地方創生>国家戦略特区>トピックス 特区対談#02 スーパーシティ構想の実現に向けて

インタビュー記事

2020年5月に人工知能(AI)やビッグデータなど先端技術を活用した都市「スーパーシティ」構想を実現する改正国家戦略特区法、いわゆるスーパーシティ法が成立しました。
本取組の発案から法の成立段階までを牽引してきた村上敬亮地方創生推進事務局審議官(当時)へのインタビューにより、スーパーシティ構想の目指す姿、実現に向けた課題を再整理しました。

中小企業庁 経営支援部長
(前 内閣府地方創生推進事務局 審議官)
1990年、通商産業省入省。
湾岸危機対応、気候変動枠組条約交渉、PL法立法作業などに従事した後、10年にわたって著作権条約交渉、e-Japan戦略立案などのIT政策に従事。
クールジャパン戦略の立ち上げ、地球温暖化の国際交渉、再生可能エネルギーの固定価格買取制度創設を担当し、2014年から6年間、国家戦略特区も含め、内閣官房・内閣府で地方創生業務に従事。
2020年7月より現職。

――“スーパーシティ”という言葉を聞くと多くの方が“スマートシティ”とは何が違うのか?と感じると思うのですが、この点からお話いただけますでしょうか。

最終的に目指すものは同じです。
ただし、既存のスマートシティの取組は、個別分野毎に出来るところからボトムアップ的に進めていきますが、スーパーシティの取組では、複数分野のスマートサービスを同時に実装し、都市のあるべき姿を、大胆な規制改革とともに、一気に実現していく、というアプローチを目指します。
例えば、優れたスマートシティの先進都市としてバルセロナが挙げられます。
歴史も長く、街の道路管理・治安管理のインフラの上に、スマートパーキングやスマートごみ収集、スマート街灯等が様々なサービスが順次実装されてきています。
しかし、遠隔医療や遠隔教育など、独自のコンテンツを必要とするサービスの展開はこれからのようです。
これを全体最適の視点から、規制改革の難しさに臆さず、逆算型で一挙に実現しようというのが、スーパーシティです。

――既存のスマートシティの取組は個別分野毎にボトムアップ的に進んでいるということですね?

はい、そう認識しています。
もう少し別の例えをしてみましょう。
企業が事業部毎に導入したシステムを統合することを想定して下さい。
仕様がバラバラなシステムを統合するためには、As-IsからTo-Beに向けて少しずつ、何年かかけて、個々のシステムをバージョンアップしながら、最終的なゴールとして統合システムの構築を目指す、という進め方となるでしょう。
スマートシティも同じで、例えば、交通系は交通系、インフラ管理系はインフラ管理系、教育系は教育系、医療系は医療系とそれぞれが時間をかけて少しずつ横連携するウィングを広げ、積み上げ型で街全体のDXを進めていきます。
これが今までのスマートシティ実装の流れであり、オーソドックスなやり方だったと思います。
これに対して、スーパーシティでは、最初から全体最適を狙っていく、最初からTo-Beモデルを作り、そこから逆算して、必要となる複数分野のスマート化を同時かつ一体的に狙っていく、そういう志向性の違いを持っています。

――スーパーシティ構想は、都市のあるべき姿からスマート化技術を実装していくというアプローチを採るということですね。
このような考え方はなぜ出てきたのでしょうか?

2年前に片山前大臣(地方創生担当大臣)にご出席いただいたダボス会議でも感じたことですが、① 個別分野のスマート化技術が成熟してきたこと、それから、② 投資先として都市インフラ分野が注目されているという、 世界的な潮流が背景にあると思っています。
個別分野のスマート化の取組みは、様々な分野で技術的な実証が進んでいます。
ですから、多くの事業者が、そろそろ、技術的な実証実験では無く、実際の生活に役立つようなかたちで、社会実装実験をしたい。
そう考えていると思います。
実際の住民相手にサービスを展開することで、次の課題の洗い出しに進みたい。
先般、継続の断念を発表されましたが、グーグルの親会社アルファベット傘下のSidewalk Labsによる トロントのウォーターフロント開発構想が発表されたのも、2017年でした。
また、ダボス会議では、このテーマのセッションの参加者の多くが、国際的な金融機関の幹部だったのも印象的でした。
成熟し、色々な要素・事情を抱えた先進国の街よりも、政情は安定してきたが、 まだ何も無いに近い途上国の都市インフラへの投資の方が、むしろ、有望な投資先となりうる。
だからこそ、技術的に本当に実装可能なステージまで来ているのか、そこを見極めたい。
そういう思いで、参加されていたのかもしれません。
確かに、街のDXは、先進国の成熟した街より、なにもかもがこれからの、新興国のグリーンフィールドの方が、早く進む面もあるのではないかと思います。

