2020/03/24 10:23
新型コロナウイルスの感染は世界各国で拡大の一途を辿っており、消費者行動にも顕著な変化が出ています。
今回の記事では、感染拡大への懸念や自主隔離などの対策が引き起こす消費者とテクノロジーの関わり方に起こった変化についてお届けします。
新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大がもたらすさまざまな課題に直面する消費者は、自主隔離の開始など状況が発展するに従い、テクノロジーの活用を否応なく加速させています。
何百万もの労働者が在宅勤務を強いられ、消費者のデジタルテクノロジーツールとのつながりは強まるばかりです。消費者は普段よりも差し迫った状況下にあるため、オンラインショッピングなど日常的なタスクをサポートするテクノロジーの活用により積極的であり、新たなツールを取り入れる際に感じるハードルが低くなっているものと予測されます。
「食料品を初めてオンラインで購入する」など新しい行動を取り始める消費者もいれば、オンライン利用の増加、新しいテクノロジー、ツール、ソフトウェアの追加利用など、これまでの行動を進化させる消費者もいます。ニールセン インテリジェンスディレクター ニコール・コルベットは「各種テクノロジーを取り入れて最新情報を入手し健康を守ることで消費者は、ストレスの多いこの時期を出来る限り安心して自信を持って過ごすことができるはずです。
現在は、不測の事態とはいえ、テクノロジーがより広範かつ長期的に普及するきっかけとなっているようです」とコメントしています。
ニールセンでは、世界中の消費者に対してテクノロジーに関する調査を実施し、ここ数週間の新型コロナウイルス感染拡大の状況とあわせ可視化しました。
この調査により、テクノロジー導入に違いをもたらし消費習慣の変化を促進する3つの「きっかけ」が明らかになりました。きっかけ① 移動の制限がオンラインショッピングをさらに促進
オンラインショッピングの利用は、インフラストラクチャ(速度とコスト)、利用方法、透明性、信頼性の向上により増加を続けています。
よく言われるように、多くの市場においてファッション、旅行、エンターテイメントのカテゴリーがオンラインショッピング利用の最初のきっかけとなり、オンラインで快適に安心して買い物をできるようになると次に、美容とパーソナルケアのカテゴリーでの利用が進みます。
しかしながら、一部の市場では食料品、特に包装された生鮮商品は鈍い成長しか見せておらず、今後新型コロナウイルスが引き起こすこの状況が、急速な変化を後押しする可能性があります。「新型コロナウイルス海外での影響 ~感染拡大に備えるアメリカ 消費者行動パターンの国境を越えた共通点とは?~」では、新型コロナウイルス感染拡大の懸念に直接的に結び付く「消費者行動パターン6つのフェーズ」についてお伝えしました。
これらのフェーズから、緊急用の食料品と健康用品の支出パターンに関するシグナルを読み取ることができます。
3つ目のフェーズである「食料の備蓄」に進むと、世界中の多くの消費者は、衛生でより安全なオンラインショッピングを選ぶようになります。
新型コロナウイルス感染拡大以前ではオンラインショッピングの浸透が比較的遅かったヨーロッパ市場を調べてみると、ここ数週間でeコマースの売上が急増していることが分かります。ニールセンイタリア リテールリーダーのロモロ・デ・カミリスは、2月下旬にイタリアの一部地域において封鎖措置が敷かれた際、eコマースの成長が大幅に加速したと言います。
デ・カミリスは「オンライン小売企業が消費者需要の急激な拡大に対応できることが前提ですが、eコマースは今後数週間でさらに成長するでしょう。
将来的には、小売企業がより整理され確立したプラットフォームを提供し、消費者が積極的にオンラインで日用品を購入するようになることで、eコマースはイタリアの日常にこれまで以上に浸透するはずです」としています。
フランス、スペイン、オーストラリアでは、以前は少なかったオンラインでの食料品購入において売上の大幅な増加が見られています。
オンラインショッピングが消費者のライフスタイルを変え、メリットをもたらし始めている兆候であると言えます。
韓国および中国といったeコマースが成熟している市場でも、日用品のオンラインショッピングがこれまで以上に存在感を増しており、大部分の消費者にとっての習慣として定着しています。
感染が拡大すると、高齢で冒険心の低い消費者もオンラインショッピングを利用し始め、移動が制限され警戒が続く中、安全性と利便性をもたらすテクノロジーが受け入れられるようになりました。
Alibabaによると、1960年代生まれのユーザーによる食料品の注文数は、春節期間中では通常の4倍となっています。
また、中国のオンライン小売企業Miss Freshは、コロナウイルスの感染拡大の際に40歳以上のユーザーが237%増加したとしています。世界中で消費者の来店数が減る中、小売企業とメーカーは、eコマースの成熟市場と新興市場どちらにおいても、新型コロナウイルス感染拡大により浮かび上がったシナリオから新たな指針を導き出すことができるはずです。
小売企業は、新鮮さの保証や無料配送など、オンラインショッピングを利用しない消費者が示してきた課題に取り組む必要があるでしょう。
これは、店舗が再開した際、消費者をオンラインプラットフォームにつなぎとめる鍵となります。
一部市場では、小売企業がサプライチェーンの維持に追われる可能性もありますが、いずれにせよ、在庫切れの可能性の伝達、納品の遅れの通知、オンラインショッピングを初めて利用する消費者へ向けたナビゲーションツールの提供など、オフラインからオンラインへの移行をできるだけシームレスにすることが重要になります。きっかけ② 店頭での品切れがメーカー直販の利用を促進
新型コロナウイルスの感染拡大により多くのサプライチェーンが難題に直面しています。
