大丸松坂屋「高級アパレルサブスク」8カ月待ち|ITmedia

2022年03月25日 08時30分 公開 [熊谷紗希,ITmedia]

…大丸松坂屋百貨店が2021年3月に「Maison Margiela(メゾン マルジェラ)」「See By Chloe(シーバイクロエ)」などの高級ブランド服を1カ月に最大3着レンタルできるサブスクリプションサービス「AnotherADdress(アナザーアドレス)」を発表した。


大丸松坂屋百貨店は2021年3月に「AnotherADdress」を発表した(画像:大丸松坂屋百貨店提供)

ブランドの取扱数は113で、用意している服は約1万5000着
海外のラグジュアリーブランドから国内ブランドまで幅広く取り扱うほか、届いた服が好みでなかった場合の交換やサイズ変更などにも対応する。
服の修繕費や送料込みで月額1万1880円に設定した。

初年度の有料会員目標は1000人。
それをベースに仕入計画を立てていたものの、サービス発表から3日で登録者数は約3500人に上った。
当時、用意できたのは50ブランド3000着のみ。
4月1日のサービス提供開始に向けて「既に在庫が足りない」状況だった。

22年2月時点で登録者数は7000人を突破。
服の在庫が足りないため、サービスを利用できる有料会員の案内ができず、現在、サービス利用開始まで1カ月待たなくてはいけないという。
ピーク時は最大8カ月待ちで、21年3月に登録しても案内できるのが11月だった。



サービス内で貸し出している服。
REDValentinoのチュール付ミリタリーデザインワンピース(上)、Lauren Ralph Laurenのサイドプリントフレアスカート(画像:大丸松坂屋百貨店提供)

1万円超えのサブスクは決して安いとはいえない。
8カ月も待たされたらさすがに有料会員になってくれないのでは?
と心配になるが、初回登録から有料会員への登録率は40%ほどをキープしているという。
退会率も月平均0.75人と低い水準だ。

初年度の目標達成率700%という驚異的な数字をたたき出したわけだが、実はアナザーアドレスは「一度は頓挫したビジネス」だった。

そこには、百貨店事業とレンタル事業の相性の悪さを懸念する経営層の意見や、大企業ならでは組織課題があったという。

経営層からのNGにどう立ち向かう?

アナザーアドレスの事業責任者を務める田端 竜也氏は入社後、店舗研修期間をへてホールディングスの事業開発部に一貫して所属し、オムニチャネルの構築やアプリの立ち上げなどを担当してきた。

6年前、経営層の「百貨店ビジネスの限界」という課題意識から、オープンイノベーションを推進する部署が誕生。
田端氏も立ち上げ期から関わった。
その後、国内スタートアップとの協業や、米IT業界の象徴であるシリコンバレーへの派遣など、現地で最前線のビジネスの情報収集や出資を通じた連携を模索していた。

米国と日本を行き来する中、5年ほど前にシリコンバレーで「LE TOTE(ル・トート)」(同社は20年に新型コロナウイルスの影響で連邦破産法第11条の適用を申請)などのファッションサブスクの成長を目にする。
日本でも「シェアリングエコノミー」「サブスクリプション」などのワードやサービスが広がり始めたタイミングだったという。


全国の百貨店の売り上げは90年代をピークに近年は減少傾向(出所:経済産業省 商務・サービスグループ「第1回百貨店研究会」資料)

百貨店というビジネスモデルに対する危機感と日本でもサブスクビジネスの機運が高まっていることを受け、経営層に「ファッションサブスク」を提案。
しかし、結果は失敗に終わった。

今まで”売る”ことをビジネスにしてきた百貨店が、”貸す”ビジネスを始めたら、カニバリゼーションが起こるのではないか?」という懸念が寄せられたのだ。
小売業とサブスクは相反するビジネスという考えに押しつぶされる結果となった。

百貨店から新規事業が生まれにくい理由について田端氏は、当時を振り返って3つの課題を挙げる。

「一つ目はテーマの粒度の荒さです。
『新規事業を立ち上げろ』『リテールテックだ!フィンテックだ!』と言われましたが、一言でリテールテックといっても幅が広いです。
経営層が何を目指すのか、そこの目線合わせが不十分だと感じました。

