勘違いされるD2C。ネット専売は「中間マージンを省く」だけじゃない | Forbes JAPAN

2019/08/26 12:00

アパレル業界を中心に、日本でもここ1年ほどで大きな注目を集めるようになったD2C(Direct to Consumer)というビジネスモデル。
もともとはアメリカで2000年台後半に生まれた概念で、生産工程から販売までを一気通貫で行うことによって良質な商品を適正価格で届けるという仕組みに、ECやデータ活用などのテクノロジーを掛け合わせた、ブランド運営の新しい手法のひとつだ。

D2Cブランドの先駆けとも言われる2007年創業のメンズアパレル「Bonobos」が17年、Walmartによって3億1000万ドルで買収されたことからも、世界的なD2Cへの注目度がわかる。

しかし、ここ最近はEC専売ブランドであればなんでも「D2Cブランド」とうたわれるなど、言葉だけが一人歩きをしている。
透明性を打ち出すアメリカのアパレルD2C「EVERLANE」といった先行事例もあるためか、「中間マージンを省くことで、いいものをより安く販売する」という仕組みばかりに注目が集まっている。

では、D2Cという新興勢力の本質はどこにあるのだろうか。
国内ブランドに焦点をあてて、アパレルやアクセサリー、フード、ヘアケアなどの幅広いジャンルのD2Cブランドに話を聞く中で2つのキーワードが見えてきた。
ひとつは「プロダクトファースト」だ。

顧客と直接つながることのメリットは?

そもそもD2Cとは「ブランドの価値観や思想を媒介にして顧客と直接つながる」仕組みである。SNSやポップアップなどの販売タッチポイントでブランドの思いやストーリー、生産背景などを顧客に直接届けることができるし、ここで得られた顧客の声を商品企画に生かすこともできる

D2Cといえば“EC専売”のイメージもあるが、オンラインでもオフラインでも、どこに資金を投じて、どのような顧客接点を作るのかは、ブランドによって異なる。
商品開発や顧客接点として、必要であれば店舗だって構えることは多くのD2Cブランドが行っている。

アメリカでマットレスなどの寝具を販売する「Casper」は18年、自社製品を使って25ドルで45分間の仮眠をとれる「The Dreamery」という睡眠スポットをニューヨークにオープンした。
ブランドが打ち出したいメッセージは体験するのが一番早いという思想から

D2Cブランドは、こうした接点を通して消費者に訴えかけるためのストーリーを武器にしている。
実際「EVERLANE」のように、創業者が何らかの課題感を感じてブランドを始めるケースは非常に多く、このストーリーや創業背景がブランドの独自性を確立している

ストーリーよりも“プロダクトファースト”であること

しかし、重要なのはストーリーだけではない。
もっとも重要なのが「商品のクオリティー」である。
当然のことではあるが、D2Cブランドの大きな特徴は「ストーリー性」ではなく「商品力」である点が意外と見過ごされがちだ。

たとえば、大手アパレルで生産管理を経験した下田将太・代表が17年にスタートした「10YC(テンワイシー)」。

大量生産・大量消費の大手アパレルの生産工程を見て「何のために洋服を作っているのか」と疑問を感じた下田が“10年着続けたいと思える服”をコンセプトに始めたブランドだ。
メイン商材のカットソーは6000円から。

「とにかく10年着続けられるいいもの作りたい想いでスタートしたプロダクトアウト型のブランド。
売るためではなく、使うために作っているので、一番重要なことは品質でした。
共感されるストーリーがあるのは当然。
それに比例するだけの品質がなければ意味がありません」と下田は強調する。

これまでのサプライチェーンでは、大手アパレルからの大量発注こそ大きな売り上げにつながるため、洋服の生産工場からは歓迎される。
一方で、D2Cブランドのような規模の小さいブランドに対して親身になってくれる工場は多くない。
それでも下田は挑み続けた。

「小さいブランドはなかなか工場の協力を得られず、できる範囲で“それなり”のプロダクトを作ってしまいがち。
でも僕たちは、最初からいいものを作ることだけを徹底しました」。

