作権料、原盤権料は免除)
身も蓋もないことを言えば、これはレコチョク(ついでにmora)救済策である
スマホに移行されたら思いの外レコチョク使ってくれないからテコ入れしないとね、iPhoneとかに移られても困るしね、ということだろう

今までデバイスに音楽データを植えつけようと躍起になり、ユーザの利便性なんざ二の次だったくせに、いざデバイスごと捨てられると焦りだす、最初からわかってたことなのに何を今更…、デバイスの変化がDRMedコンテンツにどんな影響を及ぼすかほとんど理解していなかったんじゃないかとかいろいろ思うところはあるけれども*2、それはさておき

とにもかくにも、1曲200円ではなく400円*3で音楽を購入してもらうためには、レコチョクをユーザのメインの音楽ストアにし続けなければならない
最高裁まで粘ったのもそのためだ

iPodを駆逐せよ、でもiPhone使われると困っちゃうの

スマホ版レコチョクへの移行はうまくいくのだろうか
ここにはiPhoneに移られると困るという問題が含まれている
iPhoneユーザの音楽購入にはiTunes Storeが利用され、レコチョクが利用されることはない
レコチョクのDRMedコンテンツはiPhoneでは再生できないし、そもそもiPhone向けレコチョクアプリがない
MP3配信して、パーソナル・オンライン・ストレージ経由で取り回しできるようにでもなればiPhoneユーザでも取り込めそうだけど、まず無理か

結局、iPhoneに移行されたら負け、iTunes Storeで購入されれば、レコチョクなら1曲400円だったものが、1曲200円になってしまう
Sonyに至っては販路すらなくなるわけで*4、由々しき事態である
昨年からauでもiPhone解禁となったが、これにdocomoが続くことにでもなればますます大変なことに

一方、スマホへの移行はApple勢を追い落とす可能性も含んでいる
iPodというのは実に困ったちゃんで、ざっくり言うとMP3かiTunes Storeで購入した楽曲しか入れられない
これまでは、いくらPC向け配信に力を入れたところで、携帯音楽デバイスのシェアをiPodに持っていかれている状況ではAppleを利するだけにしかならず、消極的にならざるを得なかった側面もある
スマートフォンへの移行はガラケーからの脱却のみならず、iPodからの脱却を意味することになれば、歓迎する向きがあってもよさそうではある
ただ、iPhone以外のスマートフォンに音楽デバイスとしての役割を期待できるか、というところに問題があるのだが、これについては後述

この辺りは、価格の柔軟性を認めないAppleと、DRMの堅持を望む日本のレコード産業との思惑がユーザを巻き込んでいるところでもある

激化する競争

スマートフォンには、音楽配信の他に、アプリ、ゲーム、動画配信/レンタル/共有サイト、電子書籍などさまざまなコンテンツがひしめき合っている
それだけ競合相手が増えるということでもある

もちろん、着うたフルの競合相手の出現は、何もスマホから始まったわけではない
ガラケーコンテンツ市場の推移を見れば一目瞭然

ガラケー市場全体でみると、この8年間で3倍超の成長が見て取れる
だが、最下段の2つ、着メロ+着うた+着うたフルの推移を見ると、2005年あたりで成長は止まり、2008年をピークに減少を続けていることがわかる
この期間、着メロから着うたへ、着うたから着うたフルへのシフトがあったが、受益者は変われども、ユーザのモバイル音楽への需要はそれほど変化していないようにも見える

一方で、その他の市場は成長を続けており、特に近年ではグリーやモバゲー等の「アバター/アイテム販売」が大きく伸び、わずか数年で着うた系市場を凌駕するまでに成長した
上記のグラフはガラケー市場に限定されたものだが、グリーやモバゲーはスマホでもこの勢いを持続すべく力を注いでいる*5

デバイスが進化すればするほど、音楽以外の魅力的なものが身の回りに増えていく
そんな中で、ガチャではなく、アプリではなく、音楽に420円を出させるだけの価値を提供し続けていけるか、が鍵となる

快適にはできないジレンマ

レコード産業が抱えるもう1つの大きな問題は、未だにCDか配信かの舵取りに迷いがあることにある
言い換えれば、CD、とりわけCDアルバムを死守したいという想いが未だに根強い

