「局所的熱狂」をどう生み出すか – ITmedia マーケティング

2020年09月17日 09時00分 公開

※本稿はトライバルメディアハウスが2020年8月6日に開催したWebセミナー「好意度と購入意向を10倍以上にした、広告の『新しい定石』」の内容を再構成したものです。

「リーチを買う」という思考からの脱却

 私たちは日常生活で数えきれないほどの広告を浴びています。
何となくタイトルを知っている話題のドラマなどが良い例ですが、「認知」はお金で買うことができます。

 しかし、実際に見るかというとそうではない。つまり「興味」はお金では買えないのです。

 マーケティングの価値は認知獲得だけでなく、興味喚起をいかに起こすかという点にシフトしつつあります。…
そこで重要になるのが、前編でご紹介したトライバルマーケティングです。

 トライブとは共通の興味関心を持った集団のこと。
トライバルマーケティングは「〇〇好きな人たち」ごとにマーケティングを最適化する考え方です。

刺さる広告を作るには、ターゲットを考える際、デモグラフィックの要素にトライブを重ねて掛け算・足し算のアプローチをする視点が必要です。

 トライブに向けたマーケティングのメリットは全部で4つあります。

1.興味を生み出す確度が上がる
2.深くターゲットに刺さるアプローチが可能になる
3.一度掌握したトライブへは同業他社以外も参入障壁が高い
4.ヒトとモノの行動変容を生み出すことができる

 これらのメリットを駆使しながら自分たちのブランドや商品をしかるべきターゲットに当てていくのです。

 例えば、企業で最強のトライバルマーケティングをやっているのは「レッドブル」です。
スポーツのトライブ、さらにその中のF1やエアレースなど個別のトライブを掌握することで「エナジードリンクといえばレッドブル」と応援してくれる既存顧客をつかんでいます。
スポーツトライブへの徹底的なアプローチとCMのアニメーションによる認知獲得をバランスよく行い、ビジネスをうまく展開している良い例です。

 では、どのようなトライブを狙うべきか。
答えは可処分精神を獲得しているトライブです。

「ファンダム」との関係構築

 可処分精神とは、ついそのことばかり考えてしまう「自分の人生にかけがえのない何か」です。
マーケターが獲得しようとする可処分所得や可処分時間というのは、実は可処分精神の奪い合いにすぎません。
ただし一般的なブランドで可処分精神まで獲得しているものはほとんどない。
つまり単独で可処分精神を獲得できるのは本当に限られた一部のブランドのみです。

 そうした中で、可処分精神を獲得しているトライブが存在する場所の一つに、ファンの可処分精神を占めることで成り立っているエンターテインメントが挙げられます。
近年、一般人が交通広告の空き枠に自分の推しメンの芸能人の応援広告を出す例が急増していることからも分かりますが、エンタメの世界にはお金をもらうどころか払ってでも応援したいファンがいます。
音楽やエンタメはブランドが可処分精神を獲得するための重要な役割を果たすことが可能といえるでしょう。

 ここでぜひ理解してほしいのが、トライブの奥底にある「ファンダム」という領域についてです。
ファンダムとは、音楽、アニメ、漫画、小説、スポーツといった各トライブにおける熱心なファンたち、いわば熱狂的な可処分精神の塊を指します。

そのため、広告が刺さる場所がファンダムに近くなればなるほど物も人も動きます。

 例えばオーディオテクニカが2020年7月に発売した、ワイヤレスヘッドホン「ATH-CK3TW TS」と「ATH-CK3TW SI」 。
「アイアンマン」である「トニー・スターク」とトニーの会社である「Stark Industries」をそれぞれモチーフにした商品ですが、これは瞬時に完売しました。
購入した人は「MARVEL」、もしくは「アイアンマン」のファンダムです。
ターゲットの好きなものにアプローチしてモノを売りたいのなら、ファンダムを動かせというのが一つの鉄則です。

 ファンダムを活用すればモノは売れます。
しかし、それが本質ではありません。
ポイントは継続性です。
本当にそのブランドを好きになってもらうには、特定のファンダムと継続的に関わりながら商品開発やマーケティングを進めていく必要があります。

実際、メーカーの継続的な取り組みによって徐々にある製品を意識し出し、可処分時間を奪われるようになった経験は私にもあります。
私はこれを「タイアップ2.0」と呼んでいますが、継続性を持ったファンダムマーケティングは売れて愛されるブランドになるために欠かせない重要なアプローチです。

