Ingressの影の主役が表舞台に–村井社長のナイアンティック日本法人戦略 – CNET Japan

2015/12/09 08:00

 「Ingress」を開発するNianticは12月3日、日本法人である「株式会社ナイアンティック」を設立し、同社代表取締役社長に村井説人氏が12月1日付で就任したことを正式に発表した。

 村井説人氏は、ナイアンティック入社前、Googleで「Google マップ」のパートナーシップ日本統括部長を務めていた人物。2008~2015年にかけてGoogle マップで提供されたすべての新機能に関わり、データの戦略的パートナーシップを構築するとともに、航空写真、インドアマップ、経路検索、Google Ocean、Google Moonなどさまざまな新サービスを日本市場に送り出してきた。

 キャリアをスタートさせたのは日本電信電話(NTT)。以降、NTT-Xで通信を切り口とした都市開発を担ったほか、NTTレゾナントではプロダクトマネージャーとして、ブログサービスの立ち上げやRSS検索エンジンを開発。その後、2006年にGMOアドネットワークスの取締役に就任し、Twitterの元CEO、ディック・コストロ氏の立ち上げたFeedBurnerとのパートナーシップにもとづき、日本市場でのRSS広告ネットワークの構築と市場の活性化に貢献してきた。

 ナイアンティックの代表に就任した経緯や、「課金」に踏み切った理由、今後の取り組みなどについて、村井氏に聞いた。

ナイアンティックの代表取締役社長に就任した村井説人氏

–代表に就任した経緯は。

村井氏:Google マップの生みの親であり、NianticのCEOであるジョン・ハンケとは以前から仕事上で交流がありました。数年前に、ジョンが来日した時に「もしよかったらIngressを手伝ってもらえないか」と言われ、Googleの20%ルール(業務時間の20%を自分が重要だと思うプロジェクトに費やせるルール)の範囲という形でサポートを始めました。

 Googleマップの日本でのコンテンツパートナーシップの責任者をしつつ、Ingressの日本展開をビジネスパートナーシップの観点から支援していました。実は私が1年半ほどで、ローソンやソフトバンク、三菱東京UFJ、伊藤園、大日本印刷とのパートナーシップをすべてまとめました。20%ルールではありますが、Googleマップの仕事を100%やって、Ingressの仕事も100%やって、あわせて200%の仕事をここ1年半ずっとやってきた感じです。

 それと、実は、2014年12月に東京で開いたイベント「Darsana」の“デッドドロップ”は私が担当しました。

–暗躍していたんですね。

村井氏:そうです(笑)。影でずっと仕事をしていて、NianticがGoogleから独立する話が出てきたタイミングで、ジョンから「いつ来るんだ?」と誘われました。結局、IngressがGoogleマップと同じロケーションベースのサービスであり魅力を感じていたのと、Googleマップとは違うアプローチで新たに挑戦できるかと思い、Googleを辞めてナイアンティックに入りました。

–日本法人では、これからどのようなことに取り組むのでしょうか。

村井氏:なぜ日本法人を立ち上げたか。それはジョンがとても日本が好きだというのもありますが、Ingressひとつをとっても、パートナーに日本企業がとても多いことが要因として挙げられます。また日本は世界でトップ3に入るくらいのユーザー数を誇るので、皆さんにIngressを楽しんでいただくという面でも、ビジネスの面でも、日本市場はとても重要だと考えています。

 日本法人は、Nianticの初めての現地法人です。日本の市場を大切にしたいという思いから立ち上げています。

 その思いを汲んで、私はまず、Ingressを日本の皆さまに知っていただくとともに、すでにお使いいただいている方には、さらに楽しんでいただけるような仕掛けを作っていきたいと思っています。ちなみに、日本が初の現地法人というのは、Googleの海外展開の生い立ちと全く同じと言う点も興味深いですよね。

 Ingressはリアルワールドゲームと呼ばれていますが、この世の中、リアルの世界で周りをみると、いろいろな企業が生活のなかに存在しています。そのように、我々の拡張現実の中にもたくさんのパートナーがいて何ら違和感はないと思っています。Ingressの世界観を壊さないようにしながら、いかに日本でパートナーシップを広げていけるかが、私自身のミッションになると考えています。

 同時に、9月に発表したポケモンとのプロダクト「Pokémon GO」を日本で成功させるのも重要なミッションです。2016年はその辺りにフォーカスします。

 それ以降は、現在開発中のロケーションベースのプラットフォームを、より多くのパートナーに利用してもらうことに注力します。Ingressは、「ゲームにロケーションを入れるとこんなに楽しいものになる」ということを伝える1つのショウケースでもあります。そこにインスパイアされる企業が、今後おそらく出てくると思います。それはゲーム会社に限らないと思うので、そのマーケットを広げていくのが私の3つめのミッションになります。

 また、それらを実現させるために、この日本法人を、より骨太な企業に変えていくことに力を入れます。

–Ingressのこれまでのムーブメントをどのように見ていましたか。

村井氏:GoogleにいながらIngressを客観的に見ていた時に、うまくいったところは、コミュニティとの連携だと思いました。“人が見えるサービス”は、ゲームをはじめ他のアプリケーションでも、なかなか無いんですよね。

 その中で、まだムーブメントとして小さな時から、川島(優志氏)や須賀(健人氏)が、Ingressのエージェントの皆さんと一緒にゲームを作っていけたというのが、このムーブメントを長いあいだ維持できている重要な要素の一つだと思います。

