地方紙×LINE、読者と歩む「あなたの特命取材班」 | コミュニティメディアのつくりかた | ダイヤモンド・オンライン

2020.6.24 4:00

#8あなたの特命取材班(西日本新聞社)
オンラインサロンがもてはやされ、大手メディアもサブスクリプションの採用を始めるなど、現在、メディアの世界には大きな変化の波が押し寄せています。
しかしその一方で、読者をつなぎとめておくための日々の運用に疲弊しているメディアも多いのではないでしょうか。
一方通行の情報発信メディアから、読者コミュニティとともに成長する双方向型のメディアのあり方を「コミュニティメディア」と名付け、取材していく本連載。
『ローカルメディアのつくりかた』などで知られる編集者の影山裕樹さんがレポートします。
今回取り上げるのは、西日本新聞社発案の「あなたの特命取材班」
LINEなどを活用し、市民の協力を得ながらボトムアップな記事を多数生み出し、しかも「かんぽ不正販売」報道など社会にも影響を与えているこの取り組みは、まさに双方向型のジャーナリズムを実現しているといえます。
マスメディアの存在意義が薄れるなか、なぜ地方紙からこのような画期的な取り組みが生まれたのでしょうか。

「かんぽ不正販売」報道などスクープも。
「あなたの特命取材班」とは何か

 購読者数が急速に減りつづけ、苦境にあえぐ新聞業界。
特に巨大メディア企業である全国紙各社の経営環境が厳しくなるなか、実は今、地方紙が面白い。
空き物件をリノベーションしコワーキングスペースを開き、そこに記者が常駐する「福井新聞まちづくり企画班」や、地元市民が発行するローカルメディアとコラボし、特別企画ページ「ハラカラ」を月一回掲載する秋田魁新報社など、紙面から飛び出して立体的なまちづくりに乗り出す先進的な地方紙が増えてきた。
筆者が企画協力した「地域の編集―ローカルメディアのコミュニケーションデザイン」(日本新聞博物館、2019年)ではそんな地方紙各社のユニークな取り組みを一堂に会す機会を得た。

 なかでも報道という新聞の本懐を活かしつつ、これまでのような一方通行の情報発信ではなく、市民の協力を得ながらボトムアップな記事を多数生み出し、双方向の新しいジャーナリズムのあり方を提示しつづける取り組みがある。
それが西日本新聞社発案の「あなたの特命取材班」だ。

「あなたの特命取材班(以下、あな特)」は無料通話アプリLINE(ライン)などで記者が読者と直接つながり、市民から寄せられた疑問や要望をもとに取材を行い、紙面とネットで発信する企画だ。
2018年元旦からスタートし、約2年半でLINEのフォロワー数は1万6000人に達した。
寄せられた調査依頼は1万1千件、掲載された記事は約500本に上る。

 紙面のみならずネットでも公開し、Yahoo!ニュースなどにも配信されるため、全国的に話題になった記事も多数ある。
特に有名なのが、「かんぽ不正販売」報道。
「あな特」に届いた郵便配達員の一通のメールから始まったブラックな販売ノルマの実態を暴いたスクープ「かもめ~る、販売ノルマに悲痛な声 郵便局員“自腹営業”も SNS普及、苦戦続く」は、瞬く間に全国に広がり、社会問題にまで発展した。

 今年で創刊143年を迎える西日本新聞は、もともとは西南戦争の戦況を知らせる新聞としてスタートした新聞だ。
発行エリアは鹿児島県、宮崎県以外の九州で、主に福岡県が中心。
そんな典型的な地方紙が、新聞ジャーナリズムの構造転換を促すような画期的な取り組みを全国へと波及させている。
NHKの「クローズアップ現代+」で特集が組まれるほど、多くのメディアがその成り行きに注目している。

 自社の商圏である地域に根差し、地域市民とともにコンテンツを生み出し発信するという意味で、以前取り上げた農文協と同様「あな特」もまた、本連載で捉えたい“コミュニティメディア”の輪郭を鮮やかに描き出す取り組みの一つと言えるだろう。

「地方紙×LINE」で見えた新しいジャーナリストの形

「あな特」を生み出した、社会部遊軍キャップ、クロスメディア報道部シニアマネージャーを経て今夏から中国総局長として北京に赴任予定の坂本信博さんは当時を振り返りこう語る。

坂本信博さん(写真提供:西日本新聞社)

