アフターコロナの世界は「ミニマリスト」から「備蓄」の時代になる 各国は自国生産に回帰していくのか | PRESIDENT Online

備えることで「安心感や自由感を得る」

プレッパーについては、『“世界の終末”に備える「プレッパー」という人々を知っていますか』『“世界の終末”に備える「プレッパー」という人々を知っていますか』という記事が非常に詳しい。
こういう記述がある。

〈彼らにとっては、備えることこそが、恐怖に立ち向かい安心を得るための方法であり、自由に感じられるための方法なのだ。
これは、同じ「安心感や自由感を得る」という目的で、3.11以降の日本ではどちらかというと「モノを減らして身軽になる」という断捨離やミニマリズムの動きが強かったのに対して、やや対照的なマキシマリズムの動きだとも考えられる。〉

ミニマリズムとマキシマリズムという対置。
これはとても重要な指摘だと感じる。
コロナの時代に突入して、価値観は大きく変容していくかもしれないからだ。

余計なモノを持たないミニマリストは、昔の生活への回帰ではなく、実はきわめてテクノロジードリブンな現代的生活である。
情報通信テクノロジーが進化したからこそ何でもクラウドで済むようになり、スマホで写真も映像も音楽もコミュニケーションも楽しめるようになった。

…「必要なモノを、必要な時に、必要な量だけ」というシステム
加えて高度な物流がある。
ミニマリストには「街を自分のすまいに」という理念があり、キッチンは近所のスーパーやコンビニであり、ダイニングは常連のカフェや食堂であり、仕事部屋は街なかのコワーキングスペースと捉える。
これらが成立するのは、自分が必要になったものはいつでも近くですぐに手に入れることができるからだ。
つまり生活すべてがジャストインタイムのシステムによって成立しているのである。

ジャストインタイムは「必要なモノを、必要な時に、必要な量だけ供給する」という手法のことで、トヨタのカンバンシステムを発祥とする。
余計な部品在庫などを持たないことで、生産性は究極に高まり、生産のコストも下がる。
このジャストインタイムをさらに洗練させたのがアップルだ。
特に現CEOのティム・クックは「在庫は邪悪」という哲学で有名だ。
これは調達する部品だけでなく、iPhoneなどの完成した製品の在庫も含んでいる。2005年に最高執行責任者(COO)に就任してからは、市場の需要に対する供給量をきわめて細かく調整し、倉庫に置かれている期間を数週間から1日未満にまで縮めることに成功したという。
この結果、新製品をどんどん発売しても旧製品をほとんど抱えないで済むようにもなった。

…新型コロナで表面化した「フロー」の脆弱性

「あなたが家に停めてある固体の車は、ウーバー、リフト、ジップ、サイドカーといったサービスのおかげで、個人向けオンデマンド運輸サービスへと姿を変えている」

「われわれはいま、フロー(流れ)の時代に入っているのだ」

ジャストインタイムが完成することで、あらゆるものは個体から流体としてのサービスに姿を変え、フロー(流れ)化していく。
これが21世紀のグローバリゼーションの本質のひとつであり、情報通信テクノロジーの目指している理想だ。

ところがこの21世紀ビジョンは、新型コロナウィルスによって撃墜されつつある。

グローバルサプライチェーンは国どうしの相互依存を進め、多くの産業は自国内だけでは成り立たなくなっている。
比較優位の原則によって国際分業が進み、クリティカルな部品や完成品であっても他国から輸入するようになった。
これはコストを下げて効率を良くしたのだが、隠されていた脆弱性がパンデミックによって一気に表面化してしまったのだ。

典型的なのは、いま世界中で起きているマスク不足である。
世界の医療用マスク生産のおおむね半分近くを担っていたのは中国だ。武漢で新型コロナ感染が広がった当初、中国は国内供給分のマスクすべてを買い上げ、さらに輸入まで行った。
結果として世界的に供給が滞り、欧州で感染爆発が進む中で各国は輸出禁止や国内流通分を政府が押さえるなどの措置を取らざるを得なかった。

