[データでみるインバウンド]中国SNS分析は消費変化を先取る指針

 年間2000万人を超える勢いで増え続ける訪日外国人(インバウンド)。日本企業がインバウンド向け事業の強化を急ぐ中、重要なのが訪日外国人の興味や関心を的確につかむことだ。訪日外国人に関するネットクチコミや位置情報といったデータから、インバウンドの消費動向を読み解く事例を、このレポートでは紹介していく。

 今回は中国版Twitterと言われる「微博(ウェイボ)」をはじめとする中国のSNS上のクチコミを集計・分析して得られた訪日中国人のインバウンド消費トレンドを解説する。その前にまずは、訪日中国人の消費動向の分析に、なぜネット上のクチコミが有効なのか、実際にどのような情報が投稿されているのか、その基本をみていこう。

 政府は3月末、訪日外国人数を2020年に現在の2倍の4000万人、30年には同3倍の6000万人に増やす新しい目標を発表した。訪日外国人の急増とともに、彼らに対する小売りやサービスといったインバウンド市場も急速に拡大すると見込まれている。

 訪日外国人の中でもボリュームゾーンとなっているのが中国からの観光客だ。訪日中国人と言えば、昨年の流行語にもなった『爆買い』と呼ばれるドラッグストアや量販店などで大量購入の姿が印象に残っている読者は多いのではないだろうか。

訪日中国人増で日本旅行に関するクチコミも増加
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訪日中国人の「カスタマージャーニーマップ」
(出所:図解中国トレンドExpress)

 SNS上のクチコミ情報は、訪日中国人客の消費行動に大きな影響を与えているとみられている。訪日中国人の行動を日本旅行の旅前・旅中・旅後に分けて考えてみると、顧客の消費行動を分析した図である「カスタマージャーニー」の中にSNS上のクチコミが組み込まれていることが見えてくる。

 まず、多くの訪日中国人は旅前に、SNS上の書き込み等を情報源として日本に旅行する際の行動予定を検討する。特にツアーで訪日する中国人たちは、日本滞在中の日程をぎゅうぎゅうに詰め込んでいることが多い。そのため、短時間の買い物で買い忘れがないように購入予定のお土産を“お買い物リスト”としてまとめる必要性があるのだ。

 買い物の時間が足りない中で失敗もできないため、SNS上の書き込みを見て、何を買うべきかを具体的に決める。日本に来て、旅の最中にも他者の書き込みから情報を集めながら、同時に自分が買ったり体験したりしたことをSNSに発信。投稿は帰国後まで続く。

 SNS上における日本旅行に関する書き込み数はどれくらいあるのか。2014年と2015年の中国の主なSNSにおける日本旅行に関する書き込み件数の月次推移をみると、書き込み件数は2015年8月時点で過去最高の200万件を突破した。訪日中国人数の増加に比例して書き込みが次第に増加していることが分かる。

中国製品を信じられない中国人
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訪日中国人数とSNS日本旅行関連書き込み件数の推移(2014年と2015年の比較)
(出所」図解中国トレンドExpress)

 なぜ中国人はSNSの投稿をそれほど重視するのか。それは偽物や食品汚染に悩まされている中国人にとって、消費者による生の声の方が企業発信の情報より信頼に足りると感じているからだ。

 “爆買い”の背景の一つが、2008年前後の中国国内企業による食品汚染事件の多発だ。一連の事件により「口に入れるもの」「肌につけるもの」を中心に、中国製品への信頼が低下。中国人にとっては、企業発信の情報ではなく、SNS上のクチコミ情報が消費行動を決定する上で非常に重要な情報となった。

 「面子(めんつ)」を大事にする中国人の意識も、SNSを活発に利用する一因とみられる。偽物が流通することの多い市場になれている中国人客にとって、信頼度の高い日本製品をお土産として買ったことや日本での体験をSNSに書き込むのは、彼らの面子を立たせるわけだ。

 面子を重視する中国人の考え方が、日本に関する書き込みを促す。SNS上の日本での買い物や体験のクチコミは、日本に旅行する予定の中国人が次々に閲覧し、このプロセスがループしていく。筆者はこう考えている。

