「肉と焼酎に特化する」都城市がふるさと納税“日本一”を実現できたわけ | xTECH

2016.02.19 PR
「焼酎の『霧島』の産地を聞いたら、9割の方が鹿児島県と答えたんですよ」。
宮崎県都城市で「ふるさと納税」を担当する総合政策部総合政策課 政策企画担当 副主幹の野見山修一氏は悔しそうにこう話す。
筆者も多少は酒をたしなみ、焼酎の霧島の名前も知っている。
ただ、大変申し訳ないが筆者も霧島が鹿児島県の酒造メーカー製だと思っていた時期がある。
「黒霧島」「白霧島」などを製造・販売する霧島酒造は、宮崎県都城市に本社と製造拠点を置く焼酎メーカーである。
帝国データバンクの調査によると、霧島酒造は焼酎メーカー売上高ランキングで2012年、13年、14年と3年連続で首位に立つ。
山に囲まれた盆地である都城市の清廉な水と、地元産の甘藷から製造される焼酎の霧島は、日本一の焼酎メーカーが作る、まごうことなき都城の特産品なのだ(写真1)。

写真1●ふるさと納税の返礼品として人気を博す宮崎県都城市産の焼酎 (出所:都城市)
「先入観を取っ払え!」。
そんなメッセージをここで発信したいわけではない。
さらに筆者は都城市とも宮崎県とも縁もゆかりもない関東の出身で、取り立ててひいきする筋合いもない。
なぜ都城市なのか。
その理由は、都城市という一地方自治体が、ふるさと納税による寄付金額・件数ランキングで日本一になったからであり、その過程でちょっとしたITの力が寄与したためである。
IT専門サイトであるITproの週末の箸休めとして、ここで紹介したい。

都城市は肉の産出額も日本一

写真2●宮崎県都城市のふるさと納税返礼品の例。
都城市は肉用牛、豚、ブロイラーの産出額日本一の自治体でもある
(出所:都城市)

ふるさと納税ポータルサイト「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンクが発表した速報値によると、宮崎県都城市は2015年にふるさと納税による寄付金額が最も多かった自治体である。
その額35億2718万円。寄付金額だけでなく、寄付件数も23万2810件に上り、こちらも首位に立つ。
こうした日本一に寄与したのが冒頭の焼酎の霧島であり、“畜産王国“でもある都城産の肉だ。
都城市は、肉用牛、豚、ブロイラーの産出額(売上高に相当)も日本一であり、これらをふるさと納税の返礼品に採用したことで、寄付金額が一気に跳ね上がった(写真2)。

ちなみにふるさと納税とは「ふるさと寄付金制度」のことで、自治体に寄付をした個人は、住民税の還付、控除が受けられる。
寄付は寄付者の出身地などに関係なく、寄付者が納税している自治体以外のどの自治体に対しても可能であり、地方と都市部の格差是正を主眼に2008年、当時の安倍政権が創設した。
その後、各自治体は寄付者に対して様々な返礼品や特典を提供するようになり、前述の「ふるさとチョイス」といったネット通販感覚で寄付ができて返礼品が選べるWebサイトが登場。
人気を博している。

選択と集中で「まずは知ってもらう」、そこがスタート

そんな都城市がふるさと納税で成功を収めた事例は、一般の企業にも十分に参考になる。
それは変化に素早く対応する体制を、自治体というややもすれば保守的な組織の中で実現した点にある。

都城市が寄付金の返礼品として、肉と焼酎を提供し始めたのは2014年10月。
現在は肉と焼酎以外の特産品も返礼品になっているが、当初は肉と焼酎に特化していた。

写真3●宮崎県都城市長の池田宜永氏。
「ふるさと納税で都城市を知ってもらう」

都城市がふるさと納税を活用し始めた当初は、寄付のお礼に特産品を送るという考えはなかったいう。
転機が訪れたのは2013年12月。都城市長の池田宜永(たかひさ)氏が掲げた方針だった(写真3)。

「都城を対外的にPRするツールとして、ふるさと納税を活用させていただくことで、都城を知ってもらえるんじゃないか。
知ってもらうという観点で作り変えようじゃないかと。
とにかく知ってもらうには何を都城のアピールポイントにするか。
都城は牛豚鶏の産出額日本一ということ、そして霧島酒造という売上高日本一の焼酎メーカーがある。
それを都城のつかみにしよう」

もちろんふるさと納税は寄付制度であり、その主旨を逸脱するようなことをしようとしたわけではない。
制度を活用する中で、「都城市をとにかく知ってもらう」ことを目的に掲げ、そのために都城市が得意とする分野に焦点を当てた「選択と集中」を、ふるさと納税で実践したのだ。

