トライブを制する者がマーケティングを制する – ITmedia マーケティング

2020年09月10日 09時00分 公開

※本稿はトライバルメディアハウスが2020年8月6日に開催したWebセミナー「好意度と購入意向を10倍以上にした、広告の『新しい定石』」の内容を再構成したものです。

ターゲットを「トライブ」で捉えるということ

 SNSの普及で多くの人たちが動的にリアルタイムにつながるようになった現在、流行の在り方が昔とは変わってきました。
誰もが知っているヒット商品ばかりではなく、特定の人たちの間で大きな話題になっているものの震源地を離れると誰も知らない「局地的ヒット」ともいえる商品やコンテンツがどんどん増加しています。

 「ミスチ」の略称で知られるチーズケーキのD2Cブランド「Mr. CHEESECAKE」、京都と大阪で展開するブティックホテル「HOTEL SHE,」、アニメキャラクターによるラッププロジェクト「ヒプノシスマイク」などがその代表例です。

 不特定多数の市場にマスメディアを通じてマス商品を訴求していくマスマーケティングの時代が終わり、ターゲットの見定め方を見直す必要が出てきています。
そこで紹介したい考え方が「トライブ」を対象とする「トライバルマーケティング」です。

 トライブとは共通の興味関心を持った集団のこと。
トライバルマーケティングとはつまり「〇〇好きな人たち」ごとにマーケティングを最適化する考え方です。
複数のトライブを組み合わせた「トライブス」を形成しマーケティングのターゲットとすると、よりダイナミックな展開が生まれます。…

 トライブ同士は必ずしも好意的なつながりとは限らず、敵対していたり無関心の場合もあります。
対象のトライブがどのトライブと結び付きが強いかを見抜く目を養い、文脈をセットで考える癖をつけることが大切です。…

 トライブを理解するのに分かりやすい例がInstagramの「ハッシュタグ」です。
例えば「#YAMAHAが美しい」。
これはもともとユーザーが勝手に作ったハッシュタグで、これが付いた写真を一覧してみると、プロダクトデザインの格好良さが主役ではないことが分かります。
もちろんその種の投稿も散見されはしますが、このハッシュタグを使う多くの人が伝えたいのは「こんな素晴らしい季節に、こんな素晴らしい場所に、一人で走ってきて最高な時間を過ごしている自分」という文脈です。
走りを謳歌する楽しみをYAMAHAのオートバイを媒介としながら伝えているのです。

 ハッシュタグは組み合わせによって文脈を表すことがあります。
例えば「#皇居ラン」と「#ランニング好きな人とつながりたい」「#ランニングスタイル」を組み合わせる人が好むスポーツブランドはNikeで、「#サブ3」だとアシックスが多いというように、どんなトライブの人たちのどんな文脈消費にどんなブランドがあっているのかが分かるのです。

 ハイコンテクストな文化圏において、文脈はハッシュタグを通じて、人々がどのようなトライブスを形成するかを見える化させているといえます。
効果的な広告を作るには、ターゲットをトライブとして見定めるだけでなく、どんな文脈消費をしているかまで理解することが大切です。

大事なのは好かれること

 広告を作る上で注目したい2つ目のポイントは、好かれることです。
自社の何が良くて素晴らしいかではなく、好かれること、あるいはトライブの人たちが好きなものに合わせて広告コンテンツを作ることで刺さる確率を上げていくことが大切です。

 その理由は技術の発展により顧客ニーズを解決できない状況がなくなっていることにあります。
どの製品でもニーズを解決できる状態下ではコモディティ化と価格競争が起こりますが、一度マーケットがこの状況に達すると不可逆です。
ユーザーがブランドを認知的態度(よしあし)だけで選ぶ時代はすでに終わっています。

技術発展のS字カーブと顧客ニーズの頭打ち(出典:河野万邦「脱コモディティ化に向けた意味的価値共創の有用性に関する考察」2011年)

