長寿地域「ブルーゾーン」に学ぶ健康の秘訣:日経ビジネス電子版

沖縄、イカリア島、ロマリンダ、ニコヤ半島の長寿者の共通点
ラファエル・プジョール
2017年12月28日

「死ぬことを忘れた人たちの住む島」と言われるギリシャ・イカリア島。(写真:salparadis/123RF)

長寿の人々が数多く暮らす特別な場所

 読者のみなさんは「ブルーゾーン」という言葉を、聞いたことがあるだろうか。

 ブルーゾーンとは、健康で長生きの人々が数多く居住する特別な地域を指す。この地域には90代はもちろん…100歳を超える人々が多数暮らしている。さらに「スーパーセンテナリアン(110歳を超える人)」が住んでいることも。

 ブルーゾーンという言葉は、ベルギーの人口学者ミシェル・プーランとイタリア人医師ジャンニ・ペスが長寿者が多いイタリア・サルデーニャ島のバルバギア地方に、「青色マーカー」で印をつけたことに由来する。

 100年以上前の1880年から1890年に、バルバギア地方で生まれた人の中の196人中1人の割合で、100歳に到達したことが、21世紀に入ってからの人口動態調査で分かっている。

 さらに近年になって、米国人研究者ダン・ベットナー(1960年生まれ)が2004年からナショナル・ジオグラフィックとチームを組み、世界中の長寿地域の調査を始めた。そして、サルデーニャ島のほかに4つのブルーゾーンを発見した。

 それは沖縄(日本)、イカリア島(ギリシャ)、ロマリンダ(米カリフォルニア州)、ニコヤ半島(コスタリカ)である。

 これらの地域では長寿者の割合が高く、それぞれの地域で長寿者を生み出す条件がそろっている。

健康的な食生活と、「孤独」でないこと

 サルデーニャ島山間部のバルバギア地方では、今も牧畜や農業、狩猟・釣りによって食料を自給自足することが多く、よく体を動かすアクティブな生活者が多い。そして家族の絆がきわめて強い。家族主義的な生活が、生活の中でのストレスを軽減する方向に働いているとみられる。現在では、サルデーニャ島の山間部の村の住民が100歳まで生きる確率は、世界のほかの地域の数倍から10倍以上といわれる。

 沖縄も日本のほかの地域と比べ家族主義的な生活をしており、世界の中でも最も長寿の女性たちが暮らしているのはよく知られている。

沖縄の人々の長寿の要因の一つは健康的な食生活、もう一つの秘訣は家族・親類や隣人との助け合いの姿勢にあるとみられている。(写真:sepavo/123RF)

 エーゲ海に浮かぶイカリア島では、ナショナル・ジオグラフィックによれば、米国人の6倍もの豆を食べ、4分の1の砂糖しかとっていない。90歳代の人の割合が地球上で最も高い(3人に1人が90歳代まで生きる)一方で、老年性認知症の割合が最も少ないことで知られている。

 米カリフォルニア州のロマリンダはセブンスデー・アドベンチスト教会(キリスト教の一会派)が中心になってつくった街。この地域の平均寿命は、アメリカ全体よりも10歳も上回っている。たばこやアルコールを避け、菜食主義を徹底しているのに加え、週一日の「安息日」厳守の習慣もメンタルヘルスの面からプラスに働いているようだ。

 そしてコスタリカのニコヤ半島では、カボチャとトウモロコシなど野菜を多く摂る低カロリーの食事が人々の長寿につながっているとみられる。数多くの100歳以上の人々が暮らす、世界第2位の規模のコミュニティーが存在する。

長生きするための「9つの要因」

 それでは、この長寿の秘密はいったいどこにあるのだろうか。ブルーゾーンにはどんな謎が隠されているのだろう。

 米国の研究者、ダン・ベットナーをリーダーとする専門家グループ(医者、人類学者、人口学者、栄養学者、疫学者たち)はこれらブルーゾーンを訪れ、長寿の9つの要因を突き止めた(以下の囲み)。これらは食生活、生活習慣に大いにかかわっている。

① 日常生活でよく体を動かしている、そしてそれが規則的なこと。 長寿地域に住む人々は、座る時間が多い生活様式とは無縁である。

② 生き甲斐があること。毎朝起きるための目的があるということ。

③ ストレスが少ない。ストレスは老化とかかわるすべての病気と密接な関係にある。ブルーゾーンでは、生活のリズムの中にストレスを減らすための活動が組み込まれている。例えば地中海沿岸におけるシエスタ(昼寝)の習慣、セブンスデー・アドベンチスト派の人々の祈りの時間、沖縄の女性たちのお茶の時間など──である。

④ 2500年前の中国・孔子の教えに「腹八分目」という食事に対する提言がある。これは満腹を感じるまで食べるのでなくその80%までにしなさい、という意味だ。満腹感は30分ほどかかって脳に届く。腹八分目にすることで過食を防げる。

⑤ 野菜中心の食事を心がけること。肉や魚、乳製品は食べてもいいが少量に抑えること。

⑥ 適量のお酒をたしなむ程度に飲む人は、飲まない人よりも長生きするという俗説は正しい(最近、この考えに反対する意見もあるが、ブルーゾーンの高齢者には赤ワインなどを適量飲む人が多い)。

⑦ 健康的な習慣を促進するような社会的グループに参加する。

⑧ 宗教グループの活動に参加する。孤独は死につながりやすい。お互いに助け合うコミュニティで暮らすことは大切だ。

⑨ 父親、母親、兄弟姉妹、祖父母等、家族間の絆が深いこと。

さらに「2つの条件」にまとめると…

 さらに要約すると、これらの9つの長寿因子は、以下のたった2つの条件にまとめることができる。

 第一の条件は、健康的な生活スタイルを維持すること。適度にアクティブな生活を営み、日常生活でたまったストレスが発散できる何らかの息抜きを定期的にすること。野菜を中心に食べること、満腹まで食べないこと、適量のお酒を飲むこと。

 第二の条件は、今述べた健康的な生活を送るグループの一員であること。孤独でないこと。例えば家族や友達を大切にしていること。宗教コミュニティーなど、家族以外の何らかのグループに属していること。帰属したグループが、生きがいを見出せるグループであることにより、寿命が延びると考えられている。もちろん個人的な生きがいというものも存在するが、あるコミュニティーの中で同じ目標に向かって進む、という集団的な生きがいの存在は大きい。

 あなたも、このような暮らしをしていれば、充実した健康な生活を送ることができ、そして長生きできるかもしれない。人生の長さは遺伝的要素に左右される部分も20~30%程度あるといわれるが、ブルーゾーンに住む長寿者の生活が物語るように、生活習慣やライフスタイルに注意を払い、リスクの低い食生活を心がけることで最大限に寿命を伸ばすことができる。

情報源: 長寿地域「ブルーゾーン」に学ぶ健康の秘訣:日経ビジネス電子版

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です