久米島の風景写真
日本国内には多数の有人離島がありますが、その多くで著しい人口減少が見られ、深刻な社会問題となっています。そうした離島のひとつが、沖縄にある久米島です。久米島には、世界第2位の取水量を誇る海洋深層水や豊かな農産物・海産物に恵まれながらも、年々島外への人口流出が進み、現在は人口が8,000人弱にまで減少。このまま島の人口が減り続けると、学校や病院など公共サービスの維持が困難になってしまい、生活にさまざまな支障が出てくる可能性が出てきました。
そこで第2次久米島町総合計画では、2025年の目標人口8,500人の回復を目指し、様々な施策が検討されています。そうした中、NECは久米島の人々とともに「久米島町まちづくり共創プロジェクト」を開始。デザイナーとして当初からプロジェクトに加わり、島に暮らす人々の課題の発見に努めながら、将来の島を支えていく高校生に向けた人材育成、ICTを活用した新事業の創出など、持続可能なまちづくりモデルを創出するためのさまざまな取り組みを推進しています。
このプロジェクトを国内外の離島や地域に展開することができれば、現地の抱える課題の解決や、新たなビジネスチャンスの創出につなげられると、わたしたちは考えています。
島の人々に話をきく
久米島が抱える社会課題を見つけるために、わたしたちが注力したのが、現地の観察と、島の人々へのインタビューです。できるだけ多くの方とお会いするために、インタビューさせていただいた方から、関係者や友人を紹介してもらうという、口コミのネットワークに加えて、島のほとんどの人が聞いているという、「FMくめじま」にも出演させていただきました。
NEC社員が「FMくめじま」へ出演
こうした、島の人々の協力のおかげで、島内20箇所以上を訪問して、様々な業種の人々にインタビューすることができました。
久米島商工会を訪れて、 嘉手苅一(かてかる はじめ)会長にインタビューした時には、まちづくりには終わりはなく、継続性が必要というお話をいただき、島単独ではできない事業への共創活動を要請いただきました。
久米島商工会会長 嘉手苅一さん
本土の就労経験を経て久米島に戻り、養鶏業を継いだ山城昌泉(やましろ しょうせん)さんは、島で活躍する若手起業家のひとり。島で農業に取り組むうちに、島の外とどうつながって、どのように農作物を売っていくかという問題意識をお持ちでした。この中で、久米島の提供する農産物が、ICTにより、より多くのお客様に届けられるのではないかという期待をお聞かせいただけました。
養鶏家の山城昌泉さん島の人々と”つどう”
久米島町は、島の外の人達に対して、観光だけでなく、テレワークといった遠隔地就労を通じて、島のファンになってもらいたいという想いから、伝統的な古民家を改造して「仲原家」などのコワーキングスペースを作りました。
ここで、島に移住した人々をはじめ、久米島町への移住(Uターン、Iターン)や、定住を推進する久米島町 企画財政課「久米島 島ぐらしコンシェルジュ」の方々に集まってもらい、ワークショップを実施。
NEC本社会議室と、支店など、多拠点をネットワークでむすび、定住促進や働き方改革をテーマに意見交換を行いました。
コワーキングスペース「仲原家」にて、島の方々とNEC社員がTV会議を実施島の人々に”つたえる”
人口の減少化は、教育にも影響が及びはじめ、子供たちにとって、学科選択の選択肢が狭まるだけでなく、島の基幹産業である農業の担い手が、将来不足する事が懸念されました。
この問題に対処するため、行政や教育委員会、町商工会、地域住民有志などによる「久米島高校の魅力化と発展を考える会」が発足。NECはこのメンバーと連携して、久米島高校で体験型授業を実施しました。