良いものをつくろうとこだわれば原価が上がり、価格も高くなる。
誰もが買える範囲の値段で、最高にいいものを作ることが「10YC」の目指す世界
だ。

偉大なる未完成品を目指して

“引き算のチョコレート”をテーマにした「Minimal(ミニマル)」は、βace代表取締役、山下貴嗣が14年にスタートしたブランドだ。

山下自身が世界中のカカオ農園に足を運び、品質の良いカカオ豆を選んで仕入れ、自社工房で商品を作る。
そんなMinimalにも「カカオと砂糖以外使用しない“引き算”の製法によって、今まで食べたことのないチョコレートを作る」というストーリーが明確にある。

βaceのオフィスは最低限の機能を持つだけで、そこにはほとんどコストをかけていない。
その分のコストを製品開発にかけたいからだ。
山下は「私たちがやっているのはプロダクトの改良、ただそれだけです。
だから、実際に僕たちが海外へカカオを探しに行くし、保管場所や輸送コンテナにもかなりの費用をかけています。
オフィスを作るくらいなら、顧客接点としての店舗を作りたいんです
」と語る。

さらに聞くと、「普通に考えると非効率だが、誰もやっていないからこそ、続けることで品質に差が出ることはすでに分かっている」と山下。
「すでにブランドとしてある程度の認知をしていただいていますが、まだまだ現状は富士山の一合目くらい。
現状に甘んじることなく、改良を続ければ、ストーリーもついてきます」

山下いわく、目指すのは「偉大なる未完成品」だ。
チョコレートを旬とともに素材や味わいが変化していく“嗜好品”と捉えているため、つねに同じ製品が生まれるわけではない。
むしろ、少しずつ変化していく機微に消費者が気付くことで、そこにストーリーが生まれると考える。
“引き算”の製法だからこそ、そんなストーリーを生み出す余白があるのだ。

顧客との関係性によって商品をアップデートする、IT的モノづくり

D2Cの強みは顧客との接点をオンライン、オフラインにかかわらず持つことで、つねに生の声を拾って、商品開発や販売手法の参考にすること
すべての企業が消費者の声をすべて反映させているわけではないが、参考材料にしつつ、PDCAを回しブランドをアップデートし続ける。

山下は「顧客は共犯者」だと語る。
「毎週店舗でいくつものワークショップを開催しているが、ここではお客さんと一緒に新商品を作る。
実際に製品化されて、定番商品になることもあります。
そうするとお客さんは店員以上にその商品に思い入れを持ち、語り、ブランドを拡散してくれる。
消費者をプロダクトの工程に巻き込み、売り手と買い手の境界をあいまいにすることで、文化を作っていけるんです」。

レザーアイテムを扱う「objcts.io(オブジェクツアイオー)」も「顧客と共犯関係」でブランドづくりをしている。

objcts.ioは、土屋鞄製造所で商品製作やサイト・SNS運営などに携わったZOKEI代表取締役の沼田雄二朗らが立ち上げたレザーブランドで、“イノベーターのための上質なプロダクト”を掲げ製作している。
沼田はアメリカ滞在中に見たD2Cブランド市場の成長に感化され、「レザーを起点に“デジタルドリブン”の新しいブランドを作りたい」と考えた。
その後、15回ものサンプル製作を経て、17年末からメイン商材のバックパックを試験販売。
18年11月にブランドを正式スタートした。

沼田もモノづくりについて、「質の高いプロダクトを作ることが最優先」と話す。
最終的な判断は自分たちの直感ではありますが、こだわりの強い知人や顧客からのフィードバックをもとに製品開発のPDCAを回しています。
目指すべきは自分たちらしい製品を作って顧客に満足してもらうこと。
使えるテクノロジーをフル活用しながら、顧客体験価値を上げていきたいです
」。

slackなどのコミュニケーションツールを用いたヒアリングも行っているobjcts.ioだが、やはり向かう先は「より良い商品づくり」で、そのためには顧客の声を直接生産工程に反映させる必要があったというだけ。
D2Cという仕組みはむしろ、“プロダクトファースト”を目指すブランドのためのツールにすぎないのである。

文=角田貴広

情報源: 勘違いされるD2C。ネット専売は「中間マージンを省く」だけじゃない | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)

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