地魚という宝を探しに。

プロフィール

田中淳士(たなかあつし)
1986年6月生まれ。佐賀県出身。同志社大学商学部卒。
学術的なことよりも、実生活に即したことを学びたいと思い、
ファイナンシャル・プランナー、宅地建物取引主任者の資格を取得。
2008年一時大学を休学して、産地直送の海産物卸売業を営む「食一」立ち上げ、
2008年12月の京都商工会議所主催の「京都・学生アントレプレナー大賞で」大賞を受賞。
地魚という宝を探しに。

 寿司屋さんで、今日のお勧めを見るとなんだか見たことのない魚の名前が… 興味本位で食べてみると、結構おいしい。また食べてみたい。こんな経験したことありますか?「食一」は地方のあまり知られていない地魚を全国へ産地直送する卸業「海一流」という事業を中心に、地方の漁港、そして漁業を盛り上げる活動をしています。「海一流」では、なかなか都心部に出回らない珍しく美味しい地魚を認定する機関となり、その魚をブランド魚として扱います。その地域の漁港でしか取れないという希少価値をつけることによって、価値が増すわけです。実際に調理法を研究し、流通する取引先に、その地魚が一番おいしく食べられる調理法も提供しています。

皆知らないから食べない。それはもったいない。

 大学時代、ビジネスプランを作る機会があり、まず頭に浮かんだのは、親の仕事である魚の仲買。仲買は収穫量によって売買の値段が変わるため、もちろんのこと、漁師や農家の生活を左右します。そんな安定しない状況を何とかしたいと思い、プランを作成し、コンテストに出場すると優勝。それを元手に起業に乗り出します。
 田中さんは起業するに当たり、「実際に現場を見る必要がある」。と思い立ち、1か月をかけ、九州と四国の漁港周りの旅に出ます。その旅で低価格な魚の輸入が増えて漁獲量が減少し、漁師の生活が苦しく後継者を作らなくなる。また漁師になりたい若い人もいないといった現状がわかります。
 何とかしたい。そう危機感を抱きながら漁港を回り続けていると、たびたびあまり見たことがない魚を目にします。漁師さんに話を聞くと、「これはあまり獲れないし、有名じゃないから売り物にならないよ」。とのこと。しかし、田中さんはピンときました。「これは売れる。漁獲量が少ない分、希少価値がある!この魚がおいしいことがわかれば、より価値が上がるのでは。珍魚を売り出していけば、漁師さん、漁業も活発になる」と。この珍魚との出会い、そして逆転の発想が、「食一」の始まりといえるでしょう。

高級魚に引けを取らないおいしさを探し出す。

 あまり認知度がない魚をどう広めていくか。田中さんはまず、その魚を自分で調理し、食べてみることから始めます。珍魚を探していると「ミシマオコゼ」という魚に運命的な出会いを果たします。ミシマオコゼは、見た目がかなり上方を向いている目と、口を大きく“ぼけ~”とあけた何とも間抜けな姿をしています。網にかかっていても捨てられたり、漁師の腹満たしになるくらいの魚でした。そこに目を付けた田中さんは、さっそく刺身にして食べてみると、なんとふぐに似ている。漁師に聞くとこの魚は別名「ミシマフグ」と呼ばれていました。「こんなおいしい魚、漁師だけが食べているなんてもったいない。普通のフグは高いけども、ミシマオコゼは捨てているくらいなのだから、海一流の一押しブランド認定魚にして隠れたおいしさを押し出していこう」。このようにして、どんどん珍魚を見つけては、その魚のおいしさをしっかり見つけ出してあげるということに徹底しました。ただ、魚を売ってもらわないことには始まらないため、漁師さんとよい関係を結んで、行くことが大事でした。その点、田中さんには、大学時代から自分の足で築いた漁師さんとの深いつながりが自然と生まれていたのです。

珍魚で漁師を潤したい。

 食一がこれからできることとして、「海一流」事業の拡大。全国の珍魚をブランドとして認定し、流通させる事業「海一流」と「京都」という土地ブランドとのコラボレーションすること。具体的には海一流が認定した珍魚を、京都の伝統的な「西京漬け」で加工し、全国に珍魚を流通していきたいそうです。
 別の角度からは、「みんなの知らない珍魚で作るB-1グランプリ」を2012年の秋に開催予定だそう。内容は、屋台で珍魚を使ったその地方料理を提供し、選手権を開催。食べてもらったお客さんに投票してもらい、1番になったら1年間京都のお店で料理が出せるという特権を付けるといったもの。「単発のイベントで終わらせるのではなく、また食べたいと思ってもらえるようになれば、その料理を出しているお店も儲かるし、より地魚が流れ、地域も活性化する。いろんなところを巻き込んでいくからこそ、相乗効果が出てくる」と田中さんは考えています。
 「漁業を根底から変えようとは思ってない。漁業の発信源になれれば、漁業を盛り上げる起爆剤になれれば。これが食一の立ち位置なんだと思います」。
メッセージ

食一
所在地 〒600-8008
京都市下京区四条通烏丸東入ル長刀鉾町8京都三井ビルディング5階
(株式会社ジェイ・エス・エル内)
設立 2008年
従業員数 1名(2011年8月現在)
事業内容 産地直送の卸売事業、珍魚のブランディング事業
食一 URL : http://www.shokuichi.jp/
編集後記 取材 ・栗山遠音|Photo : ムクメテツヤ

 田中さんは静かに熱い人だなと、取材をしていてひしひしと感じました。あまり表には出さないけども、常に胸の内は熱い熱意で渦巻いているのではないかと思います。漁業を爆発させるため準備を食一がしてくれているのなら、私たちは、よりバランスよく魚を消費することで、着火剤になれるのではないでしょうか。