飯髙悠太氏に聞く「Twitter運用のコツ、生き残るメディアの条件」

Marketing Innovator #02
株式会社ホットリンク 飯髙 悠太

ティネクト株式会社の「Books&Apps」は、現在はTwitterのアドバイスしかしていませんが、以前はマネタイズや会員化などのアドバイスも行っていました。

※画像出典:Books&Apps

「Books&Apps」は、SNSからの流入が4割あるという特徴的なメディアです。
記事のタイトルはすべて編集長が考えているのですが、検索のことは全く意識していません。
編集長は読書が大好きで、漫画や書籍を読んだときに、良いと感じたフレーズをすべて「Evernote」にまとめていて、そのメモをもとに「このタイトルで記事を書こう」と思って記事を書くこともあるそうです。

「Books&Apps」のメルマガは私のアドバイスで始まったのですが、メルマガの開封率が50%を超えるときもあって(一般的な開封率は2~4%程度)、セミナー開催時もメルマガで情報を配信すればすぐに席が埋まるので、熱心なファンを数多く獲得できています。

あと、「Books&Apps」のTwitterは2年くらい前から始めていて、スタート時のフォロワーはほぼ0でした。
それが、広告配信をせずにオーガニックのみでフォロワー数7900以上になるまで増えています。
「Books&Apps」のTwitter投稿自体に反応が多いわけではなく、そこから起こる波及が大きいので、SNSで1000以上シェアされている記事が頻繁に出ています。

多くの企業やメディアが勘違いしているTwitterの運用方法

――企業やメディアのTwitterの運用方法で、飯髙さんが「もっとこうすればいいのに」と思っているところはどこでしょうか?

一般的には、公式アカウントのアクション数がKPIにされがちですが、これは間違いです。
本来、企業やメディアが見るべき数字って、「このツイートによって何人がブランドについてつぶやいたか、エンゲージしたか」なんです。

公式アカウントのアクション数だけを追っていても、友達と会話しているのと同じです。
「こんな記事を書いたよ」「いいね、それ」と友達同士でなっても、口コミは広がりませんよね。
インプレッション数が多いよりも、RTなどでツイートの内容に言及してくれる人が多いほうが、情報が波及しています。

ツイートに対する言及は、1万人のフォロワーを囲っている1人の言及よりも、100人のフォロワーを囲っている100人の言及のほうが広がります。
数は少なくても、コアなファンのフォロワーを抱えているほうがいいんです。

数の定義ではなく、質の定義です。

「言及してくれる人」というのは、ツイート数が多くて、ソーシャルグラフ、プライベートグラフ(※2)でTwitterをやっている人です。
ツイート数が多いということは、フォロワー数に関係なくツイートしていて、Twitterを楽しんでいる人たちと考えられます。
※2:私的なつながりのこと。

ツイート数が多い人たちは、RT(リツイート)をする傾向があります。
個人アカウントに限らず公式アカウントでも、このRTをしてくれる人たちを多く囲むことが重要です。
RTされると、RTしてくれた人のタイムラインに、ツイートした大元のアカウントのアイコンとツイート内容が表示されるからです。

仮に、フォロワー数が200人で5000ツイート以上の人がいたとすると、フォロワーのうち、半数くらいはリアルなつながりのある友達や知り合いの可能性が高い。
これは、例えば中学校を想定して、3年1組と3年2組があるとした場合に、1クラスが40人だったら半分の20人ずつは友だちか知り合い(フォロワー)と仮定するのと、同様の考え方です。
公式アカウントがつぶやいた情報は親しい人の間で拡散され、100人くらいには確実に拾われるでしょう。

公式アカウントに1万人のフォロワーがいるとすると、ツイートの広がりは想定で最大で1万インプレッションです。
一方、コアなファンのフォロワーが100人いる公式アカウントで、ファンにそれぞれ100人のフォロワーがいるとした場合も、インプレッション数は100×100で、想定で最大1万となります。

どちらもインプレッション数は同じですが、コアなファンのフォロワーを100人抱えているアカウントのほうが、情報が確実に拡散される可能性が高いのは容易に考えられるのではないでしょうか。

フォロワー数の多い著名人がツイートを拾ってくれると、瞬間的にRT数が増える可能性はあります。
しかし、RTしてくれる人がフォロワーに多い状態のほうが、ツイートは時間をかけて広がっていきます。

▲フォロワーの数が多いよりも、言及してくれるコアなファンのフォロワーが100人いるほうが、RTによって情報は確実に拡散される可能性が高い。

こうした状況をつくっていくのがTwitterマーケティングだと思うので、この仕組みを理解していると、すごくわかりやすいですね。

――どのような企業にSNSマーケティングは向いていますか?

