ポップアップショップ「樂園百貨店」に見る地域リテーラーの”グローカル”戦略 | Nativ.media | 地域からライフシフトのヒントを探る。


2018.10.28|Tags: 地方創生, ビジネスモデル, 観光業, 小売業, ブランディング, プロデュース

グローバル化が進めば進むほど、その地域にしかないモノの価値が高まる。当たり前といえば当たり前だが、さまざまな制約から実業化しづらいこの概念をかたちにしようと奮闘する地域小売が沖縄にある。百貨店「デパートリウボウ」スーパーマーケット「リウボウストア」、コンビニエンスストア「沖縄ファミリーマート」の3業態に加え、空港にも店舗を持ち、卸売専門会社を含めた12社のコングロマリット リウボウグループだ。グループを率いる糸数剛一社長に、世界と向き合う地域の売り場「樂園百貨店」の背景と戦略を伺った。

記事のポイント
・地域とのネットワークと商品開発力で、“独自性のある地域完結型のビジネス”を構築
・「リゾートハイ」こそ沖縄の地域資源
・地域小売が腹をくくり、小規模だからこそできるスピード感でチャンスを増やす

キーワードは「独自性」と「地域完結型」

この夏、那覇の一等地に建つデパートリウボウの一角に「樂園百貨店」が登場した。ナショナルブランドがテナントの大多数を占める中、「沖縄のいいモノ 日本のいいモノ 世界のいいモノ 体にいいモノ」を軸に、リウボウのバイヤーチームがセレクトした高品質・高価格の商品が並ぶ。「地域完結型」へと舵を切ったリウボウグループの未来を占う、社長肝いりのプロジェクトだ。


2018年7月リフレッシュオープンした樂園百貨店

このShop in Shopの企画を指揮した糸数剛一社長は、力を込めてこう語る。
「地域の事業者は、独自性を持った地域完結型のビジネスモデルを構築しないと生き残れません。逆に、地域における仕入れのネットワークとそれをベースにした商品開発力があれば、10倍の規模の事業者が参入してきても恐れることはない。これまでのように、県外や海外からいいものを持ってくるだけでなく、地元のいいものを見つけて磨いて外に提案することで、どこにも真似できない店になり、世界じゅうからお客さんを呼べる。その先駆けとして、この売り場をつくりました。」

仕入れ先との強固なネットワークと商品開発力で独自性のある地域完結型ビジネスを構築する。このモデルにぴったりとはまる商品に「特産離島便」がある。離島のお母さんたちが島で獲れる素材で手づくりした島の味を、おそろいの瓶詰めにしてコンビニの商品としては高単価で販売しているオリジナルのお土産商品。1つ780円〜という価格にもかかわらず、沖縄ファミリーマートで順調に売り上げを伸ばし、樂園百貨店でも一番売れている。糸数社長の見立てどおりの展開だ。

※「特産離島便」については「地元の特産品を地元の小売業者が売る戦略の功。3年目で売上1億円を突破した事業創造」もお読みください!

「今はもう、たとえコンビニエンスストアであっても、金太郎飴型の店づくりではダメ。たしかに、本部の論理では金太郎飴型の仕入れが一番利益率が高いんですよ。仕入れ先に対して、ひとつの商品を全国で1万店舗に入れますよ、だから安くしてくださいという取引ができますから。でも、消費者はもっとずっと成熟しています。もちろん、商品レベルではいつもと同じものが安心で、それを買います。でも、店を選ぶポイントはいつもと同じ商品があるかどうかじゃない。そこにしかない自分の好きなものがあるか、という視点で店を選んでいくわけですね。つまり、消費者のニーズに応えようとすると本部の論理が崩れるんです。めんどうくさいし、大きくは儲からないかもしれないけど、5%でも10%でも独自性のある品揃えをして、『ファミリーマートが好き』じゃなくて『ファミリーマートの◯◯店が好き』と言わせなきゃだめ。それができれば、隣に超ディスカウントの超巨大チェーンが来ても生き残れると、口を酸っぱくして言っています。」


