川井潤「コロナに対応する料理人さん達へのラブレター」 | GOETHE[ゲーテ]

拝啓 料理人 様
このラブレターはコロナが広がる緊急事態宣言後の4日目、最初の週末である4月11日、土曜日に書いています。

2月24日に「これから1、2週間が急速な拡大に進むか 、収束できるかの瀬戸際」と政府専門家会議が発信してから約2ヶ月経過。実際には感染者は増え続け収拾の目処はまだついていません。昨日も東京ではこれまでの最多感染確認者数197名というニュースが流れ、しかも初めて僕の直接の知り合いが亡くなられた訃報に一昨日触れることになりました。

…三密を避けながら営業を続けるお店、テイクアウトにチカラを入れるお店、など生き残りをかけて行動していらっしゃってご苦労が絶えませんね。

…インバウンド客で賑わっていた友人の経営する「忍者レストラン」も主たるお客様であった外国人が激減、対前年売り上げ97%減と目を覆いたくなる状況でついに緊急事態宣言が出た4月7日の営業をもって新宿店を閉業、赤坂店を休業という厳しい決断を強いられる事になってしまいました。

…代官山「TACUBO」さんのように席数を制限して営業を続ける店(都の要請により13日<月>から12:00〜20:00<17:00L.O>の通し時間営業に変更)、緊急事態宣言をきっかけに2年前から予約が入っている五反田「食堂とだか」さんは断腸の思いで今月末までの休業を決めたそうです。首を長くして待っていた客へのキャンセル対応は相当大変になるでしょうね。

…その他、宣言前から自主的に休業した人気のシンガポールチキンライス店「海南鶏飯食堂」も一旦4月17日までは全店休業にしつつ、様子を見ながら休業延長という体制を取っています。近くまた会える日を楽しみにしています。

…テイクアウト・デリバリー急拡大

命を守る一丁目一番地の「Stay at Home」を遵守する中で、家にいたまま美味しいモノが食べられるテイクアウト、デリバリー、お取り寄せがここ数週間で充実してきています。

もちろん店側からすれば長時間の客との接触もないし危険性が多少は減るのでしょう。儲けにはならないようですが家賃支払いや事業維持の一助にテイクアウトがなるのであれば対応する必要もありますよね。

僕ら客側からすればテイクアウト、デリバリー、お取り寄せは好きな店の支援にもなるかもしれませんし、行ったことのなかった店の味のトライにもなります。こんな大変な時代でも貴重な楽しみをもらっています。

…外苑前のフレンチ「L’EAU(ロー)」の清水シェフはかつてお父さまと営んでいた東長崎の洋食店「レストラン セビアン」で人気メニューだったカレーを再現してテイクアウト用に仕立て上げています。以前のあのカレーファンは確実にいますので、この復活企画はちょっとたまらないと思います。

麻布十番の「ラパルタメント ディ ナオキ」はイタリアン。なのにあの湯河原で朝イチから整理券を貰わないと食べられない「らぁ麺 飯田商店」で習ったラーメンを参考にしながら毎日でも食べたくなるラーメンをオリジナルで作ったそうです。僕も実際にいただきましたが、かつての夜鳴きそばのようなシンプルで懐かしい味でチャルメラの音が聞こえてきそうです。

…同じく麻布十番の「十番右京」のお弁当は僕の印象では「オトナのディナーお弁当」。

子供の時に食べた「お子様ランチ」のオトナ版。何故なら『カニクリームコロッケ』『大山鶏の唐揚げ』『トリュフポテトサラダ』『軟骨ソーキ』『梅水晶』『いぶりがっこ』と言ったオトナ(オッさん?)が大好きなメニューのオンパレードになっています。あってほしかったお弁当かも。

そしてミシュラン一ツ星フレンチの「アルゴリズム」は予算のハードルを思いっきり下げてリーズナブルなテイクアウト(8日で6500円)のサブスクモデルを採用し始めたと聞いています。

日頃人気で予約の取れない三ツ星レストランの「神楽坂 石かわ」、「虎白」も税込1万6200円の折詰弁当を考案。

こうしたユニークメニューが生まれて来たのもこのコロナ逆境があったから。苦境でもそれをバネにする力を料理人さん達が持っていることにますますリスペクトを感じます。

デリバリー通販ではひとつ星「シンシア」は「ブイヤベース」を何パターンかで扱うそうです。石井シェフご本人がデリバリーしてくれるともおっしゃってくれましたが、それは冗談としても、こう言ってもらえるだけで気持ちが熱くなるし、逆境はかえってお互いの絆をより強くしてくれますね。

同様に通販。浅草で人気中華の「龍園」で人気の「肉まん」と「ブラウンマッシュルーム焼売」。栖原シェフが以前店の訪問後に送って来てくださったので、こんな時こそこちら側がお返しをするチャンス。縁って重要です。

その他にも広尾のイタリアン「Melograno(メログラーノ)」の後藤シェフは家に籠る人が多い中、子供と一緒に料理を作れるキットや家族で作れる食材も入ったキットを製作。このメニューも外出自粛でずっと家に家族がいるからこそ生み出された商品。退屈しのぎにもなりますし、家族の絆も強くなります。

…本当にシェフの本能にはリスペクトです。『ラパルトメント ディ ナオキ』の横江シェフが言ってました。「料理を作れれば、それだけで幸せ。それを人に食べてもらえたらもっと幸せ」。シンシア石井シェフも同様に「料理を作ってないと僕らはダメになる。マグロのようにずっと泳ぎ(料理を作り)続けられないと死んだも同然」と。料理を作ることが心底好きなステキな人たちです。

