『田舎の力が未来をつくる!』特別寄稿【第2弾】 – 合同出版

金丸弘美(食総合プロデューサー・食環境ジャーナリスト)

 イタリアでは農業と宿泊を一体化したアグリツーリズムと呼ばれる施設が2万軒以上あります。
この活動は山間地に多くの人を惹きつけ魅了し、農村の活性化、新規の就農、移住・定住、特産品の販売、観光にもつながり、大きな地域経済の力になっているのです。

 アグリツーリズムについては、『田舎の力が未来をつくる!ヒト・カネ・コトが持続するローカルからの変革』(合同出版)で取り上げたところ大きな反響となりました。
「週刊東洋経済」でインタビュー特集が組まれたほか「日本農業新聞」」「月刊ガバナンス」「農耕と園芸」「毎日フォーラム」「地域づくり」ほか38メディアで紹介されています。

 今回は特別寄稿として、現地からの最新レポートを掲載します。

 本レポートは、「月刊社会民主」2020年4月号「金丸弘美の田舎力 地域力創造」からの記事を編集部の許可を得て転載するものです。

◆特別寄稿第1弾はこちら▶

イタリアの山村に広がる農村観光アグリツーリズム

 2020年2月22日から3月4日までイタリアの北東部のエミリア=ロマーニャ州にでかけた。
目的は、農村観光(アグリツーリズム)を学ぶセミナー。
コーディネーターは中央大学法学部工藤裕子教授で、もう10年以上前からゼミ生と、それに希望の社会人が参加する形で続けられている。
実は、このセミナーに参加をするのは4年ぶり2度目である。
メンバーは中央大学のゼミ学生のほか約20名。

 ローマから入り、バスで数時間かけて近くまで行き、小さなバスに乗り換え、さらに1時間ほどかけ、フォルリー= チュゼーナ県クゼルコリの山間地、標高210mにあるファジョリー農場に向かった。

 農場を拠点にワイナリーやチーズ工房、乗馬、農家レストラン、町などを周遊し、またパスタやパン作り体験などを連携し多くの観光客を呼ぶ仕組みになっている。

 アグリツーリズムというのは、農家に宿泊をして観光につなぐというもの。
日本ではグリーンツーリズムと呼ばれるものだ。
農家の宿泊というと、日本では、農家の家に、そのまま泊まる簡易民泊が多いがイタリアでは異なる。
宿泊施設は別で、キッチン、トイレ、ベッド、シャワーなどがそれぞれあり、快適に過ごせるようになっている。

 イタリアでは農家の宿泊であるアグリツーリズムは約2万軒ある。

 ちなみに日本では農村観光の推進が実施され地域協議会が作られており、その登録の農家民泊数は約1500軒。
簡易民泊が2000軒。
イタリアでの農家民泊がいかに多いかというのがわかる。

 日本では、国内のインバウンド観光の誘致増大を目標に掲げており、その重要な位置づけに農村観光がある。
全国に500地域に広げ、インバウンドを2020年4000万人、2030年には6000万人にするとなっている。

 イタリアのインバウンドは6156万人で世界5位。
日本は3119万人で世界11位。
日本より小さいイタリアだが観光客は日本の倍ある。
観光の多くが農村に向かっているとも言われ、農家民泊の利用は、約7割を占めると言われる。

 日本では、2004年をピークに人口が減り始め、高齢者が増え、若年人口が減っている。
農業人口は260万1000人(2011年)で、2000年の389万1000人から、129万人も減り、65歳以上が65%を占める。
耕作放棄地も増え42万3000ha(2015年)もある。
その意味で、農村観光は、地方と農村の経済を生む上での重要な政策と位置付けられている。

 イタリアと日本の比較をしてみると、イタリアは日本の国土の4分の3。
中山間地は7割。
人口は約6000万人で日本の1億2600万人の半分。

 イタリアは中山間地が多いにも関わらず農用地面積は42%もあり、日本は11%なので、4倍近くあることとなる。
実際、イタリアを旅すると、よくぞここまでいうほど山の上まで耕作されていて、丘陵地が牧草や葡萄畑になっていたりする。

 以前、トスカーナのアグリツーリズムに泊まった時に、その丘陵地の形状をそのままに牧場と畑にしているのみて感心をしていたら、その農場の持ち主が、私たちが持参した日本の農村の田んぼと畑の写真を見て驚き「どうしてこんな広々と平らな畑ができるんだ!」と驚かれれたのを思い出す。

 小さいイタリアだが農業生産額は、EUでフランスについで2位で13%を占める。
1経営の農地面積は8.4ha(2013年)。
日本は2.99haなので、農地は大きいこととなる。

