地銀で設立が相次ぐ地域商社、成果を出せない根因とは 大野博堂の金融最前線|FinTech Journal

2019/12/17

地銀が地元の良品を生産者に代わって売り込む「地域商社」を設立する例が相次いでいる。ただし、現状では遠隔地間でのビジネスマッチングなど、従前より金融機関本体が取り組んできた機能が切り出されているに過ぎず、本来金融庁が地域商社に期待する姿にはまだまだ遠いようにも見受けられる。本稿では、地域商社に求められる姿を描きながら、地元資源の探索と付加価値創出に向けた機能具備の必要性について問うてみたい。

NTTデータ経営研究所 パートナー 金融政策コンサルティングユニット長 大野博堂

地域金融機関による設立が相次いでいる「地域商社」が成果を上げるために必要なこととは

<目次>
そもそも地域資源とは何か?
地域商社の「新たな機能」に期待する遠藤長官
地域商社で働く者の「資質」とは
地域商社の本来の姿は?

そもそも地域資源とは何か?

 筆者のコンサルティングチームでは、さまざまな自治体のふるさと納税の企画立案も支援してきた。ご承知の通り、ふるさと納税は地域資源の外部供給チャネルとしても注目されており、地元振興策の1つとなっている。ただし、どこにでもあるありふれたものを取り上げたとしても、他地域の同等物との競争環境においては必ずしも需要されないことも明らかだ。

 ある自治体のふるさと納税の企画で、地元の畜産農家が産出する牛肉のブランディングを手掛けたことがある。そこで私は自治体職員とともに肥育農家を訪れ、どのように子牛から肥育しているのか、その実態を調査することとした。

 肥育小屋は通りから離れた場所にひっそりと用意されていて、陽が落ちると辺りはひっそりと静まり返る。自動車の走行音も聞こえてこない環境だ。「車の音で牛がビックリしちゃうんですよ」とその肥育農家のオーナーである松山龍二氏はこう教えてくれた。「人と同じように」育てるため、一頭一頭名前を付け、それぞれ餌も変えているとのこと。

 「ナマのトウモロコシを与えたことがあったんですが、3日間干したもの、半ナマのもの、と好みに応じて工夫しています」と、肥育上のこだわりについて語ってくれたことが、その後に当該地域産出の牛肉を対外アピールする際の大きなインプット材料となった。

 またある自治体では、ウナギの蒲焼のブランディングにも取り組んだ。この業者は、本来は淡水で養殖するのが一般的なウナギの稚魚を、創意工夫の末、海水で養殖することに成功していた。この養鰻場は海に面しており、直接に海水をポンプで引き揚げ、紫外線を一定時間照射し、さらに滅菌処理を施した純海水を養殖場に引き入れている。

 代表者の太田幸宏氏に「大野さん、これ舐めてみて。大丈夫だから」と言われ、養鰻場からの排水口から流れ出す「廃海水」を恐る恐る口にした。臭みも色もないきれいな海水そのものであった。「場内から排出した使い終わった海水は、複数のフィルターを濾してさらに滅菌処理を施して海に戻します」とのこと。

 なるほど、海水自体にも完璧なリサイクルが成立しているのだ。「海水で育てたウナギは、癖も匂いもなく、病害にも強い」──。こうした養鰻業者からの創意工夫は、対外アピールに際してのキャッチフレーズとしても活用するなど、単なる淡水養鰻との差別化を図る明確な因子として認識することができた。

 地域資源とは、その土地に由来するほかにはない「モノ」や「良さ」であり、流通商材として注目される存在である。単に「ウチで育てた肉やウナギです」と言っても舌の肥えた都会人の興味を誘引することは難しいだろう。

 だからこそ、地域資源探索に際しては、他地域の同等物には備わっていない「何か」を見出す作業こそが重要となってくるのだ。

 前述の肥育農家が育てた牛も養鰻農家が産出したウナギも、その後、こだわりの銘品として差別化や付加価値化を図ることが可能となり、外部向けのアピールを通じ、新たな販路構築に成功している。

地域商社の「新たな機能」に期待する遠藤長官

 金融庁では2013年の段階から早くも「人口減少のため市場規模が10年で3割近く縮小する地域もある」と金融機関にデータで示したうえで、「融資の量の拡大に依存したビジネスモデルは持続可能でない」といったメッセージを発信し続けてきた。