「どこの新聞社もそうだと思いますが、弊社でも日々発行部数が減り、地元行政や企業に対する新聞の“迫力”がなくなってしまうことへの危機感が記者の間で広がっていました。
報道機関として地域における影響力を失わないためにも、市民に必要とされるメディアでありつづける方法はないか。
そんな問題意識から生まれたのがあな特なんです」(坂本さん)

 少子高齢化による読者離れに歯止めをかけるためにも、特に若い世代のニーズをつかむ仕組みが必要だった。
ネット時代においてデジタルでも強いコンテンツの必要性も高まっていた。
そこで、坂本さんをはじめとした社会部遊軍の記者がデジタル部門を担うグループ会社・西日本新聞メディアラボのWEBエディター、WEBエンジニアたちと議論を交わしつづけた。

 その結果、同紙の往年の名物企画「社会部110番」を、電話の代わりにSNSを使って復活させることに決まった。
SNSを利用するにあたっては、若い世代に利用者が多いLINEが最適ではないかとメディアラボのメンバーが提案。
後に、LINE東京本社の担当者からLINEをジャーナリズムに活用したのは西日本新聞が初めて、と言われたという。

 ちなみに、「あな特」の原型となった社会部110番は専用電話で読者から困りごとを寄せてもらい、記者が取材に動く読者参加型企画だった。
なんだか、みのもんた氏の某番組を彷彿とさせる。
そのため、電話を取ると話を聞くのに30分ほどかかることもザラで、そこから本当に記事になるのは30本に1本あるかないか。
双方向性を担保するユニークな企画ではあったが、取材効率の悪さは否めなかった。

 その点、LINEや特設サイトなどを利用すると、編集局のほぼすべての記者・デスクに情報が瞬時に共有される。
このテクノロジーのメリットを活かし、投稿された調査依頼に対して「やってみたい」という記者からが早い順で返信する「手上げ方式」を「あな特」では採用している。
この順番に、新人・ベテランの区別はない。

読者からLINEで「あな特」に寄せられる相談の数々(画像提供:西日本新聞社)

ネタの持ち込みからアンケートまで
――声なき声を拾い上げる「双方向」の仕組み

 ベテランの記者やデスクの経験や“勘”は重要だし、それこそが報道記事の質や社のブランドを保証するのは確かだろう。
しかし、そんなベテランでさえ「ネタにならない」と弾いてしまう白黒つかない調査依頼でも、「困っている人がいて、その困りごとが他の人にも共通しそう」ならネタになる。
若手もベテランもそれぞれの感性で飛びつくことができ、そうして生み出された記事は時に思わぬ社会的な反響につながる。
かんぽ生命の記事をはじめとし、「あな特」で記事を執筆した記者はすでに100名近くに上るという。

 社会部記者で「あな特」の事務局長を務める金澤皓介さんは、SNSを活用することによって今まで接点がなかった若い世代とのつながりができることが、「あな特」の魅力だと語る。

金澤皓介さん(写真提供:西日本新聞社)

「私は今、主に教育取材の担当をしているんですけれど、LINEで実際の高校生から調査依頼が来るので、普段であれば、どうしても教師や保護者の立場になって書いてしまうところを、彼らの立場に立って書くことができる。
中学生からも、運動会の前に日焼け止めが塗れない!
などブラック校則にまつわる訴えが来ました。
彼らの依頼を起点に取材して記事を出すと、SNS上で中高生からとても評価される。
こういうことは今までありませんでした」(金澤さん)

 たとえば、文部科学省による大学入学共通テストへの英語民間検定試験の導入が見送られたことに関してLINEで緊急アンケートをとると、すぐに50人ほどの高校生から返信があった。
なんと、その時間は職員室にいるはずの現役教師からもコメントが寄せられたという。

 アンケートをもとに取材した記事はすぐに「「受験生無視」憤り 英語民間試験見送り 九州の教育現場「決断遅すぎる」」というタイトルで紙面とウェブで公開され、反響を得た。
受験シーズンにふさわしいアンケートで、高校生にとって身近で切実な問題だ。
なかなか自分たちの声が社会に届かないと感じている子どもたちの課題に寄り添い、彼らの声をかたちにすることで、地域の新聞の存在を身近に感じることができ、心強く思ってもらえたことだろう。
まさに新聞がもっとも囲い込めていない未来を担う世代に、地域の報道機関の影響力を実感してもらうことができたわけだ。