糸数剛一(いとかず ごういち)氏

そのためには、独自性のある商品を持つつくり手との強固な信頼関係が欠かせない。糸数さんの大号令のもと、沖縄ファミリーマート商品部長やプロフェッショナル採用されたデパートリウボウのバイヤーチームは、つくり手ネットワーク構築を急いでいる。こうした取り組みは株式会社ファミリーマートの澤田貴司社長も高く評価し、全国のファミリーマートに先進事例として掲げられている。

地域の生産・製造者を守る責任

成熟した消費者に選ばれる独自性の高い店づくりは、リウボウだけでなく地域の一次・二次産業者の生き残りや盛り上がりにもつながる。独自性の高いモノが売れることが証明されれば、つくり手はつくり続けることができるからだ。

「東京や海外のグローバル企業は、規模の力で安価な商品を市場に投入してきますが、地域小売の役割はしかけられた価格競争に乗ることではありません。地域の生産者に別の土俵を用意することで、安心していいものをつくってもらうことです。」

その土俵がデパートリウボウの樂園百貨店であり、沖縄ファミリーマートの特産離島便の売り場だ。糸数さんは、ただ商品を仕入れるだけでなく、生産・製造事業者にも働きかけていく考えだ。

「製造そのものを僕らがするわけではないですが、『このやり方でこれだけ売れています』と示して投資を促すなど製造現場にも積極的に関わっていかないと商売ができないと思っています。例えば、タイなんかから『自分たちが食べるアジアン野菜を沖縄でつくって売ってくれないか』という商談がくるんです。物流コストがかかって高くなるじゃないかって言うんだけど、『環境汚染がひどくて自分たちの国でつくったものは信用できない。Made in Japanなら安心して食べられるから高くても売れる』と。」

そういった情報をシェアすることで製造者と販売者がタッグを組めば、地域経済を守り育てることができる。逆に、タッグが組めなければ、成長が見込めないばかりか衰退の一途を辿るのみ。糸数社長が、地域完結型のビジネスモデルを「何がなんでも成功させなきゃいけない」と意を決している背景には、強い危機感がある。

「すごくいいものをつくっているのに、『跡継ぎがいないから自分の代でやめる』と考えている事業者が日本中にいます。それは、商売の先が見えないから。大手流通の言い値で全部買われてしまってつくっても儲からなかったら、そうなりますよ。でも、いい販路があって、儲かる値段で注文がどんどんきたら、絶対ビジネスとして面白いんだから、息子さんなり娘さんなり、それ以外でも『私がやります』という人がいくらでも出てくるはず。だから僕ら地域リテーラーは『僕らならこの値段で売れます。だからつくり続けてください』と訴えていかなきゃいけない。」

狙うは「リゾートハイ」マーケット

さて、こうした独自性・地域完結型戦略が実を結ぶには、地場の商品を高価格で売る販路をつくらなければならない。

地域のいいものを誰に売るのか。出口をつくるのに欠かせないプレイヤーとして糸数さんが注目しているのが、沖縄を訪れる国内観光客や外国人旅行客。入域観光客数は右肩上がりで、2017年度に957万9900人を記録し、5年連続で過去最高を更新した。このうち、269万2000人が外国人で、そのほとんどが台湾、韓国、中国本土、香港、タイといった近隣のアジア諸国の人々だ。
日本のものに安心・安全のブランド価値を感じながら、リゾートに来た!という高揚感と潤沢なお土産需要を持つマーケットが、向こうからやってきてくれている。これを生かさない手はない、という考えだ。

糸数さんは、「リゾートハイ」と呼ぶこのマーケットこそが、生かされるべき沖縄の地域資源と位置付ける。その考えは、「樂園百貨店」の英語名「RESORT DEPARTMENT STORE」にも現れており、「リゾートハイ」を沖縄の、そして日本じゅうの良質な生産・製造者の生き残りと成長につなげるミッションを語る。同時に、自社の成長においては、世界のいいモノを沖縄に集め、日本人観光客に売るビジネスも志向している。

