百貨店の「ネット販売」はなぜ失敗するのか 「オムニチャネル」は百貨店の救世主?|経営眼を鍛えるビジネス発想・売れないが売れるに変わるスイッチはどこにあるか?|ダイヤモンド・オンライン

「売り方」にこだわっていた経営者が「価値を売る」ことに気づいた時、「モノの見方」が変わる。そこから企業が変わり始める――。行き詰まりを感じる経営者の視点が変わるきっかけ、企業再生のきっかけとなる「スイッチ」の見つけ方を、経営コンサルティングのプロフェッショナル集団・カート・サーモンの河合拓氏が解説する第2回。今回はもはや“衰退産業”とも言われる「百貨店復活のスイッチ」だ。

 今、我々の生活の様々なところにITが入っている。企業は莫大な投資を行いながらIT化を進めているが、それらが効果的に事業価値を上げたという話は、私の知る限りほんの数件に過ぎない。多くの企業ではIT化は過剰投資、あるいは無駄な投資になっている。

 最近は「IT化」という言葉が少なくなり、「デジタイゼーション」という言葉の方を聞くようになってきた。「IT化」というのは読んで字のごとく、今まで人間がやってきたことがITに置き換わる、という意味である。だから、その効用性は、自動化、省力化、正確性など生産性の向上となる。

 これに対して、「デジタイゼーション」というのは、ITを活用して、これまでなしえなかったような新しい付加価値を新たに創造することをいう。今百貨店業界で最もホットトピックである「オムニチャネル」に焦点をあて百貨店復活のヒントを提示したい。

間違いだらけの「オムニチャネル」

 オムニチャネルというのは、顧客が「いつでも、どこでも、どのようにしても」商品を購買できるよう様々な技術を導入し、組み合わせ、顧客にとって高い価値を実現することをいう。

 例えば、朝起きるとネスプレッソのカプセル在庫がきれていた。その場でパソコンで買うと翌日自宅に届く。オフィスから帰宅し、夜自宅でホッコリしているときに先週末に店舗で見た洋服をスマホで買う(いつでも)。女性の一人暮らしだと宅急便配達が自宅まで来るのがなんとなく嫌なため、通勤途中にあるコンビニで商品を受け取れる(どこでも)。あるいは、店頭で商品を見ていたらSサイズが切れていたため、スマホで在庫を探すと隣の店にあったので、そこからSサイズの商品が配送される(どのようにしても)、などだ。

 顧客は、リアルの店、ECを通して、場所、時間、方法を全く気にせず好きな商品を好きなように買うことができる。「オムニチャネル」という概念は瞬く間に業界に広がった。

 さて、そもそも、オムニチャネルという概念は米国からきたものだ。そして、米国ではGMS などのスーパーで発達したものである。確かに、米国でもメイシーズなど百貨店でオムニチャネルが進化した事例もあるが、米国の場合、まず、広大な土地を広くカバーするために様々な物流拠点が存在し商品を全国に届けている。

 また、米国では多くの消費者がスマホやインターネットを積極的に活用しており、全世代にわたってITリテラシーも日本よりはるかに高く需要も高い。一方、日本の百貨店などは、地方に行けば60歳以上の顧客が中心で、まだまだ購買の中心は店頭での接客を通した買い物だ。

 加えて、百貨店のビジネスモデルを両国で比較すれば、米国では百貨店の「買い取り取引」が多く、商品は百貨店に帰属するため、百貨店が自由に商品を各物流拠点に動かすことができる。だが、日本では委託消化と呼ばれ、百貨店は売れ残ったら返品する取引形態が一般的で、百貨店が自由に商品をあちこちに送り回すことが難しいなど、日本と事情が異なっている。

一口に百貨店と言っても1店舗で数千億の店から
「空き部屋」のような店まで様々

 日本の百貨店業態は特殊だ。まず、日本国内だけで百貨店が250も存在し、駅前などの一等地にある百貨店以外の、特に、地方百貨店の多くは瀕死の重傷を負っている。元気が良いのは「新宿の」伊勢丹、「二子玉川の」高島屋、「梅田の」阪急など、好立地商圏で顧客をがっちりつかみ存在感を出している店舗のみ。百貨店の中でも圧倒的多数を占める地方百貨店の一部には、インバウンド需要(外国人の来店)という「神風」で一時的に持ち直しているところもあるが、業界では「量販家電」か「ユニクロ」のいずれかを入れるしか道はないとまでいう人もいる。