二つ目は企画と実行が分離している点です。
私はずっと新規事業を担当しているのですが、戦略設計~立ち上げのサポートという企画部分がメイン。
つまり、実行部隊は別でした。
新しいビジネスを進めていくにあたって、衝突やトラブルは日常茶飯事。
そのビジネスに対する思いが強くないと、現場で熱量を持って取り組むのはなかなか難しい
と思います。

三点目は意思決定の遅さです。
新規事業は経営企画がオーナーとなって進めますが、物流担当や仕入れ担当などさまざまな部署から関係者が集まります。
参加者は決定権を持っていないことも多く、一度部署に持ち帰ってから意見交換という流れが一般的です。
時間もかかるし、エッジの効いた意見も通りにくくなります。
当社の新規事業は8~9割のエネルギーをそこに費やしてしまっていました。
大きな課題だと感じています」

これらの課題を踏まえ、社内ベンチャー型で新規事業立ち上げを進めることになった。
しかし、アナザーアドレス立ち上げの課題はほかにもあった。

ブランドの「YES」を引き出せるか

社内ベンチャー型で事業計画を立てる中、経営層から「みんなが”一度は着てみたい!”と思っているブランドの出品が決まらないと新規事業として許可できない」と告げられた。

「みんなが着てみたいと思うような憧れのブランドであればあるほど、ブランド力の維持を大事にしますよね。
しかし、直感的に”買う”と”借りる”は相反するワードに聞こえてしまいます。
その感覚を取っ払ってもらえるかがカギでした」(田端氏)

そこで田端氏は、サービスへの出品はブランドの購買層ではなく潜在層への訴求につながっていて、将来的にブランドのファンを作る活動だと説明。
また、当時は高級アパレルブランド、バーバリーの大量廃棄問題により、アパレル業界がサステナブル消費に対する対応を求められ始めたタイミングでもあった。

環境省が21年に発表した調査によると、現在、ゴミとして廃棄されている洋服の量は年間約48万トンに上る。
これは、大型トラック約130台分を毎日焼却・埋め立てしている計算だ。


可燃・不燃ごみに出される服の総量は年間約48万トンに上る(出所:環境省「サステナブルファッション」)

「百貨店は大規模小売業としてモノを大量に生産し、消費するというサイクルを通じて成長してきました。
現在はその体制が大きな社会問題になっている。
アパレルと百貨店が手を組むことで、その構造を少しでも変えることができるのではないかとアピールしました」(田端氏)

ブランド側の経営層が感じていた「アパレル市場の縮小」や「サステナブルな経営」を支えるサービスとして納得してもらうことに成功
サービス展開時には50のブランドが出品者として顔をそろえた。



服だけでなく、バッグなども貸し出す。MARNIのナイロントレジャーミニバッグ(上)、TOMORROWLAND collectionのボタニカルプリントブラウス(画像:大丸松坂屋百貨店提供)

サービスを伸ばせたワケは?

コロナ禍で、オシャレ着が必要になるような外出の機会は減少したものの、田端氏は「手の届く価格でファッションを楽しみたいという根本的なニーズは大きい」と推測していた。
コロナ禍でファッションに対するダメージはあったものの、「かわいくありたい」「きれいでありたい」という思いはなくならない
その欲求に訴求できたことが、サービスの支持につながったと分析する。

アナザーアドレスは26年の目標として、売り上げ50億~60億円、有料会員数3万人、在庫20万着を掲げている。
また、今後はリアル店舗展開やサービス内で収集したデータを百貨店の店舗設計に反映させていく計画も動いているという。
低迷を続ける百貨店事業を支える事業に成長できるか、この5年が勝負どころとなる。


百貨店事業を支える事業に成長できるか ※写真は大丸心斎橋店(画像:大丸松坂屋百貨店提供)

情報源: 百貨店が始めた「高級アパレルサブスク」 1万円超えなのに、申し込みが想定の7倍も殺到したワケ:ピーク時は8カ月待ち(1/3 ページ) – ITmedia ビジネスオンライン

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