「樂園百貨店の売り場を移植したポップアップショップをタイなどで展開しています。まだ本格展開するにはアイテム数も供給力も足りないのでポップアップショップで様子を見ているわけですが、目的は売ることだけではない。買い付けるためにも『沖縄』『リウボウ』『樂園百貨店』の知名度を上げなければならないので、出て行っているわけです。むこうでは、『日本市場にチャレンジしたいなら、700万人ちかく日本人が来ている沖縄で商品を売ってみませんか』という話をしています。うちは百貨店・スーパー・コンビニ全部あって、本土とも業界のつながりがありますから、どこでも試せる。それで実績ができれば、うちの何十倍もの規模の大手小売が飛びついてきますよ、と。これをアジア各地で言い回っていますが、みんな食いついてきますよ。」

交易で栄えた琉球のアイデンティティ

目指すはアジアの交易のハブ。このビジョンは、沖縄県が掲げるビジョンでもあり、かつて独立国家だった琉球王国の姿に重なる。

「究極の沖縄らしさというのは、僕は『チャンプルー文化』だと思います。こんなに小さな島国が、植民地にならずに独立を保てたのは、『世界中と交易しているから、そちらのモノを買うし、よそのモノやお金を流すよ』と言って、植民地化しないほうが得だと思わせていたから。沖縄が『チャンプルー文化』なのは人がいいからじゃないし、沖縄人にとってグローバルはかっこいい言葉じゃない。実は真逆で、小国のしたたかな生存戦略です。」

速く動ける小ささ。地域の仕事の面白み

大きなビジョンを掲げてスタートした「樂園百貨店」は、まだまだ発展途上。糸数さんによれば、現在の670アイテムから最低でも3000アイテムまで持っていかなければ商売にならないと話す。そのために必要なのは、生産・製造者ファーストの考え方だという。

「つくりきれないかもしれないリスクや売れないかもしれないリスクを、生産・製造サイドではなく小売サイドが取らないといいところとは手を組めない。小売が腹をくくらないとだめなんです。」こうした考えは流通業界で徐々に広まっているものの、ビジネスの現場ではなかなか流通ファーストの慣例を変えられていない。

これを変えるのも、地域小売の役割だという。
「これだけ価値観やライフスタイルが多様化している中、出してみないと何が売れるかわかりません。特産離島便のヒットを例にとっても、初めは1000個だけ用意して、試しにファミリーマート1店舗で売ってみたところからスタートしています。それなのに、東京の大企業は、売り場に出るまでに何人も決済者がいて、『本当に売れるのか』『供給体制は十分か』と会議室で数字をこねくりまわしている。消費者は自分の欲しいものを知らないから、アンケートなんて参考にしてもしかたがないし、生産者だって売れるとわかれば変わるのに。出してみて売れないリスクをとりたくないから、そうなるんです。」

その点、自社の規模であれば小さく素早く動ける。これは、どの地域にも当てはまる地域事業の強みだろう。
「とにかくスピード!大企業の東京本社には優秀で専門性の高い人がたくさんいます。勝てるポイントは、8割のクオリティでいいからとにかくスピード感をもって動けること。売れなかったら社長である自分が責任をとるので、どんどん動いてもらいたいと言い続けています。」

(筆者コメント)
躍動感あふれるお話しぶりで、地域リテーラーの存在意義や沖縄という地域の発展性を描き出す糸数剛一社長。こうした話をあちこちでしていると、『一緒に仕事がしたい』と、国内外の実績のあるバイヤーたちから熱視線が集まるそうだ。沖縄という地域の独自性や優位性を明確に定義し、生産地としても消費地としても魅力的に発信する存在であること。地域リテーラーとしてリウボウが目指すあり方を、社長である糸数さんが先陣を切って実践していると感じた。
10月23日には、「樂園百貨店」に隣接して「樂園CAFÉ」もオープンし、モノを見つけ、選び、買う、という現在の機能に味わうという機能が加わった。高速で進化するデパートリウボウに、これからも注目していきたい。

取材・文:浅倉 彩

●株式会社リウボウインダストリー 会社概要
代表取締役 : 糸数剛一
設  立 : 2011年3月1日
所 在 地 : 〒900-8503 沖縄県那覇市久茂地1丁目1番地1号
電  話 : 098-867-1171
デパートリウボウ コーポレートサイト
樂園百貨店 公式サイト

情報源: ポップアップショップ「樂園百貨店」に見る地域リテーラーの”グローカル”戦略 | Nativ.media | 地域からライフシフトのヒントを探る。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です