需要の高い商品が店頭で品切れを起こすと、一部の消費者はオンラインで商品を探すようになります。
直販ビジネスはここ数年急速に成長しており、ニッチなセグメントや消費者ニーズを特定し、消費者の直接的なリーチの利点を把握した小規模メーカーがこの成長をけん引しています。直販モデルの利点は、エンゲージメントに加え、オンラインショッピングのサブスクリプションを使用してブランドロイヤルティを確立できる点です。
自動化されたサブスクリプションサービスは、使いやすさ、利便性、カスタマイズされた報酬、優遇価格設定などを提供し、消費者が補充のタイミングを覚える手間も省きます。
不安が深まるこの時期、確かな供給源としてメーカーから直接購入しようとする消費者が増える可能性があるでしょう。
直販サービスを展開するメーカーは、質問への迅速な応答などにより消費者のニーズと懸念に寄りそうサービスを提供しています。ニールセンのテクノロジーの変化と消費に関する最新調査では、世界のオンライン消費者の10人に4人がオンラインショッピングのサブスクリプションを利用していると回答しており、さらに36%が今後2年以内に利用したいと回答しています。
これについてコルベットは次のように述べています。
「新型コロナウイルス感染が終息し、購買行動が安定した後も、多くの消費者がメーカーの直販サービスを利用し続ける可能性があります。
各メーカーは、エンゲージメントプラットフォームだけでなく、販売チャネルについてもこの機会に改めて見直すとよいでしょう」。きっかけ③ 衛生面での懸念がAR/VR技術の導入を促進
こうした状況であっても、消費者が店舗を完全に放棄するわけではありません。
実際に商品に触れて体験し、目で見て確かめることができるため、多くの消費者は店舗での購入を好みます。
ニールセンの調査によると、消費者は店内での買い物に対して引き続き強い関心を持っており、59%が「食料品の買い物を楽しんでいる」と回答しています。
しかしながら、世界中で新型コロナウイルスの感染症例が増加する中、多くの消費者にとって店舗を訪れること自体が難しくなっており、そこで、拡張現実(AR)および仮想現実(VR)テクノロジーによる自宅での店内体験が注目されています。快適な自宅にいながらリモートで買い物をする、そんな場面を想像してみてください。
―「バーチャル棚」には、過去の購入履歴にもとづいて厳選された商品が陳列されています。
商品をピックアップして確認し、成分についてバーチャルアシスタントに質問して、レビューを確認する。
― まるで実際に店舗にいるように感じるはずです。
一部の市場ではすでにスマートフォンアプリのAR機能を利用して、商品を消費者の自宅に置いた場合どう見えるか、口紅の新しい色が着ている服に合うか、新しい靴がバッグに合うかなどを表示するサービスが開始しています。ニールセン韓国 eコマース リーダーの Ji Hyuk Parkは、「VRやAR技術を小売で使用する例が増えています。
韓国の美容関連市場は非常に大きく、ブランドや小売業者はこの技術を活用して消費者に向けた商品のバーチャル試用を提供し、ユーザーエクスペリエンスを向上させています。
新型コロナウイルスの感染拡大により衛生面での懸念が広がる中、商品を実際に試すことができない消費者に向け、AR技術によりこの体験を再現することができるのです」としています。ニールセンのデータ では、世界の消費者の半数以上(51%)が、AR/VRを利用した製品やサービスの試用と評価に意欲を示していることが分かっており、AR/VR技術の重要性は高まっていると言えます。
現在、多くの消費者は実際に店舗を訪れることができず、代わりとなるエンターテイメントや買い物体験を求めています。
AR/VR技術をすでに活用している企業は、消費者のエンゲージメントと買い物体験を変革する切符を手にしていると言えるでしょう。まとめ:テクノロジーに対応した未来に備える
感染が拡大し消費者への影響が広がる中、小売企業とメーカーにとっての大切なポイントが浮かび上がってきています。
中国市場では、厳しい状況下でパワフルな技術をフル活用する企業が、消費者の日常生活のさまざまな場面を塗り替えていきました。・WeChatとAlipayのQRコード:通信会社の位置データを活用し個人が旅行した場所をマークして感染リスクを表示。
・Weibo:消費者に対しニュースを継続的に更新。
・eコマース:既存のユーザーかつては躊躇していた消費者のサービス利用度が増加。
・ハイテク医療による食料品配達ドライバーに対するスクリーニングテスト:消費者に安心感を与える。
感染拡大が深刻な地域ではテクノロジーが消費者にとって唯一の利用可能・実行可能な代替手段となっており、これまで指摘されてきた導入に際するハードルも、もはやなくなっていると言えるのかもしれません。
すべての市場の小売業界が中国や韓国のような技術的進歩を遂げているわけではありませんが、総じてテクノロジー対応ソリューションはさらに求められ好まれるようになっており、多くの小売企業およびメーカーは、より積極的なeコマース戦略により、大きな恩恵を受けることができるはずです。テクノロジーの活用は、商品検索やモバイル決済といったスマートフォンが提供する基本機能に始まります。
消費者がこれら基本ツールに慣れてくると、自動サブスクリプションやパーソナライズされたロケーションアラートなどの機能により購入方法が変化し、AR/VRといったより洗練されたツールが加わることで活用度合いはさらなる進化を遂げます。
利便性と購買体験双方においてもたらされるメリットに対する消費者の認識が深まるにつれ、普及はさらに加速します。日用品を取り扱う小売企業およびメーカーはこの時期、テクノロジーの活用により長期的に見て非常に重要な変革を起こすことができるはずです。
情報源: 【ニュース】新型コロナウイルス海外での影響(6)~テクノロジー導入 予想外の ”きっかけ”~|ニールセン・カンパニー (Japan)|note