アフターコロナに向けて重要なこと

いくつかの動きは今後の光になる可能性もあります。

デリバリーが盛んになるに連れ、UberEATSや出前館などのデリバリー事業者が従業員募集やら認知度アップのCMを打ちはじめています。出稿量は数億単位と推定されます。

現状のデリバリー業者の手数料は35〜40%と言われていますが、デリバリー市場が大きくなってくると新たな参入業者も増え始めてきます。デリバリーアプリ「menu」などの参入がそうで、競争が起きて飲食業界にとっても僕らユーザーにとっても適正な手数料価格に落ちついてくれる可能性に期待ができます。

『あすチケ柏』というコロナ対策プロジェクトの試みも興味深いものがあります。柏市ではコロナの影響で落ち込む市内飲食店の売上対策に取り組み、全国を対象に柏市の飲食店支援を募っています。「食べたつもり」「飲んだつもり」で「食事券(チケット)の購入」という形を取ります。例えば5000円の食事券を購入した支援者には10%上乗せして5500円の食事券を戻す仕組みにしています。

大阪の吉村知事もデリバリー業者と組んで次のような仕組みを採用するようです。府民がキャッシュレス決済にて1000円以上のオーダーすれば500円分をポイント還元(府が半額250円を補助)する仕組み。デリバリーを利用をすすめることで人々の外出自粛を促すとともに、厳しい外食産業への支援にしたいというのが目的だそうです。

これらの事例は他の都道府県でも参考にできるかもしれませんね。

…レストラン評価サイトや予約サイト、食事の宅配ビジネス関係会社もそうです。

出前館は児童養護施設、子ども食堂、などに無料で食事提供を期間限定でしてくれていたりしてますね。ありがとうございます。さらに今回飲食店で働く従業員(アルバイト)が雇い止めにあった時に雇用のサポート=『雇用シェア』をするそうですね。このコロナ影響でデリバリーは2割ほど需要がアップしているそうですが、多くの飲食店は苦しんでいるので、飲食店の要望に応じて2割増とは言わずなるべく多くの人を雇ってあげてくださいね。

僕的にはこの際、日頃レストランでビジネスさせてもらっている会社だからこそ中心になって、基金を作り、自らも寄付の中心となって、他からも寄附金を集める仕組みを進んで作って欲しいと思います。時々、評価基準等で炎上する『 食べログ』も、ここで基金を作ったり大きな寄付をすれば名誉挽回のチャンスですぞ。もちろんそこへの協力には僕も厭いません。

さて、僕ら庶民の個人レベルでは何が出来るのか。可処分所得の中で精一杯寄付をし、テイクアウトをし、デリバリー、お取り寄せを利用する程度なのでしょうか。

こう考えると、何もテクニックのない僕らと比較して、今更ながら料理人さん達は美味しい料理で人々を幸せにする事ができる貴重な存在である事を再認識させられます。

コロナと戦うシェフ達がスゴさを発信し始めている

…この事同様に世界に注目される可能性が出てきているのが、一流人気シェフたちが最近レシピ動画や静止画をどんどんネットに上げ始めてきた事です。

東京は世界でも最も星の獲得店の多い都市。その美食の日本を支えるシェフが無報酬で自分たちの責務を果たそうとしています。

フレンチではナベノイズムの渡辺シェフが野菜スープの「キュルティ バトゥール」、sioの鳥羽シェフは家庭料理の「鳥の唐揚げ」「ナポリタン」、イタリアンでは「トラットリアケ パッキア」岡村シェフ達が惜しみなくレシピを披露してくださっている。Twitterで反応もとても良いそうです。なんの見返りもないのに。

おそらく動画の先で料理を真似して作っているお母さんや家族、子供達、その人たちが喜んでくれている笑顔くらいしか報酬にはならないでしょう。

ただ世界中で自宅に籠もっている人が多い中、これらはこの時代の救いになりそうです。日本の料理人さん達による立派な社会貢献です。

実際に家で料理をするお父さんも増えています。フェイスブックで調理したモノをアップしている人も多くなってきています。子供も一緒に料理を作っている家庭も多いそうです。ひょっとしてこれをきっかけにその子供達が未来の優秀なシェフとして育っているのかもしれません。

他方パテシエが集まって『sugar』なるプロジェクトを立ち上げています。お店も休業し、その影響から食材が余る。その余った食材に協賛食材を加えて「チョコレートバー」を作り、今回最前線でご苦労している医療従事者の方々や物流を支える運送業の方々に配るそうです。

さらには熱い料理関係者、シェフたちが(サイタブリアの石田聡社長とシンシア石井シェフが発起人になって)、感染の危機と戦う都内の新型コロナウイルス感染症患者受け入れている医療機関に美味しい料理(お弁当やらキッチンカー対応)をボランティアで提供し始めるそうですね。医療従事者をサポートしたい、自分たちの料理を食べて栄養をつけてもらいたいと言う気持ちだけで。まずは13日に聖路加国際病院にお弁当を100個支援するところから実際に動き始めるようです。

本当に頭が下がります。ありがとうございます。

…敬愛なる料理関係者のみなさま。あなた方をリスペクトするとともに、心から感謝しています。

情報源: 川井潤「コロナに対応する料理人さん達へのラブレター」 | GOETHE[ゲーテ] |男性月刊誌『GOETHE』発のWebメディア

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