「知らない人からすると都城はどんな街かも分からない。
知らない人の1枚のプレートの上に都城の特産を10個も20個も並べても分からない。
だからプレートに載せるものは絞ろうと。
それが肉と焼酎。
都城は弓も日本一ですが(編集部注:都城市は全国の竹弓の9割を生産する)、マーケットも小さいし、広がりもない。
肉と焼酎は食なので広く対象になる。
ひいては返礼品として肉と焼酎に限定してやろうじゃないか、ということがそもそものスタート。
それを平成25年(2013年)の12月に(職員に)伝えて、そこから詰めてくれて平成26年(2014年)の10月にリニューアル、全面スタートとなった」

いざリニューアル後、ふたを開けると寄付金額は猛烈に伸びていく。
ふるさと納税を始めた当初から2013年までの年度別寄付金額の実績は毎年度平均500万円だった。
それが2014年、一気にその100倍になる5億円にもなったのだ。
さらに2015年は冒頭の通り35億円。
当初から比べると実に700倍だ。
とてつもない伸びである。
金額の一部は返礼品として寄付者に還元するため35億円全てが市の財政に残るわけではないものの、それでも十分プラスになっているという。池田市長は次のように説明する。

「返礼品はすべて地元から購入するので、35億円であれば25億円くらいは必ず地元に落ちている。
地域経済にとってもマイナスではなく、プラスだということ。そして市の財政にとってはいただいたご寄付以上に返すことはないので、絶対にプラスになる。マイナスはない」

まさに都城市にとって「ふるさと納税はいいことづくめ」。
池田市長はこれを“一石四鳥”と呼ぶ。
ひとつは市の対外的なPRになること。
実際、ふるさと納税で初めて都城市を知る人が多いという。
二つめは地場産業の活性化
都城市は地元の特産品を返礼品としているため、お金が地元に回る。
三つめは市の財政にとってプラスになること。
そして四つめが職員の意識改革だという。

少しここでITproの視点から都城市のふるさと納税を見てみたい。
寄付金額が一気に100倍以上に伸びた上に、さらに返礼品の発送など様々な手続きが発生する。
ここで疑問が出てくる。
果たして、一気に100倍にもなって適切に処理はできるのだろうか?
システムはどうしたのだろうか?
人の手当ては? ・・・。
様々な疑問が脳裏をよぎる。
ここで効いてくるのが、四つめの職員の意識改革となる。

ふるさと納税は市民サービスとは違う、市民外へのサービス

写真4●都城市総合政策部総合政策課 政策企画担当 副主幹の野見山修一氏

実際、現場で池田市長の命を受け、ふるさと納税のリニューアルに取り組んだ冒頭の総合政策部総合政策課 政策企画担当 副主幹の野見山修一氏は次のように語る(写真4)。

「市役所の職員は通常は対市民サービスをしていますが、ふるさと納税は頭を切り替えなければなりません」。
まさにこの点が池田市長が挙げる“一石四鳥”の四“鳥”目、「職員の意識改革」につながっていくところだ。
現場発の様々な“役所初”や改善が日本一へと導いていったといっても過言ではないのだ。

野見山氏は次のように続ける。
「市民に対するサービスではなくて、市外の方々にPRして寄付をしていただかなければならない。
今までのように地域に発信する回覧板だったり、誌面だったりと同じ感覚でふるさと納税に取り組んでしまうと、おそらく何もできない。
相手は都会の人ですから。
インターネットだったり、ポータルサイトだったり、情報発信に関しては、特にIT関連の力がどうしても必要になってくる」。

2014年10月のリニューアル当初、寄付者の情報や受発注などは野見山氏自ら米マイクロソフトのデータベースソフトである「Access」で開発したシステムで管理していた。
「証明書を出したり、発注をかけたりするシステムを作ったが、1カ月で『無理だ』となった」(野見山氏)。
急激に寄付者が増えた理由として野見山氏は、「10月は、これから年末に向けて寄付が増えていく時期」でタイミングが良かったこと、肉と焼酎に特化することで「『ふるさとチョイス』の中で肉と焼酎がずらーっと並んだ」ことが寄付者の注目を集めたと分析している。

出だしから好調だった都城市のふるさと納税だが、この好調を持続するには、それに耐えうるシステムや体制が必要だ。
だが、例えばハードウエアの増強といった投資はすぐには難しい。
そうした中でも寄付者はどんどん増えていく。さらに返礼品の業者数が「将来的に20社、30社になったら耐えられない」(野見山氏)といった状況に至り、自作のAccessで組んだシステムから、ほどなくクラウドサービスに移行することになる。

