2018年8月14日 17:22 発信地:フランクフルトアムマイン/ドイツ [ ドイツ ヨーロッパ ]
モンサントと親会社バイエル、知っておくべき5つの事柄
米カリフォルニア州の店舗に並ぶ農薬大手モンサントの除草剤「ラウンドアップ」。(2018年6月19日撮影、資料写真)。(c)AFP PHOTO / Robyn Beck【8月14日 AFP】農薬大手モンサント(Monsanto)の除草剤のせいでがんになったとして、同社を相手取り訴えた裁判で、原告の米国人男性が予想外の勝利を収めたことから、今後、同様の訴訟がせきを切ったように起きる可能性が出てきた。今年モンサントを買収したばかりのドイツ製薬大手バイエル(Bayer)は、この大きな買い物を後悔することになるかもしれない。
毒性が指摘される除草剤「ラウンドアップ(Roundup)」から遺伝子組み換え(GM)種子の使用に対する懸念まで、約630億ドル(約7兆円)規模とされるバイエルとモンサントの合併について、知っておくべき事柄を挙げる。
■ヘロイン
1863年にドイツで創業されたバイエルは、今でもアスピリンの製造で最もよく知られている。一方、不名誉な歴史としては、20世紀初頭に短期間、モルヒネに代わるせきの薬としてヘロインを販売していたことがある。
第2次世界大戦中のバイエルは、ナチス・ドイツ(Nazi)が強制収容所のガス室で使用した「ツィクロンB(Zyklon B)」という殺虫剤を製造していたイーゲー・ファルベン(IG Farben)という企業連合の傘下に入っていた。
近年のバイエルは何度も企業買収を繰り返し、化学・製薬業界の巨大企業となり、全世界で約10万人を雇用している。
■枯れ葉剤
一方のモンサントは1901年、米ミズーリ州セントルイス(St. Louis)で創業。人工甘味料サッカリンのメーカーとしてスタートした。
1940年代には農業用の化学製品を製造するようになった。除草剤「2,4-D」はそのうちの一つで、ベトナム戦争(Vietnam War)では、別の有毒物質と合わせて枯れ葉剤が作られた。
1976年、除草剤「ラウンドアップ」が発売となった。これは、モンサントの製品のなかで、世界的に最も広く知られているものと考えられる。
モンサントの科学者チームは1980年代、植物細胞の遺伝子組み換えを初めて行った。その後、他の種苗メーカーの買収を重ね、GM種子の栽培試験に着手し、ラウンドアップ耐性のある大豆やトウモロコシ、綿、その他の穀物などを開発した。
■「モンサタン」に別れを
モンサントは数十年にわたって環境活動家たちから「モンサタン(悪魔のモンサント)」、「ミュータント(突然変異)」などと、その名をもじった名称で呼ばれ、非難の集中砲火を浴びてきた。欧州では、GM食品が人体に有害と広く考えられており、その傾向は特に顕著にみられる。
運動家らはまた、グリホサートを主成分とするラウンドアップも忌み嫌っている。グリホサートについては、がんとの関連性をめぐり研究者らの間で論議が起きている。
モンサント製品の有害性に関する悪評を断ち切ろうと、バイエルは今後、製品からモンサントの社名を外す計画だとしている。しかし、両社の合併を最悪の組み合わせとしている国際環境NGO「地球の友(Friends of the Earth)」は、これまでの名称が使われなくても同社の事業が継承される限り、抗議の矛先をバイエルに変えるだけだと述べている。
両社の合併に関してはもう一つ、世界の種苗市場や農薬市場が限られた企業による寡占状態となって価格が高騰する恐れがあり、農家や消費者にとっては選択肢が狭められるという不満も聞こえてくる。
また、世界で最も広く使われている除草剤のグリホサートをめぐっては、ミツバチの個体数減少など、環境に負の影響があるとして批判の対象となってきた。米環境保護局(Environmental Protection Agency、EPA)のウェブサイトによると、この薬剤は過去数十年にわたり殺虫剤としても利用されているという。
■後に続くか、ラウンドアップ訴訟
末期がんを患った校庭管理人の男性が米カリフォルニア州で起こした裁判で今月10日、モンサントに対し、約2億9000万ドル(約320億円)の損害賠償を支払うよう命じる評決が下された。
裁判では、ラウンドアップの発がん性についての警告を怠ったモンサントに落ち度があるとの陪審評決が出された。
非ホジキンリンパ腫に苦しむ原告のドウェイン・ジョンソン(Dewayne Johnson)さんの今回の勝利は、モンサントに対する数千件におよぶ訴訟に道を開く可能性があると専門家らはみている。
この評決を受けて、バイエルの株価は10%を超えて急落した。モンサント側は上訴する意向を示しており、一方、バイエルはグリホサートが含まれる除草剤は「安全」だと改めて主張した。
独マインファースト(MainFirst)銀行のアナリスト、マイケル・リーコック(Michael Leacock)氏は、今回の裁判での敗北は、創業以来最大の買収となったモンサント獲得からわずか2か月しかたっていないバイエルにとって「不運な結果だ」と述べた。
■高い代償
地球人口の急増に対して業界全体が構える中、ラウンドアップのような強力な薬剤に耐性のあるGM種子をそろえ市場をリードするモンサントに、バイエルは手を出したがっていた。
また将来の農業では、栽培管理をデジタル化に委ねるようになるとみられており、モンサントのデータ解析事業「クライメートコープ(Climate Corp)」もまた買収の誘因となった。
しかしバイエルは、買収額が非常に高くついたことに加え、独占禁止法に抵触しないよう、その過程で種子事業および農薬事業関連資産を手放す条件に合意する必要性にも迫られた。
そこへ今回の評決が下った。バイエルは将来、ラウンドアップ関連で起きる訴訟のために、多額の和解金を用意しておく必要があるかもしれない。多数の原告と和解しようとすれば「(賠償金は)総額で100億ドル(約1兆1100億円)にも上り得ると我々は見ている」とリーコック氏は述べた。 (c)AFP/Michelle FITZPATRICK