音声マーケティングの可能性

 2020年、ついに日本でも5Gが始まりました。
視覚領域における広告コンテンツでの戦いは今後さらに壮絶になっていくでしょう。
ここでぜひ注目してほしいのが「音声」です。

 昨今、デジタル機器や技術の発展によって、音声検索、スマートスピーカーの普及、ポッドキャストの増加、音声ネイティブ世代…とさまざまな場面でインタフェースが手から声へ変わりつつあります。
音声を活用した音声マーケティングは世界的なトレンドとなり、以下のような手法が普及しています。

1.音声広告:Spotifyやradikoなどで音声広告を展開
2.ポッドキャスト:SpotifyやVoicyなどでラジオ型コンテンツを展開
3.プレイリストマーケティング:Spotifyなどで企業が楽曲を軸に展開するマーケティング
4.インフルエンサーマーケティング:音声広告も含め、従来のインフルエンサーマーケティングに音声を活用

 コロナの影響で好きなコンテンツを「ながら聴き」できる環境が増えたため、日本でもこの流れは加速すると見ています。
重要なのは、耳には空き時間が存在するということ。
生活中、視覚を中心にしたメディアより聴覚を中心にしたメディアの方が生活者とのタッチポイントが多いにもかかわらず、まだ隙間がある。
いわば耳の可処分時間はブルーオーシャンです。

脳科学的にみて聴覚の刺激が長期記憶に有効であるという点も新しいアプローチとして注目されている一つの理由です。

オーディオテクニカの成功事例

 ここで好意度と購入意向10倍という成果を得た広告の事例をご紹介しましょう。
オーディオテクニカが、ワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホン「ATH-ANC300TW」の商品発売にあわせて人気声優、内田真礼・内田雄馬兄弟を起用した音声広告を使った事例です。
広告手法は「音声広告×声優×インフルエンサーマーケティング」です。

 これは人気声優である内田真礼、内田雄馬のファンダムに刺さるという狙い通りに熱狂的な反応がありました。
ソーシャル上の投稿では好意度の向上や購入意向が明らかに見て取れましたし、調査では好意度と購入意向度は広告接触者は非接触者の10倍という結果が出たのです。
さらに、広告接触者に製品を調べたり購入したりと何かしらの行動を起こさせた行動喚起率は全年代で7割を超え、最も多い30代では約8割、「広告接触者」かつ「アニメ好き」に絞ると実に88%に達していることが分かりました。

 私は、広告の役割とは意識変容を促すことだけにとどまらず実際に動かせるかどうか、行動変容を促すことこそが大事だと考えています。
そこで、マスでも仲間内でもなくトライブの中でどうやって爆発させるか、不特定多数でも特定少数でもない「特定中数」内での拡散が鍵になります。そのために、局所的熱狂を生み出すことが必要なのです。

 この結果を参考に「売れる」「愛される」マーケティング実践のポイントを整理すると、以下の3点となります。

1.ファンダムを活用せよ:
確実に効果を出したいなら、トライブの中にある熱狂的なファンダムを見つけ出しアプローチすることが重要です。
2.ありがとうと言われるコンテンツを提供せよ:
ファンに納得感を与え「分かってるね」と思わせるか、文脈背景を理解しつつも意外性のある相手とタッグを組むことで「そうきたか」と思わせるか。
いずれにせよ、ちゃんとファンダムが喜んでくれる文脈を見つけ出すことが重要です。
3.正確なターゲット設定で正しくファンダムのいる場所へ届けよ:
自社の商材とファンダムをつなげた上で、ファンダムによる情報拡散をどこで起こすのか、SNS全体のメディアプランを練ることが重要です。
きちんと情報設計しないといくら局所的熱狂を生み出しても拡散にはつながりません。

 最終的には効果を最大化させるために、プラットフォームごとに広告の役割を分けたり、短期・長期と時間軸でのバランスを見ることも大事です。
ターゲット、コンテンツ、そして情報設計と予算配分まで全てを熟慮し、勝てる広告を発信していきましょう。

(構成:大西花絵)

情報源: 好意度と購入意向を10倍以上にした「局所的熱狂」をどう生み出すか (1/2) – ITmedia マーケティング

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