 このように、百貨店といっても好立地に館(やかた)構え、1店舗で数千億円も売るモンスターのような店もあれば、ほとんどテナントも入っていない空き部屋のような館もある。百貨店と行っても全く違うのだ。

 私も、ある金融機関から東北の地方百貨店再生の仕事を受けたとき、東北に出張し、店舗を見に行ったことがある。その百貨店は繁華街の好立地にそびえ立っていたが店内は閑古鳥が鳴いていた。致命的だったのは、その百貨店の真正面に、もう一つの高級百貨店が隣接し「顧客の奪い合い」になっていたことだ。そもそも、その繁華街に人がいない。

 タクシーで5分ほど走ったら、巨大なショッピングセンターが広大な敷地に店を構えていた。ユニクロ、GAP、ZARAなど低価格の衣料品やスターバックス、ABCマートなど、東京でも馴染みの店舗が店を構え、隣にはボーリング場まであった。家族連れも車で来るならこちらに来るだろうということは想像に難くない。

 その窮地に陥った百貨店は「再生」に向けて従業員の教育や芸能人のイベントなどを企画していたが、そのレベルの改善を繰り返しても復活しないことは明らかだった。残念だったが、その再生の仕事はお断りしたのだが、この百貨店のケースは特殊ではない。特に業績が悪化している地方百貨店においてはどこも似たような状況に陥っている。こうなった店舗はすでに存在意義を見いだすのは難しい。

 こうした中、日本の百貨店は、数少ない優良店舗の成長戦略にかけてゆくことになるのだが、売上増加を目指す時、「顧客のLTV (Life Time Value生涯価値・顧客が一生にいくらお金を落としてくれるか)の向上」を狙うのか、「顧客数の増加」を狙うのか、非常に重要な戦略の岐路に立たされている。

百貨店復活のスイッチ(1)
デジタイゼーション戦略での“全員外商化”

 日本という国の特殊事情をみたとき、百貨店というのは、エリア特性と密接な関係がある。分かりやすく言えば、百貨店というのは「街のシンボル」であり「街の文化」なのだ。

 例えば、九州のある名門百貨店の支援に行ったときだ。その百貨店は全国に一店舗しか存在しないのだが、地場の富裕層をがっちりつかみ、近くにショッピングセンターができても顧客を取られていなかった。その街では「結婚やお歳暮時など、特別な贈り物を贈るときは、その百貨店で買ったものを贈るのが常識」という「街の文化」をつくり出すことに成功していた。まさに、長年の事業が生み出した「ブランド力」である。

 しかし、その百貨店でさえ、流行に乗ってインターネットショッピングサイトを始めたのだがうまくゆかない。理由を分析すると、そもそも、その百貨店を支えている顧客が、シニア層で、特に高額品においては、まだパソコンやスマホを使って買い物をしていなかったということ。また、その地域の外に出れば、別の百貨店が商圏を陣取っていて顧客を離さないということだった。

 そこで、もっと遠くの、例えば、関西や関東をめがけて地方の辛子明太子のような名産品をネット販売してはというトライアルをしたのだが、そうなると、今度は百貨店の供給業者が、すでに直接百貨店を飛ばして「楽天」などに出店していて、九州の辛子蓮根や明太子はさっぱり売れない。

 そんなとき、「インターネット販売の戦略を考えてください」といわれて、私が答えたのは「インターネットで遠くの顧客に販売しても売れません。自分のリアル店舗の周りの顧客をもっと大事にしてください」だったのである。

 この九州の百貨店が目指すべきは、「リアル店舗がつかんでいる商圏」に対して、より既存顧客のLTV (Life Time Value生涯価値・顧客が一生にいくらお金を落としてくれるか)を上げることだったのだ。自らが陣取る商圏外の顧客に、自分の百貨店の「のし紙」を有り難がる人がいるはずだ、という前提で、インターネット販売を始めても結果は目に見えている。

 そもそも、百貨店に来る顧客の購買心理を深く知れば、百貨店が他の小売業に対し最も競争力を持っているところは、高額な商品を、じっくり、安心、安全なサービスで販売する技術力とブランド力だということがわかるはずだ。