この取り組みにあたり、NECが島の若い世代に伝えたい事、体験してもらいたい事を検討しました。そのひとつとして、島にいると体験することが少ないAIや顔認証技術。VRなどの最先端技術に触れてもらい、生徒さんに島の未来について考えてもらう授業を実施しました。
また、ユニバーサルデザイン(※)の授業では、専門のゴーグルや重りを付けて高齢者の不便さを体験してもらうインスタントシニアの体験授業を行いました。
この授業の後で、生徒さんから「おじいちゃん、おばあちゃんの気持ちがわかった」という感想をいただき、島のお年寄りの気持ちに寄添う大切さを伝える事ができました。
(※使う人の年齢や性別・能力にかかわらず、誰もが安全・安心に使うことができる製品やサービス作りを目指すデザイン)
デザイナーが久米島高校で実施した体験型授業の様子「島の夢をつむぐ」ビジョンを描く
このような現場の観察やインタビューを通じて得られた多くの知見や気づきは、付箋に書き留めて記録していきました。
インタビュー内容を書き出した資料の一部。さらに人々や産業が、島の中でどのようにつながっているかを共有するために、久米島町のマインドマップを作成して俯瞰することで、島のビジョンを考える資料になりました。
観察やインタビューで得た“気づき”を元に作成したマインドマップデザイナーが中心となって行ったこうした活動は、久米島町が第2次総合計画として掲げていた将来像「夢つむぐ島 -島人みんなで織り上げる未来-」の方針のもと、「夢つむぐ島」というスローガンに続く言葉として、「つたえる」「つながる」「つどう」「つづける」「つくる」という、「つ」からはじまる5つのキーワードに結実。 これが久米島町に受け入れられて、2018年1月にNECと久米島町が包括連携協定(※)を締結し、これら5つのキーワードが、協定文の一部として採用されました。
(※正式名称は、「久米島町と日本電気株式会社との共創を通じたまちづくりを目指す包括連携協定書」)資料写真
「夢つむぐ島」の5つのキーワードコンセプト・施策を表現した図島のビジョンを外へ”つたえる”
久米島とNECの共創活動を紹介するにあたり、島の人々の想いをカタチにした「夢つむぐ島」のビジョンを、島の美しい自然や産業を通じて内外にアピールをするビデオを作成。撮影は久米島の人々の協力を得ながら、地域のさまざまな産業に携わる方々にも登場いただきました。
【沖縄県久米島町 町長 大田治雄(おおた はるお) 様】
「将来的には東京に居ようが久米島に居ようが、仕事としては、こちらでも十分成り立つと思うんですよ この時代ですから」
「思うに、そういう(ICTに長けた)人材を育成しながら、ICTを駆使して事業をできるような」【養鶏家 山城昌泉(やましろ しょうせん) 様】
「久米島自体が弱いのは、正にこういうITのところだと思うので」【株式会社 ポイントピュール 大道真悟(おおみち しんご) 様】
「水耕栽培もありますし、農業の温度管理を人工知能を使ってやったりとか」【島ぐらしコンシェルジュ 石坂達(いしざか とおる) 様】
「華やかな花火を上げるよりも、地道にぽろぽろと、火が点き続けるみたいな」【株式会社 沖縄長寿苑 日高悠平(ひだか ゆうへい) 様】
「住みやすい、移住もしやすい、沖縄本島に行かなくても用事が済む」【FMくめじま 宇江城久人(うえしろ ひさと) 様】
「一回出ていく子供たちが帰ってきやすい島にできたら、それこそ人口はキープできるんじゃないかと」【久米島商工会 会長 嘉手苅一(かてかる はじめ) 様】
「民間も含めて、行政や全ての組織が一体となってやっているところ」
「島が出来ないことを他のところにお願いする姿勢というのは、僕らからも大事なこと」キャプション:
株式会社 ジーオー・ファームキャプション:
沖縄県海洋深層水研究所キャプション:
島の持つ力と、島を想う人の力が、共創し、未来を描いていく。
久米島モデルとその挑戦は、世界の課題を解決する鍵になる。