移住、県職員。兼業に踏み切ったANA客室乗務員、和歌山での奮闘|oricon news

2022-10-12

ANA客室乗務員、和歌山県職員として働く伊藤さん。

今年8月、全日本空輸株式会社(以下ANA)の客室乗務員として8年のキャリアを持つ女性が和歌山に移住。
県職員としての兼業生活をスタートさせた。
フライトのある日は勤務地の羽田空港まで和歌山から移動する。
新生活から約2ヵ月、「移動の大変さは最初だけ。
今ではルーティンになって慣れてきた」と話す。
「移住&兼業」という大きな決断をした現役の客室乗務員の心境と生活とは。
「この経験が、客室乗務員としてより楽しく働くための糧になる」
数ある業界の中でも、コロナ禍による打撃がとくに大きかった航空業界。
世界中での感染拡大を受け、国際線は全方面で運休・減便。国内線の利用者も激減し、業績はかつてないほど落ち込んだ。

そんな危機的状況の中、ANAグループでは、働く場所や時間を制約なく選択できる新たな働き方への取り組みを行い、従業員の雇用を守りながら、多様で柔軟な働き方ができる環境を整備してきた。
その一環として、客室乗務員が地方に移住し、フライトと自治体との仕事を兼業するという試みが各地で始まった。

そして7月、和歌山県は広報業務支援員として2人の客室乗務員が移住・兼業することを発表。
客室乗務員の国内外の幅広い知見を活用し、和歌山県の魅力をさらに発信するための広報業務支援員としての活躍に期待を寄せての採用だ。
そのひとりが、ANAに入社して丸8年になる伊藤さんだ。

「コロナ禍以前は東京をベースに、乗務していました。
オリンピック前ということもあって便数もかなり増え、とても忙しかったんです」(伊藤さん・以下同)

ところが、コロナ禍により状況は一変。
緊急事態宣言や行動制限を受けて、フライトは激減し、伊藤さんたち客室乗務員は自宅待機を余儀なくされた。

「私は結婚をしていて共働きのため、経済的な不安はそれほど大きくなかったのですが、自分自身のキャリアプランを考えたときに『このままでいいのかな』と考えるようになりました。
ワインソムリエの資格を持っていたので、他の業種への挑戦も考えたのですが、客室乗務員という職業がすごく好きだったので辞めるという選択肢は考えられませんでした。」

そんなとき、和歌山県が『移住・兼業』を募集していることを知った。

「夫に『和歌山県で働きたい』と相談すると、彼は『まだ若いんだし、いろんなことに挑戦した方が自己成長にも繋がるんじゃない?』―――そう言って、背中を押してくれました」

移住することで、客室乗務員としてのキャリアから遠ざかってしまう不安や焦りはなかった。

「入社以来、将来的には国際線のチーフパーサーの資格、そしてファーストクラスの資格を取得するのが夢でした。
でも、コロナ禍で仕事が激減したことで、キャリアを追っているだけだとモチベーションが保てないことに気がついて。
資格よりも、お客様や同僚と一緒に楽しく素敵なフライトがしたい。
その上でキャリアアップできればベターだなと思えるようになったんです。
『移住・兼業』によるキャリアへの影響より、別の仕事を経験することで客室乗務員としてより楽しく働けるようになるかも…そんな期待の方が大きかったですね」

気になっていた地元和歌山の知名度の低さ

県での配属先は、商工観光労働部企業政策局企業振興課産業ブランド推進班。
フライトの状況に合わせて週2日登庁し、和歌山の優良県産品(プレミア和歌山推奨品)や地場産業製品の情報発信業務に携わっている。

「地元企業や農家を取材した記事をSNSなどで発信するのが主な仕事です。
取材先のピックアップから取材依頼、インタビューも自分でしているのですが、生産者様の生の声を聞き、それを記事にして全国に届けることに、とても大きなやりがいと幸せを感じています」

取材には客室乗務員の経験が活かせていると話す。

「客室乗務員の仕事と県での仕事は違うように見えて、多くの方との円滑なコミュニケーションが大事だという点では、似ているように感じます」

伊藤さん自身が和歌山県出身であることも、今回応募を決意した大きな理由のひとつだ。

「実家が兼業農家で子どもの頃から農業を身近に感じながら過ごしていたので、和歌山の農作物をはじめ県産品・特産品をもっと県外にアピールしたくて。
乗務員の仕事を続けながら、地元にも貢献できる『移住・兼業』制度は、私にとって、魅力的な働き方でした」

全国を飛び回る日々で、地元和歌山の知名度が低いことも気になっていた。

「友達に和歌山県の印象を尋ねても『みかん』『白浜』ぐらいで、和歌山のことってあまり知られていないんだな、と感じていました。
もっと和歌山のいいところ、魅力的な観光地や美味しいものを県職員として働いている間に、県外にたくさんPRしていけたらなと思っています」

週2で当庁、県職員として働く伊藤さん。


伊藤さんも業務に携わる「プレミア和歌山」の特設サイト。
和歌山の逸品をPRする取り組みだ。

和歌山から羽田へ出勤、長距離移動の大変さよりも「仕事の楽しさが上回る」
和歌山での『移住・兼業』で大変なことはほとんどないと話す。

「客室乗務員としての勤務地は東京・羽田空港になるので、フライトがある日は和歌山から東京に移動していますが、毎週のことなのでそんなルーティンにもだんだん慣れてきました」

ご主人との別居婚、さらに東京と和歌山を往復する日々。
心配する周囲の声は嬉しいが、今は仕事のやりがいを感じる毎日が楽しくて仕方ないと話す伊藤さん。

「県庁で働きながら新しい考え方や表現に出会えることが、とても新鮮なんです。
考え方が広がっただけでなく、気持ちもすごくリフレッシュできています。
9月に東京でANAグループとの共同で開催した和歌山県フェアの設営と販売を体験させていただきましたが、ANAの他部署の方と航空事業以外の仕事で携われたことも、とても良い経験になりました」

伊藤さんの県職員としての任期は来年の3月まで。
今回の『移住・兼業』生活から得たものを、客室乗務員としての仕事にフィードバックするのをとても楽しみにしている。

「移住や県庁の仕事を経験することで話の引き出しが増えて、フライトでお会いするお客様との会話に活かせるのではないかなと思っています」

多くの人が将来について深く考える機会にもなったコロナ禍。
職を失い困窮している人もいる。
客室乗務員としてのキャリアアップを夢みていた伊藤さんも、一時は他業種へのキャリアチェンジを検討した。
だが今回のケースのように、官民で新しい働き方を推進する取り組みが広がっていけば、雇用の安定や地方における“転職なき移住”の実現にもつながる。
今後、さらなる「多様で柔軟な働き方」改革が望まれる。
(取材・文/今井洋子)
タグ #ライフスタイル #雑学 #和歌山

情報源: 「移住、県職員として…」兼業に踏み切ったANA客室乗務員、和歌山での奮闘 | ORICON NEWS

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