躍動する「地域商社」  :日本経済新聞

2017/7/24 7:00

地方経済を活性化しようと、全国各地で「地域商社」が誕生している。特産品はもとより、観光資源なども含めて地域を丸ごと国内外に売り込む企業や団体だ。市場動向を探って「地産外商」で域内に利益をもたらし、新事業を立ち上げる集団ともいえる。地方創生を掲げる政府は全国に100社の地域商社を設立する目標を掲げ、後押ししている。人口減で衰退が続く地方の未来を切り開く司令塔として、注目を集めている。

■地域まるごと売り込む司令塔

栃木ブランドを幅広く売り込む(ファーマーズ・フォレストの「うつのみやろまんちっく村」)

宇都宮市にある道の駅「うつのみやろまんちっく村」。農産品の直売所や体験農園、温泉や宿泊棟まで備え、年間140万人が来場する施設だ。ここを拠点に栃木ブランドを内外に発信する企業が地域商社の先駆けといわれ、創業から10年がたつファーマーズ・フォレスト(宇都宮市)だ。

東京スカイツリー内のアンテナショップなど直営店も運営し、イチゴやトマトなど栃木の食や観光情報をまとめた通販雑誌「トチギフト」も発行する。道の駅を中心に農産品の集配システムをつくり、直営店や首都圏のスーパーにも配送している。「農商工連携で特産品を開発する動きは以前からあったが、肝心の出口(販路)戦略がなかった。販路を確保し、マーケットを起点にローカルブランドを全国に発信する」と松本謙社長は話す。

同社が手掛けるのは「モノ」だけではない。2012年から大谷石の採石場跡地などを活用した着地型の観光事業にも乗り出し、夏いちごの栽培実験など様々な事業も企画している。栃木で新事業を起こす人を増やそうと、個人から小口資金を募るクラウドファンディングを支援する試みも始めた。モノ、コト、ヒトの3つの面から地方経済を活性化する取り組みを続けている。

北海道では、ロシア市場への道内企業の進出を支援する地域商社、北海道総合商事(札幌市)が北海道銀行などの出資で15年10月に設立された。すでにウラジオストク市に農産物や加工食品など道産品を中心に販売するアンテナ店を設けた。

道内の中堅・中小企業が単独で商品を輸出しようと思ってもロシア語での書類の作成や通関手続きなど課題が多い。そうした実務を同社が代行し、市場調査の拠点として活用してもらう。


ホッコウは栽培指導員を現地に送り込んでいる(ヤクーツク市)

同社は寒冷地用野菜ハウスの建設と栽培指導で実績があるホッコウ(札幌市)の協力を得て、ロシアのヤクーツク市にトマトなどをつくる野菜工場も建設している。

政府の後押しもあって、地域商社は全国に広がっている。九州産業交通ホールディングス(熊本市)は4月下旬、熊本県南部の加工食品や農産物の販路拡大を目指す地域商社「KASSE JAPAN」を設立。山口銀行は首都圏などへ県産品を売り込むために地域商社機能をもつ新会社を今秋にも立ち上げる。

地域資源というと1次産品が浮かびがちだが、それだけではない。地域商社について調査し、報告書をまとめた日本政策投資銀行は具体例のひとつとして公益財団法人・燕三条地場産業振興センターを取り上げている。新潟県の燕市、三条市に集積する金属加工技術に優れた中小企業群を支援し、国内での食器や調理道具の販促や海外見本市への出展を手助けしている。地域内の技術も地域商社にとって重要な資源になる。

■ブランド磨き雇用創出

これまでも地域産品を取り扱う卸売業者は全国各地にたくさんあった。では、今なぜ、地域商社なのかという疑問があるだろう。

全国の流通網に地域産品を乗せようとすると、生産者側は安価で大量の商品を安定供給することが求められる。流通段階が複雑だから、生産者の利益率は総じて低い。ネット通販などを通じた消費者への直販も広がっているが、こちらは販売量が安定しない場合も多い。このどちらでもない「中規模流通で産地と消費者をつなぐこと」(ファーマーズ・フォレストの松本謙社長)が地域商社の役割の一つといわれている。

市場ニーズを生産者に伝えて商品開発に生かす。様々なプレーヤーを巻き込んで新規事業を仕掛ける。観光資源も地域の魅力の一つだから、それを生かす。こうしたすべてを合わせて地域のブランド力を磨くことが地域商社の仕事になる。

地域商社は県単位で生まれているだけではない。香川県三豊市の「瀬戸内うどんカンパニー」のように、市町村でも設立を目指す動きがある。かつてのように企業が続々と工場を設け、地域に雇用が生まれる時代ではない。過疎地などでは地域商社機能をもつ地場企業が存在することそのものが、雇用創出と地域が抱える課題の解決につながる。


「たたら製鉄」を生かした観光事業にも取り組む(吉田ふるさと村)

島根県雲南市の吉田ふるさと村はまさにそんな企業だ。農産加工品の製造販売を柱に宿泊施設や飲食店も運営するし、自社農園でタマネギや黒ゴマなども栽培している。奥出雲地方でかつて栄えた「たたら製鉄」の遺構などを目玉に着地型の観光事業も手掛けている。

同社には水道工事や市民バスを運行する部門まである。同社の従業員数はパートも含めて67人。「赤字の部門もあるが、この地域に人が暮らしている以上、水道やバス事業なども続けていく」と高岡裕司社長は話す。

地域の活性化のために域外から「外貨」を稼ぎ、それをもとに地域が存続するために必要なサービスも提供するということだろう。

一つ心配なのは政府が「全国で100社設立」という目標を掲げている点だ。国が後押ししているのでうちの地域でもつくろう、というだけでは成功はおぼつかない。(編集委員 谷隆徳)


取材協力 日本政策投資銀行

情報源: 躍動する「地域商社」  :日本経済新聞

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