「みんなの意見」は案外正しい

「みんなの意見」は案外正しい
ジェームズ・スロウイッキー(2004~2006)
□経済学者のハーバート・サイモンの言葉を借りれば、私たちは有限の可能性しか持ち得ない存在である…あらゆる可能性から最適な選択をしようと粘るより、そこそこよさそうなもので手を打つことのほうが多い…
制約がどんなに多くても、一つひとつの不完全な判断が正しい方向に積み重ねられると、集団として優れた知力が発揮されることも多い。
□集団の知恵(集合知)
□「認知」…どこかの時点で必ず明快な答えが存在するタイプの問題…販売数、許認可、最適地…正しい答えが一つ以上考えられても、優劣の判断がつきやすい
□「調整」…集団のメンバー全員が同じような行動をとる中、ほかの人と調整する方法を考え出さなければならない…問題…売り手と買い手、事業のオペレーション、渋滞中の運転
□「協調」…利己的で、不信感いっぱいの赤の他人同士が一丸となって何かに取り組むようにするという…課題…税金負担、公害対策、報酬
□集団が賢くあるために必要な条件…多様性、独立性、分散性…集約性
□スコーピオン号
□情報のかけら
□グループダイナミクス=複数の個人が集まって集団として作業を行うときに生まれる力学の法則
□理論的にいえば株式市場は、企業が将来獲得するすべてのフリーキャッシュフローの現在価値を計算するメカニズムであるとされている(フリーキャッシュフローとは、企業が経費や税金を支払い、減価償却や投資をした後に残る金)
□意見の多様性…突拍子もない解釈だとしても…独自の私的情報を持っている
□独立性…他者に左右されない
□分散性…身近な情報に特化する
□集約性…個々人の判断を集計して一つの判断に集約するメカニズムの存在
□個人の回答には情報と間違いという二つの要素がある
□たいていの場合、平均的とは凡庸であることを意味する。だが、意思決定の際には優秀であることにつながる
□まず考えられる限りの選択肢を列挙し、次にそこから選択する…二段階のプロセス
□成功の鍵を握るのは、絶対成功しそうにもないような大胆なアイデアを後押しし、積極的に投資するシステムが存在するか否か
□基本コンセプトを少しずつ変えただけのアイデアよりも、発想が根本から違う多様なアイデアが…必要だ
□システムの成功…どれが敗者かはっきりさせて速やかに淘汰する能力
□多様性…多様であることで新たな視点が加わり、集団の意思決定が持つネガティブな側面をなくしたり、弱めたりできる
□才能を求める戦争(war for talent)
□専門知識は「驚くべきほど狭隘」(W・G・チェイス)
□「専門知識がもたらす決定的な優位性を示す研究は存在しない。専門性と正確性に相関は見られない」(J・スコット・アームストロング)
□自信過剰の問題…医師、看護師、弁護士、エンジニア、企業家、投資家などは、全員自分が知っている以上のことを知っていると信じていた…彼らはただ間違っているだけではなくて、自分がどれだけ間違っているかすらまったくわかっていない
□過去の実績は、将来の結果の保証にはならない
□優れた意思決定に認知的多様性が不可欠な理由…個人の判断が正確でもなければ一貫性もない…集団が考えつくソリューションの選択肢を増やし、問題をまったく新しい視点から検証できるようになる…マイナスの側面としては…事実に基づいて判断しがち
□集団思考で重要な点は、異なる意見を封じ込めるのではなく、何らかの形で異なる意見が合理的に考えてありえないと思わせるところにある
□集団の論理に従うようプレッシャーがかけられると、人は意見を変えることがあるが、それはその人が考え方を根本的に改めたからではなく、集団に従ったほうが自分の意見を貫き通すより簡単だからである
□「私的情報」…具体的な情報だけでなく、解釈、分析、直感なども含まれる
□独立性は二つの意味で懸命な意思決定に不可欠だ…人々が犯した間違いが相互にかかわりを持たないようにできる…独立した個人はみんながすでに知っている古い情報とは違う新しい情報を手に入れている可能性が高い
