地元の特産品を地元の小売業者が売る戦略の功。3年目で売上1億円を突破した事業創造 | Nativ.media | 地域からライフシフトのヒントを探る。


2018.09.28|Tags: 地方創生, 新規事業, 観光業, 小売業, ブランディング, プロデュース, 製造業, ものづくり

離島のいいもの沖縄セレクション

沖縄の島々で生産され、地元のリテーラー 沖縄ファミリーマート(リウボウグループ)が取り扱う食材や加工品の商品群。手作りの味をビン詰にした「特産離島便」(一部店舗にて限定販売)や、ブランド牛やマグロ、車えびなどのプレミアム食材などを箱詰めにした「島別離島便」、「離島カレー」などで構成。2015年に本格始動し、総売り上げは3年目で1億円を突破。

記事のポイント
・クリエイティブエージェンシーが商社機能を担う
・パッケージングの妙で不安定な生産体制を補完
・地元の小売業者と交渉・協業し、売場と商流を確保

沖縄ファミリーマート那覇空港ターミナル店で、内容量80mlの小さなビンに入った 1個740〜880円のビン詰が飛ぶように売れている。ドイツの家庭で使われるガラス製の保存容器WECKに密閉包装された20種類ほどの食品は、すべて離島で手づくりされたものだ。イラブー佃煮やアーサ塩、シークヮーサーこしょうなど沖縄ならではのラインナップとデザイン性の高さが受け、那覇空港ターミナル店だけで年間13,000個(2017年度実績)を売る。


沖縄県那覇空港店売り場

沖縄ファミリーマートには新たな人気商品、離島の生産者には新たな販路や収入源に生きがい、生活者には沖縄らしいお土産や食卓をアップデートする食材。バリューチェーン全体に恩恵をもたらす事業創造はどのようにして成功したのか。要因は、生産から小売までを見通した商品設計とひとつひとつ課題を乗り越えていったプロセスにある。全体プロデュースを手がけた株式会社たしざん 棚橋智恵さんにお話をうかがった。

「小さなビンなら、私にもできそう。」


株式会社たしざん 棚橋智恵さん

プロジェクトの始まりは、離島のお母さんの一言だった。WEBサイト・コンテンツ制作やSNS運用などを担うクリエイティブエージェンシーとして離島振興事業に携わり、沖縄の離島の人々とコミュニケーションを深める中で、「小さなビンなら、私にもできそう。」と特産品開発への意欲が覗いたのだ。

離島の特産品開発は、ハンデだらけだ。まず人手不足。原料となる農海産物の生産も安定しているとはいえない。原料の一部やプロダクトは船で運ばなければならず、台風や冬場の北風で欠航すれば、生産も出荷も滞る。また、各離島に加工場はあるが、できあがった食品をレトルトパックや真空パックする設備は高額で投資が難しいため、長期間常温で保存でき、長距離輸送に耐えうる商品づくりは困難だ。これらの複合的な要因により、安定供給ができないため、既存の流通に乗せにくい。だからといって、販路を島内のお土産物屋さんに絞ると、成長は望めない。

「離島にある素材でつくれて、島のお母さん・お父さんたちがやる気になってくれて、レトルトや真空パックの設備がなくても長期間常温保存ができて。一島一島、ひとりひとりがつくれる量は少なくても、みんなで力を合わせることで、お店の棚にいつも商品がある状態をつくれるかたちを模索し始めました。」

いちばん簡単そうな保存食は、いちばん歴史ある保存食

「小さなビンなら」という最初の一言にヒントを得たプロジェクトチームは、「いちばん簡単そうな保存食は、いちばん歴史ある保存食」と発想し、世界の保存食文化に目を向けた。結果、イギリスにビン詰めのハーブソルトやハーブシュガーをつくる習慣があることを発見した。


見栄えがよく、保存性も高いドイツ伝統の容器が多くの生産者の心を動かした

「常温保存ができて見た目もよい“見せる保存食”。これは沖縄でも使える!と検討を進め、ドイツのお母さんたちに長年、愛されてきた保存食ビンWECKに辿りつきました。」

煮沸さえできれば、滅菌・密封・常温保存ができる。また、複数の離島で複数の生産者により少量生産される特産品をパッケージの統一により“面”で見せることで、欠品リスクを相互補完しながら「離島で手づくりされた特別な品々」という印象づけができる。

魅力的なパッケージは、生産者の発掘と商品ラインナップの充実にも寄与した。
「生活のあらゆる場面で人手が足りず、ひとりで何役もこなす離島のお母さん、お父さんたちはとても忙しいのですが、『島の自慢をビンに詰めてください』と、空のビンを手渡すと、次に島に行った時には何かつくっておいてくれました。」

