「クリエーター経済」12兆円 YouTube、Twitterが照準|nikkei.com

2021年11月22日[有料会員限定]

米インターネット企業が動画や音楽といったコンテンツの制作者を囲い込もうとしのぎを削っている。
デジタル基盤を利用して個人がコンテンツを収益化する「クリエーターエコノミー」が広がっているためだ。
12兆円の新市場の攻略法をユーチューブのロバート・キンセル最高事業責任者とツイッターのネッド・シーガル最高財務責任者(CFO)に聞いた。

ユーチューブ・キンセル最高事業責任者「仮想通貨で『投げ銭』検討」

――クリエーターの取り込みに向けた競争が激化しています。

「2021年7~9月期にユーチューブは広告で約72億ドル(約8200億円)の売上高をあげ、過半をクリエーターに還元した。
こうした収益分配の制度が他社との最大の違いだ。
クリエーターは収入の予見可能性が高まり、人を雇ったり機材を購入したりできるようになる。
他社が期間限定で収益の一部を配るのとは異なる」

――動画では中国発のTikTok(ティックトック)が若年層を取り込み急成長しました。

「ユーチューブの月間利用者は世界で20億人に達し、幅広い世代が使っている。
時間の経過とともに利用者が高齢化するSNS(交流サイト)とは違う。
昨年始めた(ティックトックのように短い動画を投稿できる)『ユーチューブ・ショート』の利用者には若者が多いが、対応する動画の形式を増やすことが主目的だった」

――広告以外の収益化の手段についてはどう考えていますか。

「ユーチューブは広告のほか、サブスクリプション(継続課金)サービスの収益分配、有料チャンネル会員などクリエーターに幅広い収益化の手段を提供している。
日本では収益の過半を広告以外の手段が占めるチャンネルが1年で60%増えるなど、アジア・太平洋地域は多様な収益化手段の利用でほかの地域に先行している」

「長期的に大きな可能性があるとみているのは物販で、大きな投資を続けていく考えだ。
現在は一定の条件を満たすクリエーターが自らに関連する商品を販売できるようにしているが、将来は他者の商品も売ることができるようになるだろう。
今月は初めて数日にわたりライブショッピングの動画を流し、取り組みを強化していく」

――他社は暗号資産(仮想通貨)を使ってクリエーターに「投げ銭」を贈れるサービスなども始めています。

「当社は始めていないが、当然、検討している。
(外国のファンから投げ銭を受け取りやすくするなどして)抵抗が減るのはクリエーターにとっていいことだ。
ユーチューブにとって広告の収益が大きいのは確かだが、一連の取り組みが成功すれば依存度は下がる。
収益源の多様化は当社のためになるだけでなく、クリエーターにとっても好ましいことだ」

ツイッター・シーガルCFO「サブスク、価格帯増やす」

――音声コンテンツやニューズレターの有料配信サービスに乗り出すなどクリエーターの支援に力を入れています。

「06年からクリエーターはファンを増やすためにツイッターを使ってきたが、これまでは当社のサービスを通じて収益を確保することはできなかった。
これはクリエーター、ファンの双方にとって便利な状況ではないと考えている。
ただ、当社は収益化支援を事業としてみるのではなく、収益の可能な限り多くの部分をクリエーターに渡そうと考えている」

――収益はどのように確保しますか。

「利用者が増えることにより、広告や有料サービスで収益を拡大しやすくなる。
23年までに年間売上高を(20年実績の約2倍に当たる)75億ドルに増やす計画を公表したが、非常に大きな役割を果たすのが(米グーグルが強い)検索連動型と中国市場を除いても年間1500億ドルの市場規模があるネット広告だ」

「米アップルがプライバシー規制を強化したことにより、(ネット広告の競合他社と)競争条件が同じになったと考えている。
アップルのスマートフォンからの情報が利用しづらくなるなか、当社は(利用者に関連しそうなキーワードを推薦して選べるようにする)『トピック』の提供を増やしており、一人ひとりに合わせた広告の配信にも役立つ」

――米国では9日に月額2.99ドルの有料サービス「ツイッター・ブルー」の提供を始めました。

「当面は広告が当社の収益の大半を占める状況が続く一方、サブスクリプションにも大きな機会があると考えている。
ツイッターを日々利用する2億人の利用者に価値を認めてもらえる機能の検討を進め、パートナーのコンテンツを広告なしで閲覧できるサービスなどを加えた。
パートナーはファン拡大に加えて、新たに収益の還元も受けられるようになる」

「サブスクではさらに当社やパートナーから提供する機能を増やし、別の価格帯でサービスを提供することも考えている。
また、対象地域も広げ、世界各地の利用者が使えるようにしたい。
当社にとって日本は非常に大きく重要な市場であり、そうした地域で多くの機能を提供する機会を楽しみにしている」

世界で拡大、5000万人規模
米ベンチャーキャピタル(VC)のシグナルファイアによると、日本の「ユーチューバー」などデジタル基盤を活用し、個人でコンテンツを配信して収益化している人たちは世界で5000万人にのぼる。
米インフルエンサー・マーケティング・ファクトリーは21年に関連市場が1042億ドル(約12兆円)規模になると試算している。

背景には技術と消費者の意識の変化がある。
スマホなどの普及によりコンテンツの制作や配信が容易になり、クリエーターの増加につながった。
米タイムワーナー(現ワーナーメディア)のダグ・シャピロ元上級副社長は米国では過去60年にわたり連邦政府への信認が下がり、中央集権的な組織への信頼低下がクリエーターの支持拡大につながったとみる。

さらにネット各社による収益化の手段を広げる動きも市場を拡大している。
インフルエンサー・マーケティング・ファクトリーが8月に米国で実施した調査によると、今後1年間にクリエーターが提供するコンテンツのサブスクリプションのために毎月1~15ドルを払うつもりがあると回答した人の割合は58%に達した。

ただ、成長が続くかには不透明な面もある。
課題の一つは、クリエーターエコノミーの拡大を逆風とみている旧来型のコンテンツ企業などへの対応だ。
反発が強まれば必要以上に規制が強まり、利便性が低下するといった結果を招きかねない。

ユーチューブのキンセル氏は「かつてはレコード会社などと対立した」と説明する一方、同社などの成長によりコンテンツの価値が高まり関係が改善したという。
デジタル基盤を提供する企業は自らの役割を正しく伝えるほか、クリエーターに適正な対価を支払うことが持続的な成長の条件となる。

(シリコンバレー=奥平和行)

情報源: 「クリエーター経済」12兆円 YouTubeやTwitterが照準: 日本経済新聞

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