石川・加賀でIoT推進 元グーグル 村上憲郎さん  :日本経済新聞

2019/1/8 6:00日本経済新聞 電子版

■小中学校でのプログラミング学習の導入など、先端技術の取り込みで全国的な評価が高い石川県加賀市。2017年3月に発足した「スマート加賀IoT推進協議会」の代表として知恵袋の役割を担うのは、元グーグル日本法人社長の村上憲郎さん(71)だ。

 むらかみ・のりお 1947年大分県佐伯市生まれ。70年京都大工学部を卒業後、日米のIT企業などを経て、2003年から08年までグーグル米本社副社長兼日本法人社長、11年まで名誉会長。現在、村上憲郎事務所代表。

「加賀市との関わりは金沢工業大学の東京キャンパスでの講演がきっかけだ。もともと何のゆかりもなかったが、講演した内容が宮元陸・加賀市長に伝わり、市の取り組みに協力してほしいと要請された。最初に訪れた際には『加賀で温泉に入れるなら』といった全くの観光気分だった」

「宮元市長に会ってみると、目標は世界有数のIT(情報技術)大国であるエストニアだという。あらゆるモノがネットとつながるIoTやAI(人工知能)などによる第4次産業革命は確実に地方にも波及する。加賀市にとっては北陸新幹線と同じように、やってくることが決まっているが、まだ届いていないという状況にある。将来を見据え、慌てない準備が必要だという問題意識に共感した」

■IT産業に多くの知見とネットワークを持つ村上さん。加賀市には年に数回訪れ、地元産業が抱える課題の解決や人材育成に向けた様々な取り組みを後押しする。

「産業革命というと工業を連想しがちだが、その影響は全産業に及ぶ。もちろん農業も例外ではない。私が理事長を務めている縁で紹介したのは、ITなどを活用して農業のスマート化に取り組む一般社団法人、グリーンカラー・プラネット(東京・新宿)。この法人はレタスの水耕栽培など野菜での実績が豊富だが、加賀市では梨など果樹の栽培で地元農家と連携している」

「私の理系志向の原点は鉱石ラジオ作りだった。同じように、自分の手で技術を体験する楽しさを味わってもらおうと思い、小学生に小型コンピューター『ラズベリーパイ』を配布することを提案した。これまでの教育は正解を覚えることを重視してきたが、低成長時代に入り、これからは問題を発見して解決策を探ることに主眼が置かれる。端末を自由に使って、何かを生み出す体験は必ず役に立つと思う」


障害者の視点から誰にでも使いやすいサービスの開発に取り組む

■加賀市では昨年7月、全国の自治体で初めて「スマートインクルージョン推進宣言」を打ち出した。最先端の技術を指す「スマート」と包括や一体性を意味する「インクルージョン」を合わせた考え方で、障害者の視点から最新テクノロジーを活用したサービスの開発などに取り組む。

「プロジェクトの中核的な存在は一般社団法人のスマートインクルージョン推進機構(東京・中央)だ。私は同法人で名誉会長兼理事を務めており、代表理事の竹村和浩氏と加賀市を引き合わせた。竹村氏は石川県出身で、自身も障害者の子どもを持つ。加賀市では関連する技術を保有する企業を募り、地元の障害者団体などと共同事業体を組織する。実証の場が特定の障害者ではなく、市内に住む様々な障害を持つ人たちに広がることでノウハウの蓄積が期待できる」

《一言メモ》市の先端技術講座 盛ん


加賀市は先端技術の導入に意欲的だ。市役所での業務にRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入して省力化を図っているほか、地元企業向けにAI(人工知能)やIoTの活用を促すセミナーなども多数開催する。今春には子ども向けのプログラミングの校外学習拠点として、日本初の「コンピュータクラブハウス」を設ける計画だ。

スマートインクルージョンの取り組みでは、障害者を抱える住民への支援ばかりでなく、障害者雇用の活用といった広がりが見込まれる。また障害者を身体機能が衰えていく高齢者の先駆事例と位置付け、すべての人にとって有用なサービスを見いだしたい考えだ。

(金沢支局長 沢田勝)

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