市民の悩みからスクープも
――あな特から見えた「信頼されるメディア」の姿とは

 このように、地域に暮らす市民一人ひとりが“自分たちの声を届ける媒体”と思えることこそが、地域に根差すマスメディアのもっとも重要な価値だ。

 実際、「あな特」に投稿された市民の悩み相談が社会を変えるきっかけになったこともある。
たとえば「「泣き寝入りするしか…」便利なキャリア決済、思わぬ”落とし穴” 大手3社、不正利用でも契約者に請求」という記事がきっかけで、ドコモ、au、ソフトバンクが動き出し、補償制度が整備されたという。
坂本さんの後を継いで、「あな特」の全体を見るクロスメディア報道部デスクの福間慎一さんはこう語る。

福間慎一さん(写真提供:西日本新聞社)

「これまでの取材のあり方って、明確に法律に違反していることを見つけて告発していくことが多かった。
でも法律的にはグレーだけど市民生活にとって不便なことってたくさんある。
キャリア決済の例もそう。
そうした既存の社会制度から取り溢れてしまう問題を、市民自身が教えてくれるのが『あな特』の重要なところだと思います」(福間さん)

「取材して、書く」。
時には権力にも立ち向かう。
そんな新聞記者の職能は一朝一夕では身につかない。
叩き上げで習得していく。
しかし、往々にしてジャーナリズムというのは孤独な作業だ。
時には記事に対する全責任を負わなければならない。
その重圧は推して知るべし。

「今までは、『読者に知らせるべき』『記者が知らせたい』ことに軸足を置いてきた。
それがもしかすると読者の知りたいことから離れていったのかもしれない。
『新聞記者は、俺たちの側(そば)にいないんだ』と思わせてしまった。
それがいわゆるマスコミ批判につながってきた。
部数の減少も問題ですけれど、それ以前の問題というか。
「あな特」は記者の職能を市民に還元する仕組みだと思うんです。
課題の設定は市民に委ねる。記者は取材力という職能を提供する。
そうして一緒になって地域の課題を解決することが地方紙の役目だと思うんです」(福間さん)

市民の悩みに寄り添った結果、社会を動かすスクープも生まれている。拡大画像はこちら(画像提供:西日本新聞社)

 福間さんはこうも話す。
「社員の誰かが、もし廃刊になったら署名活動が起こるくらい、必要とされる存在になりたい、と言っていました」。
また、坂本さんはこんなエピソードを教えてくれた。

「地方紙が、その地域で必要なインフラになっているかどうかが重要だと思うんです。
販売局の同僚から嬉しい反応があって、新聞の売り方が変わってきたそうなんです。
一昔前なら洗剤などのサービスを付けて定期購読を求めていたんですが、今は『調べて欲しいこと、困っていることがありませんか』と営業をすることができる、と。
困りごとを解決するための“駆け込み寺”みたいな立ち位置になりつつあります」(坂本さん)

 金澤さんもこう続ける。
「新聞が再び市民のそばにあり、信頼されるメディアになれたら、取材でも営業でも誇りを持って仕事をできると思うんです」。

 石鹸やタオルがもらえるから1か月契約してみようかな――新聞がそういう存在に成り下がってしまったのは果たしていつからだろうか。
配達員のやりがいの低下は否めない。
市民に必要とされない定期購読モデル(サブスクモデル)には限界がある。
配達員の苦労を、どれほど慮っている記者がいるだろうか。
読者どころか、配達員ときちんとコミュニケーションしている記者がどれほどいるのだろうか。
同じ船に乗る乗組員だというのに。

せっかく上げてくれた声を、エリア外だからといって無視するのか

 ちなみに、アンケートというフォーマットは、読者との双方向性を生み出すのにとてもうまく機能する。
最近だと、「あな特」では新型コロナウィルスに関する特設ページを設けている。
主に自粛期間にどのように生活しているかなどの、市民のリアルな声を収集する。
ハッシュタグ「#みんなの卒業式」で、コロナウィルスの影響で卒業式ができなくなった小中高生の「ありがとう」「おめでとう」を集めて記事にする企画も好評だった。

西日本新聞社の社屋(写真提供:西日本新聞社)

 しかし、ネットを活用すると思わぬ副作用が生まれる。
全国、いや全世界どこからでもアクセスすることができ、調査依頼ができるという問題だ。
西日本新聞社は先に述べたとおり九州、特に福岡県を圏域とした地方紙なのだが、名前が「西日本新聞」のため、九州に限らない全国からの投稿が多く寄せられる。

「LINEでつながる『通信員』の割合は福岡が50%、東京8%、大阪4%ぐらい。長崎、熊本、佐賀はそれぞれ3%ぐらいです。
福岡のフォロワーが圧倒的に多いんですけれど、東京とか大阪が結構多い。海外からの投稿もあって、このあいだは南米のペルーから投稿がありました」(金澤さん)