□人間は自律的であると同時に社会的な存在である。人間はつねに学びたいと思っているが、学びは社会化のプロセスでもある。人々が社会的な存在だと気づいていながら、経済学者は人々の好みや意見に周りの人が与える影響を過少評価しがちで、個人の自立性ばかり強調する。
集団のメンバー…お互いの影響が強くなると、同じことを信じ、同じ間違いを犯しやすくなる。学びを通して個人が賢くなる一方で、集団としておろかになる可能性が生まれる
□社会的証明…たくさんの人が何かをしたり、信じたりするのはそれなりの根拠があるからだ、と思い込む人間の性向が生み出す現象
□状況が曖昧で不透明なときには、周りと同じことを自分もすればよいというのが支配的な考え方のようだ
□「世俗的な知恵が教えるところによれば、世間の評判を得るためには、慣行に従わないで成功するよりも慣行に従って失敗したほうがよいのである」(ジョン・メイナード・ケインズ)
□みんなの意見は案外正しいという厳然たる事実があるので、他人の行動に注意を払ったほうが、他人の行動に無関心であるよりも賢くなれるかもしれないと考えられる
□自分が持っている私的情報だけに基づいて判断を下すことは、不完全な情報に基づいて判断を下すのと同じだ
□情報カスケード…市場や投票制度のように、みんなが持っている私的情報を集約するのではなく、情報不足の状態で次から次へと判断が積み重なる状況
□インターネットは世界でもっともよく知られている、目に見える分散化されたシステムである
□集団の知恵という発想は、分散性が所与のものであり、本質的に善であると前提している。利己的で、独立した人々が同じ課題に対し分散したアプローチを採ると、トップダウン式のアプローチよりも集合的なソリューションが優れている確率が高い
□分散性は…暗黙知に不可欠だ(フリードリッヒ・ハイエク)
□暗黙知は、特定の場所、職種、経験に固有の知識なので、他の人に説明したり伝達したりするのは容易ではない…問題に近い場所にいる人ほど優れたソリューションを知っているはずだという考えが核心にある
□分散性は…独立性と専門性を奨励する一方で、人々が自らの活動を調整し…課題を解決する余地も与えてくれる…問題は、システムの一部が発見した貴重な情報が必ずしもシステム全体に伝わらない点
□「目玉の数さえ十分あれば、どんなバグも深刻ではない」(エリック・レイモンド)
□セントラルプランナー…旧ソビエト連邦下の一元管理
□人々は…分散性は「自然」だとか、「自発的」な状態だという考えにとりつかれている…分散性の多くが、生物の世界に見られるせいかもしれない
□「シェリングポイント(暗黙の調整)」…シェリングは人々の予測が収斂する、ランドマークのような目立つ焦点が存在していると考えている
□行動を規制する規範や慣習をつくりだすことで、文化も調整をする
□いちばん浸透している規範は内面化されている
□自由市場は正しいところに正しい価格で資源を配分するという、もっとも難しいとされる調整の問題を解決する目的でつくられたメカニズムである
□協調の問題は…調整の問題に似ている…いい判断をくだすには周りの人の行動を考慮に入れなければならない
□調整の問題…は、メカニズムが正常に機能していれば、個人が私利私欲を一途に追い求めても問題を解決できる
□協調の問題…は、集団や社会のメンバーには私利私欲の追求以上のものが求められる…信頼がない状況下では近視眼的な私利私欲の追求だけが合理的な選択に思えてしまうので…こういう場合には、自分の周りの人を信じる姿勢が肝要になる
□相互応報原理…自分にとってまったくメリットはないのに、悪い行いには制裁を加えたい、よい行いには報いたいという気持ち…合理的であるかどうかは別として…向社会行動である…人々に狭い意味での自己利益を超えさせ…共通善のためになるような行動をとらせる
□「協力の基礎にあるのは信頼ではなく、関係の永続性である…長期的にはプレーヤがお互いに信頼しているかどうかは、安定した協力のパターンを構築できる条件が整っているかどうかという要素に比べれば重要ではない」(ロバート・アクセルロッド)
□協力の鍵を握るのは「将来の重み」(ロバート・アクセルロッド)である。やりとりが続くという約束が人々に慣行を守らせる
