現金決済にこだわる「サイゼリヤ」、社長が真意を明かす:日経ビジネス電子版

2019年11月19日 全2970文字
 政府が10月の消費増税に合わせて始めたキャッシュレス決済のポイント還元事業。都市部を中心にキャッシュレス決済に対応できる店舗が増えているが、そんな「キャッシュレス祭り」に一歩引いている企業がある。イタリア料理チェーンのサイゼリヤだ。国内約1100店舗の8割が現金決済。なぜ、現金決済にこだわるのか。堀埜一成社長が真意を明かした。

堀埜一成(ほりの・いっせい)氏
 1957年富山県生まれ。1981年3月京都大学大学院農学研究科修了。同年4月、味の素入社。グルタミン酸ナトリウムの製造、医薬用アミノ酸の製造・改良などに従事する。2000年4月、サイゼリヤ入社。同年11月、取締役就任。神奈川工場や福島工場を立ち上げる。エンジニアリング部長を経て09年4月社長に就任。(撮影 竹井俊晴、以下同)

キャッシュレス決済の導入が広がる中、サイゼリヤはSC(ショッピングセンター)などに入居する店舗以外では原則現金だけの決済を続けています。なぜでしょうか。

堀埜一成・サイゼリヤ社長(以下、堀埜氏):最終的には乗るんですよ。キャッシュレスはやるんです。でも究極の後出しじゃんけんをするつもり。というのは、確かに手数料率もあるんですが、ハード(端末)の開発速度を見てるんです。1100店もあると、ハード代がばかにならない。「それに何億円使うの?」となるでしょう。

 変更に弱い端末を入れてしまうと、PayPayとか新しい決済手段が入ってきたとき、後付けできないとかとんでもないことになる。この分野って開発速度がすごい速いんです。今後どう変わっていくか分かんないんで、そのハード側に金を使いたくないなというのがある。そういうのを見ながら、いつやろうかと考えています。で、ハードの費用はできれば誰かに出してもらいたい。

すると消費増税に合わせる、とはならなかったわけですね。

堀埜氏:ハードの製造が間に合っていないって言われているでしょう。だからうちが今1000店に入れてって言っても入らないです。待っている個人店もいっぱいいる。そうやってるうちに(ポイント還元期間の)9カ月が終わるんですよ。

では、製造が間に合ったらキャッシュレスを導入していたんですか。

堀埜氏:まあ、そろそろやるかなって気はしてたんですけどね。そこにアマゾン(編集部注:米アマゾン・ドット・コム)がやってきたというね。だからキャッシュレスをまだやってなくてよかった(笑)。

サイゼリヤでは2019年7月からアマゾンと組んでキャンペーンを始めていますね。現金で支払った際のお釣りを、アマゾンギフト券として受け取るという。

堀埜氏:そうそう。

ギフト券は、お釣りに2%上乗せした金額になるんですよね。それで、アマゾンのネット通販や動画配信サービスで使う。

堀埜氏:そうです。

これはアマゾンからの提案だったんですか?

堀埜氏:そう。「アマゾンからこんなの来てますよ」って。(社内では)「やんないでしょ」と言われたけど、「いやアマゾンやからやる」って。くっついてって損はしない。間違いなく世界のアマゾンだし、いろんなことをやってくれるだろうから面白いだろうなと思いました。いろんな情報が入ってくる可能性があるし、彼らは(近未来の)日本像が見えているわけですから。

アマゾンの「日本観」

アマゾンは日本をどう見ているんでしょうか。

堀埜氏:日本は現金社会だと思ってるんですね。先んじて一気にキャッシュレスが進んだ中国と違って、まだ現金は残るだろうと想定している。確かに日本は現金志向が強い。さらにキャッシュレス決済でいろいろな混乱もあって、確信したんちゃうかな。日本は現金だと。

それで、現金のお釣りを、ネット上で使えるギフト券に変える仕組みを持ち込んだ。

堀埜氏:現金を入り口にして、キャッシュレスに持って行こうというのがアマゾンの狙いでしょうね。タンス預金を狙ってるんでしょう。(お釣りをギフト券にすれば)アマゾンで使える電子マネーとして残る。アマゾンにたまっていく。うちはチャージ機ですから(笑)。彼らは本当に賢い。

社長は日本の現金社会が今後、どうなると思いますか。

堀埜氏:日本では現金とキャッシュレスに二分化するんでしょうね。恐らく。若い人と年取った人、都市と地方。どういう使われ方をするのか。日本はまだクレジットのほうが多いだろうと思う。交通系はもっと伸びるかと思ったけどちょっとそうでもない。

キャッシュレス決済時に徴収される手数料の負担は、経営者としてどうとらえていますか。

堀埜氏:(キャッシュレス比率が)100%にはならないんでペイはするんですよ。(決済額の)3%を(手数料として)払って、5%収入が増えればそれでいいですから。だからそのタイミングがいつ来るかなんです。

本格的に導入するとすれば、キャッシュレスを入れたことによって客が増えるタイミングですね。

堀埜氏:そう。そろそろ近いですよ。

そろそろですか。

堀埜氏:うちもSC内の店舗ではキャッシュレス化に対応していています。でもあんまり影響はない。キャッシュレスで払うお客さんは多くないんです。なぜかというとSC内の店舗で支払うのは奥さんだから。家族で食事をして、財布を握っている奥さんが払う。

 でも、キャッシュレスを使っているのは男性じゃないですか。つまり、キャッシュレスを入れることによって増えるのは男性1人客です。

 そのためにいろんな準備をしている。ランチのピークが大きくなることもあり、商品の設計からすべて変えなきゃいけませんから。で、食器なんかもどんどん軽くしたり割れないようにしたりしています。

レジ周りだけでなく、いろいろと関係してくるんですね。

堀埜氏:そうです。総合なんです。

「そもそも税金どこに使うんや」

現場の生産性は上がるんですか。

堀埜氏:手数料以上に結構面倒臭かったりする。作業が増えるので、生産性はあまり上がらない。むしろマイナス方向にいくんじゃないかと思います。慣れれば入れたほうが楽だとは思いますけど、面倒臭いんですよね。キャッシュレスでレジにかかる時間が延びるのか、短縮するのか、どっちに転ぶか分からない。やりようによってはうまく使えるとは思います。

では、サイゼリヤがキャッシュレスを入れるのはいつごろになるのでしょうか。

堀埜氏:まあでもオリンピックが一つのターゲットにはなるだろうと思ってるのね。

来年の東京五輪。

堀埜氏:そう。だからいつごろ判断するのかというとそろそろなんやけど、このタイミングでポイント還元策が来て、ハードが足りなくて判断を見送った。少なくとも首都圏と札幌になるのか知らんけど、来年にはやらなければとは思います。うちは外国人が来やすい店なので。

そのためにやらなければいけないのは、レジの準備だけじゃないんですね。メニューやオペレーションの見直しも含めて考えている。

堀埜氏:いろんなことをトータルでできないといけないし、ラグビーワールドカップがあって、(適当な)タイミングだったのかもしれないけど、今、人が足りないと言ってるときにできないですよ。現場の負荷を下げていくことを常にやっていかないといけないのに、その上キャッシュレスまで入れたら大変です。

 今回も、(消費増税に伴う)補助期間が終わったら中小零細店舗は手数料で苦しむことになるんじゃないですか。そう考えると、そもそも税金をどこに使うんやと、なんか違うやろと。なんかおかしい。そもそも社会保障のための増税ですよね。違うとこに使ってませんか、という気はしています。

情報源: 現金決済にこだわる「サイゼリヤ」、社長が真意を明かす:日経ビジネス電子版

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