品目が決まったあとは、「WECK COOKING」などの著書がある料理研究家の冷水希三子さんとともに島々を巡り、味の監修や料理指導をしてもらった。

沖縄ファミリーマートに直談判して棚を獲得

商品設計ができた段階で、たしざんは販路開拓に乗り出した。ターゲットは、県内最大のコンビニチェーン沖縄ファミリーマートだ。交渉を始めた当初の店舗数は、県内最大の250店舗(現在は321店、8月15日時点)。グループ会社には、百貨店デパートリウボウもある。

「観光客の方に買っていただきたい商品なので、観光動線に流通させることを考えました。空港をはじめ、主要観光スポットや離島、リゾートエリアにも店舗がある沖縄ファミリーマートさんが最適と見定め、何度もお願いしに行きました。」

沖縄ファミリーマートの店舗にとっては、安定供給と品質面にリスクがあった。
「ただ『置いてください』では通用しないので、CSRと位置づけ提案しました。棚に離島支援のスペースを確保していただくことで、離島の生産者に換金事業の機会をつくり、離島の産品の品質や生産力の向上に貢献しましょう、と。」

離島のものを扱えるのは沖縄ファミリーマート、という地位を確立することで、他のコンビニチェーンに対するブランド優位性が高まるというメリットもアピールし、離島産ビン詰商品専用の棚を獲得した。

その後、全国流通にかなう品質水準への意識を高めるため、沖縄ファミリーマートの商品開発担当者とともに離島の生産者をめぐった。菌検査や、原材料の一括表示、商品カルテと製造工程表の提出など、沖縄ファミリーマートの品質要求をクリアするための条件を整え、あわせて生産者には全員、PL保険に加入してもらった。

「面倒だ、と離れてしまった生産者さんもいらっしゃいましたが、残った方たちは、自分の商品をずっとつくり続けてくださっていて、『こんなのものあるよ』と新商品の提案もしてくださるまでになっています。」

欠品をなくし中間費用を減らす商流構築

販路を確保して品質を整え、次なる課題は確保した棚に安定的に商品を並べ続けること。また、たしざんが生産を取りまとめ、問屋を介して店舗に出すと、中間費用が増えて価格が上がるか生産者の取り分が減るため、コスト削減の観点からも商流を工夫する必要があった。

「コンビニ店舗は通常、問屋への一括発注で商品を揃えます。でも、離島の商品は供給が安定しないため、このルートには乗せられません。そこで生産情報管理をたしざんが集約し、沖縄セレクションの棚は生産者→たしざん→店舗という納品形態を許してもらいました。沖縄ファミリーマート商品部長の大きなご配慮がありました。」


株式会社沖縄ファミリーマート商品部部長 小林健祐氏

沖縄ファミリーマート商品部長の小林さんは、こう振り返る。「地域密着を掲げ、宮古島、石垣島、久米島、伊江島の4離島には出店しているものの、人口の観点から他の離島への出店はできません。出店できないけれども仕入れはしたい、ということで、離島の特産品を商品化したかったのですが、モノはよくてもパッケージの見栄えやラベルの表示ルール遵守にハードルがあり、それを小規模経営の生産者さんに求めるのは難しかったんです。それらを一度に解決するご提案だったので、われわれにとってもやりたかったことを実現するチャンスだと思いました」

結果、価格は中味代、ビン代、輸送費、たしざんと沖縄ファミリーマートの利益を足し上げても、沖縄ファミリーマートが提示した1000円以下に抑えることができた。

試験販売で手応え、お中元に発展

こうして、商品、価格、販路(Product Price Place、マーケティングの4つのPのうち3つ)が整い、 2012年12月25日、沖縄ファミリーマート那覇空港ターミナル店、国際通りのREXA RYUBO店を含む3店舗で試験販売がスタートした。


「特産・離島便、できました。」 試験販売3日で追加発注に。

5島から2品ずつ、10品×100ビンを用意したが、3日で欠品。1000個追加発注する事態となり、好調な売れ行きに、すぐに商品数を増やしての横展開が決まった。さらには、翌2013年の夏、デパートリウボウのお中元に売れ筋のビンを詰め合わせにして出したところ、オンラインギフト全体の売り上げが対前年比200%に跳ね上がった。調査の結果、押し上げ要因はビンの詰め合わせだった。

2014年、沖縄ファミリーマートの石垣島出店を機に展開が加速。石垣島のいいものも新たにそろえたいとの要望が沖縄ファミリーマートから出た。そこで、ビン詰めの開拓と同時に、石垣市商工会や特産品生産者グループの協力を得て箱詰め商品も開発。家飲みセット、豚しゃぶセットなど5種類がお歳暮ギフトとして用意された。さらには、百貨店デパートリウボウの糸数社長から「もっといいものを」との指示。島ごとのプレミアム特産品に絞った1万円セットと10万円セットをつくって市場に投入したところ、10万円セットと並べることで、1万円セットが飛ぶように売れるようになった。