 ユーザーはこれからますます増えていくと思いますし、さらにはPokémon GOなども出てきますので、次の新しい使い方、新しい世代の人たちの利用方法が見つかるのではないかと考えています。

ナイアンティックの代表取締役社長に就任した村井説人氏

–ユーザー数は公開されていませんが、率直に言って、まだ世間での認知度は微妙なところだと思います。今後の取り組みの中での一番最初の目標、ブレークスルーポイントは何でしょうか。

村井氏:認知度を上げるというよりも、ユーザー数を増やしていくことが大切だと思っています。

 特定のターゲット層の方に使っていただきたい、という考えはありません。すでにIngressは、多くの人たちがこの世界観に共感して使っていただけるプラットフォームになっていると考えています。これは川島とも話したのですが、学生やビジネスマンだけでなく、ご年配の方たちにも、ぜひ使っていただきたいです。

 ジョンの思いである「歩いて冒険をすること(アドベンチャーズオンフット)」――冒険に出るのは、老若男女のすべての方にできることです。歩き始めた結果、健康になったり、楽しい気持ちになったりします。Ingressはご年配の方たちでも使えるツールです。1歩でも2歩でも前に歩き始めるきっかけがIngressだととてもうれしいです。

 Ingressのユーザーを飽きさせない仕組みとして、「公式小説」などを発表しています。発売1週間で増刷が決まるくらいの人気ぶりです。

 IngressにはきっちりとしたSFのストーリーがあります。それを知ることによって、Ingressの世界観が明確にわかり、Ingressをプレイするのがさらに楽しくなると思います。

 おそらく日本の多くのユーザーは、まだIngressのバックストーリーをよく知りません。なぜかというと、それが英語だからと言う声をよく聞きます。言葉の壁はとても大きいと思っています。今後は、日本の皆さまにより適した形で情報を提供し、ストーリーをしっかり伝えられるようにしていきたいと思っています。公式小説はその始まりだと思ってください。今後、こういった取り組みを強めていきます。

–10月にはアプリ内課金を始めましたね。

村井氏:これから課金でどんどんお金を稼いでいきたいわけではありません。Ingressは(サーバやネットワークの維持や投資などで)ものすごくコストのかかるサービスです。Ingressを継続して提供しようとしても、続ければ続けるほど赤字だと、事業として健康的だとは言えません。

 Ingressを健全に、そして永久的に提供できるような仕掛けを、我々は考え続けなければいけません。そこに対する何かしらの解を出そうとした時に、皆さまがIngressをより楽しんだり、より面白いコミュニケーションができたりするような観点でお使いできるような内容であれば、我々はアプリ内課金を否定しません。もちろん、Ingressの世界観を壊さないことが前提ですが。

 アプリ内課金をすることには多くの議論がありましたが、そこに踏み込むことに対しては、それほどハードルは高くありませんでした。

–12月12日に沖縄で開くイベント「Abaddon」では、(基本的にイベント参加は無料だが)アフターパーティへの優先入場が含まれた有料グッズを販売します。これも同じ方針によるものですね。

村井氏:そうです。継続的にイベントを成功させていくためには、より健全な形に変えていく必要があります。単純にビジネスとしてお金を稼ぐというよりは、健全なスタイルをどう作っていくのかが、とても重要だと思っています。

 日本法人を作って、ビジネスの観点で全体を俯瞰して見るポジションを設けたのは、事業の健全なスタイルを作るためなのです。

–将来的な収益源としては、スポンサーフィーと、今後始めるであろうプラットフォーム課金が2大セグメントになるのでしょうか。

村井氏:いろいろあると思っていて、その可能性を常に模索しています。まずは一歩一歩、目の前のものをクリアしていくのが、我々がすべきことです。

 我々は、使い捨て感のあるアプリはできるだけ出さずに、継続して使っていただけるものを提供していきます。

–レベル16のエージェントから、レベルの上限を引き上げてほしいとの声を聞きます。川島さんからは、レベルを引き上げるのではなく、ポータルの審査を任せる案などを検討しているとお聞きしました。

村井氏:仮にレベルの上限を引き上げたとしても、あっという間にレベル30くらいに到達する人がいると思います。すると、またさらに上限を引き上げることになる。それを繰り返すよりも、ジョンが作った世界観の中で「健康になる」「知らない場所に行ってみる」「海外に行っていろいろなポータルキーを取ってくる」など、いろいろな使い方を見つけていただくことを期待しています。

村井氏、アジア統括マーケティングマネージャーの須賀健人氏

–アジア統括マーケティングマネージャーの須賀さんは、社長である村井さんをどうやって支えていきますか。

村井氏:やっぱり筋肉じゃないですか(笑)。

須賀氏:(笑)とりあえず、しっかりとしたブランディングに注力したいと思っています。ナイアンティックのよいところは、会社としては謎かもしれませんが、メンバーそれぞれがユーザーと直接対話していることだと思います。

 おのおのがコミュニティに対して真摯(しんし)に向き合って、“人の見えるマーケティング”でユーザーと近い距離で動いていきたいです。

–Ingressに続くタイトル「Endgame:Proving Ground」の開発状況は。

須賀氏:いろいろな事情がありまして、延期です。

–「Pokémon GO」の開発状況は。

村井氏:順調に進んでいます。2016年にローンチする予定ですので、それに向けて、鋭意努力しています。ご期待ください。

情報源: Ingressの影の主役が表舞台に–村井社長のナイアンティック日本法人戦略 – CNET Japan