 コロナ禍のさなか、ペルーにいる日系人の学生から、日本人じゃないので政府のチャーター便に乗れないという相談があった。
これを記者が記事にすると、外務省が動き、日本に生活の基盤がある人は受け入れるという方針転換を行ったという。

「実はうちに手に負えない情報も結構集まってくるんですよ(笑)。
関西の産廃の問題を告発する投稿があって、『うちは西日本新聞なんで……』と返したら、『“西日本”の新聞ちゃうんかい』ってお叱りを受けて。
どうしても地方紙の記者のフィールドって発行エリアに限定されがち。
だったら、うちだけじゃない各地の新聞と連携して、せっかく寄せてもらった貴重な調査依頼にこたえる仕組みを作ろうと考えたんです」(坂本さん)

 まずは西日本に存在する各地方紙との連携が始まった。
西日本新聞社のLINEに寄せられた調査依頼を、西日本新聞社がカバーしきれない地域の新聞社が引き取る。
理想的な展開だ。
自分が購読しているかどうかは関係がない。
ただ、市民として声を上げたいだけで、それを拾い上げてくれる媒体があるかが重要なのだ。
こうして始まったのが、「あな特」を全国の地方紙へと広げるジャーナリズム・オン・デマンド(JOD)という取り組みだ。

始まった地方紙同士の連携――JODという“チーム”

 現在、JODに加盟する新聞社や放送局は23社。
ほとんどが地方紙を発行する会社である。このJODの取り組みがさらなる相乗効果を生み出した。
緊急事態宣言が発令された東京都、兵庫県、福岡県にそれぞれ根ざす東京新聞、神戸新聞、西日本新聞を軸に加盟社が連携してアンケート企画を行った。記事の転載も各社で活発にやりくりする。

緊急事態宣言発令後、読者に投げかけたアンケート(写真提供:西日本新聞社)

「現在、JODに加盟する新聞社の担当者は全員チャットワークに入っていて、全部で数百人になるんですけれど、『こんな記事書いたので使ってください』というやりとりをしていて。
岩手県でずっと感染者ゼロが続いていたので、岩手日報さんが書いた記事を複数の地方紙でも転載したりしました。
今、もしかしたら全国の新聞社にローカルニュースを配信する通信社がこの取り組みを一番苦々しく思っているかもしれません(笑)」(坂本さん)

 丸々転載ではなく、他社の記事に自社の取材を加味した記事も巡っていく。
同じくJODパートナーの北海道新聞が昨年のラグビーW杯の商標を巡る問題を記事にしたら、釜石にラグビー場がある岩手日報がそれを引用して記事を書いた。
その記事を西日本新聞や神戸新聞、東奥日報が使って、まさにラグビーのパス回しのように記事やネタがJODの加盟媒体の間で回っていった。

地方紙同士の連携で生まれた記事。
最後の署名の部分に、ぜひ注目してほしい。
拡大画像はこちら(画像提供:西日本新聞社)

 アンケートをとるにあたっても、一社だけでなく複数の新聞社が協働でアンケートをとることのメリットは大きい。
先に挙げた緊急事態宣言の対象エリアの新聞社が連携してアンケートをとることで、それぞれの地域の実情を比較検証することができ、その成果を記事に落とし込むことができる。
「自分たちの新聞一紙だけではできないことができるようになった。
可能性が広がった」と福間さんは言う。

「福間が『やさしい日本語ニュース』を担当しているんですけれど、そのノウハウをJODのメンバーにシェアして、全国の外国人労働者の生の声を集めたアンケートをやったんですよ。
外国人労働者の問題は福岡や熊本だけの問題ではなくて、全国的な課題ですよね。
そういう協働調査報道という取り組みを実験的に行って、各社が一斉に記事を配信という取り組みも行いました」(坂本さん)

ネタもノウハウもシェアする
――JODが切りひらく新しいジャーナリズム

 2018年6月には、第一回JOD研究会を開催。全国の9紙から60人が集まった。
ホストである西日本新聞社は、「あな特」の運営手法やマニュアルを隠すことなくすべて開示した。
その研究会がきっかけとなって、同年秋にはパートナーシップがスタート。
東京新聞や琉球新報、そして西日本に拠点のある京都新聞や中国新聞などの新聞社が加盟した。

2018年6月に福岡市で行われた、第一回JOD研究会の様子(写真提供:西日本新聞社)

