コトラー教授緊急寄稿「新型コロナ、ニューノーマルつくる契機に」:日経ビジネス電子版

フィリップ・コトラー

米ノースウエスタン大学ケロッグスクール教授
2020年4月16日

全3033文字
経営学の泰斗、コトラー教授は新型コロナウイルスの影響が「ニューノーマル」をもたらすとみる。
経営者は新しい状況に適応しながら、回復力を高め、創造力を発揮すべきだ。
決断を誤れば、ブランド価値の毀損にもつながりかねない。

 新型コロナウイルスの感染拡大が世界中を襲っている。
「コロナ・パンデミック」に対して、私たちはまず、それを撲滅するために全力を尽くさなければならない。

 現代人は自然を征服できると信じて生きてきた。
しかし、結局のところ、自然は私たちを征服する能力を持っている。

それを示すのが今回の出来事だといえるだろう。
細菌やウイルスは地球上にある生命の一部であり、我々は細菌やウイルスといっしょに暮らしながら、それらをコントロールすることを学ぶ必要がある。

 大変な状況だが、これは変化をもたらすきっかけになる一面がある。
世界中のほとんどの人々は、新型コロナウイルスの感染拡大を前にして「自分たちの元の生活に戻りたい」と思っている。
しかし、振り返ってみれば多くの人々にとって、その生活がそれほど良いものだったかといえば、実は必ずしもそうではなかった。
多くの人々は貧しかったし、おなかをすかせていたし、そして何よりも働きすぎていた。

 私たちは今回の出来事をきっかけにして、いろいろなことを変えていくことになるだろう。
そして、ここから多くの人々が充実し満足する生活ができる機会が得られる「ニューノーマル」をつくっていくべきだ。

米フォード・モーター、車の広告を休止

 ニューノーマルの下ではマーケティングの在り方も大きく変わる。
企業は消費者や競合他社の行動や政府の規制が大きく変化したことを踏まえて、製品やサービスの戦略、メディア・プラニングやリレーションシップを再考する必要がある。

 もっと言えばバリュープロポジション(競合と違うポイントをメッセージの中に入れていくこと)、製品ライン、市場セグメント、価格設定、チャネル、および地理的領域を見直さなければならない。
企業は忠誠度の高い顧客の興味を引き付けて維持するためには、ソーシャル・プログラムやパーソナライゼーションへの投資が継続的に必要であることが見えてくるだろう。

 既にいくつかの興味深い企業のケースが出てきている。

 例えばカーメーカーの米フォード・モーターは車両を宣伝する全国的な広告を一時休止し、その代わりにコロナウイルスへの対応を説明する新しいキャンペーンを展開した。
例えば、クレジット部門は支払い期限を遅らせることでローン支払いの救済を提供。
新車購入者は最初の支払いを90日間遅らせることができるようにした。

 フォードはまた、学校に通っていない子供たちのための食糧プログラムを支援するなどのチャリティー活動を増やしている。
ユナイテッド・ニグロカレッジ・ファンドとの緊急援助プログラムも開始。
従業員向けには在宅勤務ポリシーを制定した。

米バーガーキングは新キャンペーン

 ホテルの米マリオット・インターナショナルは、医療従事者と地域介護者への支援を強化している。

 新型コロナウイルスと戦っている医療専門家に1000万ドル相当のホテル滞在を提供することを約束。
ニューヨーク、ニューオーリンズ、シカゴ、デトロイト、ロサンゼルス、ラスベガス、ワシントンDC、ニューアークの各都市において、真っ先に救助の現場に向かう「ファースト・レスポンダー」(第一救助隊)と医療専門家に対して無料か通常より低料金で客室を提供した。
展開する多くのホテルでは食料品、クリーニング製品、マスク、手袋、抗菌ワイプ、消毒剤、シャワーキャップを提供した。

 ハンバーガーチェーンの米バーガーキングは、10ドルを超える注文の配達料金を免除する新しい広告キャンペーン「Stay Home of the Whopper(ワッパー、同社のハンバーガーの1つ)」を企画した。
広告には看護師たちへのワッパーの寄付、米国の看護師財団のコロナウイルス対応基金を支援する寄付について紹介している。

 美容・化粧品のブランドは、新型コロナウイルスの感染拡大により世界各地で店内の美容トリートメントやサービスを中断した。
サロンとスパを閉鎖せざるを得なくなり、売上高の約80%を失ったところもある。

 そんな中でも顧客と強いつながりを保つためにデジタル技術を使用する方法を模索するのが、ニューヨーク発祥のスキンケア・ブランドのキールズだ。
バーチャル・コンサルティングを開始。
ユーザーを積極的にサポートする。
他のブランドにおいては「家庭用フェイシャル・キット」を発売するなど、新たな対応が目立つ。

 このほかにも、家庭用品のユニリーバは、チャリティーとして1億ドル以上のクリーニング製品を提供するほか、商品のサプライヤーに対しても5億5000万ドル近いサポートを提供することを約束した。
ビール会社のモルソン・クアーズはバーテンダー向けの緊急支援プログラムに100万ドルの提供を誓約した。

決断が今後の経営に影響

 企業経営にとって、新型コロナウイルスが及ぼす影響はもちろん大きい。
その中で生き残るために、企業は「やらなければいけないこと」を、やはり、しっかりやらなければならない。

 その過程では、顧客を失うことがあるかもしれない。
仕事のない従業員に給料を支払うこともあるかもしれない。
いろいろな支払いも同じようにしなければならないかもしれない。あるいは、景気の悪化によって貸し渋る銀行が出てくるかもしれない。それでもすべきことに取り組む必要がある。

 困難を乗り越えながら、企業は「顧客をどのように維持するか」「どの従業員を解雇するか」「どのサプライヤーやディストリビューターと取引を続けるのか、あるいは打ち切るのか」「誰に対してどんなサポートをするのか」などを決定していくことになる。こうした一連の決断を、長い間築いたブランドや評価を損なうことなくできるかどうか。決断の在り方によって、様々な影響が出てくるはずだ。

「電源をすぐに再びオンにできる」ように

 今後を考えたとき、経営者には3つの選択肢があるだろう。
1つ目はそれまでやってきたことを継続するという方法だ。
2つ目は新しい戦略に移行することが考えられる。
そして、3つ目は経営することをあきらめ、会社を売却したり、場合によっては破産したりすることだ。

 私が支持するのは2つ目の、新しい戦略への移行だ。
これは新しい状況に適応しながら、回復力を高め、創造力を発揮する在り方だといえる。

 ではそのためにどうすべきか。
考え得るすべての行動を明確にするためには、徹底したブレーンストーミングをすることを挙げたい。
そのときに大切なのは、顧客と従業員にとってベストな方法を選択することだ。
ここが大きなポイントになる。

 状況は厳しくとも、新型コロナウイルスの感染はいつか収束する。
そのときに備えて「電源をすぐに再びオンにできる」ようにしておくのだ。
すなわち、マーケティングのプログラム、商品の価格、販売チャネルを調整することによって、自社にとって最適な位置、状況、サイクルを維持できるように準備しておくべきだ。

 そのためにもまず、経営者はすべての従業員に対して現実をしっかり示す姿勢が欠かせない。
今置かれた状況をきちんと説明し、会社を守り、そして再び成長軌道に乗せるために現実的な計画を示すべきだ。

(取材協力:大坂裕子=フリーランス・エディター)

情報源: コトラー教授緊急寄稿「新型コロナ、ニューノーマルつくる契機に」:日経ビジネス電子版

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