最先端デジタル環境を活用したマーケティングを展開 巨大中国市場をパートナー企業とともに攻略するサンヨー食品 | JDIR powerd by JBpress

巨大中国市場をパートナー企業とともに攻略するサンヨー食品
鍋島 勢理(CDO Club Japan)/2019.3.19

サンヨー食品 取締役海外事業本部長の髙橋勇幸氏。1986年に味の素株式会社入社。タイ味の素、CPC/AJI(アジア)株式会社(ユニリーバ社との合弁会社)、ポーランド味の素、味の素欧州アフリカ本部(フランス・パリ)などを経て、2015年サンヨー食品株式会社に入社

 デジタル化の最先端を行くと言われる中国。中国事業に取り組むサンヨー食品がパートナー企業とともに、デジタルメディアを活用したマーケティングをどのように行っているのか。サンヨー食品海外事業本部長の髙橋勇幸氏にCDO Club Japan理事の鍋島勢理氏が聞いた。(JBpress)

――中国市場で先進的なデジタルマーケティングを展開されているそうですね。

 私どもサンヨー食品グループは、中国では康師傅(カンシーフ)という企業と合弁で事業を行っています。飲料と即席麺という主に2つの事業の柱があります。1999年に同社が経営危機に陥ったとき、弊社が資本参加しました。その後業績は急速に回復し、現在の年間売上高は約1兆円です。

消費行動に大きな変化

 中国市場の特徴は、デジタル化とミレニアル世代の台頭という2つによる消費行動の大きな変化が起こっていることです。

 中国のデジタル環境は、現在の世界最先端ではないかなというのが実感です。それはアリババやテンセントなどのデジタル企業が提供するサービスのレベルの高さだけではなく、それを利用している中国の消費者の数の多さが、日本では想定できないようなレベルだからです。

 中国のEコマース、デジタル広告の市場は2000年代後半から急速に伸びてきています。今のECの市場規模は約123兆円。13億の人口のうち、ECのユーザーが7~8億人いるのです。

 それに連動して、インターネット広告と旧媒体の広告の比率は、今や72%がインターネット広告という状況です。パートナーである康師傅もインターネット広告65%対その他媒体35%となっています。即席麺と飲料という幅広い層の消費者向けの商品のコミュニケーションはインターネット、SNSがメインとなりました。

 もう一つ重要なのは、消費者の消費行動が大きく変わっているという点です。その代表がミレニアル世代(2000年以降に20歳になった世代)で、中国には4億人以上がいます。このミレニアル世代は旧世代と根本的に消費行動が違います。

 若い中国人は、健康・ウェルネス志向が強い、外食の頻度が高い、有名かどうかよりフィットするブランドを自分で見つける、いいものが見つかったらみんなとシェアする、という傾向があります。一言で言えば彼らはデジタルネイティブであり、これまでの世代と根本的に変わってきています。健康志向はどの国のミレニアル世代にもだいたい共通していますが、とくに中国は日本以上に強いなと感じます。

 もう一つ、クチコミや友人からの情報をどちらかというと信頼する傾向があります。中国ならではという面があるかもしれませんが「自分たちが知らない情報を知りたい」というニーズが強く、周りの仲間のメッセージの方がフィットするようです。

――具体的には中国市場でどのような取り組みをされていますか。

 アリババのECサイト「天猫Tmall」で行った取り組みをご紹介しましょう。“ネット発”の話題作りを狙って、プレミアム商品を販売したのです。

 中国のECサイトにとって重要な日が、11月11日の「独身の日」です。この、自分にごほうびをあげましょう、というコンセプトの日にあわせて2018年に限定商品を企画しました。レトルトの肉とフリーズドライの野菜がたくさん入った本格的な麺を作りました。一食25元(約400円)という、即席麺としてはかなり高額なプレミアム商品です。これを1111個限定で発売したのですが、たったの88秒で売り切れました。

オンラインだけでなくオフラインも


中国正月に向けた限定の高額商品。一箱に1食入り

 多少デザインを変えたものを、春節(中国正月)にも限定版で出しました。とくにKOL(Key Opinion Leader)に反応してもらい、スマホでのシェアによる拡大効果を狙いました。さまざまな動画を作り、クチコミでの広がりを狙ったことにより、5億以上のページビューが実現できました。

 同時にポップアップストア(短期間限定の店舗)も展開し、オンラインとオフラインの融合を図りました。デジタルの空間だけの世界ではなくて、リアルなオフラインでの人とのコミュニケーションや周りの人の反応などをいかにオンラインで伝えるか、ということです。

 消費者は商品そのものだけではなく、それを取り囲むコトとかイベントとか、周りの友達の反応だとか、そこにおもしろさを感じています。さまざまなイベントにあわせて話題のある商品を提供していくことによって、新しい消費シーンを作っていきたいと考えています。

 もちろん中国も日本と同じで、デジタルネイティブではない世代もまだ多いですし、その世代もラーメンを食べます。ただ、新しいバリューを持った商品が、やがて従来型の商品、消費者にも反映していくと思っています。