 そして、その究極の販売手法は「外商」である。「外商」というのは、もともと、百貨店の外に出向き、特別な顧客を訪問し、特別な接客で商品を売る手厚い営業手法であるが、最近では特別ゲストルームのようなところに顧客を呼んで販売するやり方もある。ある老舗百貨店の外商経験者に話を聞いたところ、「昔は個人で現金で1億を払って壺や絵を買う人もいた」というほどだ。

 こうした独自の販売手法は、小売業の中でも百貨店しかない。私は、デジタルを使い、ローコストで百貨店の顧客全員に特別な体験をしてもらう「顧客の全員外商化戦略」こそ、百貨店がスーパーや書店などと差別化し得る百貨店復活の「スイッチ」だと思う。

 例えば、冒頭にあげた、ネスプレッソのカプセルなどは在庫がなくなれば自動的に自宅まで届けてほしい、お気に入りのブランドの新商品が入荷したら、購買履歴などを参照してそのブランドのファンに入荷の予定を知らせる。あるいは、取り置きをしてくれるなどのサービスを行う。店頭ではITを使った丁寧なコーディネートや入荷していない商品の説明を行うなど、外商で実現している「売り方」のサービスを、百貨店に来る顧客全員にローコストで実施する。

百貨店復活のスイッチ(2)
ECとリアル店舗での“相互送客”

 次は、全く異なるケースを紹介しよう。

「うちは、オムニチャネルという言葉は社内で使わない。徹底して顧客が求めていることを繰り返して改善していった結果、オムニチャネルに近づいた」

 オムニチャネルをうまく活用しているある百貨店の経営者が語った言葉だ。

 その百貨店は、商品開発の企画機能を本社から売場に移し、顧客と一緒に新商品を作るという斬新なビジネスモデルを先駆けて打ち出し、日本の百貨店では珍しくプライベートブランドで成長している。

 彼らの商品戦略の仕事に携わったとき、経営トップから言われた言葉は、「世界で最も良い商品を作ってほしい」だった。「流通しているナショナルブランドの真似をして、価格を下げて売るためのプライベートブランドであればやらない」とはっきり言われたことを思い出す。そこで、私は、世界中の工場とマーケットを回り、日本で流通している商品のレベルを超えた、まさに「規格外」の商品を開発した。調査した顧客の数は数万人を超え、訪問した国や地域は10を超える。コンサルティングのプロジェクトとしては異例のものだった。

 この百貨店は、そのヒット商品を全国販売するためEC拡販の検討を始めていた。既存顧客でなく新規顧客を狙っているのだが、まっとうな戦略だ。完成度が高い商品を自前の店舗で独占的に販売することができきるのであれば、既存の顧客のLTVをあげるより、まだ、その商品を知らない人に認知を高め、その商品が持つ良さを実感してもらう方が理にかなっている。このケースの場合、百貨店復活のスイッチは、商品を軸としたマーケット拡大、つまり「顧客数の増加」となる。

 このように、委託取引を中心とした百貨店のオムニチャネル戦略は既存顧客のLTV向上による「顧客の総外商化」を、魅力あるプライベートブランドを中心とした百貨店のオムニチャネル戦略はECとリアル店舗を絡めた市場拡大による「顧客数の増加」を狙うことで、百貨店のデジタイゼーション戦略は整理できる。

「顧客データ」を主軸か、「商品データ」を主軸か

 デジタイゼーションが進んだ世の中で、小売り事業で勝つためのコツは二つしかない。それは「顧客」を主軸に戦略を展開するか、「商品」を主軸に戦略を展開するかのいずれかだ。オムニチャネル化が進めば、アパレル業界の工場、商社、アパレル、百貨店というバリューチェーン内で、「顧客データ」と「商品データ」の争奪戦が始まる。

 データというのは、過去から今に至る長い時間軸(縦のデータ)、複数の競合企業、類似企業のデータの集積(横のデータ)のかけ算で活用価値が大きく変わってくる。この面積が最も大きなデータを持っている企業が、業界全体をフィクサーのように動かし、業界の中で神の領域に近づくことができる。いわゆる「ビッグデータ解析」という考え方だ。

「顧客」を主軸に戦略を展開するわかりやすい事例は、アマゾンや楽天である。彼らは、自分たちで自主企画商品は作っていないが、膨大な「顧客のデータベース」を持ち、様々な技術を駆使してクロスセル(この商品がよければ、あちらの商品もいかがですかと推薦する技術)やアップセル(ある商品を買ったら、さらにその上位版の商品も推薦する技術)を誘引し、顧客をがっちり掴んでいる。「顧客の全員外商化」戦略は、「顧客データベース」を集積し、顧客の嗜好、購買行動を百貨店がしっかり分析することが重要だ。

