「ぞっとした」にぞっとした話 @HYamaguchi

最初に目にしたときから、何か違和感があった

福島第一原発の事故に関する民間事故調(正式には「東京電力福島第一原発事故に関する独立検証委員会」というらしい)の報告書が公表されたとするニュースについての話だ
たとえばこれ

菅首相が介入、原発事故の混乱拡大…民間事故調」(読売新聞2012年2月28日)
東京電力福島第一原発事故に関する独立検証委員会(民間事故調、委員長=北沢宏一・前科学技術振興機構理事長)は27日、菅前首相ら政府首脳による現場への介入が、無用の混乱と危険の拡大を招いた可能性があるとする報告書を公表した

報告書によると、同原発が津波で電源を喪失したとの連絡を受けた官邸は昨年3月11日夜、まず電源車四十数台を手配したが、菅前首相は到着状況などを自ら管理し、秘書官が「警察にやらせますから」と述べても、取り合わなかった

バッテリーが必要と判明した際も、自ら携帯電話で担当者に連絡し、「必要なバッテリーの大きさは?縦横何メートル?」と問うた
その場に同席した1人はヒアリングで「首相がそんな細かいことを聞くのは、国としてどうなのかとゾッとした」と証言したという

違和感を感じたのは、この「ゾッとした」というくだり
変だ変だと思っていたら、その理由がやっとわかったので、できるだけ手短に

上記記事の論調は、事故対応において菅首相(当時)の過剰な介入に問題があった、というもので、それ自体には違和感はない
実際、当時からちょっとやりすぎだとは思っていたので、それが実際に事故対応の阻害要因になったという評価だというなら納得がいく

違和感があったのは、「首相がそんな細かいことを聞くのは、国としてどうなのかとゾッとした」という証言だ
「首相がそんな細かいことを聞くのは国としてどうなのか」という疑問と、「ゾッとした」という感想とがどうもいまいち結びつかない
百歩譲って結びつくとするなら、何かが抜けている
たとえば「首相がいちいちこんな細かいことをやっているのではこの緊急事態において首相が下すべき重要な判断が遅れてしまい最悪の事態が起きてしまうかもしれない」みたいな話が間に入るならわかる
が、それがない

記事書いた人は違和感なかったんだろうかと思っていたら、その「ぞっとした」ご本人である内閣審議官の下村健一氏ツイッターで発言の真意を明かしておられた

    下村健一氏の「民間事故調」報告書に関する呟き

    「民間事故調」報告書の内容に対して、当時臨時審議官だった下村氏が「ちょっと角度がちがうのではないか」ということで呟いてます
    紹介のためのまとめなので、コメントは禁止にします

    by karitoshi2011

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    • ken1shimomura

      学習会「議論はどのようにゆがめられたか報道と専門家の発言を読む」by影浦峡・東大院教授(「3・11後の放射能『安全』報道を読み解く」著者)/今夕18:45~於「スペースたんぽぽ」地図…http://t.co/wJJu8dqo★影浦さんから昨日頂いたメール⇒[続く]
    • ken1shimomura

      続き◆今夜の講師の影浦さん曰く:「聴きに来るのが、脱原発・反原発で活動する人たちばっかりだと意味がないなあと心配しています
      それよりも、『今色々メディアで言われていることは何か変だ』、『どうすればよいのか』と感じている人に来て欲しい」…このスタンス、すごく共鳴!
    • ken1shimomura

      民間事故調が一昨日公表した、原発事故の検証報告書を巡る報道…ツマミ喰いは各メディアの自由だけど、《正しく認識せねば、正しい再発防止策は導けない》という意味では、この全体イメージの歪み方は本当にマズい
      同事故調に全面協力した者の1人として、明日以降、順次ここでコメントしたい
    • ken1shimomura

      【原発・民間事故調報告書/1】400頁以上の大部、日々少しずつ精読中
      3章「官邸の対応」、4章「リスクコミュニケーション」、付属資料「最悪シナリオ」の部分を中心に、コメントしていきたい
      目的はただ一つ、微力ながらも《本当に有効な再発防止策》に近づく為
      立ち会った者の責任
    • ken1shimomura

      【民間事故調/2】まず、大きく報道された、《電源喪失した原発にバッテリーを緊急搬送した際の総理の行動》の件
      必要なバッテリーのサイズや重さまで一国の総理が自ら電話で問うている様子に、「国としてどうなのかとぞっとした」と証言した“同席者”とは、私
      但し、意味が違って報じられている
    • ken1shimomura

