なぜ、空港も港もない「岐阜県」が観光ルートに組み込まれるのか 商売繁盛!インバウンド獲得大作戦:事例2「岐阜県」:PRESIDENT Online – プレジデント

訪日客対応にいち早く乗り出し、集客に結びつけている企業や自治体は、なにをしてきたのか。2企業1自治体の取り組みを追った。

ゴールデンルート外でツアーもなかった

空港もなく、港もない。アクセスの“二重苦”を抱えながら訪日客獲得に成功しているのが、世界遺産の白川郷や城下町・高山を擁する岐阜県だ。14年の外国人延べ宿泊者数は過去最高を記録。県として海外戦略プロジェクトを開始した09年から約4倍と、東京(約2倍)、大阪(約3倍)を上回る。躍進を可能にした戦略の数々を見ると、自治体のイメージを覆すプロデューサー的な役割が浮かび上がる。

世界遺産、白川郷の合掌造りの家の前で記念写真をとる訪日客。
「訪日客に人気が高いのは、東京~富士山~京都~大阪のゴールデンルートで、次が北海道あたり。岐阜は以前は海外の方にはほとんど知られていませんでした。ならば、知ってもらい、岐阜のファンになってもらう。そのうえでツアーなどビジネスを展開していく。その橋渡しを県がやろうと考えたのです」
と話すのは海外戦略の旗振り役、古田肇知事だ。経済産業省出身で外務省での勤務経験も持つ。自身、人脈を活かして毎年、現地へトップセールスに出かけ、成果を挙げる。他県とはひと味違ったインバウンド戦略「岐阜モデル」の成功法則はどのようなものか。

成功法則1:「仕込み・本番・フォロー」の3段階作戦

岐阜県の海外戦略の大きな特徴は、誰もが中国、韓国、台湾などに目を向けていた時期に、将来的な成長を見越し、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシアなど東南アジア諸国に先手を打って出ていったことだ。親日感情が高く、トップセールスを最大限活かせるという戦略的な読みもあった。トップセールスのやり方もきわめて戦略的だ。「仕込み・本番・フォロー」の3段階戦法を取り、特に事前調査を重視し、トップセールスの際、何が現地に受けるか“ストライクゾーン”を絞り、成果に結びつくよう仕組み化していることだ。県の観光国際局で東南アジアを担当した加藤英彦氏(現・地域産業課海外展開促進係)が話す。

「知事が現地に行けば、メディアは大きく取り上げます。そのとき、必ず売り込むタマがあるようにする。他の自治体はあまり事前調査もせず、“うちにはこんなものがある”と売り込むだけです。われわれは事前に現地に飛んで関係各所を回り、どんなものを持っていけば現地の人は喜び、岐阜にもプラスになるのか、ニンジンになるものをリサーチする。そのうえでトップセールスを行い、事後もフォローする。汗をかく分、成功確率が高いのです」

インドネシアではこんなケースもあった。知事の訪問1年前、事前調査でインドネシアのテレビ局が初めて日本を紹介する番組を計画中との情報を入手。さっそくスポンサーに加わり、全8回中、岐阜の紹介を2回入れてもらった。13年冬、準ミスインドネシアをレポーター役とするロケ隊が来日すると、彼らが行きたい場所を取材してもらい、県側は全面協力した。

放映から半年後の同年秋、現地で岐阜キャンペーンが始まり、いよいよトップセールス本番。知事の人脈で借りた日本大使館公邸でのプロモーションでは、番組のダイジェスト版が映され、準ミスが岐阜での体験を披露。番組放映後に次々つくられた訪日ツアーも用意されていた。結果、以前は皆無だったインドネシアからの宿泊客が14年は5000人を超えるようになった。

事前の仕込みの徹底でトップセールスの成功確率を高める。岐阜モデルの勝ちパターンだ。

成功法則2:県が「現地の民(みん)」と連携する

官民連携というと、官が「日本の民」と組むのが通例だが、岐阜モデルが特異なのは、海外プロモーションでは「現地の民」を巻き込むことだ。

例えば、シンガポールで12年2月に1カ月間行ったキャンペーン。有名ショッピング街オーチャード・ロードにある高級セレクトショップ「atomi」と提携し、美濃和紙、木工、陶磁器などの伝統工芸品を集中販売する「岐阜フェア」を開催。atomiが岐阜に関心を持ったのも、前年の知事のトップセールスがきっかけだった。

さらに、現地で提携する3つの高級レストランでは2週間、飛騨牛を使った特別メニューを提供。飲み屋街ボート・キー地区では、数軒の店と岐阜の酒の飲み比べができる「地酒フェア」を共催。店頭には美濃和紙製の提灯を下げてもらった。キャンペーンは大成功。現地の民と組む意味合いについて、前出の加藤氏はこう話す。

「大きいのは、岐阜県がかけるお金が少なくても、高い広告効果が得られることです。こちらが売りたいものを宣伝するのはお金をかければいくらでもできますが、どれだけ効果があるかわかりません。これに対し、現地の民である彼らは売れれば売れるほど利益になるので、自主的に本気でプロモーションしてくれる。こちらがかけるお金の何十倍もの効果が得られるのです」

01(上)城下町・高山市の古い町並み。(左下)の「宮川の朝市」とともに、散策する観光客で賑わっている。(右下)古田肇岐阜県知事。人口減少社会に向け、6年前に岐阜の観光、食、モノを海外に売り込む長期構想を打ち立てた。