 2019年6月にはJODパートナーである中国新聞の主催で第二回JOD研究会を広島で開催。
各紙を訪問しての勉強会を重ねるたびに、新しい地方紙がメンバーに加わっていった。
坂本さんが言うには、連携拡大の鍵は担当者同士の信頼関係と危機感の共有。
研究会や勉強会の後には酒を酌み交わし、ジャーナリズムの未来を語り合う人間的なつながりの中からパートナーシップが広がっていったという。
ちなみに、先に述べた通り、パートナー紙の担当者は日常的に、チャットワーク上でさまざまな情報交換を行っている。

「お互いのノウハウがとても参考になります。
中国新聞さんはLINEの使い方がうまくて、若者が悩みを寄せるだけでなくて、それに年配の方が答える仕組みを作っている。
我々記者が取材に行くだけでなくて、読者どうしをつなぐ取り組みをしています」(福間さん)

「効果的にフォロワーを増やすにはどうすればいいか、みなさん悩んでいます。
中日新聞東海本社さんはアンケートをLINEで投げるだけじゃなくて、紙面でも投げかけています。
QRコード付きで。すると1日に何百人という方からフォローされる。
紙のうまい使い方だなと思いました」(坂本さん)

「右でも左でもなく“ローカリスト”だ」
――地域コミュニティの器としてのメディアへ

 JODのよいところは、単にそれぞれの新聞社の課題である部数の減少に立ち向かうために、双方向性のジャーナリズムのあり方を採用し、切磋琢磨しあうことだけではない。
地方紙同士が、結束感や仲間意識を抱けることも重要なのだ。

「信濃毎日新聞の方が、『我々新聞社は、よく右なのか左なのかと聞かれる。
でも、自分は右でも左でもなく“ローカリスト”だと思っている』と語っていて。
自分たちが根ざす地域にとってよいか悪いか。
その判断が最も大切。中央から見た地方紙ではなく、地域に誇りを持ち地域のために働くという意味での“ローカル・ジャーナリズム”という考え方を他社と共有できたことで、いっそう、『地方紙の記者でよかった』と自信と誇りを持てるようになりました。
私たちの活路は、市民の声を力にできる取材と発信にあると思います」(坂本さん)

「地方紙同士のつながりはとても大切です。
取材網の縮小が各地で起きる中、今後、報道機関不在の地域が出てきてしまうかもしれない。
しっかりとした信頼できる報道機関が地域に存在することって、民主主義の根幹なんじゃないかと思います。
緩やかでしなやかな連携で地方紙同士が支え合い、地域のジャーナリズムを守っていくためにJODがあるのだと思っています」(福間さん)

右から福間慎一さん、金澤皓介さん、坂本信博さん(写真提供:西日本新聞社)

 情報のプラットフォームであると同時に、水や空気のように、インフラやセーフティネットとして機能するからこそ、本来は定期購読モデルが成り立っていた。
インターネットがない時代、新聞は貴重な情報の流路を担っていた。
新聞が報じるニュースはもしかしたら、読者の生命の危機を救うこともあったかもしれない。

 しかし今や全国紙各社はまさに「右か左か」の傾向を先鋭化させていくことでしか、読者に寄り添えなくなりつつあるように見える。
必要必急のニュースならいざしらず、ネット上にこれほど情報が溢れている時代に、実体を伴わない“大衆”に向けて一方的に情報発信し続けるマスメディアが、今後も存在しつづける意義ははたしてどのくらいあるだろうか。

 それに反して、地方紙の存在意義は現在、非常に高まっているように思う。
その地域に暮らす市民一人ひとりが、同じ地域に暮らしているという一体感、地域コミュニティへの帰属意識を高め合うための“器”として地方紙が機能しはじめているからだ。

 マスメディア全盛の時代に生まれた「東京vs地方」という構図が、結果として地方を平板で均一なものとして眺める視点を我々市民一人ひとりに内面化させてしまった。
全国どこへいっても同じコンビニやショッピングモールが広がるように、風景まで画一化されてしまった。
地方紙は東京中心のマスメディアが生み出してきた大衆幻想や中央偏重を打ち壊し、市民一人ひとりを“ローカリスト”にする可能性を秘めている。
そんな“ローカリスト”たちが自律的で自発的な地域コミュニティを形成し、地域ごとの生活課題に一丸となって立ち向かうことこそが、民主主義を前進させ、結果として災害等からの回復力(レジリエンス)が強く、可塑性のある成熟した社会を形成するのだ。

情報源: 地方紙×LINEでジャーナリズムの形が変わる!?読者と歩む「あなたの特命取材班」に見る未来のメディア | コミュニティメディアのつくりかた | ダイヤモンド・オンライン

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