「今の静かな京都こそ、本来の姿ではないか」マスクも観光業も中国頼みの“グローバル経済”は崩壊した

「文藝春秋」編集部 2020/05/07 06:00

〈今回の新型ウイルスの世界的大流行は、「グローバリズムの完成形」とも言えるでしょう。
「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」が国境を越えて急速に移動するのが「グローバリズム」ですが、これに「ウイルス(感染症)」も含まれる、ということです〉

 こう語るのは、以前から「過度なグローバリズム」に警鐘を鳴らしてきた社会思想家で京都大学名誉教授の佐伯啓思氏だ。

〈人類史上、パンデミックは、中世のペスト、大航海時代の新大陸での疫病大流行、第一次世界大戦時のスペイン風邪など、何度もありましたが、今回の場合は、流行拡大のスピードがあまりに速く、世界各国がほぼ同時に同じ問題に直面しました。
こんな事態は、この20~30年間のグローバリズムがなければ、あり得なかったことです〉

中国のマスク工場 ©AFLO© 文春オンライン 中国のマスク工場 ©AFLO

“グローバル経済の脆さ”が明らかになった

 佐伯氏によれば、今回の新型ウイルスの大流行は、「グローバリズムのしっぺ返し」だという。

〈今回の新型ウイルスは、「グローバル経済がいかに脆いか」を白日の下に晒しました。
これまでグローバリズムを推し進め、妄信してきたことの“しっぺ返し”のようにです。
「ウイルス」の蔓延で、「ヒト」と「モノ」の移動がストップし、世界経済は大打撃を被りました。
すると株価も大暴落し、「カネ」の流れもストップ。
「情報」だけは回り続けていますが、むしろ瞬時に世界を駆けめぐる「情報」が、パニックを増幅させているように見えます〉

〈考えてみれば、通常の季節性インフルエンザより多少強めのウイルスの出現によって、一気にこれだけの経済的ダメージがくることの方が異常でしょう〉

〈“弱小ウイルス”の一刺しで、現代文明が、砂上の楼閣のように、呆気ないほど脆く自壊しているかのようです〉

工業製品と同じようにウイルスが輸出された

 今回、「グローバリズム」とともに顕在化したのは、「中国への過度な依存」という問題だという。

〈ここ30年来のグローバリズムにおいて、中国は、不可欠な中心的アクターでした。
米国、ヨーロッパ、日本のグローバル企業が「(独裁体制で安い労働力の)中国」を“世界の工場”として活用することで初めて、今日のような「グローバル経済」が可能になったからです。
中国から発し、日本、ヨーロッパ、そして米国に飛び火したウイルスは、今日のグローバル経済のあり方を象徴しています。
「中国産の工業製品」と同じように、「中国発のウイルス」が日米欧に“輸出”されたからです〉

〈「中国経済への過度な依存はあまりに危険だ」という議論がここで出てきてしかるべきです。
ただそれは、別に「中国が悪い」という話ではありません。
グローバル企業が手っ取り早く利益を貪るために、「中国に過度に依存する(中国を“世界の工場”として濫用する)いびつな経済構造が間違っていた」という話です〉

日本はマスクの約8割を中国に依存していた

〈中国との経済関係を強め、「一帯一路」構想の覚書まで調印したイタリアで大きな被害が出ているのは象徴的です。
(略)中国から多額援助を受けているエチオピア出身のWHO事務局長が、露骨に中国を擁護していますが、こうした方面での中国の影響力も無視できません〉

 日本も他人事ではない。

〈日本では、中国に約8割も依存していたマスクの輸出が実質的に止められて、深刻なマスク不足となり、医療現場では大変な事態になりました。
インバウンドの観光業も消費も中国頼み。
“中国への過度な依存”は大きな問題なのです〉

「静かな京都が戻ってきて良かった」

「今回の新型コロナウイルスで、世の中は大騒ぎになっていますが、いま京都の町は、観光客がいなくなって静かに落ち着いて、多くの住民はほっとしています」という佐伯氏は、次のように語る。

 祇園の組合幹部が京都であるインタビューに答えていました。

「不謹慎だと叱られることを覚悟で言いますが、静かな京都が戻ってきて、我々はこれで良かったと思っています」と。(略)

「経済効果がマイナス何兆円」というのは議論しやすいですが、数値化できるものだけを評価するのは間違いです
インバウンドも、大きな流れとしては全否定する必要はない。
ただ、あまりに急ぎすぎた。
京都も受け入れに20年くらいかけていたら問題はなかったかもしれません〉

そもそも考えてみれば、今の静かな京都こそ、我々の生活の本来の姿ではないか
新型ウイルスで「グローバリズム」がストップした現在の方がむしろ“日常=正常な世界”で、「グローバリズム」で絶えず競争圧力にさらされた生活を強いられてきた、この20~30年間の方が、実は“非常時=異常な世界”だったのではないか、とも思うのです〉

 佐伯啓思氏「 グローバリズムの『復讐』が始まった 」の全文は、「文藝春秋」5月号および「文藝春秋digital」に掲載されている。

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(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2020年5月号)

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