ゴーストキッチン、何が問題か?|business.nikkei.com

2021.7.13 日経ビジネス 編集部

ゴーストキッチンといっても幽霊がでるいわくつきのレストランではない。
デリバリー顧客をターゲットにした新たな飲食店の形である。
なぜここまで一気に広まったのか、その人気と裏側、そして本レストランの成り立ちや問題点について解説する。

(写真:PIXTA)

座席のないレストラン

ゴーストキッチンは、米国発祥のビジネススタイルだ。
現地ではクラウドキッチンやバーチャルレストランなど呼び方は様々。
ニューヨークをはじめとする都市部の賃料は非常に高く、キッチンと座席の両方を備えるための設備投資以上に維持費がかさんでしまう。

ゴーストキッチンの店舗は、調理をするキッチン部分のみあればよい
デリバリーや持ち帰りをする顧客のみをターゲットにしたモデルで、現在マーケット規模が拡大中だ。

米国ではUber EatsやDoor Dashなどの人気向上に合わせて多くのゴーストキッチンが生まれた。
また、家で料理を作るのではなく、配達需要が多いという下地があったことや参入障壁が低いことから、多くの業者が参入。
コロナによる店内飲食の冷え込みに、反比例するように伸びているホットなジャンルと言えるだろう。

なぜゴーストキッチンが台頭しているのか

ゴーストキッチンがビジネス的に優れているポイントは3点ある。

1つ目は、「調理のみに特化」していること。
そのため、設備としてはキッチンさえあれば開業可能だ。
接客や人の呼び込みなどの宣伝は不要。
デリバリーサービスに登録するだけ
で今なら自然と顧客がやってくる。
雰囲気のよい家具や店内BGMも、小じゃれたユニホームも、おしゃれな什器(じゅうき)も不要。
初期投資も低く、キッチンと食材、あと料理人がいればビジネスが成り立つ。

2つ目は、「地代が安くできる」ということ。
通常飲食店は、駅近くや人が集まる場所に集中する。
接触機会が増えれば来店客が増えるため一等地は奪い合いだ。
逆に、人が集まらない場所は地代が安くなる。
ゴーストキッチンは、このコストが大幅に削減可能。
たとえ住宅地であったとしても、配達員が都度料理を受け取りに来てくれるため売り上げはさほど変わらない。

雑居ビルの居抜き物件や、普通レストランが展開できない場所にこそゴーストキッチンの導入に活路がある。

(写真:PIXTA)

3つ目は、「1つの店舗で複数ジャンルのレストランが展開可能」という点だ。
配達型の店舗はすしそばピザなどの分野で昔から存在した。
しかし、ゴーストキッチンが特殊なのは、1つのキッチンで複数の店舗を運営しているレストランが多いことだろう。
左のコンロではイタリアンを、右のコンロでは中国料理を同時に作る。
一般のファミレスや食堂であれば和洋中の料理を隣同士のコンロで調理することもあるだろう。
だが、そういった店舗はあくまで店頭やメニューをみれば多くの商品を取り扱うレストランだとわかる。

専門店という看板を出している店では普通は見られない調理法だ。
中には、1つの調理場で20店舗分のゴーストキッチンを運営している場合もある。
注文者は店舗に出向くことがないため、この現状を知られることはない。
たとえシェフが5分前にカレーをつくっていても、手元に届くのはオーダーした和食だけだ。

そのゴーストキッチンは専門店ではありません

コロナ禍によって、家で食事をする需要は極端に増加した。
そのため、今後もゴーストキッチンは増加するだろう。
ただ、顕在化している問題として専門店でないのに専門店のフリをして営業するゴーストキッチンが多い
もう少し厳しい表現をすれば、おいしそうな画像だけ用意し、実際は説明がないままに冷凍食品を温めただけのものが届くことがある、ということだ。
そういった店は「○○の専門店」や「■■料理のアワード獲得」など聞こえのよいコピーが並び立てており、そうした手法をとらない正直者のゴーストキッチンだけが損をする展開となっている

顧客は、その店に価格に見合う味試行錯誤してきた歴史専門店としてのプライドというものを求めている。
一方、ゴーストキッチンはいかに効率的に、複数ジャンルの調理を行い配達アプリ上で接触機会を増やすかという点に終始している。

その背景には、ゴーストキッチンの設営支援や、商品を解凍するだけでゴーストキッチンが始められるスターターキットの販売を商売としている業種も存在することが大きい。
金の延べ棒ではなく、つるはしを売るといったところだろうか。
必ずしも調理した料理が、解凍した味を上回るとは限らない。
だが、専門店の看板を掲げながら、実態は効率的に商品を温める専門家にすぎないというのはいささか残念な気持ちになるはずだ。

デリバリーアプリ側も料理の評価や通報機能などを備えている。
ただ、食べログやRettyなどで評価が確認できるのは、一部の店舗に限られている。
大多数のゴーストキッチンはページを作成されていないこともあり、ユーザー側が初回に購入する際にはギャンブルに近い状態だ。
きれいな商品画像だけを見て、お店の調理状況や片手間調理のゴーストキッチンかどうかを見抜くことができない。
しかも低評価が増えてしまったら、店舗の名前とロゴを変えて新規オープンすればいいだけのことだ。

もちろんすべてのゴーストキッチンが怪しい商売というわけではない。
現在の外食の冷え込み状況で、生存戦略としてゴーストキッチン化を進める飲食店も増加中だ。
このビジネスはデリバリーアプリへ完全依存しているため、今後外食需要が復活したときや、デリバリーアプリ側の手数料増加の際に大打撃を受けるリスクもあるだろう。

ビジネスモデルとしては、革新的とも呼べるゴーストキッチン。
外食需要が低いうちに、どこまで定着するのか注視していきたい。(執筆=宇佐美フィオナ)

情報源: 話題のゴーストキッチンは何が問題か? 冷凍食品を温めた料理も:日経ビジネス電子版

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