外国人観光客が5年で36倍、城崎温泉の戦略とは:日経ビジネスオンライン

 訪日外国人数の増加が続いている。今年1~7月に日本を訪れた外国人旅行者は日本政府観光局(JNTO)の調べによると1643万8800人で、前年同期に比べて17.3%増えた。

 昨今、東京都心の地下鉄の車内やホームで外国人観光客を見かけることは日常のことになった。かつては旅行客を見かけることが少なかった都内の住宅地でも、駅や商店街などで外国人旅行者を目にするようになった。地方も同様だ。日本人にとってもかなり奥深い場所でさえ、外国人の姿を見かけるようになった。人数が増えているだけではなく、旅行する場所もかなり広範囲に広がっているのが最近の傾向だ。

 そうした地方の観光地、兵庫県豊岡市にある城崎温泉も訪日客が急増している場所の1つだ。

 兵庫県と聞くと、神戸市など瀬戸内海側の地域をイメージする人が多いと思うが、豊岡市は兵庫県北部、日本海に面した場所にある。城崎温泉までは大阪からは特急を使っても電車で約3時間もかかる。

 だが、城崎温泉を訪れる外国人観光客の数は直近5年で36倍に増えた。なぜか。

家族経営の旅館が予約サイトに対応

 城崎温泉は川沿いの柳並木、古い街並み、そして浴衣を着た観光客がそぞろ歩く風情のある風景が特徴だ。7カ所ある外湯めぐりが主体の温泉で、旅行者は旅館で浴衣に着替えてげたを履いて、好みの外湯に入りにいく。チェックイン後、旅館での夕食までの時間帯である夕方4時~5時頃と夕食後の8時以降は特に人出が多くにぎわう。

 温泉施設を持つ大型ホテルが軒を連ねる温泉地とは全く雰囲気が違う。城崎温泉の場合、約80カ所ある旅館は小規模で家族経営が主体。1つの旅館の部屋数は10~15室程度。そのため中国人の団体旅行などを受け入れるのが難しかった。


兵庫県豊岡市にある城崎温泉。欧米の個人旅行客が急増している。スイスから訪れたニーノ氏一家。英語ガイドブックで城崎温泉を知り、初めての日本旅行で訪れた(写真:大亀 京助、以下同)
 インバウンド(訪日外国人)の潮流に乗れないかに思えた城崎温泉だが、団体旅行客を受け入れられないことを逆手にとって、個人旅行客に狙いを定めた。2013年ごろから、豊岡市は欧州での観光プロモーションを始めた。個人旅行者の割合が多い、欧州のほか、北米、オーストラリアからの集客を狙った。

 13年、フランスの旅行ガイド「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」に城崎温泉が2つ星の評価を得て掲載された。英語ガイドブック「ロンリープラネット」でも日本のベスト温泉の1つに選ばれた。こうしたことから城崎温泉が欧米人に広く知られることとなる。城崎温泉の外国人旅行者の内、欧州、北米、オーストラリアからの割合は約半数を占める。

 外国人旅行者を観光地に呼び寄せるのに問題となるのが、宿泊施設側の対応だ。個人旅行客は直接、ホテルや旅館に予約を入れることが多いため、英語などの外国語で予約できないと来てくれない。

 城崎温泉の旅館の場合、米エクスペディアやオランダのブッキング・ドットコムなど欧米の旅行・ホテル予約サイトとの連携を深めたことで、欧米の個人客の取り込みに成功した。以前は日本語でもオンライン予約に対応していなかったタイプの小規模な旅館でも、かなりの数が欧米のホテル予約サイトに登録している。

 15年には豊岡市も城崎温泉に関する英語の観光情報サイト「Visit Kinosaki」を立ち上げ、宿泊予約機能を装備した。今ではフランス語にも対応する。サイトはトップ画面に大きなイメージ画像を配し、滞在日と人数を選んで予約するためのメニューが中央下部に表示されている。最近の欧米の予約サイトに見られるようなページデザインで利用者にとって旅館の予約がしやすいよう工夫している。

 さらに外国人旅行者を呼び込むために16年6月に発足したのが豊岡版DMO「豊岡観光イノベーション(一般社団法人)」だ。DMOとは「Destination Management/Marketing Organization」の略。観光地経営組織などと訳される。観光地において戦略の策定、各種調査、マーケティング、商品開発、プロモーションなどを一貫して実施する組織体で、欧米の観光地で発展した形態だ。

 日本では地域の観光は、自治体の観光課や観光協会、地域の旅館組合などの組織が情報提供やプロモーションをするケースが多いが、ツアーなどの商品を開発したり、調査を基に戦略的なマーケティングを展開するなど企業的な動きまではこれまでほとんどしてこなかった。

 そこで豊岡市では企業と連携してDMOを組織した。高速バス大手のウィラー(大阪市)や地元のバス会社、全但バス(兵庫県養父市)、豊岡市に本店がある但馬銀行、但馬信用金庫などの企業が基金を拠出、旅行大手のJTBと三井物産はそれぞれ社員を派遣して参画する。観光地としての関連性が強い隣接する京都府京丹後市とも連携する。社員は9人で、7人が企業出身者だ。今年4月からは旅行大手の近畿日本ツーリストも社員を派遣している。

 具体的にはマーケティング事業、現地ツアーの開発・販売、前述の宿泊予約サイト「Visit Kinosaki」の運営などを手掛けている。

 三井物産から加わり事業を統括する田辺茂・事業本部長は「城崎温泉の集客をさらに伸ばすことに加え、豊岡市と京丹後市の城崎温泉以外の観光地への集客に取り組んでいる」と話す。


一般社団法人豊岡観光イノベーションで事業を統括する田辺茂・事業本部長。三井物産からの出向で、台湾などでの駐在経験がある

 豊岡市には城下町の出石地区などの観光地が点在する。海水浴ができる風光明媚な海岸もある。

情報源: 外国人観光客が5年で36倍、城崎温泉の戦略とは:日経ビジネスオンライン

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