 ところがその実、地域金融機関においては引き続き融資残高という「量の拡大」を指向し続けているのが実態で、「質」の面への転換は容易ではない。

 金融庁はここ数年、地域の企業経営者向けに金融機能の改善に向けた示唆を得ることを目的とした実態調査(アンケート調査)を実施しており、この中で興味深い回答が多数寄せられている。

 たとえば、地域企業の経営者は、金融機関を「資金面のほか、コンサルや海外展開支援などのサービス提供の面でも助けられている」と高く評価する声がある一方、「資金の貸し借りがある金融機関は交渉相手であり、相談相手にはなり得ない」といった声も寄せられるなど厳しい声も金融庁の調査などから確認できる。

 金融庁長の遠藤 俊英氏は、地銀及び第二地銀に向けた講話の中で「400人を超える地方公共団体の若手、中堅職員有志が集まる意見交換会の場」で参加した地方公務員から次のような意見が多く聞かれたと語っている。

「地域で色んな企画を考案してみても、地域金融機関の職員の方々からは、自分たちが主体的に関わっていく、といった意気込みが全然感じられない」

 遠藤長官によるこのような問題意識が提起される中、金融庁では「質」への転換を促すことを目的に、地域貢献を通じたスキームとして出資規制を思い切って緩和した。

 地域における円滑な事業承継や事業再生などに地域金融機関が貢献できるよう、5%を超える出資を容認したわけだ。そのうえで地域金融機関に地域商社の設立による地域貢献を促してきたと言える。


地域商社の例
(出典:山口県 報道発表)

地域商社で働く者の「資質」とは

 ところで、地域商社のスタッフとして地域創生に取り組もうとする職員はどのようなメンバーシップで構成されているのだろうか? おそらくだが、その多くは地域金融機関からの出向職員が中心となっているはずだ。

 従前より、金融機関本体でも同様の取組みが推進され、それでも効果の発現が見出せなかったが故にわざわざ新たなスキームを用意したにもかかわらず、そのままでは看板の付け替えにしか過ぎない可能性もある。

 もちろん、外部からコンサルタントを招聘(しょうへい)し、新たな地域資源の探索にまい進している例もあるにせよ、実効性の高い取組みへと昇華するうえでは、思い切った構造転換も必要だろう。

 すなわち、「問題意識を有している人材」を外部から招聘し、スタッフに組み込むことである。具体的には、先の事例にみられるように、地元地方公共団体からの派遣職員のほか、地域での活動で一定の貢献を示されている方や、場合によってはワークショップなどを通じて地元の学生の意見を取り入れることも有効かもしれない。

 やってはいけないのは、「声の大きい」地元高齢者の特定の意見を過度に忖度することだ。これでは従前の態勢からの転換など期待されようもないことは、前回の「商店街再生」の回でも問題意識として取り上げた。

地域商社の本来の姿とは?

 また、地域商社は決して口銭(手数料)ビジネスに特化した存在であってはならないとも考える。多くの地域商社が、「地元の特産物を遠隔地へ」といったように、まさに遠隔地間での商材のマッチングを中心に機能しているように見える。これはこれで有効な取り組みではあるものの、金融機関本体での取組みとの差別化が図れないことだろう。

 それよりも地域商社において求められるのは、「地域の特異な資源を探索」する機能だ。そのためには、「こんな珍しいものがあった!」という発掘作業もさることながら、「それはどうやって育てているのか」「どんな工夫が施されているのか」といった面にも着目し、他地域における同等物との差別化因子を見出していく地道な作業が重要となる。

 徹底的に差別化が図られている地域の商材であれば、他地域の同等物に品質やこだわりの面で有意性を確保することができ、少量であっても付加価値を与えることが可能となるはずだ。

 先に述べた畜産農家や養鰻業者の事例のように、「いかにこだわりを持って生産しているのか」に目配せすることが、地域の新たな「資源」探索に欠かせない視点であることを意識することが肝要だ。

 フィンテックブームの昨今、地元の女子高生が話題にしていることは何か、地元の生産者はどんな労苦を伴っていかなる取り組みを推進しているのか、といった面では、新しい技術の活用も有効だ。

 たとえば、地域のツイッターなどでの「つぶやき」を収集し、有意情報の収集と分析のインプット情報として活用することで、地域が目指すべき“創意工夫のタネ”を吸い上げることもできるのではないだろうか。

情報源: 地銀で設立が相次ぐ地域商社、成果を出せない根因とは 大野博堂の金融最前線(8)|FinTech Journal

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