SNSマーケティングを行いやすいのは、口コミがすでにあって、検索エンジンで指名検索もされている企業やサービスです。
次に行いやすいのは、口コミがないけれど、指名検索はされているところです。
そういうところは、コンテンツマーケティングを行います。
そうすると口コミが発生し、指名検索も増えていきます。

一方、口コミも指名検索もないところは、SNSマーケティングは向いていない可能性が高いです。
例えば、あえて検索したり、つぶやいたりされることがない商品。
イメージしてもらえばわかると思うのですが、コンビニに陳列されていて代替が利いてしまう商品など
がその例です。

指名検索を増やしたほうが良いのは、一般的な検索ワードだと競合も入札しているので、広告費を多く持っている企業のほうが有利だからです。
指名検索であればユーザーは自社商品を検索しているので、そこに競合は存在しませんし、CVRが高くなります。

「SNSマーケティングは効果に直結しない」とよく言われますが、効果が目に見えにくいだけであって、実は直結しているんです。

ソーシャルメディアマーケティングについて弊社が提唱している「ULSSAS(ウルサス)」という言葉があります。

▲ULSSASのイメージ図。SNSマーケティングが効果(購買)に直結していることがわかる。

U=UGC(※3)
L=Like
S=Search1(SNS)
S=Search2(Google、Yahoo!)
A=Action
S=Spread
※3:User Generated Contentsの略。ユーザーがSNSに投稿するコンテンツ(画像や動画など)や、口コミなどを指す。

初めは自社投稿や広告配信をすることによって、「いいね!」が付きます。
その後、SNS検索、Google・Yahoo!の検索と続き、購買、シェアとなってツイートが広がっていく。
このサイクルを回していくことが大事なんです。
するとUGCが始まった瞬間に、自社投稿がなくてもサイクルが勝手にグルグルと回るようになります。

また、ユーザーの投稿をRTするだけでも、ULSSASは回ります。
この仕組みをわかっているほうが、SNSマーケティングに取り組みやすくなります。

自社投稿は「良い画像を上げること」を意識することも大事ですけど「いいね!」やRTが付いて、ULSSASが生まれるものをつくったほうが良いです。
ULSSASが回ればシェアも自然と増えていくので、上記のような構造をつくるのが一番大切です。

――こうした構造は、なぜ認知されたり、実行されたりしていないのでしょうか?

TwitterをGoogle検索などのSearchと一緒に考えているから、わからないのだと思います。
ULSSASの場合、購買行動は後のほうに発生します。
しかも、発生したところで、Twitterが影響を与えているかどうかを理解できないからでしょう。

多くの企業が購買の最後に接触したポイントを評価しています。
でも、自分が物を買うときにどんな行動をしているか、考えればいいだけなんですよね。

他社のメディアコンサルに携わっているときも、ずっと「部分最適はやめてください」という話をしてきました。
Facebook広告でのCVは何件、アフィリエイトでのCVは何件というように、施策ごとに異なるターゲットを同一の指標で見ていると、口コミを経由して発生したCVや、一度サイトを離脱してコンバージョンした件数など、本当はCVに貢献しているのに見逃している項目が出てきます。

しかし、全体最適でトータルのCPAを見ていれば、何がユーザー行動に影響を与えているのか、見えてくるはずです。

メディアはどれくらいアテンションを取れるかが重要


――ここであらためてメディアのことについても一つ聞いておきたいのですが、膨大な情報があふれる現代にあって、Webメディアが埋もれないようにするには、どうすれば良いでしょうか?

埋もれないためには、狭い領域で深い内容のコンテンツをつくることと、ユーザーとの接触機会を多くすることが大切です。

私にとって良いコンテンツとは「出会った人に次の行動を促すコンテンツ」なので、そうしたコンテンツをつくっているメディアが今後も残っていくと思います。

今、Googleのようなプラットフォーマーは、Google Playなどのサービスも提供し、ユーザーの可処分時間を貪欲に取りに行っています。
可処分時間を取ることによってデータが統一され、「この映画を見た人はこれを買う」という勧め方ができるようになるでしょう。
例えば、ある記事を読んだ人が次のアクションとして特定の音楽を聴いているとしたら、態度変容が起きていることになるので、Googleは評価してくるかもしれません。