 分かりやすくするために、ブランドに対する態度を認知的態度と感情的態度(好き・嫌い)の軸で考えてみましょう。

・ 良い商品・サービスだけど嫌い=「嫌われ者の優等生」
・ 良い商品・サービスで好き=「絶対王者」
・ 商品・サービスはイマイチだけど好き=「隙多き人気者」
・ 商品・サービスはイマイチで嫌い=「敗者」

 面白いポジションにあるのは「隙多き人気者」です。
「商品はそれほどすごいわけじゃないけど、何か好き」と思われる隙多き人気者はSNSで応援されやすい背景があるからです。
絶対王者に認知的態度で劣っている競合がこの市場で勝つためには、感情的態度で勝負し隙多き人気者を目指すべきでしょう。
なお、嫌われ者の優等生になってしまうと、良い製品でも何かにつけ行動を悪く受け取られがちなので手を打つ側としては厄介です。

 これは一般消費財やサービス財は特に顕著な傾向ですが、購入につながるか否かの勝敗は「何となくこっちの方が好き」という感情的態度で決しています。
ですから広告を仕掛けるマーケターは、ファネルでの意識変容だけでなく、態度変容にも意識を向けるべきです。

 もちろん、

・ 知らなかった人に知ってもらう広告
・ 興味喚起をさせる広告
・ 興味のある人へ理解促進をさせるオウンドメディア

など、ターゲットの意識変容を促すマーケティング施策をやらないわけではありません。
ただ、意識が変容しても最終的に「好きじゃないから買わない」となると結局態度変容に意識を置かざるを得ないはずです。

「特定中数」内での拡散を狙え

 私たちは日頃たくさんの広告コンテンツに触れていますが、ほとんどの場合何も行動を起こすことなくスルーしています。
それはその情報が「他人ゴト」だからです。
先に述べた態度変容を起こすためには、スマホで思わず指を止めて見てしまうような「自分ゴト」化、さらには仲間内ではみんな知っているという「仲間ゴト」化を狙う必要があります。

 この仲間ゴト化を得意とするのがソーシャルメディアです。
自分ゴト化してもらえたか、仲間に共有・共感できる広告を作れたか。
相性の良いSNSを活用し、これらを実現するのが次世代における広告の一つの解だと私は考えています。

 ソーシャルメディアの効果的な活用を考えるために参考になるのがポジショニングマップです。
注目して欲しいのは関係性をみる横軸です。

ソーシャルメディアのポジショニングマップ

 インタレストグラフはWhat(何が)の場であるのに対し、ソーシャルグラフはWho(誰が)の場です。
ここでハッシュタグがあるのがWhatの場所であることに注目してください。
Instagramでは誰が投稿しているかはさほど関係ありません。
多くの人は何かの文脈から「この化粧品の口コミを見たい」「この家電の価格を知りたい」「〇〇についての写真を見たい」というWhatに興味を持ち、Instagramを検索エンジンとして使っています

 かたやFacebookで夜遅くに天下一品でラーメンを食べるおじさんの投稿を思い浮かべてください。
正直、誰が何をどこで食べていようとどうでもいいわけで、その投稿に価値はありません。
でも「もう、部長またですか?」なんて部下からのツッコミがあったりする。
これがWHO文脈です。
その人を知っていることで、価値はないが意味が生まれるのです。

 ソーシャルメディアはプラットフォームごとに得意な文脈も生きるコンテンツもそれぞれ全く違うものです。
ですから広告コンテンツを作る側は、プラットフォームごとの特性をきちんと理解して最適な設計を目指す必要があります。

 前述したように、広告のターゲットは「トライブス」という視点で考えるべきです。
トライブスはサイズだけで見ればマスに及びませんが、特定少数を超え、それなりの大きさのものも多数あります。
この「特定中数」ともいうべきターゲットの中で拡散されるコンテンツをどのように作り届けるか。
広告を成功させるための新しいヒントはここに隠されています。
後編では、それを実践して成功した具体的な事例を基に、広告の新しい定石についてトライバルメディアハウス モダンエイジ事業部 レーベルヘッドの高野修平が解説します。

(構成:大西花絵)

情報源: トライブを制する者がマーケティングを制する (1/2) – ITmedia マーケティング

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