【社説】吉本興業騒動 税金を使う資格あるのか|社説|徳島新聞

7/28 5:00
 吉本興業は、かつてのような浪速の芸能プロダクションではない。人気タレントを前面に、社会への影響力や政治との結びつきを強めている。

 今回の騒動で、ベテランたちが語る家族的な吉本像は、恐らく現状を言い当てていない。吉本を率いる大崎洋会長の手腕によって「芸人」の社会的地位は高まり、会社も「エンタメ界の総合商社」に急成長した。

 しかし、記者会見した岡本昭彦社長の言動で垣間見えたのは、芸能事務所による強固なタレント支配だ。テレビ局との接点を芸能事務所が一手に握っている現状からすれば、有力事務所を離れて自分の足で立てる者は、ほんの一握りだろう。

 タレントはそもそも社員ではなく、事務所と対等な関係を結べる「個人事業主」の立場にある。「(会見したら)全員首」と言われ、「全員、何も言えなくなりました」と宮迫博之氏は語っている。

 命綱を切られるような心境になること自体、「対等な関係」であるはずがない。社長会見を機に若手から噴き出た待遇や契約への不満は、「芸人なら、売れてから言え」と突き放せる問題ではない。

 新事業を次々展開する外向きの顔と、芸人たちに見せる内向きの顔。その落差がマグマとなって、今回の騒動を引き起こしている。

 契約書を交わさず、口頭だけでテレビなどに出演させるやり方は真っ先に改善すべきだ。公正取引委員会の山田昭典事務総長は「契約内容が不明確なことで、(独禁法が禁じる)優越的地位の乱用などを誘発する原因になり得る」との見解を示した。謝罪会見を申し出たタレントに対する社長の対応は、「優越的地位の乱用」そのものではないか。

 吉本のように強い影響力を持つ企業なら、「反社会的勢力から金銭を受け取った」という事実は、迷いなく公表すべき問題だ。強圧的な脅し文句を「ファミリーだから」「冗談のつもり」と抗弁するに至っては、大企業の経営者としての資質を疑う。

 吉本興業は、政府や自治体とタイアップし、さまざまな事業を展開している。

 安倍晋三首相が4月、大阪でのG20を前に、吉本新喜劇の舞台に登場したのは記憶に新しい。その翌日、吉本は「遊びと学び」をうたい文句に教育通信分野へ本格進出すると発表。官民ファンド「クールジャパン機構」から最大100億円の出資を受けると明らかにした。

 官公庁との提携は経産省、内閣府、法務省、国交省、消費者庁、観光庁など幅広く、政府全体とも言える。大崎会長は沖縄の米軍基地跡地利用問題でも、政府から有識者懇談会の委員に指名されている。

 政官を「相方」に事業展開を目指しているのなら、今回の騒動を芸能事務所の内輪もめ、と笑ってはいられない。このような内実の企業に多額の税金を投入していいのだろうか。

情報源: 【社説】吉本興業騒動 税金を使う資格あるのか|社説|徳島新聞

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です