――世界的により踏み込んだ都市のスマート化を進めていこうという機運があるということですね。
では、なぜ日本でスーパーシティ構想を推し進める必要があるのでしょうか?

様々なスマート化技術を実装し、テストしていく場が必要なためです。
かつてIT関連の業務を担当していた時、CD EXTRAという音楽CDの上にPC用のデータフォーマットを載せた、新たなCDフォーマットの実用化の担当をしていたことがありました。
当時は、まだ様々なOSが存在しており、それらの仕様も違うなかで、どのPCでもきっちり再生できるか、これは、要素技術の問題では無く、どれだけ様々な機器や場面を相手にしても、接続ができるかどうか、ひたすら確かめる場を探すという仕事でした。
ITは、要素技術としての性能はもとより、接続実証とバグ取りを行いつつ、実際に使い込んだ実績をあげることが重要です。
例えば、自動車の新モデルも、出してから1年くらいして、バグ出しした後の方が、信頼度の高い車に仕上がっているのと似ています。
使い込みによる熟度の醸成は、お客様から見ると、信頼性を分ける需要なポイントとなります。
同様のことが都市のスマート化技術にも言えると思います。

2019年に中国を訪問し、某企業の幹部と話をした際に『もし日本が本気になって社会実装をしたら、日本の技術はやはり怖い』という話をされていました。
5Gや認証技術等、要素技術として日本にないものは少ないでしょう。
そういう意味で、世界と日本の技術の差というものは、大きくはないと思っています。
何が違うかというと、実装実績です。
中国は物凄い勢いで、都市のスマート化技術を社会実装し、現場の中で信頼性の向上を図っています。
日本が、どれだけ要素技術を持っていようと、どれだけ技術実証をしてしようと、実際の生活の中で使いこまれなければ、我々の暮らしをより便利にするときに、採用される技術に国産のものは無くなってしまうかもしれません。
そういった危機感があります。

――スーパーシティはまさに、そういった日本の最先端の技術・サービスを、複数分野同時に生活に実装していく場の創出を目指すということですね。

はい、さらには、日本では新技術を社会実装しようとしても、既存の法制度が障壁となり話が前に進まないケースが多くあります。
そのため、スーパーシティ構想は、国家戦略特区制度の枠組みの中で、最先端の技術の実装に加えて、規制緩和を推進するという仕組みを取るというものになっています。

――では、スーパーシティ構想の実現に向けてのポイントはどういったものでしょうか?

スーパーシティの実現のために、必要な鍵であり、壁ともなる3つのポイントをご紹介します。

(1) イシューオリエンテッド(地域課題に根ざした取組の実践)と規制改革

第一の課題は、取組を必要とする地域課題の設定と、それに対するコミットメントの獲得です。
A市の事例という検討中の一つのサービス事例(これがそのままスーパーシティになるわけではありません)で考えてみましょう。
A市では、免許を返納した後期高齢者が急増しており、その通院問題をどう解決するか、という課題を抱えています。
しかし、地元のタクシー会社は、最近更に3社から2社に減少、地域のタクシーはいよいよ20台という状況にあり、頼まれても、後期高齢者をとても病院に運びきれません。
でももちろん、バス路線は足りない。

技術的には解決は簡単です。
足りない車両は、市民にボランティアで車を出してもらう。
配車はタクシー会社が自分で行う。
協力してくれた市民への謝礼は電子通貨化したボランティアポイントを活用し、社会福祉タクシー券のような助成も、 家族の貢献活動も全部電子通貨化する。
遠隔診療を最大限活用し、通院不要な再診はオンラインで問診、電子処方箋を出してもらい、遠隔服薬指導で薬を処方してもらう。
通院予約と配車予約は連動させて、お医者さんとボランティアドライバーの双方の都合がいいところで通院予約が即座にできるようにする。
これらを実現するのに、今ない技術は全くありません。