着うたや着うたフルに熱心になれたのも、これらがCDと競合しないと考えたためだろう
携帯電話から流れる音楽は、それだけの用途に限られていて、CDが提供するエクスペリエンスとは別物である、と
だが現実は違った
着うたフルはCDシングルと同じような扱いになり、一方のCDシングルはグッズという扱いになりつつある
それでも、ガラケーのインターフェースには限界があり、CDアルバムが提供しうる価値は(次第に損なわれつつあるようにも思えるが)残されてきた

だがスマートフォンではそうはいかない
ユーザはアルバムを快適に扱えるインターフェースを手にしてしまった
スマホへの移行は伸び悩むPC向けアルバム配信を後押しする効果が期待できるが、一方でCDアルバムの需要を押し下げる、またはユーザのチェリーピッキング(単曲買い)を加速させる可能性もはらんでいる
とはいえ、スマホへの移行に直面した以上、これは避けようがないし、着うたフルの時点でその芽生えはあったのだから今更どうしようもない

それでもCDアルバムとスマホ向け配信とは別物として扱われなければならない、となれば、DRMは絶対に外せないことになる
スマホで購入した曲はスマホでしか聞けないのは当然じゃないか、それ以外のデバイスで使いたければCDがある、CDならリッピングもできる、CDを買いましょうよ、と
もしくは、CDを買っても、リッピングして有線で繋いだりSDカード抜き差ししないといけなかったりするし、スマホに入れるのは面倒臭いですよ、配信で買ったほうがいいですよ、と

CDも配信もそれなりの規模で両立させたいと思っても、みんながみんな配信に行っても困る、かといって、着うたフル層はスマホ配信に行ってもらわないと困る、をうまくこなすのは難しい
二兎を追うものは一兎をも得ず
消費者が自分にとって快適な環境に即した購買行動を取ることで、着うたフル-CDシングル間で見られたような乖離がさらに進む
ヒットチャート音楽は人気商売なので、スケールが小さくなってしまうのはよろしくない
チャートは単に接点を作るだけではなく、バンドワゴン効果も生み出す
曲がヒットするのは、その曲に接した人がフラットに、自分の感覚を頼りに評価した結果ではなく*6、社会や周囲がその曲に対して与えた評価も含めた結果である
音楽マーケも大半は後者に関するものだしね

また、リスナーを不自由な環境に押し込め、さらなる自由が欲しければもっとお金を支払うように、と言ったところで、音楽がそれだけの価値を提供していなければ、お金を支払ってまで自由に使いたいという気にはなれない
不自由な環境のもとでは、その範囲でしか使用されず、その範囲でしか価値は与えられない

たとえCDと配信との住み分けに成功しても、不自由な環境が消費者の音楽離れを招き、さらにリスナーが分断されることによって、人気が人気を呼ぶ効果は弱まり、チャート音楽そのものに対する需要は減り続けることになる
とはいえ、リスナーの分断、チャート音楽離れはすでに起こっているだろうから*7、もう落ちるところまで落ちるのを覚悟して、延命と割り切っているのかもしれない

特典ドーピングを続けるCD

特典てんこ盛りのファングッズとなってしまったCDシングルは、2010年、2011年と伸びているが、伸びの大部分は秋元康プロデュース作品とK-POP作品に依るところが大きい
これが一過性のものとすれば、いずれはまた冷え込むことになる
AKBに限らず、DVD等の特典をつけたシングルが大半を占める状況になっているが、これも結果としてファンクラブビジネスへの移行を加速させることになる

CDアルバムはというと、こちらも前途多難である
2011年11月までのCDアルバム出荷枚数は前年比で87%
ここ数年の減少傾向に歯止めはかかっていない

CDアルバムもCDシングル同様に、特典ドーピングが盛んに行われているのだが、その手法が通用するのはやはり熱心なファンのみで、全体としては次第にCDアルバムの購入から遠のいているという状況ではなかろうか
特典がついたからと言って、価格が1.5倍、2倍になってしまえばファン以外のリスナーが手を出すとは思いがたい
通常盤があるとしても、特典付きに比べればプレミアム感のない廉価版の扱いであり、わざわざCDとして購入したいとまでは思えなくなるのかもしれない
だったら配信だけで、シングル(配信)だけで、と
もう買わなくてもいいんじゃないかな、という最悪のシナリオもありうるけど

もちろん、CDアルバムセールスの減少、配信におけるシングルの優位性は、音楽配信セールスがレコードセールス全体の半分を占めている米国においても顕著に見られており*8、特典商法をやめればCDアルバムセールスの下げ止まるわけでもない
苦肉の策として、高くても購入してくれる熱心なファンから少しでも多くの利益を上げる方向にシフトせざるを得ない事情もあるのだろう