現地の民にとっても、商品が売れなければ、意味がない。そこで県が徹底するのが、外国人目線を中心に据えることだ。古田知事が話す。

「有名店オーナー、旅行関係者、デザイナーなどオピニオンリーダー的な方に岐阜に来てもらい、その方の目線で目利きしてもらうのです。現地の民の皆さんも自らリスクもコストも背負って、ビジネスとして岐阜フェアなり、商品開発を行うので、本当に自分で売ってみたい商品や情報を選んでいかれる。現地で売れれば、岐阜のファンが増え、今度は行ってみようかと思うようになる。そうやって東南アジアでは着実にファンが増えていったのです」

現地の民が利益を挙げれば、日本の民も利益を得られる。双方にメリットがあるWinーWinの事業を組み立てるのが岐阜モデルの第2の特徴だ。

成功法則3:「日本の民」を過保護にしない

一方、「日本の民」に対してはどうか。官民連携の海外プロモーションでよく見られるのが、知事が地元の観光連盟や事業者を引き連れて出かけるパターンだが、「岐阜は“大名行列”は一切やらない」と古田知事はいう。

「現地での私の日程を完全オープンにし、県内関係者は興味のある行事を選んで現地集合で参加する。補助金もなし。自分でコストをかけ、成果につなげようとするから本気度が違います」

岐阜のメーカーでは参加をきっかけに、海外で独自のネットワークをつくり、セールスに成功するケースも出ているという。前出の加藤氏も、「日本の民間業者に自分の判断と負担で参加してもらうため、行ってみたいと思ってもらえるような仕かけを用意する。それもわれわれの役割です」「日本の民」はあえて過保護にせず、自己責任を求める。これも異色だ。

成功法則4:個人客対策では、県が黒衣役になる

体客から個人客へ。変化の波は岐阜にも押し寄せた。団体客が現地旅行会社にツアーを申し込むのに対し、個人客の多くはネット上でホテルや航空券の手配ができるエクスペディア、アゴダ、ブッキングドットコムなどのオンライン・トラベル・エージェント(OTA)を利用する。そのため、岐阜県と提携する現地旅行会社や、OTAと縁遠い地方のホテルや旅館は厳しい状況に置かれる。そこで岐阜県は県でなければできない手を打ち始めた。

まずはネット対応だ。エクスペディアとマレーシアの格安航空会社エアアジアの合弁会社エアアジア エクスペディア(AAE)と提携。航空券と県内宿泊をセットにした個人客向け格安パッケージをつくってもらうと、共同出資でメディアミックスの広報宣伝を大々的に行った。これも現地の民と連携する岐阜方式だから可能だった。

成功法則5:中国には地道な情報発信

岐阜県は同時に中国、韓国、台湾へもアプローチを行ったが、攻略法がまったく異なったのが中国だ。「すべては限界から始まった」と、09年から中国を担当した北村和弘氏(現・飛騨県事務所振興防災課観光係)はいう。

「牛肉も物産も簡単には持ち込めない。空港もなく、知名度も低い岐阜は当初、旅行会社に団体ツアーをつくってもらえませんでした。限界を感じて思いついたのが逆の発想です。人々が岐阜に行きたいと思うようになれば、ツアーをつくってくれるのではないか。そこで個人向けに情報発信を始めました」

国外のネット情報にも規制がかかるため、現地のPR会社と組んで、中国のサーバーで岐阜のHPを開設。中国ではネット上の書き込みが次々転載され、口コミの拡散が威力を持つことに着目。有力ブロガーを季節ごとに岐阜に招いては、彼らの目線で情報発信してもらった。中国版ツイッター「微博(ウェイボ)」の活用にもいち早く着手。「本当に地道な発信を続けました」(北村氏)。

努力はやがて実を結ぶ。中国最大のポータルサイト会社「新浪(シナ)」から12年に、ウェブを使った旅行情報の積極的な発信が高く評価され、スペイン、フランス、オーストラリアなど、そうそうたる観光立国と肩を並べ、日本の一地方都市の岐阜県が表彰されたのだ。

日本初の快挙だった。

すると、関西空港から、金沢、白川郷、高山と回り、富士山経由で東京に入り、成田空港から発つ中国の個人客の「新ゴールデンルート」ができた。

「個人客の動きにつられて、団体ツアーもつくられるようになり、逆の発想が現実になりました。岐阜は空港がないので、他の地域も巻き込まないとツアーをつくれない。岐阜が有名になることで他の地域も潤う。昔の弱みが強みに転じたのです」(北村氏)

一連の取り組みの最大の成果は、「岐阜は世界に通用すると自信を持つようになったこと」と古田知事は話す。岐阜県の海外戦略には「交流人口を増やし、人口減少社会を乗り切る」という目的がある。官が民を牽引するのではなく、官は舞台裏に回り、民の力を引き出す。インバウンドの活力を取り込む地方再生のモデルがここにある。

02(上)2014年11月、フランス・コルマール国際観光展での知事のトップセールス。岐阜の地歌舞伎の役者も出演し、多くのフランスのメディアに取り上げられた。(左から)県職員。2010年の上海万博時前後に中国を担当した北村和弘氏。同時期に東南アジアを担当した加藤英彦氏。現在、観光誘客を担当する加藤晶子さん。

情報源: なぜ、空港も港もない「岐阜県」が観光ルートに組み込まれるのか 商売繁盛!インバウンド獲得大作戦:事例2「岐阜県」:PRESIDENT Online – プレジデント

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