京都市、景観規制緩和|nikkei.com

2023年4月12日 2:00

京都市内は建物の高さが制限され、マンションやオフィスの供給不足が目立っていた

京都市は建物の高さに対する景観規制を4月にも緩和する。
昔ながらの街並みを大規模開発から守ろうと2007年に導入したが、マンションやオフィスの供給不足を招き、若い世代を中心に人口が流出。
規制緩和で新たな開発を呼び込むねらいだが、景観保護との両立へ難しいかじ取りを迫られる。

「京都市内からモデルルームを訪れる子育て世代が多い。
想定を超える反響だ」。
大津市で700戸の大型マンション開発を手がける関電不動産開発の担当者は目を丸くする。
京都府と滋賀県を含む京滋地域では過去最大の物件で、坪単価が京都市内の半分程度という割安感が人気を集める。

JR京都駅から電車でおよそ10分の大津市内では大型マンション開発が相次ぐ。
背景にあるのは若い世代を中心とした京都市内からの人口流入だ。
京都市の人口は21年の1年で1万1900人減少し、減少幅は全国の市区町村で最も大きかった。
特に30〜40歳代の転出超過が目立つ。

若い世代が京都を離れる大きな理由が住宅の供給難だ。
不動産経済研究所によると、京都市内の新築マンション価格は22年に平均4975万円と過去2年間で4割上昇。
大都市圏のマンションは全国的に上昇傾向にあるが、開発用地が少ない京都市内は特に値上がりが激しい。

07年に導入した景観規制は原則、建物の高さを最高でも31メートルに制限している。
一般的なマンションなら10階建て程度に収めざるを得ず住宅需要に供給が追いつかない。

「若い世代が住み続けられるよう住宅や働く場を増やしたい」(門川大作市長)と京都市は21年に都市計画の基本方針を見直した。
市内5地域で規制を緩和する予定で、都市計画審議会の承認を経て4月中にも新たな規制に移行する。

京都駅南側ではオフィスなどの立地を促し、上限を20メートルから31メートルに引き上げる。
市東部のJR山科駅付近では条件を満たしたマンションなどに対し、31メートルの高さ制限を撤廃する。

京都はオフィスも不足気味だ。
不動産サービス大手のシービーアールイー(CBRE)によると、市内の賃貸オフィスで延べ床面積1万坪以上の物件は面積ベースで5%と東京23区の58%、大阪市の47%を大きく下回る。
規制緩和で「良質なオフィスが少なかった京都の市場が変わる契機になるかもしれない」(CBREの魚見修平氏)。


京都商工会議所の塚本能交会頭は「京都駅南側など好立地の割に利用が遅れていた地域の活性化になる」と期待する。
高層のオフィスビル開発は採算性に優れ、細切れの土地の一体開発にもつながる。

規制緩和で都市の成長力が高まる期待がある半面、開発のひずみを懸念する声もある。
子育て世代の人口が増えれば新たな学校整備なども求められ、政令指定都市で財政が最悪水準の京都市にとって負担は軽くない。
京町家と呼ばれる伝統的な木造家屋は年間800軒のペースで解体されており、規制緩和が拍車をかけるおそれもある。

「50年後、100年後を見据えて美しい景観を取り戻すことが後世への使命だ」。
07年の規制導入に際し、当時の桝本頼兼市長はこう力説した。
不動産業界などの反発を押し切って導入した規制の見直しは市にとって苦肉の策でもある。

都市計画に詳しいリム・ボン立命館大学教授は「高さだけでなく、どんな街並みが京都らしいかという『イメージ』について合意形成を図る必要がある」と指摘。
「イタリアなど欧州では国が歴史的街並みの保護を法律で義務付けている」と国全体で景観保護のあり方を考えるべきだと説く。

中古住宅の供給を増やすため、京都市は全国初の「空き家税」の課税を26年度にも導入する。
約140万人の人口を抱え、観光以外にも様々な産業が集積する大都市が景観保護一辺倒に振り切るのは難しい。
成長と伝統をどう両立するか、古都ならではの問いの答えはいまだみえない。(新田栄作)

情報源: 京都市、苦肉の景観規制緩和 マンション不足で人口流出 – 日本経済新聞

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