移ろいやすいネット人気
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春節の期間中に中国人が日本で買ったとみられるものの推移(2015年と2016年の比較)
(出所:図解中国トレンドExpress)

 一方で、訪日中国人のSNS上の人気は移ろいやすく、話題に上る商品も入れ替わりやすい傾向がある。例えば2015年の春節(2月19日)シーズンに訪日中国人客による「爆買い」で大きな話題となった「温水洗浄便座」。最近では大きく順位を落としている。

 要因の一つと考えられるのが、訪日中国人の旅行スタイルが団体旅行から個人旅行にシフトしてきていることだ。公共交通機関などを使って行動することの多い個人旅行では、移動に邪魔になる大きな商品は敬遠されがちだ。実際、筆者らが独自に調べたところ、個人旅行とみられる書き込みの割合は15年12月の3割から、今年の春節では4割に高まった。中国の便座に日本の温水洗浄便座が合わないといったクチコミが広がったことも、人気低落に拍車をかけたようだ。

 訪日中国人のクチコミ分析することで、トレンドの変化の単著を知ることができる。SNS分析からトレンド変化の兆しを掴むことができれば、売れ筋が実際に変化しているか、その背景にある要因は何かを探るきっかけが生まれる。結果、インバウンド向けの商品開発、生産体制や在庫の見直しといった具体的な手を素早く打てるようになるというわけだ。

あるダイエットサプリが人気を集めたワケ

中国SNSにみる日本の人気商品ランキング
(出所:図解中国トレンドExpress)
順位 商品名 メーカー カテゴリー
1 鼻セレブ(ティッシュペーパー) ネピア 生活用品
2 リアルフィット オカモト 医薬品
3 excellence(エクセレンス)ストッキング・タイツ カネボウ 服飾
4 休足時間 足すっきりシート ライオン 生活用品
5 龍角散ダイレクト 龍角散 医薬品
6 服飾 良品計画 服飾
7 夜スリムトマ美ちゃん Waqoo 健康食品/サプリメント
8 サンテFX(目薬) 参天製薬 医薬品
9 熱さまシート 小林製薬 医薬品
10 ホタテの力くん海の野菜洗い 日本漢方研究所 生活用品
 筆者が編集長を務める「図解中国トレンドExpress」では、中国のSNS上のクチコミから、「日本で○○を買いたい」「日本で○○をしたい」「日本で○○を買った」「日本で○○を食べた」「日本で○○に行った」といった情報を毎週集計し、ランキングを出している。ランキング化することで、ダウントレンドやアップトレンドが見えてくる。

 表は2016年3月9日~15日に「日本で○○を買った」と言及している投稿6万9954件からランキングを集計したものだ。対象のSNSは微博、微信(ウィーチャット、パブリックアカウント部分)のほか、掲示板やブログなどだ。

 「医薬品」や「生活用品」などのカテゴリー商品が上位に上がってくるのは、ずっと変わらない傾向の一つである。1位になった「鼻セレブ」は、2月以降の花粉症時期により順位を伸ばした。「やわらかくて気持ちいい」「赤ちゃんでも大丈夫」といった投稿が目立ったことから、品質の高さや安全性が人気を集める要因と分かる。

 7位にランクインしたのが「夜スリムトマ美ちゃん」。中国で昨年の秋ごろに始まったダイエットブームの影響で、日本のダイエットサプリは副作用が少なく効果があるという噂が中国のSNSで大流行。ダイエットサプリが一躍定番お土産になった。

 その中でも人気を博したのが「夜スリムトマ美ちゃん」である。中国ではトマト成分のダイエットサプリは売っていないため、これまでも一定の人気があった製品だ。秋冬時期の女性誌や女性情報Webサイトでダイエット特集が組まれた際に紹介され、それがきっかけでSNSでも人気が急激に広まったとみられる。SNS上の情報が消費行動の起爆剤になり得る、格好の例と言えるだろう。

情報源: [データでみるインバウンド]中国SNS分析は消費変化を先取る指針

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