公文 紫都 2020/11/16 8:00
消費行動は多様化し、モノがあふれている今の消費市場で、クラシコムの青木耕平社長は、商品購入の後押しの重要ポイントとして「動機」や「希望」をあげる。
それはなぜか?
クラシコム青木社長、Takramの佐々木康裕氏、ヤプリの金子洋平執行役員によるパネルディスカッションから、「選ばれるECサイト」のヒントが見えてくる。差別化に「動機」が重要になってくる理由
見せ方、演出は真似できても、動機は真似できない青木耕平氏(以下青木氏):社会が成熟していくごとに、人はどこでモノを選ぶか基準が変わっていくなという思いがあります。
以前は商品を選ぶ決め手は「機能面」だったけれど、次第に情緒的な部分が重視されるようになり、最近は運営者の「動機」も見られるようになってきた。佐々木さんが、「コモディティ化のスピードが速くなった」とおっしゃっていたように、D2Cブランドは「何でも汎用化してしまう」という傾向に対して抵抗したいんじゃないかと思うんです。
じゃあ、誰からも「奪われないモノ」とは? を考えたとき、それは「動機」かなと。
「動機」は非常にあやふやでフワッとしたもの。
直接伝えればインパクトがあり、価値も大きいですが、モノを売るには、卸元、小売りがあり、販売員がいて、いろいろなルートを通じて伝言ゲームで伝えていくわけです。でも動機は下手すると「無いもの」と同義になるくらいフワッとしたものなので、正しく伝えるのは難しい。
じゃあ、どうやってその「動機」という価値を伝えるかと考えたときに、「D(Direct)」にせざるを得ない、となってきているのではないでしょうか。
「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコム代表取締役 青木耕平氏(画像:ヤプリ提供)金子洋平氏(以下、金子氏):「D」でなければ、もはや伝わらない…?
青木氏:伝わらないですし、今は「どっちの動機がイケているか」の競争になっています。
たとえば、私と佐々木さんが同じ商品を売っているとして、どっちの演出や機能がイケているかではなく、どっちの動機がイケているか。佐々木康裕氏(以下、佐々木氏):「動機」はすごく興味深い視点ですね。
たしかに、D2C的なクリエイティブや世界観の作り方、コミュニケーションの仕方は真似できます。
でも、最後に「誰が」とか、「なぜ」という背景は真似できない。
だから、そこを際立たせていく方が良いですね。消費者が求めているのは「希望」
青木氏:私は、お客さまが求めているのは「希望」だと思うんですよね。
金子氏:「希望」ですか。
青木氏:そう。本質的には「希望」を求めている。
たとえば、ヤプリさんみたいにノーコードでアプリを作れるようになると、私たちみたいな中小企業の経営者は、1つの選択肢として希望が増えたことになります。消費者はモノを買う行為に、ある意味では「絶望」していたのではないでしょうか。
絶望というのは、AとBという選択肢しかない場合に、「AもBも嫌だ」となること。
そこに、「C」という選択肢を提示できれば、希望が増えます。D2Cへの参入、起業など、新しいことを始める人は自分が見つけた「希望」に対して、これってこういう意味じゃない? と「意味づけ」をするところが出発点になります。
そして、意味をつけたものに対して、自身が希望を感じることが「動機」になり、それが事業展開という形で発展していく。創業者に動機があることこそが、希望を感じているということです。
やっぱり、希望を感じている人から買いたいですよね。金子氏:買う側からしても、その「希望」が見えるんですよね?