――デジタルマーケティングが有効なのはやはり中国だからなのでしょうか。

 いえ、デジタル環境が整っている国、消費者がデジタルネイティブならば有効です。その前にヨーロッパでデジタルマーケティングをやってかなり成功した経験があります。

 私は弊社に入社する前、味の素で主に海外事業を担当し、タイに6年、香港に2年、ポーランドに6年、フランスに5年という期間、海外駐在をしていました。

デジタルメディアだけで新商品を広告

 スペイン、イタリア、フランスでは現地のパートナーとカップ麺商品を一緒に開発し、若者(ミレニアル世代)を狙ったという経験があります。もともとパスタの国なので、先方の反応は当初「カップ麺なんて売れない」というものでした。でも「若者は違いますよ。サムシングニュー、今までにないものを求めています」とプレゼンして、一緒に商品開発をしました。やってみたら一気に他社をしのいで、発売後3年でトップブランドになりました。

 成功したポイントは話題作りだと思います。最初にやったのは、YouTube、Instagram、Facebook、イベント(コンサートやクラブ)でのミレニアル世代向けのコミュニケーションです。

 SNSで喫食する場面の楽しい動画を消費者自身がYouTubeにアップするという企画などが極めて効果的でした。そもそもカップ麺を食べたことがない人がいるので、食べ方を説明するオーソドックスな紹介ビデオは作りました。そして、クリエイティブなアーティストに曲を歌ってもらうなどの仕掛けをしました。さらに、「この商品について、紹介や提案をしてくれた人をコンサートに招待します」としたのです。そうしたら、一般の消費者が商品を紹介するいろいろな動画を山のようにアップし、それがクチコミで広がっていきました。

 消費者がどうシンパシーを持てるか、ぐっと来るものがなにかは、国によって結構違いますから、よく見ないといけません。伝統的な価値観と今の感覚、そのバランスがとれるところがたぶんあるのです。

 ただ話題になるというだけではなくて、消費者の深いところに刺さることができるか。それが重要です。

――そのためにはデジタルが有効なのでしょうか。

 デジタル系のいいところは、トライアンドエラーがやりやすいことです。マスマーケティングで大型テレビ広告や大キャンペーンをやるのと比較して、低いコストでトライアルができます。ポップアップストアのような店舗を作るのはそれほどお金がかかりませんし、それを利用した動画は全国に一気に配信されます。マスメディア用の制作費と比べると低くできます。

 消費者の価値観や関心は、ミレニアル世代を中心にモノからコトにシフトしていて、どういうことにターゲットの方が共感するのか、今までのリサーチの方法ではなかなかわかりません。

 デジタルマーケティングなら小規模で実験することができ、なぜ反応したか、なぜ反応しなかったかがわかります。「こういう層はこういうところに反応してくれる」ということがわかったら、それをさらに拡大していけばいいのです。この繰り返しモデルがスピーディにできます。ターゲットを、消費者のモチベーションや関心という視点で、いくつかのセグメントに分けることがしやすくなりました。消費者の反応がこれだけよく見える時代はこれまでありませんでした。

 デジタルネイティブと言われる若い層には、その層向きの伝え方があります。イノベーションでどうサプライズを作っていくか、というところが重要です。ネットって通常のものを見てもおもしろくないですよね。サムシングニュー、新しい体験をみなさんが求めていると思います。そこに対応するために、メーカーは技術とイノベーションを磨いていかなければいけないのです。

ビッグデータが無料でオープンに

――そのようなことがとくに中国市場では必要だということでしょうか。

 アリババのEコマースでは誰が何を買ったかというビッグデータが蓄積されています。しかもなんとアリババは会員に無料でオープンにしてくれるのです。さらに小売店での情報を含めたデータ分析のサービスLSTも提供しています。メーカーはそれを見て、ターゲットとコミュニケーションするプロモーションを作っていけます。

 日本ではまずビッグデータをどう作るか、どう集めるかというところから始めなければいけません。POSデータなどがメーカーには開示されていないからです。

 ところがアリババは、日本に来ている中国人がどこで何を買ったかというデータまで持っています。そう、アリペイ(QRコード/バーコードによる決済)を使っているからです。もし中国人向けのインバウンド商売を日本でやろうとすれば、中国人の消費動向を彼らからもらえます。これまでお金をかけてもリサーチできなかったところです。そうするとピンポイントでどこに何をしたらいいかが明確にわかる時代になったということです。

 中国という市場の中での情報量は無限と言っていいぐらいで、しかもほとんど無料で享受できます。これは中国が国家として支援している戦略でしょうし、メーカーとしては乗らざるを得ません。サンヨー食品グループは中国のほか、アメリカ、ベトナム、西アフリカで事業を展開していますが、ミレニアル世代がリードするデジタルトランスフォーメーションは、どの国でも大きなトレンドとなっています。

 真の消費者インサイトを深くとらえ、当社の企業理念である「良い味の創造」を、デジタルマーケティングを中核にして展開していきます。乗り遅れることはできませんから。

情報源: 最先端デジタル環境を活用したマーケティングを展開 巨大中国市場をパートナー企業とともに攻略するサンヨー食品(1/4) | JDIR powerd by JBpress

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