では何故動かないのか、第一に、これを実現するべき大義名分の不足です。
今の仕組みを変えてまで、ここまでしなくてはいけない大義名分がない。
切実さが足りない。
言い換えれば切迫度不足です。

市民側から、本当に自分の「困った」をカミングアウトしないと、事態は変わりません。
しかしそれが難しい。
例えば、この場合、「困ってる!」ってカミングアウトをしなければならないのは、実は高齢者本人ではありません。
高齢者の通院を支える、その家族です。
何故なら、ご本人は、そんなことなら病院に行くのをやめると、言い放てば良いからです。
しかし、家族の方からすれば、そうも行きません。
最悪転職を覚悟してでも送迎することになるでしょう。
でも、そういう家族の現実は、ついつい「人様に迷惑はかけられない」「みっともないことは出来ない」という思いに蓋をされ、社会の表には出てきません。
社会に迷惑をかけたくない、そう思う日本人の性格が、生活の中の『困った』を社会から隠してしまうのです。

その点、開発途上国の「困った」は相当リアルですし、外からも明確に見えます。
例えば、インドにおいて、そのマイナンバーカードAadharr(アドハー)が、何故、指紋認証まで要求しているのに、13億人中12億人にも普及したのか。
それは、本当にお金に困っている人たちに、今までピンハネされて配りきれなかった農業補助金が国民一人一人にもれなく配れるようになったからです。
地域の本当の「困った」が、大義名分として表から見える化すれば、それを解決する最先端の技術の普及も一挙に進みます。

また、こうした取組の実現には、規制改革も必要です。
ここで検討されているボランティアポイントシステムや、遠隔診療は、そこまで自由度高く実現が認められているものではまだありません。
また、市民ボランティアによる移動サービスも、現状では、やり方によっては違法行為になってしまいます。
これらの規制改革を実現するためにも、重要なのは、何故、これらの取組を実現する必要があるのか、地域課題の明確化とその切迫度だと思います。

(2) ビジネスモデルの構築(プロフィットシェア型のビジネスモデル)

第二の課題は、料金体系若しくはビジネスモデルです。
A市の事例では、通院予約と配車予約を連動させることが予定されています。
これは、技術的には極めて簡単です。
しかし、その情報共有の料金を、通院予約側が配車予約側に払うのか、配車予約側が通院予約側に払うのかが決められない。
だから、自治体に全部データを預けて自治体に無料でやってもらおうとなる。
しかし、そうなると、今度は、個人情報保護問題など別の課題が山積となってくる。
料金さえ合意できれば、当事者同士で簡単にできることが、とても大事になってしまう。
海外のスマートシティ分野で有名なベンダー幹部の方と議論をした時も、スマートシティが次のステップに進まないのは、技術の問題ではなく、ビジネスモデルの問題だと強調しておられました。
そして、その解決の鍵を握るのが、プロフィットシェア型のモデルだと。

例えば、自動走行車両が走っている未来の街を思い浮かべたときに、宅配業者ごと、配送業者ごとに異なる仕様の自動走行車両がバラバラに走っている姿って想像できますでしょうか。
少なくとも、需要が右肩下がりの市場で、各事業者が似たようなインフラにバラバラに投資をしていたら、全員が赤字になることはまず間違いありません。
A市の場合、通院予約と配車予約が連動することで、新たな人の移動需要が確保できるわけですから、何も一々、自治体や巨大なプラットフォーマにご登場願わなくても、病院とタクシー会社が、当事者同士で、情報を連携させるためのインフラへの投資と収益分配のルール作りをすることが出来れば、問題は解決できるはずなのです。

ヨーロッパ中世の農業の生産性を上げた手法の一つが、耕作地を1/3づつに分けて、その1/3を常に順番に休ませる、という三圃制の実践でした。
街のDXを進めるスーパーシティの場合、データ連携基盤という情報共有インフラが、 いわばみんなの「共有地」。
それを、順に休耕させるのではなく、一歩進めて、共同で投資を進めていくことで、みんなの生産性を上げていくことができるのです。
逆にもし、みんなが似たようなデータ連携基盤にバラバラに投資をしていたら、 全員、間違いなく赤字になってしまいます。