      【民間事故調/3】私は、そんな事まで自分でする菅直人に対し「ぞっとした」のではない
      そんな事まで一国の総理がやらざるを得ないほど、この事態下に地蔵のように動かない居合わせた技術系トップ達の有様に、「国としてどうなのかとぞっとした」のが真相
      総理を取り替えれば済む話、では全く無い
    • ken1shimomura

      【民間事故調/4】実際、「これどうなってるの」と総理から何か質問されても、全く明確に答えられず目を逸らす首脳陣
      「判らないなら調べて」と指示されても、「はい…」と返事するだけで部下に電話もせず固まったまま、という光景を何度も見た
      これが日本の原子力のトップ達の姿か、と戦慄した
    • ken1shimomura

      【民間事故調/5】それが、3・11当日の総理執務室の現実
      確かに、こういう張り詰めた時の菅さんの口調は、慣れていない者を委縮させる
      それは30年前の初対面の頃から感じていた問題
      しかし、「だって怖かったんだもん…」という幼稚園のような言い訳が、国家の危機の最中に通用していいのか?
    • ken1shimomura

      【民間事故調/6】この部分、他の証言も総合して、報告書はこうまとめている
      「菅首相の強い自己主張は、危機対応において物事を決断し実行するための効果という正の面、関係者を委縮させるなど心理的抑制効果という負の面の両方の影響があった
      」この評価、私も同感
      《以下明日以降》
    • Content from Twitter

    つまり下村氏は、「そんな事まで自分でする菅直人に対し「ぞっとした」のではない
    そんな事まで一国の総理がやらざるを得ないほど、この事態下に地蔵のように動かない居合わせた技術系トップ達の有様に、「国としてどうなのかとぞっとした」のが真相」「実際、「これどうなってるの」と総理から何か質問されても、全く明確に答えられず目を逸らす首脳陣
    「判らないなら調べて」と指示されても、「はい…」と返事するだけで部下に電話もせず固まったまま、という光景を何度も見た
    これが日本の原子力のトップ達の姿か、と戦慄した」というわけだ

    これならわかる
    誰だってぞっとするだろう
    一番の当事者が、事態への対応を何ら打ち出すことすらできずにいたわけだ
    このとき東電が福島第一原発から「全員退避」する方針だったかどうかについて、東電側には異論があるらしいが、仮に東電の言い分が正しくて、本当は全員退避という話ではなかったとしても、緊急事態を前に固まったままのこういう人たちを見ていたら、本当に全員退避するつもりなのかも、と疑ってしまったかもしれない

    というわけで疑問は解けたわけだが、まだ気になるところはある
    この「ぞっとした」発言、上記の読売新聞の他、朝日新聞(「菅首相らの原発対応「泥縄的な危機管理」民間事故調」2012年2月29日)でも報じられているが、毎日新聞(「民間事故調:福島第1原発官邸初動対応が混乱の要因」2012年2月27日)や東京新聞(「福島第一対応「場当たり的」民間事故調が報告書」2012年2月28日)は、ネットで見た限りでは報じていないようだ
    見比べていただくとわかると思うが(見出しだけ見てもわかる)、「ぞっとした」発言を報じている読売と朝日は菅首相(当時)の責任をより強調しているのに対し、毎日や東京では東電や原子力安全委などいわゆる「原子力ムラ」の人々のだめっぷりがまず強調されていて、それに加えて「官邸」(首相ではなく)の対応にも問題があったという位置づけになっている

    この4つのメディアの4つの記事を見比べただけなので確たることはもちろんいえないからあくまで印象論だが、どうもこの「ぞっとした」発言は、菅元首相の責任を強調するためのネタとして使われたということなのではないか
    客観的な報道のふりをして、主観的な評価をすりこもうとしているようにしか思えない
    で、そのためなら違和感の残る文章をそのまま書いても平気、「ぞっとした」発言の裏付け取材などすっとばしてしまっても平気という乱暴さも兼ね備えているわけで、こうなると別の意味でぞっとせざるを得ない
    ぼーっとしてるとこんなふうに誘導されてしまうのだ
    私は菅元首相の当時の行動については批判的な見方(というか、そもそも就任時から首相として適任者ではないと思っていた)をしている方だと思うが、それでもこういう露骨な誘導記事っぽいものには不快感を感じる
    ステマどころの話ではない
    はるかに悪質だと思う

    こういうことがわかるのも、インターネットとソーシャルメディアの発達によって「当事者」が直接情報発信できる時代になったことが大きいと改めて思う
    マスメディアの皆さんには受難の時代かとは思うが、こういう時代だからこそ、「プロ」の「ジャーナリスト」ならではの仕事を見せていただきたい
    願わくば、大衆を誘導するのではなくエンパワーする方向でぜひ

    H-Yamaguchi.net: 「ぞっとした」にぞっとした話

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