「おもてなし」が観光政策から姿を消した理由 | 国内経済 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

今回示された観光政策の「ビジョン」が、画期的だと言える大きな理由が3つある(撮影:尾形文繁)2012年から2015年の3年間に劇的に伸びた経済指標として、インバウンド関連の指標が挙げられる。訪日外国人旅行者数は836万人から約2倍の1974万人に、訪日外国人旅行消費額は1兆846億円から約3倍の3兆4771億円に――観光政策は、「アベノミクス最大の成果」と言っても過言ではないだろう。その観光政策が、さらにもう一歩進化したという。何が新しいのか。書籍『新・観光立国論』や、その続編『国宝消滅』などで日本の観光政策に関する提言を続けているイギリス人アナリスト、デービッド・アトキンソン氏が解説する。 ベストセラー『新・観光立国論』に続く、観光立国の必読書! 国宝をはじめとした文化財が陥っている「窮地」を明らかにするとき、日本経済再生の道が見えてくる。規格外の知的興奮!3月30日、日本の未来に極めて大きな影響を与える画期的な「ビジョン」が示されました。2020年の訪日外国人観光客数を4000万人、外国人旅行消費額を8兆円。同じく2030年には6000万人で15兆円の消費を目指すという明確な数字と、それを達成するため、赤坂迎賓館や京都迎賓館という公的施設の開放や、文化財や国立公園の活用など10の改革案を、「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」が提示したのです。訪日外国人観光客数2000万人突破が目前となった昨年秋から開催されているこの会議は、安倍晋三首相を議長として菅義偉官房長官が副議長、国交相、財務相、地方創生担当相、経産相などの閣僚から編成されています。そういう意味においては、これは「政府が示したビジョン」と言っても差し支えないでしょう。ただ、そう言われても、なぜこれが画期的なのかと首を傾げられる方も多いでしょう。大きな理由は3つあります。まず、ひとつはようやく「日本のポテンシャルに近い目標」になったということです。理由1 目標が「ポテンシャル」に追いついた私は拙著『新・観光立国論』(東洋経済新報社)のなかで、日本がもつ自然、文化、気候、食事など幅広い観光資源をふまえれば、現時点の日本の潜在能力でも5600万人は集客可能で、今後も世界の市場拡大を反映し、2030年には8200万まで増加していくと予測しました。その関係で、この「構想会議」でも、「有識者」として参加させていただいているのですが、今回の目標が出される前にほかの参加者のみなさんと、「どれくらいの目標が掲げられるのか」を話題にしていました。2020年には3000万人、2030年には4000万人くらいではないかと予想される方が多い中で、私だけが2020年に4000万人、2030年に7000万人という予想を立てていました。周囲はアグレッシブな数字だと驚いていましたが、私はかなり現実的な数字だと思っています。年間約3300万人の外国人観光客が訪れるドイツの人口は約8500万人です。同じく約3200万人が訪れるイギリスの人口は約6500万人です。人口約1億2700万人で、自然や文化財に恵まれる日本の目標値が3000万人というのは、いくらなんでもハードルが低過ぎます。そのように考えていたところ、安倍首相が掲げた目標は2020年に4000万人、2030年に6000万人。私の予想をやや下回りましたが、極めて実現可能な数字だと思いました。画像を拡大その他にも、ポテンシャルに即した目標値が並ぶ(出所:観光庁ホームページ)ご存知のように、霞が関が出してくる目標というのは往々にして保守的なものが多いのですが、今回はそんなことはありません。このような日本の潜在能力を考慮した現実的な目標が設定されたというのは、大きな前進でしょう。画期的なのはそれだけではありません。それが2番目の理由である「旅行消費額」です。理由2 人数だけでなく「消費額」が示されたこれまで政府が出す「観光」に関する目標で、このように明確な消費額の数値目標が示されたことはありません。さらに特筆すべきは、8兆円→15兆円という、観光客数を上回る成長率を目指していることから、「観光客ひとりあたりの単価」を上げていく戦略が読み取れることです。これは中国の中間層・富裕層をこれまで以上に積極的に呼び込むことはもちろん、現時点ではほとんど来日していない、欧州などの遠方からやってくる中間層・富裕層、長期滞在客なども視野に入れていることのあらわれです。このような発想の転換も、日本の観光行政が次のフェーズに変化していて、どんどんレベルアップしている証拠です。それが出てきたということは、いよいよ日本という国が「観光で稼ぐ」ことに対して本気になってきたのではないかと大いに期待できるのです。明らかにこれまでとは違うことが始まろうとしている――それは「目標」だけではなく、ビジョンを実現するための施策にも顕著にあらわれています。それが3つ目の理由です。ある意味で、私はこれが一番衝撃を受けました。理由3 目標から「おもてなし」の文字が消えた「ビジョン」の中にある『「観光先進国」への「3つの視点」と「10の改革」』を見ていただくと、さまざまなことが書いてあります。画像を拡大日本の観光政策では必ず登場していた「おもてなし」の文字が消えた(出所:観光庁ホームページ)これまでは外国人観光客はおろか、日本人ですらあまり立ち入ることができなかった赤坂や京都の迎賓館を大胆に公開・開放したり、自然保護がメインだった「国立公園」を体験・活用型の空間にするなどさまざまな「規制緩和」がなされていますが、そんな中、あることに気づくはずです。ここには、数年前から日本の観光ビジョンに必ず盛りこまれていた「ある言葉」がありません。「外国人観光客」を語る文脈では必ずといっていいほど登場していたあの言葉。そう、「おもてなし」です。「おもてなし」について、私はかねてから観光の支持要因であっても、決定要因ではないことを指摘させていただいております(参考:「英国人、『おもてなし至上主義』日本に違和感」)。これまでの著書のなかでも、私は「観光」というのは「多様性」がもっとも大事だと訴えてきました。ひとくちに外国人観光客といっても、国籍も違えば年齢も収入も違う、日本にやってくる目的もバラバラです。同じ人間であっても、2週間も滞在していれば、ずっと同じような観光をしていることもありません。そのような幅広いニーズに応える、細かい施策が必要なのです。日本の魅力は「あるもの」ではなく「磨くもの」これまでの日本の観光戦略は、「おもてなし」や「クールジャパン」など、日本の良さを見つけて、それを世界に発信さえすれば、観光客が訪れてくれるという考え方が多く見られました。それらは、外国人の多くが、新幹線の清掃チームの手際の良さを表した「7分の奇跡」に象徴される「おもてなし」や、「桜」などの日本の伝統美を好むはずだと考えてつくられた面もあったと思います。私はこのような「発信」というのは、外国人のニーズをしっかりと分析をして、その観光資源の魅力を磨いたうえで行うべきだと考えてきました。それはあくまで観光を「ビジネス」としてとらえているからです。「明日の日本を支える観光ビジョン」の中にある「文化財を保存優先から観光客目線での理解促進、そして活用へ」「国立公園を世界水準のナショナルパークへ」という具体的な施策が象徴するように、日本の観光戦略は、資源の魅力を磨いてから発信をするという戦略へと大きく舵を切りました。このような発想の大きな転換こそが、「明日の日本を支える観光ビジョン」の意味することなのです。

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