 日本とイタリアの農産物の輸出入をみてみると、日本からイタリアに輸出されているのは、31(百万USドル)、イタリアから日本に輸出されているのは2.98(百万USドル)となっていて、日本の9.6倍*(*10.4倍か?)になる。
圧倒的にイタリアからの輸入が多いことがわかる。

 日本からイタリアへ輸出されているのはアイスクリームやケーキや化粧品に使われるレシチン(食品添加物=乳化剤)、真珠、植木、ソースなど。
これに対しイタリアから日本に入るのはたばこ、アルコール、チーズ、オリーブオイル、トマト加工品。
日本でもイタリア料理は当たり前になったし、食品店に行くと、ワイン、チーズなども日常的になっているのがわかる。
ワイン、チーズをはじめとする食品加工もアグリツーリズムでは密接に関わっていて体験や施設見学、お土産としても重要な位置を占めている。

農村の持続する社会を創るためにEUが支援

 私たちの泊まったファッジョリー農場は、ゆるやかな山の上にあり、道は舗装されておらず、車がやっと通るようなところを登り、たどり着く。
ファッジョリー農場のファッジョリーさんは、もとは隣村の出身。
都会でドイツ系の企業で働いていたが、会社を退職して、宿泊ができる農家を1980年代から実施し、今では地域の農村観光のモデルとなっている。

 最初の頃は、若者が出て行ってしまった農村で宿泊・観光をというのは、とても考えられないと村の人たちから思われていたそうだが、いまでは、町や州政府のみならず、EUでのモデルになっているというから驚きである。

 この取り組みはイタリアで広がり、農村地帯に多くの観光客を呼び入れ、また地域の特産品も売れ、農業に若い人を呼び込む力にもなっている。

 今回の旅は関係者の話も訊き、イタリアの農業を活かした観光と産業の仕組みを学ぶというもの。
もっとも、今回の旅、着いて間もなく、新型コロナウィルスがイタリアでも発症のニュースが流れて、視察予定だったところが、ほとんど中止・変更になるというアクシデントに見舞われた。
そのために小規模の視察や、農場内でのセミナーになるなど、内容が当初より変わってしまったのだが、それでも、さまざまな学びのある旅であった。

 実は、農家民泊のアグリツーリズムに関しては、1985年に法律ができており、農業生産にかかわる時間が全体の51%を占めることが条件となっている。
それによって農業と農村を守るということでもある。
またEUからの補助制度もあり、ファジョリー農場のあるエミリア=ロマーナ州では、事業のプロジェクトの40%の補助、島の州シチリア州、サルデーニャ州、南部の農村地帯の多いガンバーニア州、カラーブリア州、ブーリア州、バジリカータ州の6州はプロジェクトの50%の補助がある(マックス20万ユーロ)。

 またいいビジネスプランを提出した場合、それを国が形にして貸しだし、40年間かけて買い戻すという仕組みもあるとのこと。
2019年からは、女性が起業をした場合、30万ユーロが国から15年間の無利子で融資を受けられる制度も始まったとのこと。

 補助だけでは足りないので、地元の信用金庫から融資を受けることとなる。

 新しい事業を始めるには、事業計画が必要で、そのためのセミナーも開催されており、ファジョリー農場も実践の研修施設にもなっており、セミナーの試験に合格をしないとアグリツーリズムの許可がおりない。
というのも経営がうまくいってもらえないと農村の持続にも繋がらないからだ。

 イタリアのアグリツーリズムの広がりは、今では、地域と国とEUが一体となって進められている。

金丸弘美
総務省地域力創造アドバイザー/内閣官房地域活性化応援隊地域活性化伝道師/食環境ジャーナリストとして、自治体の定住、新規起業支援、就農支援、観光支援、プロモーション事業などを手掛ける。著書に『ゆらしぃ島のスローライフ』(学研)、『田舎力 ヒト・物・カネが集まる5つの法則』(NHK生活人新書)、『里山産業論 「食の戦略」が六次産業を超える』(角川新書)、『田舎の力が 未来をつくる!:ヒト・カネ・コトが持続するローカルからの変革』(合同出版)など多数。
 最新刊に『食にまつわる55の不都合な真実 』(ディスカヴァー携書)、『地域の食をブランドにする!食のテキストを作ろう〈岩波ブックレット〉』(岩波書店)がある。

ホームページ http://www.banraisya.co.jp/kanamaru/home/index.php

情報源: 『田舎の力が未来をつくる!』特別寄稿【第2弾】 – 合同出版

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