収録の様子。左からヤプリ金子氏、クラシコム青木氏、Takram佐々木氏(画像:ヤプリ提供)青木氏:そうです。
どうせ良い商品なんかないし、マーケティングに注力すれば売れるんでしょ? と思いながら売っている人は、実はその人に一番希望がない。
絶望しながらビジネスをやっているとも言えます。希望がある人から買いたいから、「動機」が選ばれる理由になってきている。
今はSNSを通じて、運営者がどういう希望の感じ方をしているのかが伝わりやすくなってきています。
隠せないし、誤魔化せない。
「本気の動機」を持っている人がリソースとしては一番貴重です。
これはお金でも買えませんから。企業も人格を求められるようになってきた
「ファウンダーマーケットフィット」という考え方佐々木氏:企業も人格を求められるようになってきましたし、ファウンダーの人格もSNSで可視化される今は、「このファウンダーの雰囲気がいいな」も、消費者が商品やサービスを利用する動機になっています。
ファウンダーの出自、モチベーション、キャラクター、選んでいる商材や売り方の認知度…。
この「フィット度」は今後大事になってくると思います。
よく「プロダクトマーケットフィット」といいますが、近頃は、「ファウンダーマーケットフィット」という話も出てきています。たとえば、僕は子どもがいないんですが、「おむつのD2C」を始めてもそれはフィットしていない。
「佐々木さん、おむつ替えたことないでしょう?」と思われますよね。
Takramのディレクター/ビジネスデザイナー 佐々木康裕氏(画像:ヤプリ提供)青木氏:この人、事業機会だけを見て参入したな…と思われるかもしれませんね(笑)。
佐々木氏:はい(笑)。
いくら私が、「世の中のお母さんは大変なので」などと参入理由を語っても、すぐに「化けの皮」が剥がれます。
特にD2Cにおいては、「化けの皮」がなくなることがすごく大事。
SNSなどを通じて、「自分」という存在自体の透明性を高めなければいけない機会が、これからどんどん出てくると思います。その「自分」のなかに、ブランドの重層的なストーリーを組み込めるかどうか。
ここは、断続的にコンテンツを発信し続けられるかに関わってくるので、「フィット度」はすごく大切です。人間がお金を払うのは、モノの価値ではなく、「期待」
金子氏:クラウドファンディングについてお伺いしたいのですが、企業における「対消費者」の取り組みとして新しいことかなと思います。
かつ、コロナ禍で「困っています。助けてください」と企業側が発信するコミュニケーションは、今までにない新しいトレンドだと感じています。
青木さんはこの動きをどのように見ていますか?青木氏:クラウドファンディングは、存在していないものにお金を払うという意味では、実はECと一緒なんですよね。
ECは届く前に先に決済しますから。
昔からECじゃなくても、映画やCD、書籍もそうですが、「先に決済してコンテンツを買う」ことをユーザーはしてきました。つまり、人間はモノの価値に対してではなく、「期待」に対してお金を払っているということかなと思うんです。
クラウドファンディングを成立させるための技術や枠組みが開発されたことで、より距離が遠いモノであっても、こうした仕組みが成立するようになりましたが、本質は変わっていません。大事なのは、期待を生み出すこと。
そしてお客さまに期待だけさせて“搾取”するのではなくて、しっかり満足していただくこと。
この両方が必要です。なぜ「ポケモンセンター」は人を魅了するのか
青木氏:渋谷PARCOに行くと、6階にある「ポケモンセンター」が圧倒的に混んでいるという状況があります。
売っているのはぬいぐるみや文房具など、特別珍しいモノではない。
もしかしたら、5階以下にあるアパレルショップで売っている商品の方が、モノとしての価値は高いかもしれないですが、圧倒的に6階が混んでいる。なぜかというと、「ポケモン」がゲームを超えて、「ポケモン」という世界を作り、消費者がそこに期待をしているということなんですね。
「ポケモンが出すんだったら買いたい」「関わりたい」という期待が作りあげられていて、その「期待」という名の“温泉”の周りにお土産屋ができている。
いわゆるこういう構造かなと思います。ミラノコレクション、パリコレクションもそうですね。
「流行」という温泉地の周りに、「アパレルショップ」というお土産屋をつくっている。
そうやって「横のお土産屋」と競争したりしますけど、大事なのは、温泉地が盛り上がること。「温泉が…枯れてきているから…!!」みたいなことも実はあります。
どんどん温泉が枯れてお客さんが少なくなっているにも関わらず、周囲のお店だけ良くなっていることもありますよね。
渋谷PARCO6階のポケモンセンター紹介ページ(画像:PARCOサイトからキャプチャ)D2Cは自分たちが「温泉」
佐々木氏:「温泉」という考え方面白いですね。
アメリカのD2Cブランドの間でも、まさにそういう動きが出てきています。青木氏:ポケモンセンターは仮想世界のお土産屋。
「ポケモンの世界」という魅力的な温泉地があり、ファンはずっとそこにいたい。
でもいられないんだったら、持って帰りたい。
つまり、ゲームが温泉宿で、グッズはお土産。
ずっとその世界にいたい人はゲームを続けていればいいし、その世界を現実に持ち帰りたい人はグッズを買えばいいという構造になっています。「自前の温泉」を持っているかどうかが、今後ブランドにとっての差別化ポイントになるんじゃないかと考えています。
※収録日:2020年9月8日、構成:ネットショップ担当者フォーラム編集部 公文 紫都)
情報源: D2Cビジネスで重要なのは「動機」と「希望」。クラシコム青木社長×Takram佐々木氏が語る「ECの未来」【第2回】 | ネットショップ担当者フォーラム