「サブスク市場の先駆者」に大打撃 米国からの教訓:日経クロストレンド

米国ではサブスクリプション市場の一部に頭打ち感が出ている。
2017年に上場したミールキット(食材セット)定期購入の米ブルーエプロン(Blue Apron)は、既に創業社長が退任し、株価も低迷している。

米国の市場では何が起きているのだろうか。


ミールキット定期購入でサブスク市場の成長をけん引した米ブルーエプロン(Blue Apron)は2017年に上場した (c)rblfmr / Shutterstock.com

米国は空前の食ブームだ。
「ホールフーズ(Whole Foods)」や「トレーダージョーズ(Trader Joe’s)」といった遺伝子組み換えなし商品、オーガニック商品を扱う自然食品のスーパーマーケットは、食をめぐる安全性や健康志向の強まりによって存在感を増し、人々は生産者から直接購入可能なファーマーズマーケットへ出かけている。
また、レストランへ行く前は入念にレビューや専門サイトで情報収集し、随分前から予約することも、長蛇の列に並ぶこともいとわない。
今やシェフはホットな職業の一つで、「Netflix」上にも人気の食関連コンテンツが数多く存在する。

ニューヨークに本社を置く12年創業のブルーエプロンは、自宅で自炊する内食と食材宅配の分野において、いち早くオンラインで革新的なサービスを提供し始めた企業の一つだ。
忙しい富裕層をターゲットに、自宅で30分程度で作れるミールキットを定期的に宅配するサブスクサービスを提供している。

レストランで提供されるようなハイクオリティーのオリジナルメニューが、1食あたり9.99ドルで自宅で味わえるのが特徴で、必要な食材を必要な分量だけ、必要な分量の調味料と共にレシピを付けて送ってくれる。
1週間に3食を2人前分届けて、59.94ドルというコースが人気だ。

直接生産者と契約することで、あまりスーパーに売ってないような旬の珍しい野菜などを多用したオリジナルメニューを提供していること、外食やデリバリーに比べて安価でヘルシーなものが食べられること、買い出しが全く必要なく、無駄が出ないことで人気を博した。
定期購入者を順調に増やして、17年6月にニューヨーク証券取引所に上場した。

ニールセンによると、生鮮食品や加工食品、飲料などのオンライン食料品市場は年々拡大しており、いまだ食料品市場全体のわずか2.0~4.3%であるシェアが、25年までに20%にまで拡大し、その額は1000億ドルに達すると予想されている。

ブルーエプロンは、メニュー検討、買い物、料理の3つの異なる過程で発生する手間を一度に解決できるミールキットというプロダクトでナンバーワンとなり、食材宅配の分野での成長性が大いに期待されていた。
しかし、話はそう簡単ではなかった。

サブスクで上場も、創業社長は退任

消費財や嗜好品ブランド業界へのコンサルティング経験が長いEY JAPAN(東京・千代田) パートナーの小林暢子氏は、「(ブルーエプロンのような消費財を詰め合わせて配送する)『ボックス型』サブスクサービスは参入障壁が低く、米国では13~16年に流行して伸びたが、既に頭打ちで淘汰も始まっている」と指摘する。

ミールキットは参入障壁が低いだけでなく、顧客にとってもスイッチングコストが低い。
そのため、継続率が高くなりにくい。その市場にブルーエプロンの成功を見た競合の参入が相次ぎ、競争が一気に激化した。

ドイツで創業し米国進出したハローフレッシュ(Hello Fresh)は18年3月、同業の米グリーンシェフ(Green Chef)を買収して業界シェアナンバーワンになった。
ブルーエプロンと同時期に創業した競合のプレーテッド(Plated)は大手スーパーに買収され、店頭でミールキットの販売を始めた。
その他にも10以上の競合企業がひしめく。

既存のスーパーもミールキット市場に参入した。
現在オンライン食料品市場の18%のシェアを握る米アマゾン・ドット・コムがホールフーズを137億ドルで買収。
食料品市場に本格的に参入しただけでなく、独自のミールキットを開発して販売を始めたことも、ブルーエプロンには大きな打撃となった。

上場翌年の18年、ブルーエプロンの売上高が前年を下回ったことから、株価は下降の一途をたどり、同社の共同創業者で社長兼CEOのマット・サルツバーグ(Matt Salzberg)氏もその座を退くこととなった。

米ブルーエプロンの業績推移

SNS広告の顧客獲得コストが収益圧迫

これまでブルーエプロンは、消費者に直接販売する、いわゆるダイレクトトゥーコンシューマーでオンラインのみを顧客との接点とし、購入はサブスクのみで事業展開してきた。
しかし、競合の相次ぐ参入により、SNS広告に頼った新規顧客の獲得コストがかさんで収益を圧迫。
そのビジネスモデルの転換を余儀なくされている。

18年、ブルーエプロンはコストコとの提携をはじめ、店舗販売に積極的な姿勢を示した。
さらに、ウォルマートが買収したEC企業のジェットと提携し、ミールキットを単品購入可能して翌日までに配達するサービス「City Grocery」を大都市向けに開始した。

消費者がサブスクサービスに使える費用にも限りがある。
ターゲット層である富裕層はさまざまなサービスを定期購入している。
音楽の「Spotify」だったり、映像のNetflixだったり「Amazon Prime」だったりと複数のサービスを使うため、毎月固定で支払う額がどんどん増えているのが現状だ。
さまざまな業界にサブスクサービスが誕生し、今や業界を超えたサブスク市場全体で、消費者の予算の獲得競争が起きている。

消費者にとってサブスクは、どうしても必要なものを定期で購入するための手段であり、継続利用のハードルは高い。
筆者も多数のサービスを定期購入していたが、現在残っているのは先述した3つのサービスと、ペーパータオルとトイレットペーパーだけだ。

サブスク市場が注目を浴びるにつれ、こうした淘汰は日本市場にも遠からず訪れるだろう。

情報源: 「サブスク市場の先駆者」に大打撃 米国からの教訓:日経クロストレンド

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