写真5●都城市が採用したふるさと納税管理システム「LedgHome」の利用画面

今でこそ多くの事業者がふるさと納税のシステムに参入しているが、当時はふるさと納税をターゲットにしたシステムは少なく、顧客管理などをWeb上で提供するサービスは「比較先が2社しかなかった」(野見山氏)。
さらにその中でクレジットカード決済に対応しているサービスは、大阪のベンチャー企業であるシフトプラスが開発・提供するふるさと納税管理システム「LedgHome」のみだったという。
調査の末、都城市は同システムを採用する(写真5)。
なお現在、LedgHomeはふるさと納税の寄付金額上位の自治体に多く採用されている。

写真6●庁内LANに接続するパソコンとインターネットに接続可能なパソコンの一人2台体制

実は外部のクラウドサービスを自らが使うのは都城市にとって前例がないことだった。
行政機関の庁舎内などで使用するパソコンはインターネットへの接続が厳しく制限されており、都城市も例外ではない。
庁内で使用するパソコンは庁内LANに閉じており、インターネットには接続できない。
そのため都城市でふるさと納税を扱う部署は、庁内LANに接続しているパソコンと、インターネットに接続するパソコンの一人2台体制で業務を進めている(写真6)。

ふるさと納税は人材育成、意識改革にもつながる

「インターネットに接続するパソコンを持っているのは市役所内でうちだけ。
そういうところも広げていった」と野見山氏は語る。
ふるさと納税を始めた当初は、「インターネットに接続できるパソコンは1台。
(ふるさと納税を)始める前はインターネットを活用することなどなかったので、私が片手間でやっていたような状況だった。
ふるさと納税(にかける人的負荷)は0.1人分もなかった」。

だが、2014年10月のリニューアルではさすがにサポートが必要になり、臨時職員を一人雇用。
臨時職員と野見山氏の二人三脚で準備を進めた。
だが、始まったらあっという間に人手が足りなくなったという。
「2~3日でそうなった」。
2016年1月時点では、職員は2人、任期付き職員が4人。
さらに臨時職員11人、パート14人の体制になっている。
「市役所としての雇用も増えたし、業者さんも雇用が増えました。
正社員を雇ったところもありますし、パートの方を5人雇用した、といったところもある。
地元への波及効果はすごいですね」。

人を増やすのはそう簡単ではないが、都城市の場合、返礼品は全て都城の特産品で、地元のものだけに力をいれている。
地元に還元し、地場産業の活性化という効果があるため、「人を増やすのは大変だったが、説明はしやすかった」と野見山氏は語る。

ふるさと納税はネットからの申し込みが99%超と圧倒的で、残りが手紙やファクシミリだという。
そうだとすれば職員を含めて31人の体制は多すぎると捉えられるかもしれないが、実は電話の問い合わせが非常に多いという。
まず、ふるさと納税の制度そのものへの問い合わせが月に数百件。
そしてネット申込みが99%で手紙やファクシミリが1%だとしても、多いときは寄付の申し込みが1カ月で5万件に上る。
1%でも500件だ。そうした対応がある上に、さらに「特産品がいつ届くのか」「申し込み後に特産品を変えたい」といった問い合わせ、さらにはクレームの電話も来るといい、「電話は鳴りっぱなし」(野見山氏)だ。

写真7●現場の作業改善のためヘッドセットを導入し、「10の負荷を9に下げる」

そんな状況を少しでも改善しようと導入したのが、パソコンではなく電話機に接続するヘッドセットだ。
国内のコールセンターなどで導入されている長塚電話工業所製のヘッドセットを導入し、話が長くなる場合は通常の受話器からヘッドセットに切り替えたり、話を聞きながらキーボードを打つといった際に活用している(写真7)。
「劇的に事務量が変わったということはないが、これまで10だった仕事の負荷が9になって少し余裕ができた」と野辺山氏はその効果を語る。

こうしたちょっとした改善を現場で積み重ねながら達成したのが、ふるさと納税“日本一”だ。
好調だからかもしれないが、実際に訪れたふるさと納税を扱う職場は非常に明るい。
そしてその雰囲気は庁内全体にも広がっているようで、とても活気が感じられる。池田市長はふるさと納税についてこんな風に語る。

「お客様への対応や品質管理といったことは、役所の中にいてはなかなか体験できない。
ふるさと納税で『お客様』という意識が役所のなかで高まった。
それが最終的に市民サービスの向上につながればいいと思います。
職員の意識改革は当初効果として想定していなかった。
そこがいちばん嬉しいところですかね。
ふるさと納税は、税収が減っている都会の自治体には申し訳ないですけど、私としては人材育成、意識改革にもつながってありがたい」

いまやあらゆるサービスにおいてITは欠かせないが、単に導入すればいいというわけではない。
そこにはITを利用する側が、これまでとは違うということを感じ、それを実践する意識改革、人材育成が不可欠だ。
都城市のふるさと納税は、そんな基本的なことをあらためて感じさせてくれる事例だった。

情報源: 「肉と焼酎に特化する」、都城市がふるさと納税“日本一”を実現できたわけ | 日経クロステック(xTECH)

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