★プリヴェ企業再生グループ/Hazuki Company・松村謙三会長(宮川浩和撮影)
「小さすぎて見えなあい!!」。世界のケン・ワタナベが怒鳴るCMとともに存在感が大きくなっているのが、メガネ型拡大鏡の「ハズキルーペ」だ。製品の企画・開発からCM制作まで陣頭指揮を執る経営者は、積極的なM&A(企業の合併・買収)で株式市場を騒がせたことでも知られる。これまでほとんど語られなかったハズキルーペ誕生秘話や世界戦略、新規株式公開(IPO)シナリオなどをクッキリと明らかにした。 (中田達也)--ハズキルーペはどう生まれたのですか
「タカラトミーさんから買収した企業が20年以上手がけていたルーペがありました。デザインもフレームもいいとはいえないものでしたが、あるテレビ番組内の通販CMでベテラン俳優を起用して紹介したところ、大きく売り上げが伸びたんです。視聴者が知っている人のメッセージは心に刺さるんですね。いけると確信しました」
--それで新たにルーペの開発を
「レンズ設計もフレームも変えて化けさせました。製造業は金型(かながた)が命なので、買収していた神田通信工業のエンジニアを中心に自社工場で製造ラインを新設しました。生産の自動化も進み、1万個作って不良品は1個の水準です。中国などのコピー商品はレンズがゆがむなど安かろう悪かろうで、比べものになりません」
--インパクトが強烈なCMが話題です
「クリエーティブディレクターは私です。それまでも口を出していましたが、渡辺謙さんのCMについては最初から私が携わりました。77歳の石坂浩二さんから68歳の舘ひろしさん、58歳の謙さんと40歳の菊川怜さんと、CM出演者の世代をどんどん下げていることもあり、40代の夫婦が買いに来ていただくなど需要が広がっています。秋からは大物若手女優や人気の男性俳優を起用して有名なテレビドラマを舞台にした前例のないCMを予定しています」
--広告は売り上げに反映しますか
「宣伝広告費や媒体費などで100億円以上かけていますが、2月の平昌(ピョンチャン)冬季五輪で中継番組のスポンサーを務めた後、店舗での売り上げがバーンと跳ね上がりました。取り扱い店舗も急増し、全国約3万3000店舗で売り場を展開しています。コストは徹底的に意識しますが、かけるところにはお金をかける。クリエーティブなところはケチってはだめだと思います」
--売れ行きは
「月に数十万個の規模で売れています。神田通信工業が製造に携わった高齢者向け携帯電話は年間850万台売れましたが、ハズキルーペはこれを超える可能性があると思いますよ」
--市場も広がっているそうですね
「マーケティングを含めてこのビジネスの全ての根幹を独創的に考えているのが私です。謙さんをCMに起用してから父の日のハズキルーペの売り上げが母の日を超えました。メガネ業界にギフト市場を作ったと自負しています。自宅用や会社用、車で使うなど何個あってもいいし、度数や色のバリエーションもあります。機能はもちろんファッションや話題性もあります」
--幅広い世代が対象に
「子供まで全世代で使えます。前身のルーペから30年の歴史があって、眼科医にも推奨していただいているぐらいですから目に問題はありません。若い人でもスマホなどの小さい文字を長時間見ると、目の筋肉が硬直して早く老眼になるし目も悪くなります」
--海外展開も
「日本で絶対的なブランディングを確立するのが先ですが、世界の老眼人口が増え始めているので巨大市場になる可能性があります」
--ライバルも出てきますか
「アイスキャンディーの世界で(赤城乳業の)ガリガリ君が勝ち残っているように、大手が入ってきてもクオリティーとブランド力があるから勝てると思います。ガンガンお金を使っているのでいつかはダメになると思っている人には、うちが実質的に日本最大のチェーン店であることをお忘れでないですか、と言いたいですね」
--目指すところは
「将来的にIPOを考えていますが、それがゴールではありません。上場してしばらくしたらファンドを作ってまた企業買収を始めます。事業家としてではなく、企業買収家として最後に名を残したいと考えています」
【CM秘話】あのCMが誕生するまでに、多くのハードルがあったという。「スポンサーの金を使って自分の好きなように作ろうというクリエイターに腹が立って。渡辺謙さんから『怒り』をテーマにするという提案をいただいていたのに、出てきた案では無視されていた。タレントのプロモーションビデオではなく、スポンサーが商品を売るためのCMでなくてはおかしいので、『今日から俺がやる』と、実際に手を動かしたり頭を使って考えるスタッフを集めました」
【書き直し】「それでも、できあがってきたものはやはりイメージCMに近かった。しようがないので夜の9時半から朝の4時半まで自分でせりふを書き直しました。俳優が商品名を言うから心に刺さるんです。全てのリスクは俺が取るからと、菊川怜さんの衣装も全て私が指定しました。抵抗勢力があちこちにいましたが、総監督、監督、プロデューサーをすべてやり、できあがったのは完全に私の作品です」
【間一髪】数々の企業買収や株式取得を重ねてきたが、「山あり谷でした」。「最大のピンチが2006年のライブドア・ショックと村上ファンド事件でした。当時は外資系証券が僕のためにニューヨークで投資家を集めたカンファレンスを開いていて、2兆円ぐらいの金を集めてある有名企業を買収しようと考えていました。ところがライブドア捜索のニュースが入った翌日から潮が引くように投資家がいなくなりました。日本に連絡して『株を全て売ってくれ』と。売るのが遅れていたらいまの私はなかったと思います」と振り返る。
「間一髪人生で、いまも薄氷を踏む思いです。快進撃のように見えるかもしれませんが、相当慎重にやっているんです」
【美術】絵画の愛好家で絹谷幸二、奥谷博、藤田嗣治作品のコレクターとして知られる。
「父が建築家だったので家にたくさん絵画があり、子供のころから好きでした。絵画は見る時間や気持ちで見え方が全然違います。家に飾っている絵も朝と夜では全然違って見えます」と話す。
「コレクションは700~800枚あります。日本の存命の作家のほかジャクソン・ポロックなども好きで、世界的な名画も買いたいなと思います」
【映画】好きな映画はスティーブン・スピルバーグ監督の『カラーパープル』『シンドラーのリスト』など。フランシス・コッポラ監督の『地獄の黙示録』は「映画館で100回ぐらい見ました」。
【健康法】「テニスとゴルフ。ゴルフをやるのはプライベートで。ストレス発散のためパターはやらず、グリーンに乗せて終わりです」
【会社メモ】本社・東京。松村謙三氏が1997年プリヴェチューリッヒ証券を創業。プリヴェチューリッヒ企業再生グループを設立し、神田通信工業や静岡日産自動車販売、三河日産自動車販売などを買収。阪急電鉄や京成電鉄、複数の中堅証券会社、帝国ホテルなどの株式も取得する。2009年プリヴェ企業再生グループに社名変更。12年に上場廃止し、松村氏と資産管理会社のオーナー企業となった。売上高は非公開。グループ従業員数1440人。Hazuki Companyはハズキルーペを手がける子会社。
■松村謙三(まつむら・けんぞう) 1958年12月生まれ、59歳。大阪府出身。成蹊大法学部卒業後、外資系証券を経てプリヴェチューリッヒ企業再生グループ(現プリヴェ企業再生グループ)設立、これまでに52社の企業買収を手がける。大阪大大学院法学研究科客員教授と、大阪大知的財産センター客員教授を務める。
情報源: 【トップ直撃】ハズキルーペのすべてを明かします プリヴェ企業再生グループ/Hazuki Company・松村謙三会長 – zakzak