過去最高の活況「ふるさと納税」新たな課題 | toyokeizai

2021/01/04 7:00

各自治体は厳しい競争にさらされる中、返礼品に創意工夫を凝らす(記者撮影)

ふるさと納税が空前の活況を呈している。

ポータルサイト最大手の「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンクによると、直近までの利用状況から、2020年度のふるさと納税全体の金額は6000億円を突破する見込みという。
過去最高だった2018年度の5127億円を大幅に上回る勢いだ。

要因は新型コロナウイルスの感染拡大だ。
人々が外出を控え、自宅で過ごす時間が増えたことがプラスに作用した。
ふるさと納税はオンライン上で寄付を申し込むことができる。
返礼品は自宅に送られてくることもあり、インターネット通販と同じ感覚で使う人も多い。

ポータルサイト大手「さとふる」の青木大介COOは「コロナ前から雨の日は利用が増える傾向にあった」と話す。
在宅時間が増えたユーザーの利用により、さとふるでは4月の寄付額が前年同月比で約80%伸びたという。

返礼品のお得感が増した

コロナ禍による変化もあった。
同じ寄付額に対して、より多くの返礼品がもらえる事例が相次いだのだ。
たとえば1㎏の牛肉が返礼品としてもらえる場合、これまで2万円の寄付が必要だったものが、1万円の寄付でもらえるという具合だ。

ふるさと納税の返礼品については2019年6月に法律が施行され「寄付額に対する返礼品の割合は3割以下」などと定められている。
その制約下でこうした変化が起きたのには、農林水産省が生産者の経営維持のため、返礼品調達費の半額を補助していることが大きい。

加えて、コロナ禍による飲食店需要の低迷により、肉類や水産物などの市場価格が低下したことも返礼品の調達額を低下させた。
調達費が安く済んだことで、寄付額の3割以内でより多量の返礼品を用意できたというわけだ。
ポータルサイトが「生産者支援」を前面に打ち出したことも功を奏し、ふるさと納税の利用が大きく伸びた。

コロナ対策を掲げる自治体への寄付の実入りが多くなることを意図して、「返礼品なし」の寄付も増加した。
ふるさとチョイスでは3~10月の間に、前年同期比で「返礼品なし」の件数が約2倍になったという。

寄付金の使い道に関しても、「医療・福祉への支援」を選ぶ寄付者が増えた。
ふるさとチョイスの場合、2019年は医療関連は6番目程度だったが、2020年は最多となっているもようだ。

自治体に入るのは寄付額の半分

都市部の自治体が財源流出に苦しむ一方で、その流出金額が地方の自治体にそのまま入るかというと、そうではない。

2019年の法改正により、自治体がふるさと納税の募集にかけられる経費は寄付金額の5割までと定められた。
しかし裏を返せば、現在でも寄付金額の半分程度しか寄付先の自治体には入らないことになる。

経費の多くを占めるのは返礼品だ。
各自治体は地元の産業を支援する目的も兼ねて返礼品を設けている。
この返礼品のほかに大きなウェイトを占める経費が、ポータルサイトへの手数料といういびつな構造になっている。

最大手のふるさとチョイスは手数料率を一律5%と開示しているが、ほかの大手事業者は非開示でブラックボックス。大手の「ふるなび」については、「オプションをつけると20%近い手数料率になる」(ある関係者)とも言われている。

ふるなびの広報担当者は「広告記事の出稿や配送代行の対価としていただいている」と説明する。
ただ、運営企業のアイモバイルの業績のうち「ふるなび」を含むコンシューマ事業は、営業利益率が約3割と高水準だ。

本来は自治体に入るはずの住民税が、高率の手数料に形を変えていると言わざるをえない。
手数料率が非公開のため顧客側の自治体が比較しづらく、健全な競争が起きていないのも問題だ。

ふるなびは元横綱力士の貴乃花を起用したテレビCMなど、年間10億円規模の広告費をかけているが、東京のテレビ局に多額のCM放映費用を流すことが地方自治体のためになっているとは言いがたい。
ソフトバンク系の「さとふる」も同様に、芸人の東京03を起用したテレビCMに多額の費用を支出している。

寄付金額もポイント還元の対象

最近勢力を伸ばしている「楽天ふるさと納税」は、ポイント還元に多額の費用をかけている。
基本的に寄付した金額の1%分の「楽天スーパーポイント」が付与され、さらに楽天のほかのサービスの利用状況などに応じてポイント還元率が上がる。
こちらも、現金に近い形で多くのポイントを還元することが、地方自治体のためになっているとは言いがたい。

集客に多額の費用を投じるポータルサイトは手数料率が高くなるが、法律で「経費は寄付金額の5割まで」の上限が設けられている。
自治体側としては手数料が増えると、返礼品を減らすか寄付金額を引き上げるしかない

そのひずみは金額に表れている。
12月23日の同時刻に「楽天ふるさと納税」と「ふるさとチョイス」を比較してみると、北海道白糠町の返礼品「いくら醤油漬(鮭卵)500g(250g×2)」をもらうために、楽天では1万5000円の寄付が必要で、ふるさとチョイスの1万4000円と比べると1000円高い
ユーザー側も冷静にサイトを比較する必要がありそうだ。

ふるさとチョイス運営企業の親会社であるチェンジの福留大士社長は、「儲けすぎというのは心外な批判。
地域を活性化するための投資の原資をいただいている、というくらいに思っている」と語る。
同サイトはテレビCMを打たないこともあり、運営会社の利益率は4~5割と高水準だ。
稼いだ利益をどのように地方の投資に回すのか、注視する必要があるだろう。

地方自治体のふるさと納税担当者は、寄付の受け入れを増やすために創意工夫を続けている。
彼らの努力のかいあり、返礼品は地域事業者の活性化につながっている。
ふるさと納税を持続可能な制度にしていくためには、さらなる見直しは必須だろう。

情報源: 過去最高の活況「ふるさと納税」の新たな課題 | 政策 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

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