2019年12月21日
―[連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史>]―
どんな言い訳も通用する国と怒らない国民東京オリンピックの予算が、当初の7000億円から3兆円超になる見込みだそうです。
日本の国家予算が101兆円ですから、なんと、3%をオリンピックに使うわけです。
正気の沙汰とは思えませんね。
で、「誰が7000億円でできると計算したんだ?」とか「そもそも、温暖な気候って言った奴は誰だ?」「真夏の東京でやろうと旗振った責任者は誰だ?」と突っ込みたくなるのですが、すぐに、「そういう詳しいことを書いた書類はシュレッダーにかけました」と言われそうです。
はい、「桜を見る会」で政府は子供の言い訳レベルでねじ伏せられると味をしめましたからね。
ハードディスクにも残ってないし、残っていても公文書じゃないし、シュレッダーは障害者雇用の人がやったから遅かったし、反社会的勢力という定義はないし、適正に処理したなんて言うし、もう、どんな言い訳も通用する国になってしまいました。
仮にオリンピックで3兆円使っても、なにがしかがちゃんと残るのなら、まだ、費用対効果としてぎりぎり成立すると思うのです。
昔の東京オリンピックみたいに、高速道路が作られたとか、ですね。
でも、何十億は、日傘だの冷水だの製氷機だの、暑さ対策に使われるわけで、何も残りゃせんわけです。
札幌でマラソンと競歩をする費用も70億円から80億円かかる見込みなんですと。
札幌に住んでる人が「マラソン、来るな! 夏の大通公園のビアガーデンを守れ!」とツイートしてました。まあ、準備と警備で何日も前から、ビアガーデンなんてやれなくなるんでしょうなあ。
税金である国家予算の3%をオリンピックに使っても、日本国民はあんまり怒らないんですよね。3兆円あったら、待機児童の解消とか小中学校の少人数クラスなんて簡単に実現できると思うんですが。
お祭りのオリンピックより、日本の未来を担う子供達にお金を使う方が何万倍も重要だと思うんですけどねえ。
自浄作用のない自民党の恐ろしさ
やっぱり、源泉徴収が原因ですかね。給与や報酬から支払い前に所得税を控除する源泉徴収は、日本では1940(昭和15)年、戦費調達のために始まりました。
先に控除すると、悔しいですけど「税金を払っている」「がっぽり取られた」という実感が薄くなります。
アメリカみたいに自営業者だけではなく、源泉徴収のサラリーマンも、全員が確定申告をしなければいけないと、「ああ、こんだけ取られてるんだ」と実感できるわけです。
でも、日本だとサラリーマンは年末調整で、数字上の操作ですみますからね。
数字を見て終わるか、自分で実際に現金を振り込むか。この違い、サラリーマンを辞めて、自分で確定申告をした人なら、ようく分かると思います。
自分で振り込むようになると、「税金、ちゃんと使えよ。ムダな使い方したら怒るからな!」と思う傾向が間違いなく強くなるのです。
しかしまあ、「桜を見る会」です。
いつまでやっているんだと思っている人もいるでしょうが、招待名簿さえ出てきたら、それで事態は明確になるわけです。
それをあれやこれやと逃げ続けるから、野党も引っ張るわけですね。よっぽど、出てきたらまずいことがあるんだろうなあと思います。
でも、もっと言えば、野党は批判勢力なんですから、問題にして追及するのは当たり前です。
「桜を見る会」の一番の問題点は、自民党の内部から、まったく批判が起こってないことです。
かつての自民党なら、子供の言い訳みたいな答弁に対して、長老や若手や対抗派閥が敏感に反応したと思います。
それが、まったく聞こえてこない。
この自浄作用のなさが、本当に怖いと思います。
かつては、派閥争いが激しくて、首相が一年足らずで辞めていくということが続きました。国民はいい加減にしろと怒りましたし、自民党も反省したのでしょう。
安定した長期政権を目指そうとして、結果として、憲政史上最長の宰相になるんですから、極端から極端しかないのか! と頭を抱えてしまいます。これは国民が成熟してないという証拠なんでしょうなあ。