□協力関係が成功するためのベストなアプローチは、親切、慣用、報復からなる(ロバート・アクセルロッド)
□クエーカー教徒は清廉潔白で、ビジネスマンとしては厳格かつ綿密に記録を残すことでも知られていた
□企業の成功は信頼に基づく
□「信頼せよ、しかし検証もせよ」
□ロードプライシング(混雑料金)…通行料で渋滞を悪化させたツケを払ってもらう
□「自由流」…周りのクルマと安全な車間距離を保ちながら、好きなだけ早く走行できる
□巨人たちの肩の上に立つ…情報を少数の手に留めておくことなく、できるだけ多くの人に広めると社会全体の知識が増える…科学者はほかの科学者の業績に依存している
□科学的知識は累積的だ…科学的知識は集合的でもある
□知識は…ほかの資源と違って、消費されて枯渇してしまうような類のものではなく、価値を失うことなく広く行き渡らせることができる。むしろ知識は広まれば広まるほど、その価値が増す可能性は高くなる。知識の使い方の幅が広がるから(ヘンリー・オルデンバーグ)
□公に認められ、影響力を得られるようになるから、科学者は自分の知見をこぞって発表したがる…科学者は人々の関心で報酬を支払われている…「科学の世界では、個人の私的財産はその実質を他社に与えることで確立できる」(ロバート・K・マートン)
□科学的な証明は再現可能でなければならない
□「マタイ効果」…「おおよそ、持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていない人は、持っているものまでも取り上げられるであろう」
□「集団極性化」…天邪鬼がいないところでは、話し合いが行われた結果、集団の判断が前よりもひどい内容になることもある
□なぜ極性化が起きるのか…「社会的比較」…集団内の自分の相対的な立場が維持できるように、人は自分と周りの人をいつも比較している…ある種の自己達成的な予言…真実だと思われることがやがて真実になる
□ザラは顧客をコントロールできないが、顧客の行動に自分の行動をあわせられる
□取引コスト…「まるごとアウトソーシングする」モデルの問題は…取引や契約の条件を決めて履行状況をモニターする時間や手間が膨大になってしまうことにある(ロナルド・コース)
□インハウスで何かを行うということは、ビジネスがもっと改善されるかも知れないほかの選択肢が使えなくなる
□二十世紀の…企業のあるべき姿…第一に、企業は垂直統合されていて、できるだけ自社で何でも賄う…第二に、企業はマネジメント層がいくつも重なった階層状の組織であって、それぞれ一つ下の階層を監督する責任を負っている…第三に、企業は中央集権化されている
□集合的な意思決定は合意形成といっしょくたに考えられることが多いが、集団の知恵を活用する上で合意は本来的には必要ない
□何か問題が起きた場合、できるだけ現場に近い人たちが意思決定を行うべきだ
□暗黙知(経験からしか生まれない知識)が市場の効率性に必要不可欠だ(フリードリッヒ・ハイエク)
□分散化のメリットは二つある。まず、責任が多く与えられれば人々の関与度も高くなる…第二は、調整のしやすさ…命令したり脅したりする代わりに、従業員自身がもっと効率的に業務を行う新しい方法を発見してくれる可能性が高い。監督の必要性や取引のコストを減らし、管理職はほかのことに関心を振り分けられる
□企業の大失敗を研究した結果、二つの…発見「一つは新しい事業に着手しようとするCEOをはじめとする経営陣が、自分たちの正しさを圧倒的に信じている傾向、も一つは現在の事業の状況とはまったく違う状況下で達成されたかこの業績に基づいて経営陣の才能を過大評価する傾向」(シドニー・フィンケルシュタイン)
□GMでの意思決定は「グループ・マネジメント」(アルフレッド・スローン)
□「賢明なCEOは必ず自分の周りにマネジメントチームをつくる」(ピーター・ドラッガー)
□「道徳問題…農民は人工的なルールに惑わされることがない」(トーマス・ジェファーソン)
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