 これに対して、「商品」を主軸に戦略を展開するわかりやすい事例では、ユニクロのヒートテック、ブラトップなどだろう。最近では、セブン&アイ・ホールディングスの「セブンプレミアム」、丸井の「らくちんシリーズ」もプライベートブランドの成功事例である。魅力ある商品を主軸に全国にECを使って展開する戦略は、「商品データベース」をしっかり活用し、在庫場所の管理や決済、配送スケジュールなど顧客にとって最適な組み合わせを実現することが重要だ。

 つまり、百貨店のオムニチャネルの戦略とは、「『顧客』を主軸にしてLTVの向上を狙う」のか、「『商品』を主軸にして顧客の増加を狙う」のか、いずれのポジションを取るか判断を行うことなのである。

 私達カート・サーモンには、米国本社に数多くのオムニチャネル導入を手がけたコンサルタントやIT責任者が山のようにおり、彼らと毎日のようにテレビ電話会議で議論を尽くしている。私は、オムニチャネルの本質をつかむべく、彼らに「結局オムニチャネルとは何なのか」とよく聞くのだが、彼らが答えることは一つしかない。

「オムニチャネルの目的は3つしかない。顧客が、When (いつでも)、Where (どこでも)、How (どうやってでも)で買い物ができことを実現することであり、これらの中でニーズがあることを実現すれば良い。だから、その具体的戦略は業態や状況ごとに変わって当たり前だ」というものだ。

 だから、米国でこういうことが流行っているという“形”の議論に惑わされず、自らが顧客に提供すべき価値とは何か、それは、When、Where、Howで何が実現できるのか、という本質論から戦略を組み立てるべきなのだ。

ユニクロを超えるのは百貨店の使命

 私は、メディアの人に「日本で勝っているファッションブランドはどこですか」とよく聞かれるのだが、そのたびに「ユニクロです」と答えるといやな顔をされてしまう。我々はユニクロの話はそろそろ聞き飽きている。デフレ時代の到来と言われ、百貨店衰退論が日本を席巻し、百貨店は無くなるという極論さえまかり通った時があったが、百貨店といっても、世界でも有数の優良店舗もあれば、ショッピングセンターに顧客を奪われ苦しんでいる地方百貨店も存在する。

 私は、その両者と仕事をしているが、特に前者においては、その高度なノウハウや有能な人材に支えられた営業力は世界に類を見ない。また、彼らはM&Aや業態転換を繰り返し、次々と斬新な戦略を実行しようとしている。百貨店という業態は、経済が衰退した日本で、高額商品をしっかり販売することができる唯一の企業なのだ。

 国民はアベノミクスに熱狂的だが、日銀でお札を増産すればお金の価値が下がって物価が上がる、などという、分かったような、分からないような経済政策に期待するより、百貨店業界こそがしっかり正しいスイッチを押すことで、デフレ一色に染められた市場の彩りを鮮やかにすることができるだろう。

 過去、日本のアパレル業界は、SPA化、サプライチェーン、QR (Quick response)、アウトソーシングなど、米国から輸入された改革手法を「間違った形」で導入し、効率化を追い求めてきた結果、顧客が感じる体験価値をどんどんそぎ落としてきた。オムニチャネルではその二の舞は踏んで欲しくない。

(カート・サーモン・ユーエス・インク日本支社 パートナー 河合 拓)
カート・サーモン・ユーエスインク日本支社パートナー/繊維商社にて10年の海外営業の後、経営コンサルタントに転身。ターンアラウンドマネージャ(企業・事業再生)として数多くのアパレル、流通チェーン、百貨店などにハンズオンで入り込み、経営立て直し、新規事業立ち上げを成功させた。著書『ブランドで競争する技術』(ダイヤモンド社)は中国語に翻訳され台湾でも発売されている。

情報源: 百貨店の「ネット販売」はなぜ失敗するのか 「オムニチャネル」は百貨店の救世主?|経営眼を鍛えるビジネス発想・売れないが売れるに変わるスイッチはどこにあるか?|ダイヤモンド・オンライン