世界的なマスク争奪戦に

アメリカでもマスク不足が深刻になり、中国からフランスに輸出される予定だった医療用マスク数百万枚の一部が、発送直前にアメリカ向けに切り替えられる騒ぎまで起きた。
米国の業者が3倍の買い取り価格を提示したためといい、世界的なマスク争奪戦になっている。

『世界的なマスク不足に対して医療用マスクメーカーが「不眠不休によるマスクの増産」をしない理由とは?』『世界的なマスク不足に対して医療用マスクメーカーが「不眠不休によるマスクの増産」をしない理由とは?』という記事によれば、もともとアメリカでもマスクが生産されていたが、1枚10セントの国産マスクでは中国産の1枚2セントに価格で勝てず、マスクメーカーが破綻一歩手前にまで追いやられていたのだという。
記事の中でマスクメーカーの社長は「医療用マスク市場全体はマスクの価格にしか興味をもたず、誰も耳を傾けてくれませんでした」と語っている。

国際分業を善とする前提では、アメリカでのマスク国内生産は不要ということになる。
比較優位の原則で考えれば、マスクは中国や東南アジアなどの工場に任せ、アメリカは情報通信や金融、宇宙、バイオなどの先端分野に注力したほうが良い。
しかしパンデミックで国境の壁が無限にでかくなった瞬間に、グローバル経済における国際分業の意味は大きく崩れた。

「反グローバル」をコロナが後押し

コロナ禍が比較的短期間で収まっても、毀損したグローバルサプライチェーンとジャストインタイムのシステムはすぐには元に戻らないだろう。
そもそもコロナ禍がすぐには終わらず、何年も続く可能性だってある。
「ウィズコロナ」の時期が長引けば、各産業はかつてのように自国生産へと回帰していかざるを得なくなる。

国民の健康や安全が危機にさらされるのであれば、各国は他国との関係が傷つこうとも、重要なサプライについては国内にとどめようとする力が強くなるだろう。
トランプ大統領が主張していた産業の国内回帰は「反グローバルだ」と批判されていたが、図らずもその方向がコロナによって後押しされてしまうことになるのだ。

グローバル経済だけでなく、ミクロな私たちの消費生活でも、外出自粛やソーシャル・ディスタンシングによってミニマリスト的生活は困難になっている。
外食は難しくなり、買い物の回数も減らさざるを得ず、まとめ買いしておいた食料を自宅で楽しむように変わりつつある。
買い占めは論外だが、ある程度は備蓄が必要だという認識も広まってきた。
ミニマリストよりもプレッパーな生活のほうが「ウィズコロナ」時代には適合していると言わざるを得ない。

ウィズコロナが続けば続くほど、資金調達は難しくなり内部留保の少ない企業は苦境に陥る。
貯蓄の少ない家庭も明日の生計のめどが立たなくなってくる。
アメリカでは多額の現金が銀行などから引き出されているとウォール・ストリート・ジャーナルなどが報じており、「タンス預金がいちばん安全」と思う人が増えてくるかもしれない。

世界はフロー社会から遠ざかり、ストック社会へ

つまりはフロー(流れ)よりも、ストック(備蓄)の時代に回帰するのだ。
ジャストインタイムによってあらゆるものが世界中を流れ続ける世界ではなく、いろんなものを溜め込んでチビチビと使い、外部との物理的接触は避けるようになるのである。

昔も今も農家には、いろんな道具や材料が山のように置いてある。
農業という仕事はミニマリストとは対極にあり、さまざまな作業のためにさまざまな道具や素材を必要とするからだ。
言ってみればフローに頼らず、すべてをあらかじめ準備するストック型の姿勢だと言えるだろう。
この方向をさらに突き進めると、懐かしいアメリカのドラマ『大草原の小さな家』のような自給自足になる。
完全なるプレッパー的生活だ。

情報源: アフターコロナの世界は「ミニマリスト」から「備蓄」の時代になる 各国は自国生産に回帰していくのか | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

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