2017/7/31
「BPAフリー」は本当に安全か?「BPA(ビスフェノールA)フリー」と書かれたマーク。皆さんはどういう意味かご存知ですか?
これは、プラスチック製品に使用されている化学物質BPAが人体への悪影響が懸念されたため、「BPAフリー(BPAを含まない)」と表記して売っているものです。
前回の記事「食品用の器具や容器包装についても「ポジティブリスト制度」が導入されます。 」(7月21日)ではプラスチックの一種ポリカーボネート(以下PC)の食器から環境ホルモンと疑われたBPAが僅かに溶出するとの報告例があったために、国(当時厚生省)が調査し「使用を規制(禁止)する必要はない」との判断を示したにも関わらず、全国各地の小・中学校の給食に使用されていたPC食器が、他の材質の食器に置き換えらたことを書きました。
当時は哺乳瓶をはじめベビー用PC食器も多く使用されていたために、これらも他の材料に切り替わる事態になっていました。
PCは軽くて丈夫で割れにくく、耐熱性があり、加工しやすく、透明性もあるなど食品容器の材料として優れた点が多くあります。しかし、プラスチック材料は製造過程で使用する化学物質が溶出する可能性があります。BPA が溶出するかもしれないPC容器よりはBPA が溶出しない「BPAフリー」材料の容器を使用するほうが安心できるのでしょうか。
「BPAフリー」と表示した哺乳瓶や他の容器は、その材料の製造過程でBPAを使用していないから溶出しないだけで、BPAの代替物質として使用されている化学物質が溶出している可能性があることを意味するものでもあります。
BPAは食品容器に関連する化学物質の中で最も多くの毒性研究が行われ、リスク評価されているものの一つです。そのリスク評価に基づき設定された規格基準や製造基準のあるPC食品容器は本来安心して利用できると思えるのに、安全性の確認されていない「BPAフリー」材料の方が安全と思えるのが不思議です。
「BPAフリー」なのに危険な例
BPAフリーと表示してあっても別の化合物が溶出して、必ずしも安全とは言い切れないという研究を紹介します。中国ではフルオレン-9-ビスフェノール(BHPF)がBPAフリーと表示してある哺乳瓶や飲料用ボトルなど多様なプラスチック容器に使われているとのことです。この研究は中国の北京大学のジエンイン・フー教授と岐阜薬科大学衛生学研究室・中西剛准教授を中心とする日中共同研究の成果の一部として、Nature Communications(掲載日2017年04月05日)に発表されたもので、Nature Japan の「注目のハイライト」としても取り上げられ、また、イギリスの一般読者向け科学雑誌「New Scientist」の特集にも取り上げられました。日本よりも欧米での反響が大変大きいようです。
共同研究チームは、市販のプラスチック製の飲料用ボトルに注いだ熱湯からBPAの代替物質であるBHPFを検出したことを報告しています。そしてBHPFの安全性に関する試験を培養細胞とマウスを用いて行い、BHPFに抗エストロゲン活性(エストロゲンの作用を阻害する活性)を認めています。また、妊娠マウスの子宮の重量や仔の体重も軽くなったと報告しています。
さらに、プラスチックボトル入り飲料水を習慣的に飲むボランティアの中国人学生100人の血液中BHPF濃度を測定し、低濃度(0.34 ± 0.21 ng/mL)ではありますが7人から検出し、曝露されていることを明らかにしています。
研究のこれから
この論文はBHPFが、抗エストロゲン活性を有するという有害性を初めて見出したもので、人に対してどの程度の「リスク(危険度、毒性)」を持つのかについては、BHPFに関する毒性データがほとんどないことから、現時点では全く分かりません。
今後はBHPFの毒性に関する研究を重ねてリスク評価を行い、食品容器用プラスチックの製造でBPAの代替物質として安全に利用できるよう容器・包装材料の使用基準等が設定され、ポジティブリストに上げるような方向に進めていく必要があります。
岐阜薬科大学衛生学研究室ではBHPFに関する毒性研究に引き続き取り組んでいます。
岐阜薬科大学 永瀬久光教授