今一番イノベーションが必要なのは、データ連携基盤というインフラの部分です。
それを活用したサービスのプロフィットをシェアするルール(料金表)を決めること。
その上で、そのインフラを使ったプロジェクト全体の収益の最大化を実現する協調ゲームを展開すること。

これが出来るかどうかが、国際競争力の分かれ目にもなります。
そのためにも、どのようなプロフィットシェアのモデルを作れば、みんなが公平感を持って、積極的に事業投資に踏み込んでいくことが出来るのか。
スーパーシティは、そうしたビジネスモデルの実証も、進めていかねばなりません。

(3) データの分散管理(Federated Data Model)

第三の課題は、個人情報の保護とデータの分散管理の実現です。
先程みていただいたとおり、実は、A市の構想するようなサービスを提供するために、データの一元管理を行う必要はどこにもありません。
必要な時に必要なデータだけ、共有すれば良いのです。
先程のA市の例では、配車予約と通院予約に必要なデータを、次回の通院予約を決めるために必要な範囲で互いに見せあえば良いのです。
また、個人データの利用の同意は、データ接続・利用時に、目の前の利用者から、直接いただけば良いでしょう。

大量のビックデータから、新たな消費行動等を予測する。
これはこれで、別途分析サービスとして誰かが行えばいい話。
スーパーシティで日々実践が求められるサービスのほとんどは、必要なとき必要なデータを瞬時にリンクできていれば、それで十分なものばかりです。
データ連携基盤の側は、極力、異なるサービス間でデータが読み取り可能となるような、翻訳・変換に徹し、それを各分野のサービス事業者がみんなで支えていく。
同時に、データ連携基盤のAPIを一定のルールの下で公開することにより、だれでも自分のシステムをその街のデータ連携基盤に接続しやすい状況を作り、各サービス事業者が、異なる都市へと容易に広げていける機会を確保する。

このように、APIが公開された、薄くて軽いデータ連携基盤を、できるだけ多くの街に普及させ、それによって、地域課題の解決に実績を上げた各分野のサービスが、新たな規制改革とともにどんどん市場を広げていきやすいような仕組みを作る。
そういう方向性を目指していくべきではないかと考えています。

 なお、この実現のために必要となるデータ連携基盤の技術的仕様については、本年度も、技術的な検討を行う検討会を開催し、データ仲介機能の最大化を図るとともに、データモデル自身の標準化や、APIによるデータ連携機能の円滑化によるデータ仲介負担の軽減など、この三要素のベストバランスを追求し、その成果を、リファレンスモデルとして、公表していくこととしています。

――ありがとうございます。最後に自治体や事業者の方へのメッセージをお願いします。

地域課題を明確にすること、プライバシーに配慮した分散型のデータ管理のもとで、データ連携のビジネスモデルを作り上げ、生活者により沿ったサービス展開をすること。
何より、市民自身が、ユーザでは無く、自らが事業の運営者・オーナーという眼差しを持って、積極的にプロジェクトに関与していくような運営ができるかどうかが重要だと考えています。
こうした市民オリエンテッドな都市運営の向こう側に、日本の都市の将来像も、また、プロジェクトオーナーとしての市民を支えるIT事業者の新たなあり方も、見えてくるのではないか。
検討中の各エリアの皆さんには、年内に中心となるパートナー事業者を選定していただき、年明け、具体的なスーパーシティエリアの選定を進めてまいります。
また、この検討プロセスで、検討を深めていただいた地域や、各府省が既に取り上げ、調査・開発を進めている地域の取組とも、政府あげて連携し、日本型のスマートシティモデルを構築していきたいと考えています。

スーパーシティに選定されるか否かにかかわらず、検討中の皆さんに広く、これらの課題を共有していただきたい。
そして、日本の生活から生み出され実現した、様々な最先端技術を活用した生活サポートサービス、すなわち、 ライフソリューションサービスが、世界の市場にめがけて大きく羽ばたいていけるようにしたい。さらに、その開発を主導した日本人の生活スタイルや考え方が、世界の市民の暮らしや人生に、大きく貢献していくきっかけとしていきたい。 政府として、引き続き全力で、本分野に取り組んでまいりたいと思います。

都市の課題解決のために、街のIT化の全体最適を狙っていく、野心的な挑戦を期待しています。

情報源: トピックス

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