欧米で回避されるBPA、代替物質も有害? | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

2015.03.03

論争の渦中にある化学物質ビスフェノールA(BPA)を使用していないプラスチック・ボトル。米国のアウトドア用品店で撮影。(PHOTOGRAPH BY DAVID MCNEW, GETTY)

 プラスチック・ボトルやレジのレシートなどに「BPAフリー」のラベルが付いているのを見たことがあるだろうか。BPAとは「ビスフェノールA」という名の化学物質のこと。女性ホルモンのひとつであるエストロゲンに似た作用を持ち、人や動物の健康にさまざまな影響を及ぼすとされているため、欧米では多くの消費者がBPAを含む製品を避けている。

 ところが先週、学術誌『Environmental Health Perspectives』に掲載された論文で、BPAの代替品として広く使用されているもうひとつの化学物質BPS(ビスフェノールS)も、生物に同様の影響を及ぼす可能性があることが報告された。「BPSは必ずしも健康問題と無縁ではありません。ほかの代替品も同様かもしれません」と、著者の一人である米シンシナティ大学医学部の薬理学准教授ホン・シェン・ワン氏は話す。

 ワン氏らが発表した研究では、BPSの暴露(化学物質に生体がさらされること)を受けた複数の雌のラットに不整脈が生じた。この結果についてワン氏は「BPAと全く同じというわけではありませんが、極めてよく似ています」と語る。

人体への影響は未知数

 今回の研究では、複数のラットから心臓を取り出し、酸素やブドウ糖などの栄養素を含む輸液でしばらく鼓動させた。そして、これらの心臓にBPSを投与し、細胞への影響を観察した。さまざまな化学物質が心臓に及ぼす影響を調べる際によく用いられる手法だ。

 ラットの心臓が暴露したBPSの量は、人がプラスチック・ボトルやレシートなどによってさらされるBPSの量に相当する可能性があると、ワン氏は話す。ただし、人への影響は未知数だ。BPAでは研究が進んでいるものの、BPSについてはほとんど何もわかっていない。

 米ミズーリ大学コロンビア校の生物学教授として化学物質の研究を行うフレデリック・フォン・サール氏は第三者の立場で、BPSはBPAと非常によく似ているため、健康への影響が似ていても不思議ではないと感想を述べる。

 フォン・サール氏によれば、BPAよりほんの少しだけ投与量を増やせば、BPSも人の乳がん細胞を活性化させることが過去の研究からわかっているという。また、ゼブラフィッシュを用いた最近の研究でも、BPSは出生前の脳の発達を妨げた。「BPSはBPAの安全な代替品であるという考えが間違っているのは明白です」とフォン・サール氏は話す。

 人と齧歯(げっし)類は心臓血管の生理機能に類似点があるため、化学物質が人の心臓に及ぼす影響を調べる研究にはラットが広く用いられる。今回、BPSを摂取して不整脈が生じたのは雌のみで、雄に変化は見られなかった。人を対象にした研究はまだ行われていない。

BPSを避ける方法は?

 Nalgene(ナルゲン)ブランドのプラスチック・ボトルをはじめ、一部の製品にはBPAだけでなく「BPSフリー」のラベルが付けられている。しかし、多くの場合、製品にBPSが含まれているかどうかを消費者が知るのは難しい。

 ある分析によれば、BPAを含まないレジ用の感熱紙の約半分が、代替品としてBPSを使っている可能性があるという。BPAとBPSの両方を含むレシートも存在する。「BPAと似た構造を持つ化学物質は調べてみた方が賢明だと思います。安全だと決め付けるのは危険です」とワン氏は警鐘を鳴らす。

文=Brian Clark Howard/訳=米井香織

情報源: 欧米で回避されるBPA、代替物質も有害? | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

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