また、ユーザーとの接触機会を増やし、どれくらいアテンションを取れるかが、これからのメディアには必要となってきます。
Googleが認識しているページ数はおよそ60兆と言われていますが、情報が膨大にありすぎてユーザーは良いと思えるコンテンツになかなか出合えていないのが実情です。

これほどコンテンツがある時代でも、Webサイトから受け取る情報が関心から遠いと感じるユーザーが82%もいて、Webサイトを利用していて困った経験を持つ人のうちの62%は、何か行動を起こそうと思っても、途中で商品の購入をやめたり、情報収集を中断したりしています(※4)。
※4:「Adobe Digital Marketing Discovery消費者行動調査2016」(アドビシステムズ株式会社)より。

私はメディアに携わっていたときから、「メディアで一番重要なのは、ダイレクトユーザーを増やすこと」だと言ってきました。
指名検索してくれる人を増やせば、Googleやプラットフォームのアルゴリズムに影響されないからです。

SEO対策については否定的な意見もありますが、私自身は今もその重要性は変わっていないと思います。
重要なのはアテンションを増やすことなんです。
「ferret」でSEO対策に力を注いだのも、一般検索から指名検索にユーザーを導くためです。

ユーザーがWebマーケティングについて悩みがあって、「リスティング広告」や「A/Bテスト」といった具体的なキーワードで検索したときに、検索上位に「ferret」の記事が表示されて接触回数が増えれば、次に悩んだときは「ferret」で検索してくれるようになります。

他社と連携を深めてTwitter業界を伸ばしたい

――飯髙さんの今後の目標は何ですか?

Twitterマーケティングをスタンダードにしたいと思っています。
弊社以外にもプレイヤーはいますが、そこと敵対するのではなく、一緒にこの業界を伸ばしたいです。だって業界のスタンダードがまだないなら、皆でつくって、そこから多くの企業に貢献することが本質なわけじゃないですか。

SNSマーケティングは効果に直結しないと見られがちで、「Twitter運用は企業に合わないのでは?」と言われるようになってきています。
デジタルの歴史が20年以上ある中で、SNSはまだ10年くらいしか歴史がありません。
Twitterマーケティングの考え方がスタンダードになれば、企業はもっとTwitterを運用しやすくなるはずです。

また、Twitterが業界的に伸びれば「Twitterってすごい」となるので、コンテンツマーケティングが必要なときに、他社のメディアと手を組んでコンテンツ制作を依頼するなど、市場を広げることも可能です。

…注意したいのは、よく言われる「ユーザーファースト」という考え方です。
ユーザーがWebサイトを訪れたときに、ストレスなく動けることこそが、本当の「ユーザーファースト」じゃないですか。
しかし、Webサイトをリニューアルする際、「おしゃれにしたい、かっこよくしたい」などという意見が出ることがあります。
CHANELのような高級ブランドなら、おしゃれにする必要性がわかりますが、普通の企業がWebサイトをおしゃれにする意味はあまりないと考えています。

「ユーザーファースト」と皆さんが言っていることは、たいてい「自分たちのサイトはこうだから、こういう風に見てほしい」という「企業ファースト」な考え方です。
それよりも、訪れたユーザーがストレスなく欲しい情報に出合えて、そのコンテンツが欲しい人のためにあるほうが重要ですよね。

あと、私はペルソナを大事にしすぎないようにしますね。
Webサイトを運営する場合など設定したほうが良いケースもありますが、ペルソナを詰めれば詰めるほどパイは狭くなるので、ざっくりと引いておいて、購入者のデータを見てから引き直したっていいわけです。
ペルソナって社内の共通言語としてつくったほうが意味があって、例えばバナーをつくるときに認識が揃っていれば、上がってくるものに対して、皆が同じ目線で話せるようになりますよね。

ただ、商品によっては、購入しているのが30代女性でも、実際に勧めているのは旦那さんかもしれません。
自社の商品を今購入してくれている人だけを見るのはすごく雑な見方なので、買っている人に関与している人が誰なのかといった見方をすると、アプローチ先も変わります。

飯髙悠太(いいたか・ゆうた) @yutaiitaka
株式会社ホットリンク マーケティング本部 本部長。
広告代理店やスタートアップ企業で複数のWebサービス・メディアの立ち上げ、50社以上のコンサルティングを経験。
2014年4月、「ferret」の立ち上げに伴い株式会社ベーシックに入社後、「ferret」創刊編集長、執行役員を務め、2018年12月末に退職。2019年1月より現職となる。

情報源: 飯髙悠太氏に聞く「効果的なTwitter運用のコツと生き残るメディアの条件」

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