News Up セレブが選ぶ奈良?その観光戦略とは | NHKニュース

4月28日 13時55分

日本を訪れた外国人旅行者は去年初めて2000万人を突破し、ことしも好調です。外国人旅行者の間では、一昔前の「爆買い」などモノの消費から、日本でしかできない体験を楽しむことに重点が移っていると言われます。そんな中、奈良県では「高級感」をキーワードに、海外の富裕層にターゲットを絞った新たな戦略に力を入れています。(奈良放送局 三瓶佑樹)

日帰りが多いのが奈良
去年、奈良県を訪れた外国人旅行者は165万人余りと前の年より60%も増え、過去最高を大きく更新する見込みです。その一方で、長年の課題は解決されないままです。長年の課題とは、「日帰り観光の多さ」です。

奈良県は多くの有名な観光地がありながらホテルや旅館の客室数が全国で最も少なく、宿泊する観光客の数も全国最低レベルです。奈良公園で外国人旅行者に予定を尋ねてみても、「東大寺の大仏はすばらしいけど奈良にいるのは1日だけ」とか、「日帰りで奈良の鹿を見に来て、すぐ東京に行くつもり」といった声が多く聞かれます。こうした日帰り旅行では、宿泊を伴う滞在に比べて、経済効果は伸びません。奈良は大阪や京都に隣接し交通の便がよいことで、かえって日帰り客を増やす結果になってしまっています。

高級感で「宿泊旅行」へ誘う
外国人に宿泊してもらえる観光地になるためには、ほかと同じことをしていてはダメだと、奈良県が進める新たな戦略が高級観光路線です。これはホテルや食事が高級というだけではありません。古い歴史を誇り、数々の世界遺産や文化財に恵まれた奈良だからこそ体験できる「特別な観光ツアー」を開発し、売り出しているのです。ターゲットは、中東の王族や欧米の大富豪といった海外の富裕層。ツアーの中身はどんなものなのでしょうか。

数千万円の豪華ツアー
例えば、「世界遺産の春日大社を夜間貸し切るツアー」。一般の拝観が終わったあと、夜の間、境内に並ぶ灯籠に、予約したゲストのためだけに火がともされ、古都ならではの風情を独占して堪能できます。お値段は55万円です。

さらに、奈良県在住の刀鍛冶による「オーダーメードの日本刀づくりツアー」も。鎌倉時代から続く流派の技で自分だけのオリジナルの刀を作ってもらえます。料金はなんと2000万円です。

料金は破格でも、「特別な体験ができる」と人気を呼び、昨年度末までに企画された16種類のツアーに外国人旅行者850人が参加しています。

奈良県観光局の中西康博理事は、「日本人にも喜ばれるが、外国の人たちにしたらもっとすごいことなのです。レアな体験ができると試験的に商品を作ったら非常に受けがよかった」と話し手応えを感じています。

新たに開発中のツアーは新たに開発中のツアーは

奈良に宿泊しないと体験できないツアーをもっと充実させようと奈良県は研究しています。3月、外国人の富裕層のためのツアーを専門に扱っている旅行代理店の人たちが新たなツアーの視察に招かれたので、同行して取材しました。

一行が招かれたのは奈良県東部、宇陀市の山あいにある築200年の古民家でした。宿泊は1日1組限定という高級宿で、窓からは棚田の田園風景が一望でき、食事も、いろりを囲み、目の前で一流の料理人の包丁さばきを見ながら味わうことができます。宿泊した旅行代理店の人は、「富裕層は田舎のくらし体験や、地域の人とのコミュニケーションを大事にしているので、こうした古民家にお忍びで滞在できるツアーは富裕層に需要がある」と話していました。

さらに、一夜明けてから、宿のそばまで迎えに来た貸し切りのヘリコプターで空に飛び立ちました。日本古来の山岳信仰、修験道の聖地・吉野を空から巡るためです。紀伊半島の雄大な山々が眼下に広がる景色を楽しんだあと、世界遺産の吉野山にある金峯山寺に参拝。国宝の本堂で僧侶から直接、歴史の説明を受けたり、法要が特別に営まれたりしました。

このツアー、料金は100万円以上になりますが、4月になって早くも海外から2組が申し込み、楽しんだそうです。代理店によると、海外の富裕層は、どれだけ高額であっても自分にとって価値があると思えば、躊躇(ちゅうちょ)なく支払うのだそうです。値段に関係なく、「プライスレス」な発見や体験を求めているのでしょう。

奈良県の真のねらい
こうした富裕層に絞った戦略で奈良県が狙うのは、単に経済面の効果だけではありません。富裕層に満足してもらえるサービスが提供できるようになれば、奈良の観光全体がレベルアップして、多様な層の観光客へのアピールにつながるという、波及効果が大きな狙いなのです。

奈良県観光局の中西康博理事は、「われわれのおもてなし度がどんどん上がっていけば、富裕層に限らず、いろいろな層の人に、奈良っていいよね、もう一度いきたいねと思ってもらえる。そうしたリピーターを育てることが大切なのです」と話していました。

海外のセレブに選ばれる旅行先として奈良の知名度が上がれば、訪れる人たちのすそ野も広がることが確かに期待できそうです。これからますます日本を訪れる外国人旅行者が増えていくのは間違いありません。そうしたなかで、すぐ隣にある京都や大阪といった強力なライバルに負けずに、古い歴史を誇る奈良だからこその観光戦略で、「お手軽な日帰り旅行先」というイメージを払拭(ふっしょく)できるか、成果に注目したいと思います。

情報源: News Up セレブが選ぶ奈良?その観光戦略とは | NHKニュース