沖縄ファミリーマート社長から、現在はグループ4社の社長となり、百貨店「デパートリウボウ」やスーパーマーケット「リウボウストア」などを率いる糸数剛一社長

「地域企業が生き残るためには地域完結型の商売をつくらなければならない。そのために一番大事なのは独自性。デパートはもちろん、コンビニも例外ではありません。これまでのような金太郎飴型の品揃えだけではだめ。どこにでもあるものを安心して買いにいけることに加えて、”ここにしかない”お気に入りを求める人に選ばれるための独自性ある売場をつくろう、と言い続けています。特産離島便は完全に独自性があった。離島、しかもあまり観光客がいかないような離島のものということで、最初にビンの写真を見てコンセプトを聞いた時点で『これはいける』と。出してみたら売れたので、このコンセプトでどんどんひろげよう、と拡大を指示しました」(糸数社長)

その後、離島の素材をレトルトパッキング設備のある多良間島に集めてつくる「離島カレー」と、石垣市商工会の地域登録商標「石垣パイン」を丸ごと1個使った冷凍パインケーキも加わるなど、好調な売れ行きとともに商品ラインナップも充実していった。


それぞれの島と生産者のストーリーを商品とともに伝えるブランドブックを製作し、
沖縄県内の沖縄ファミリーマート全店で配布。価値を情報化し、情報を動かした

3年で年間売り上げ1億円を突破

2015年には、沖縄県から補助金を得て、沖縄ファミリーマートのPOSシステムと紐づけた在庫・生産管理システムを構築。各店舗の在庫とたしざんの在庫、離島での生産の状況をオンラインで一括管理できるようにした。たしざんの沖縄オフィスに社員がひとり常駐し、常時確認しながら生産者への依頼や店舗への納品を行うとともに、新規の生産者、離島特産品を開拓している。オンラインショップも開設し、運営中だ。


たしざん沖縄オフィスで生産管理や納品を切り盛りする多良間島出身の波平雄翔(かずと)さん。地域おこし協力隊で粟国島にいたときにこのプロジェクトに出会い、たしざんへの入社を決めた

こうした地道な仕事は、確実に売り上げに反映されている。5島10品のビン詰めからスタートして3年、商品ラインナップは20島90品まで拡大。売り上げも、2015年に230万円、2016年5400万円、2017年1億200万円と、右肩上がりだ。沖縄ファミリーマートの取扱店舗数も10店舗にまで増え、「他の店からも『うちにも置きたい』と声が上がっています。10店舗の平均売り上げが10000円ぐらい。コンビニ1店舗の平均日商は60万円ぐらいですから、それからして10000円というのは非常にいいスコア。こんなに売れるの?というぐらいすごくよく売れていると思います」と小林さんも目を細める。

情報を動かすと、ものと人が動く

「それぞれの島には、もともと手づくりの特産品がありました。でも、沖縄ファミリーマートに並べようという人がいなかったんです。」


購入者コメント「10年沖縄に通ってやっと出会ったお気に入りのお土産です」

記事の冒頭に羅列したさまざまな課題により、離島ターミナルや島の物産センター、船の待合所といったごく限られた場所にしか置かれていなかったため、知られることすらなかった特産品。それが、パッケージと置かれる場所が変わったことで情報化されて観光客に届いた。結果、モノが動き、生産者が動き、お金が動いた。

離島振興や特産品ビジネスの成功事例であるとともに、このプロジェクトはまた、情報を動かすクリエイティブエージェンシーが、目的に向かって従来の業務領域を“越境”し人やものも動かす商社機能を担うに至ったことで、多くの人や事業者に恩恵をもたらす事業創造が実現した、異業種参入、新規事業開発の好例といえるだろう。

「離島のいいもの沖縄セレクション」は今、離島というエリアカテゴリーを”越境”し、商品開拓の領域を沖縄本島に拡げようとしている。

●株式会社たしざん 会社概要
代表取締役 : 森迫尚哉
設  立 : 2010年3月
本  社 : 〒107-0052 東京都港区赤坂7-6-55 かすがマンション赤坂601
沖縄事務所: 〒900-0033 沖縄県那覇市久米1-2-5 シャトー天妃2F
電  話 : 03-3582-1332
メール : info@tashizan.jp
株式会社たしざん コーポレートサイト
沖縄セレクション オンラインショップ
取材・文:浅倉彩

情報源: 地元の特産品を地元の小売業者が売る戦略の功。3年目で売上1億円を突破した事業創造 | Nativ.media | 地域からライフシフトのヒントを探る。

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