戦略に責任者と期限を JTB会長 田川博己氏    

  ――訪日外国人が急増しています。

 「本格的なツーリズム時代がやって来たと実感している。一方で、増加のペースが速すぎて『ひずみ』も出ている。同じ場所に多くの訪日客が押しかけて十分な接客や対応ができないケースが多くみられる。旅行先をもっと分散させることを考えないといけないが、今から数十年前の日本人の海外旅行ブームの時も行きたい場所は集中していた。やはり2度、3度と海外旅行を経験したうえで、本当に自分の関心のある観光地などに分散していくのだろう」

 「アジアの海外旅行の成長は日本の3倍くらいのスピードだ。そうなると悠長なことを言ってられなくなる。日本では2020年の東京五輪・パラリンピックをターゲットとし、様々な取り組みが進もうとしているが、それが可能なのかどうか心配だ」

 ――どうしてですか。

 「政府が閣議決定した日本再興戦略で、観光は重要な役割を担うことになった。経済団体なども観光立国に向けた提言書をまとめ、そのなかで『何々をしたい』ことは盛り込んでいるが、『誰が』『いつまでに』『どのように』といった明確な工程表にまでは落とし込んでいない」

 「これは国のガバナンスの問題になりかねない。クルーズ船のための港湾整備も遅れている。世界の有名な観光地にある港は絵はがきになるくらい美しい。日本では雨ざらしの港に寄港し、入国審査の場所も貧弱で1000人単位の旅行者に円滑に入国してもらうのは難しい。旅行収支が黒字化したのだから、景観整備を兼ねた港湾へのインフラ投資を加速させるべきだ」

 ――国としてやるべきことはまだまだ多いと。

 「日本は安全、安心だと言うが訪日客にはそうでない部分がある。何かあった時に訪日客の安否を確認したり、保護したりする法律がない。年間で2000万人近い訪日客が日本全国に滞在していることを考えるとお寒い限りだ。今のままだと『誰が』『どこに』いるかも把握されていない状況が続く」

 「日本の旅行会社はツアーで誰かが事故などに巻き込まれた恐れがあったら、必死になって確認作業をする。訪日客のフォローをしないのはおかしい。全く管理ができていないのは国家の威信に関わる。観光などに関する国際会議に出席していると懸念の声をよく聞くようになった。急速に観光立国になったトルコの取り組みは参考になる。海外旅行者の保護や外国人のガイド養成方法などだ」

 ――20年に2000万人の訪日客の目標は相当、前倒しで実現しそうです。

 「今はまだ『日本に来て下さい』という入り口戦略で止まっている。様々な関係者がもっと深く観光に関与すべきだ。クールジャパンを海外にもっと売り込むこともできる。若者の交流は大切だ。日本の若者を世界に送り出すことや留学生の受け入れも進めるべきだ。また、観光は国家戦略なのだから、担当官庁を観光庁ではなく観光省に格上げしてもいいのではないか。諸外国では観光大臣の地位は高い。日本はさらに踏み込んで名称も国際交流省にしてもいいかもしれない」

 ――民間にも課題はありますね。

 「本当に訪日客を迎え入れる覚悟があるのだろうか。残念ながら地方の大規模旅館ではインターネットの接続対応が遅れている。訪日客はスマホのアプリを頼りに日本の細かな情報を検索しようとしている。外国人向けのフロアを分ける案もある。こうした取り組みに金融機関も融資に前向きになってほしい。東京ではホテルが足りなくなると言われているが、新幹線で1時間以内に地域を広げれば問題は解消されるはずだ。小田原や前橋など周辺地域も含めて考える発想が必要だろう」

 「ツーリズムという言葉は様々な可能性を秘めている。ショッピング・ツーリズム、医療ツーリズム、産業ツーリズムなどのようにいろいろな分野と融合して新たなサービスを創出できる。民間の知恵の出番であり、まさにイノべーションだ」

 ――観光に期待するものは何ですか。

 「日本というブランド作りだ。日本の立ち位置が経済や人口など規模の面で揺らいでいるとすれば、ブランド価値を高めることで魅力的な国として成長を続けられるはずだ。そうしないといけない待ったなしの時期に来ている」

 たがわ・ひろみ 71年慶大卒。JTB入社。00年取締役。旅行商品の企画、開発が長い。08年社長、14年から現職。67歳。

情報源: 戦略に責任者と期限を JTB会長 田川博己氏