まとめ

  • 着うたフルは大幅減が続く
  • スマホ版レコチョクが上手くいかないと配信の価格設定的にまずい、iPhoneはもっての外
  • スマホへの移行は、CDから配信への移行をさらに強める、ただし目下のところ着うた層限定か
  • スマホではさまざまな有料コンテンツと競合する、音楽にペイしてもらうだけの価値を提供できるか
  • 配信とCDとでどっちつかずの状況が続く
  • CDはファングッズ

今回の話は、リスナーがスマートフォンを音楽デバイスを位置づけるかどうかが分水嶺になってくるのかもしれない
とりあえず、若年層では比較的抵抗がなさそうだが、今のところiPhone以外のスマートフォンについては、音楽デバイスとしての認識や魅力は低そうではある

2010年度RIAJ音楽メディアユーザ実態調査の普段使用するオーディオ機器に関する設問において、前年度調査より利用率が増加していたのは、iPodおよびiPhoneのみで、それ以外は減少傾向にあった
また、今後欲しい音楽機器の設問で前年より大きく増加したのはiPhoneのみであった
「iPhone以外の音楽プレーヤーとしての携帯電話」は、いずれの項目でも前年より減少しており*9、消費者にとって、音楽デバイスとしての役割を期待するならiPhoneが旬だろ、ということになる

iPhone以外のスマートフォンを音楽デバイスとして推すとしても、必ずしも配信だけを強化することにはならない
現在、自分用のCDプレイヤーを持たない人が多くなってきており、CDを購入しても、リッピングしてiPodやPCで聞くだけという人も少なくない
そうした人たちにとって、スマートフォンは、Wifi同期できる、持ち歩くデバイスを減らせる等のメリットを持った魅力的なデバイスとなりうる
クラウド同期を実現させれば更に良し
こうしたユーザビリティに関わる施策を講じることは、配信のみならず、CDをより価値のあるメディアにする

レコード産業は、利便性を高めることが不正入手や意図しない使われ方をすることに繋がると恐れ、消極的になっているのかもしれないが、この10年を振り返るに、そうした消極性はAppleや、違法配信界隈を利するだけではなかったか
一方で、デジタル時代への適応の遅さは、リスナーの生活の中での音楽の希薄化につながっていったのではないか

既存のレコード産業を、延命ではなくサステナブルなものとしたいであれば、一刻も早く、利便性を高め、そのことを広く周知する必要があると思う
それによって、日常生活においてさまざまな場面で音楽に触れる環境を作り出し、広く深く濃い音楽体験をリスナーに提供することができる
配信だCDだと語ってきたが、今必要とされているのは商業レコードそのものの価値をどうやって高めていくか、なんじゃないのかな

余談

今回のエントリでは触れなかったけれど、着うたの大幅減も続いている
これは着うたフルへの移行ゆえに需要が減少していた部分もあったのだが、着うたフルが頭打ちになってなお減少を続けており、着うたのアクセサリーとしての意義も失われつつあることを示唆しているのかもしれない

最後に商業レコードの価値が問われていると書いたが、これは記録メディアとしてのCDやデジタルデバイスだけに起因するものではなく、コミュニケーション・メディア環境の変容に起因するものでもある
これについては又の機会に

*1:数量では3分の1、金額では5分の1ほど

*2:レコードからCDへの転換くらいにしか考えてなかったのかもしれない
アレはアレで大変だったんだろうが、今回はその比ではない

*3:着うたフルは420円だったが、シングル配信では400円だったかと
私のHT001にはレコチョクアプリがインストール出来ないので確認できず
プリインストールされて消せなくて困っている人も少なくないというのにねぇ

*4:CDからリッピングして転送、は別として

*5:この人気のまま定着するかは疑問だが

*6:ラジオやテレビ番組、YouTubeでたまたま聞いた、知らないミュージシャンの曲を、調べて、ネットであれ実店舗であれ探しだして、購入する、というコストを支払える人って、音楽そのものや特定のジャンルに対する動機づけの強い極少数に限られていて、大多数のライトリスナーに同様の行動は期待できない

*7:さらに別の要因も影響もあるし

*8:米国の場合は、CDシングル市場がもともとなかったことが影響している部分もあるかも

*9:回答者がガラケーも含まれていると考えたためかもしれないが…

ガラケーからスマホへ:どうなるCD、どうなる音楽配信 – P2Pとかその辺のお話@はてな

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